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<近藤 健の米国深層レポート②>●『アメリカは金権政治plutocracyかー米国の選挙は“50億ドルビジネス”』―

   

<近藤 健の米国深層レポート②>
 
アメリカは金権政治plutocracy米選挙は50億ドル
ビジネス
―アメリカの選挙システムとカネの謎
 
近藤健氏<元毎日新聞ワシントン支局長・外信部長・元国際基督教大学教授>
 
 
政治それも選挙とカネの腐れ縁は、持病のようなもので、完治不能といってよい。政治体の健康を維持するためにできるだけ悪化を防ぐ方法を講じるか、あるいは放置して政治体の腐食をだまって見過ごすか。ほとんどの政治体は、前者、つまりなんらかの方法、政治資金法とか選挙法で、選挙におけるカネの不当な影響を排除しようと試みる。
アメリカの場合はどうか。
まず、大統領になるためには、どれくらいのカネを要するのか、という問いから始めてみよう。
 
I. アメリカの選挙は“50億ドルのビジネス”
 
2008年選挙で、オバマ現大統領は、予備選挙から本番選挙まで、7億6000万ドルの選挙資金を集めた。対抗した共和党マケイン候補は、3億8300万ドルを集めた。党候補指名を受ける前までの予備選挙段階では、オバマは4億900万ドル、マケインは2億350万ドル集めた。オバマの集金能力といって悪ければ献金獲得力の強さを物語っている。これは、後で触れる法律の献金制限規定(ハード・マネー)にもとづいて集めの額である。
 
 ブッシュ再選の2004年はどうだったか。ブッシュ前大統領は予備選段階で2億6900万ドルを集めたが、これは2000年選挙のときの3倍。対抗のケリー民主党候補は2億3400万ドルを確保した。本番選挙では両者ともそれぞれ7460万ドルの公的資金を受けいれたからそれ以上の資金は使えず、選挙にかかった費用は、それぞれ3億4360万ドル、3億860万ドルとなる。(公的資金の仕組みについては後述)。
 別の角度から見ると、予備選挙の段階で大統領選挙に立候補者したもの全員が使った費用を合計すると、1976年は6700万ドル、1996年2億3900万ドル、2004年7億1800万ドル、そして2008年は13億2500万ドルであった。この数字は、インフレ調整をしていないうえ、予備選挙に立った人数にもよるので、費用価値の単純比較はできないが、その増大ぶりは鮮明である。
 
 もっと大きくみてみる。大統領選挙および連邦議会上下両院選挙の候補者、そして政党、第三者団体が連邦選挙に費やした総額は、2000年30億823万ドル、2004年41億4730万ドル、2008年52億8560万ドルと、年々上昇、2008年は史上もっとも高価な選挙となった。ここには候補者が法にもとづいて集めた献金以外のカネ、「独自に支出する」カネが含まれる。これについても後述する。
(これらの数字は、連邦選挙委員会に提出を義務付けられた報告に基いて、選挙政治監視の非営利団体「応答政治センター the Center for Responsive politics」などが調査したものである。以下同)。
 
II.アメリカの選挙システムとカネ。
 
なぜこんなにカネが掛かるのか、あるいは掛けるのか。そのカネはどこから出てくるのか。
まず、カネが掛かる一つの要因は、その選挙システムにある。
 今では耳慣れた予備選挙、米国ではこれは党の候補者を決めるのに党員あるいは有権者の声を反映させようと、19世紀末に州知事とか連邦議会選挙の候補者選びに採用された。党の有力者やボスの間の取引で決めてきた従来の選抜方法の民主化である。これが20世紀にはいって、大統領選挙にも取り入れられた。知事や議会選挙では党の複数の立候補者への直接投票だが、大統領選挙では、候補指名をおこなう党大会代議員選出が予備選挙となる。
 
 当初、大統領選挙に導入された予備選挙を採用する州は、10数州で、州によっては選ばれた代議員に投票拘束がなかったりして、候補指名に決定的な要素ではなかった(予備選挙など大会代議員選出方法は本来的に党の規則であって、政府の法律ではなく、党員集会を採用するか予備選挙にするかは原則として州次第である)。

この予備選挙が候補指名に決定力をもつ、つまり予備選挙で支持代議員を過半数獲得することが可能となったのは、1970年代に入ってからである。その経緯は長くなるので省くが、1976年以来、予備選挙を行う州が急増する。1968年は17州だったが、76年には30州の大台に達し、80年35州、88年38州、92年36州、08年は39州。今年2012年は38州で行われる(いずれも、自治領のプエルトリコと首都ワシントンのあるコロンビア特別区を含む)。

 
 予備選挙が増え、党内からの立候補者が多ければ、それだけ代議員獲得の選挙運動にカネが掛かるのは必然だろう。早い段階で有力候補が決れば相対的に予備選挙費用は少なくてすむ。だが、民主党でオバマとヒラリー・クリントンが党大会直前まで競いあった2008年のように競争が激しければ、それだけ費用がかさむ。
 費用増大の最大の要因は、テレビの選挙広告である。テレビの登場は、無名のあるいは全国的に知名度の低い政治家、新人が選挙の舞台に踊り出る可能性を高めたことはつとに知られている。国土の広い米国の、全国を選挙区とする大統領選挙では、テレビ選挙広告によるメッセージ発信は死活的である。予備選挙の拡散そのものが野心家の登場を加速したが、それとテレビとの相乗効果である。
 
 2008年でオバマは3億9800万ドル、マケインは1億9500万ドル、つまり集めた献金の半分以上をテレビ、ラジオの選挙広告に使用している。同年の議会を含めた選挙全体の選挙広告費用は27億ドル、2004年は24億㌦といわれている。
 なぜテレビ広告にこんなに費用を掛けられるのか、それは法的規制が全くないからである。たとえば、イギリスでは、政党による選挙放送、政治放送は認められているが、候補者自身の政治的論争についてのテレビ広告は禁止されている。選挙放送は政党間で平等で、五つのチャンネルで同じ日に5分間、という具合に規制されている。日本も規制がある。
 
 また、米国での無規制の選挙放送は、テレビ業界にとって稼ぎ時である。テレビを平等に無料で候補者に開放せよ、広告を含め選挙放送を規制せよ、との提言はあるが、自由競争の米国ではまず実現は不可能に近い。本番選挙でも、テレビ選挙広告にはなんの規制もない。また、選挙運動期間とか、選挙事務所の数とか、ポスター枚数といった細かい規制もない。
 
 では、米国では選挙運動は全くの野放しなのかというと、そうではない。19世紀末から選挙に伴う不正腐敗防止、金力の政治に及ぼす不当な影響力を阻止しようとする試みが繰り返されてきた。しかし、多くは抜け穴の多い規制法で効果はほとんどなかった。それが、1972年のウオーターゲイト事件を契機に、連邦選挙の政治資金の出入りについて本格的な規制が始まったのでる。(同事件の本質は、不正に集めた選挙資金を秘密裏に政治工作や司法妨害工作に使われた点にある)。ところが、その規制は「言論の自由」にたいする憲法違反というリバタリアン(自由至上主義)を中心とした保守派の反撃にあっているのが現状である。
 
III.カネは言論か? 選挙資金規正をめぐる攻防。
 
少々煩雑になるが、ここで米国の選挙資金規制の経緯をたどることにする。
 まず、ウオーターゲイト事件直後の1974年の「連邦選挙運動法」の内容骨子を踏まえておこう。
 
1.献金制限:
①個人献金は、一選挙ごと一候補者に1000ドル、年額25000ドルを上限、
政党全国委員会その他の団体(PACs)への献金は、一選挙ごと一団体に5000ドルを上限とする。100ドル以上の現金献金および外国人献金の禁止。
②法人(corporation 株式会社のみならず「全米ライフル協会」など法人格を持つ団体)および労組の候補者および候補者直結の政治活動委員会(PACs)への直接献金禁止。
2.支出制限:
①大統領予備選挙運動費は、総額1000万ドル、本番選挙では2000万ドル、党大会費用は2000万ドルを上限とする。(インフレ調整はする)
  ②大統領候補者個人およびその家族の資産からの支出は、5万ドルを上限とする。
③第三者団体(候補者自身から独立した政治活動委員会PAC)の支出は、一候補者あたり1000ドルを上限。
3.「連邦選挙委員会FEC」設置と、同委員会への献金者の氏名を含めた選挙運動費用収支の定期的報告義務と公開。
4.公的資金の導入:
  候補者が望むならば(選択自由)、予備選挙、全国党大会、本番選挙で定められた額の公的資金を受け入れることができる。ただし、受け入れた場合、本番選挙では上記の献金集めを行ってはならない。(つまり支出制限)。
公的資金は、連邦所得税申告のさいに、大統領選挙用に1ドルを割くことに自発的同意(申告書のボックスにチェック)したものの積立金を当てる。本番選挙の公的資金は2000万ドルをベースとし、選挙年毎にインフレ調整して額を決める。
 
この諸規定の狙いは、自ずと明らかであろう。第一に、個人資産からの支出を5万ドルに抑えたことからもわかるように金持ち有利の阻止、金権候補排除である。第二に、献金制限、支出制限によって、資金力をもつ個人や団体の影響力を抑え、資金面から立候補の機会平等をはかること。公的資金導入とそれに伴う献金集め禁止も同じ目的である。第三に、1000ドル以下の小額献金を奨励し、市民の政治(選挙)参加をうながすねらいがある。
 
 ところが、翌1975年、この法は選挙運動の自由を縛る憲法違反、特に支出制限は憲法修正第一条によって護られた「言論の自由」に違反するとの憲法訴訟がウイリアム・バックリー共和党上院議員(当時)から起こされた。
 訴訟は連邦最高裁判所まで上告され、1976年1月、最高裁は判定を下した。その内容はこうである。
 
 献金制限は、選挙の公正を保障する議会の意図において合憲。公的資金の導入とそれに伴う支出制限は候補者の自由選択だから合憲。報告公開義務も合憲。しかし、個人資産からの5万ドル支出制限をはじめ個人、候補者、団体の支出制限は「選挙言論活動の量を制限し、それはわが国の選挙過程の核、修正第一条の諸自由の核である政治的表現を制限するものである。献金制限と比較して、支出制限は政治表現および政治結社の自由により重大な厳しい制限を課するものである」とし、公的資金を除いたすべての支出制限を違憲とした。
 
 この判定によって、候補者とは独立して選挙活動をする第三者団体のPACsは、無制限にカネを使えることになった。このPACへの献金・寄付は、候補者への直接献金ではないから、無制限に寄付できる(ソフト・マネー)。この支出は独立であるから、候補者と協調連携した活動は禁止され、またあからさまに特定候補を支持したりあるいは反対したりする文言を選挙広告に使用してはならないとされた。たが、その連携の境界は曖昧であり、また「争点広告」とはいうものの、特定候補を名指ししていなくても選挙争点の文脈から、それが特定候補の応援あるいは攻撃であることは明瞭にわかる。
 
かくして、水門はひらかれ、巨額のカネがこの第三者PACsに流れ込み、現実に特定候補あるいは政党支援の活動に使用される始まりとなったのである。
 献金制限を受ける“ハード・マネー”に対して“ソフト・マネー“と呼ばれるこのカネは、どこからくるか。ほとんどは個人資産家、会社、業界団体からである。特殊利益団体が選挙を支配する金権政治の土壌が耕された。
 
 その後、ソフト・マネーに賄われた「争点広告」が氾濫し、投票を左右するようになる。事態を憂慮した連邦議会は、2002年「超党派選挙運動改革法」を成立させた。規定は複雑だが、要点は、ソフト・マネーと「争点広告」の規制である。
 同法は、政党全国委員会、連邦選挙立候補者、現職議員によるソフト・マネーの懇請、受容、使用を禁じた。候補者には、献金制限のあるハード・マネーのみで活動せよということである。政党はこれまでソフト・マネーを無制限に受け入れることができ、それは有権者の投票権登録運動などの党活動、さらには党関係のPACへの資金移動を認められていた。
 
 いわゆる「争点広告」については、それを選挙活動コミュニケーション(Electioneering Communication)の一つと定義、このコミュニケーションとは「特定候補への支持あるいは反対投票をはっきり呼びかけているかどうかにかかわりなく、候補者への応援、支持あるいは反対、攻撃を行う放送・ケーブル・衛星コミュニケーション」とした。そのうえで、予備選挙投票日前30日間および一般選挙投票日前60日間は法人(corporation)および労組は、この種のコミュニケーション経費に、その一般財源を使用してはならない、とした(この期間に選挙広告が集中する)。
 
一方、法人や労組は、候補者と直接関係しない別個のPACを設置して寄付を集め、その選挙広告経費負担は独立支出として認められた。ただし、こうしたコミュニケーションに資金を出す個人、団体は経費の出所の報告義務を課した。
このような規制に対して、例によって、リバタリアン的立場の保守派からいくつかの憲法違反訴訟が起こされたが、そのうち衝撃的なのは、2010年1月の最高裁判定であった。
 
IV. 大統領選挙・連邦議会選挙の「外部委託」―“スーパー PACs”の登場。
 
 2008年の大統領選挙で、当時のオバマ上院議員とヒラリー・クリントン上院議員が民主党予備選挙で激しく競い合っていた。当初はヒラリー有利と見なされていたことから、保守系の独立PAC「Citizens United」がヒラリー批判のドキュメンタリー映画を製作、衛星通信テレビ網で放映することになり、その宣伝用のテレビ広告を出すことにした。
 
これについて、連邦選挙委員会は予備選挙前30日間に出すこの種の広告は、「改革法」の「法人および労組はその一般財源から選挙コミュニケーション費用を支出してはならない」という禁止条項に抵触し、ならびに「このようなコミュニケーションの資金提供者の公開」という義務条項を満たしていないと、広告の差止めを命じた。これに対して、Citizens
United は、映画は事実にもとづいた非党派的なもので、改革法の条項はそのプロモーション広告には当てはまらないと訴え、その条項適用は表現の自由の憲法違反であると主張した。
 
 最高裁判所は2010年1月21日、5対4の多数で、政府が法人・労組の政治目的のための独立支出に制限を加えることは修正第1条に反し、改革法の禁止条項は違憲と判定した。多数意見を代表してケネデイ判事は「修正第1条は、議会が、単に政治的発言に参入したとの理由で、市民あるいは市民の連合に罰金を課したり、監獄に入れたりすることを禁じている」と書いた。この案件は、映画とその宣伝広告が「改革法」条項に抵触するとのFECの判断が妥当かどうかという法解釈のテクニカルな面に限定して判定を下すこともできた。しかし、言論の自由とカネの問題に拡大し、これまでのソフト・マネー規制を一掃する画期的なものにした。現在、最高裁判事9人中、リバタリアン的な保守派が5人を占めている。
 
オバマ大統領は、この判決は「大石油会社、ウオール・ストリートの銀行、医療保険会社、その他のワシントンで影響力を結集している強力な利益集団にとって、大勝利である」と批判した。異論を唱えた判事の一人は、この判決は「法人の言論と個人としての人間のそれとを同一視する重大な誤りを犯している」と論じた。
そして、同年、その後の類似の訴訟で、最高裁は、候補者から独立した政治活動委員会 PACs への献金は制限できないと判決、“スーパーPACs”と呼ばれる新たなカネ集め団体が続出することになる。これによって、法人・労組は手持ちのカネを“スーパー”に自由に献金でき、そのカネは選挙コミュニケーションのみならずそのほかの選挙活動に、自由に使用できることになった。これで、個人資産家や企業、業界団体は政治目的のために多額の寄付が自由にできるようになったのである。通常のPACは、献金制限の範囲内で集めたカネしか使えなかった。
また、この判決は、連邦議会に群がる利益集団のロビイストたちに新たな武器を与えた。法案をめぐって利益集団の意思に反する投票をした議員に選挙資金の面から圧力をかけ、再選を阻むとの脅しが有効となる。この判決の効果は、大統領選挙よりも議会選挙によりインパクトがあるといえるかもしれない。
こうして、独立支出と称するカネの氾濫で、候補者の手からメッセージ発信の管理制御が離れていく恐れが出てくる。選挙の主体がカネを出す人に移る、選挙のアウトソーシングである。さらに、投票日前日まで選挙広告を展開してもよいことになり、落としたい候補への攻撃的広告が増える可能性が高くなる。 
 
なお、留意しておきたい。判決では「資金提供者の公開」は合憲とされた。また、74年以来の法人・労組による候補者への直接献金の禁止、公的資金制度、収支の報告公開義務、そして個人献金制限は依然有効である。
個人献金制限は、「改革法」で時代の物価指数に合わせて改訂された。03年1月から、一選挙一候補の献金上限1000ドルを2000ドル(2012年現在2500ドル)へ、政党全国委員会への上限年間2万ドルから2万5000ドル(同3万800ドル)へ、など全面的に増額、その額は奇数年ごとにインフレ調整することになった。
また、76年来、共和民主両党のすべての候補は本番選挙で公的資金を選択した。それは数千万ドルの資金を献金制限のもとで集めることの困難にあった。しかし、2008年選挙でマケイン共和党候補は8400万余の公的資金選択したが、オバマ民主党候補は、初めて、この公的資金を辞退した。それは、オバマ陣営が予備選挙段階の経験から、公的資金以上の額を集める自信があったからであった。現に、3億ドル以上を集めた。その57%は1000ドル以下の小口献金であった。しかし、オバマの辞退は公的資金の目的を無視するものとの批判を浴びた。
 
V. 2012年大統領選挙とスーパーPACs。
 
 2012年は、Citizens United 判決後の最初の大統領選挙年である。米国の選挙サイクルは選挙年の2年前から始まるので、大統領選挙に向けてのスーパーPACの結成と活動は2011年から始まった。民主党はオバマ再選を目指すから予備選挙はなく、スーパーの活動はまだほとんどないが、熾烈な候補指名争いを展開している共和党では、立候補者それぞれを支援するスーパーPACが花盛りだ。
  その実態を数字で見てみる。2011年初めから2012年2月中旬までの間に集めて、使った金額である。(すべて the Center for Responsive Politics の集計から)。
  ロムニー候補の支援のスーパーPAC「Restore Our Future」=3680万ドル集めて、2550万ドル支出。
ギングリッチ候補支援の「Winning Our Future」=1310万ドル集めて、1250万ドル支出。
サントラム候補支援の「Red, White & Blue」=281万ドル集めて、419万ドル支出(赤字の理由は不明)
また、特定候補ではなく、議会選挙を含めて共和党候補を支援する「American Crossroads」=2340万ドル集めて、106万ドル支出。
一方、オバマ支援の「Priorities USA Action」=446万ドル集めて、61万支出。
   (オバマ支援には労組が支出しているが、ここでは省略)
 
 誰がこのカネをスーパーPACに出しているか。
共和党の場合、十数人という少数の個人資産家あるはビジネス関係の法人で、10万あるいは100万単位の小切手をだす。カジノ経営の億万長者シェルドン・アデルソンとその妻が、この1、2月にそれぞれ100万ドルずつギングリッチ候補のスーパーPACに寄付したことは、日本の新聞でも報じられた。このカネはロムニー攻撃の広告に使われた。
 ロムニー候補のスーパーには、ヘッジ・ファンドの億万長者、鉱山会社やの重役などが50万ドルずつ寄付している。
 別の角度からみてみる。
これら献金者を業界別と寄付先に区分すると
① 証券・銀行 2376万ドル うち保守系PACに2200万、リベラル系に168万(以下同)。
② 化学工業と関連事業 1769万4000ドル 1769万2000と1010ドル
③ 医療関係      714万ドル      553万  と  26万
④ カジノ・賭博事業  553万ドル      550万  と  3000ドル 
⑤ テレビ・音楽・映画 524万ドル      252万  と  271万 
⑥ 小売・ホテル・レストランなどの労組    
            510万ドル       0    と  510万
 
明らかに、リベラル派(民主党)のウオール・ストリート規制、環境保護規制に反撥するビジネス界から巨額のカネが保守系候補に流れている。
 スーパーPACを生んだ最高裁判決を厳しく批判したオバマ大統領は、こうしたソフト・マネー集めを拒否、「Priorities USA Action」の設置にさえ反対したが、この数字を見せ付けられたオバマ選挙対策本部は2月初めに方針転換、オバマ承認のもとで閣僚やホワイトハウス高官などが積極的にこの募金活動を行うことにした。本番選挙で共和党のPAC資金力に対抗するため、背に腹はかえられぬということだろう。
 ところで、法定献金制限のなかでの募金(ハード・マネー)競争も激しい。ここではオバマ大統領は強い。2011年の一年間に1億2500万集めた。ロムニー候補は5640万、ギングリッチ候補は1260万、サントラム候補は218万である。さらに、オバマはこの1月には1180万ドルを集めた。ロムニーは660万であった。
 共和党のスーパーPAC依存が高まり、オバマ陣営も無視できないとなると、このままでは選挙におけるスーパーつまりビジネス業界の影響力、政治における支配力はますます大きくなる。先に触れたように、連邦議会議員が業界のロビイストの圧力に屈しやすい状況で、アメリカは金権政治化すると批判されるゆえんである。一世紀前の状態に戻ったと嘆く評者もいる。
 こうなると、最高裁判事の保守派多数という現状で、誰が候補者になっても共和党候補の勝利は、アメリカ政治にとって悲劇あるいはきわめて危険であるといわざるを得えまい。
 ちなみに、この1月の世論調査では、Citizens United の最高裁判決は選挙に「悪い影響を与える」と答えたものが65%、「よい影響」は16%、「関係ない」が10%であっ
た。              
 
(2012年2月25日記)
 
近藤健氏は国際基督教大学卒、毎日新聞入社、サイゴン特派員、ワシントン特派員、外信部長など歴任、退社後は国際基督教大学教授、愛知学院大学教授。専門はアメリカ研究。著書に「反米主義」(講談社現代新書、2008年)、「アメリカの内なる戦争」日本評論社(2005年)など多数。

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