前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(342) 水野広徳の『日本海海戦論⑤ 勝利は物的、人的な優秀さのみではなく、天運が大きい」

      2015/01/01

日本リーダーパワー史(342 

 政治家、企業家、リーダー必読の歴史的
リーダーシップの研究『当事者が語る日露戦争編 

 

「此の一戦」の海軍大佐・水野広徳の
『日本海海戦論

●「海軍の勝利は単に物的、人的要素の優秀だ
ったことのみではない。人力の及ばざる
天運があったことが大きい
●「もし国民がこの天運を無視し、戦勝におごり
好戦的になれば、必ずや天罰をこうむる
 

前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
<水野広徳「日本海上政権史論」国家学会雑誌(192236-7号)>
 
日本海軍の勝利は東郷長官以下司令部の作戦宜しきを得たると、将卒の勇敢熟練なしに因ること大なしとはいえ、天佑に属するものがすこぶる多かつたと信ずる。
 
ロシア艦隊といえどもその乗員の勇敢なりしは黄海、日本海の海戦に徴するも日本軍に比してはなはだしく劣ってはいなかった。
 
試に日本軍の好運だった諸点を挙げれば、
 
(1) 開戦のへき頭、旅順の奇襲により偶然にも敵の最新最良の軍艦二隻を傷けて先制の利を占めた。もし、当夜敵の艦隊が港外に碇碇していなかったか、碇泊していてもその損傷艦が他の劣勢軍艦だったならば、以後における日本海軍の件戦は大なる制肘を受けたであらう。
 
(2) ロシア司令長官「マカロフ」の新任はわが海軍に取って大なる精神的な脅威であった。ところが、彼が着任後わずか一ケ月にして唯一回、沈置したるわが軍の機雷に触れ、その旗艦と共に戦死を遂げたるは天運という外はない。
もし「マカロフ」が生存しておればロシア艦隊は大いに活動してわが艦隊を苦しめたであらう。
 
(3) 初瀬、八島の沈没は一時、わが海軍の士気に打撃を与へた。この時旅順方面においてわが艦艇の沈没したものは、わずか数日間に、初瀬、八島をはじめとし巡洋艦吉野、通報艦宮古、砲艦大島、水雷艇一隻の外、装甲巡洋艦春日は吉野と衝突のため大損傷を受けて修理のため帰国し、通報艦龍田は霧のためかく座して戦闘力を失ったのである。
実にわが海軍の危機であった。もし、敵にしてこの虚に乗じ攻勢をしてきたならば、その結果は寒心すべきものであったであらう。
 
(4)八月十日、黄海々戦において日没に近き頃、わが弾丸が敵の旗艦「ツェザレウィッチ」の司令塔に命中したことである。
この一弾なければ、当時の戦勢より推して敵は脱出の目的を達したかもしれない。反対に敵の1弾がわが三笠の司令塔を打てば勝敗は反転したであらう。この一弾こそ実に日本護国の神として祭るべきものである。
 
(5)バルチック艦隊の東航が著しく遅延したことである。ロシア提督が優良の軍艦のみを率い、我が海軍の予想したる如く、明治三十八年の二月、二月頃に来著したならば、わが艦隊はなお末だ艦艇の修理と乗員の休養訓練を完了してなかったので、日本海海戦のように好結果は到底望まれなかつたであらう。
 
 日露戦争のほとんど全部に参加して親しく戦況を目撃したる自分は、わが海軍の勝利は単に物的、人的要素の優秀なりしのみとは思はない。そこに人力の及ばざる大なる天運の力が加っていることを断言するに躊躇しない。
 
もし国民がこの天運を無視し、みだりに戦勝になれて戦争を好むが如きことあらば、必ずやいつかは天の責罰をこうむる時がくるであらう。
 
ただ、日露戦争の際においては日本海軍の軍人は上下を通じてこの戦争こそ国家の存亡に関するものであるとの固き信念を有したることは疑なき事実である。
 
要するに、日露戦争におけるわが海軍は地利と大和と天の運とをあわせ有したるものである。もしその一を欠けばかかる勝利は得られなかったであろう。
 
                                                                                                       おわり

 - 現代史研究 , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
梶原英之の政治一刀両断レポート(2)『原発事故が菅下ろし政局の主役だった!ー原発解散になるとみる理由』

梶原英之の政治一刀両断レポート(2)   『原発事故が菅下ろし政局の主 …

no image
記事再録/歴代最高の経済人とは誰か①ー『欲望資本主義を超克し、21世紀の公益経済学を先取りしたメッセの巨人』三井、三菱、その他の実業家より偉大な財界人・ 社会貢献の偉大な父・大原孫三郎から学ぶ③

歴代最高の経済人は誰か①ー『欲望資本主義を超克し、21世紀の公益経済学を先取りし …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ ニュース・ウオッチ(182)』「なぜ日本は難民をほとんど受け入れないのか」(BBC動画)●『EU離脱まったなし。米シンクタンク調査にみる英国民投票の「理想と現実」●『2050年予測~米中覇権争いの「次」を見据えるバフェット、ソロス、ロジャーズ」』

 『F国際ビジネスマンのワールド・ ニュース・ウオッチ(182)』   …

no image
『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』㉔ 西欧列強下の『中国,日本,朝鮮の対立と戦争』(下)(英タイムズ)

  『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』 日中韓のパーセプ …

no image
日中韓異文化理解の歴史学(3)<まとめ記事再録>『日中韓150年戦争史の原因を読み解く』(連載70回中、37-50回まで)★『甲午農民戦争、閔妃と大院君の朝鮮王宮の腐敗と内部抗争、金玉均の暗殺、李鴻章の陰謀、日本の圧力、 ロシアの侵攻の三つどもえの対立が日清戦争へと爆発』●『英タイムズの警告(日清戦争2週間前)「朝鮮を占領したら、面倒を背負い込むだけ(アイルランドと同じ)』★『「日清戦争開戦10日前『中国が朝鮮問題のため日本と一戦交えざるを得ないことを諭ず(申報)』●『<日本はちっぽけな島国で鉱山資源には限度があり,倉庫の貯蔵も 空っぽで,戦争になれば紙幣も流通しなくなり,商店は寂れて.たちどころに困窮してしまう。 中国は日本に必ず勝利するのだ』

    『日中韓150年戦争史』㊲ ロシア皇太子暗殺未遂事件(大津事件 …

no image
★日本の最先端技術「見える化」チャンネル/「今、最も注目される<未来のメガネ>ウエアラブル「b.g」がよくわかる動画」『ウエアラブルEXPO2019』(1/16)ーメガネスーパーの無限の可能性を秘めた未来のメガネウエアラブル「b.g」

日本の最先端技術『見える化」チャンネル 『ウエアラブルEXPO2019』(1/1 …

百歳学入門(109)医師・塩谷信男(105歳)の超健康力―「正心調息法」で誰でも100歳まで生きられる

百歳学入門(109) 医師・塩谷信男(105歳)の超健康力―「正心調息法」で誰で …

no image
速報(64)『日本のメルトダウン』(小出裕章情報3本)『格納容器の底抜け』『テルル132の意味』『放射性物質の無毒化できない』

速報(64)『日本のメルトダウン』 ●(小出裕章情報2本)『格納容器の底は抜けて …

no image
日本メルトダウン脱出法(743)「TPPでGDP12兆円拡大試算、非関税障壁の撤廃効果で」●「女性エベレスト隊隊長に学ぶ、究極の準備」

 日本メルトダウン脱出法(743)   焦点:TPPでGDP12兆円拡 …

no image
日本リーダーパワー史(708) 日中韓150年史の真実(11) 「福沢諭吉はなぜ「脱亜論」に一転したか」⑪<記事再録>『福沢諭吉の「脱亜論」と時事新報の主張に全面的に賛成した』上海発行の英国紙「ノース・チャイナ・ヘラルド」1884(明治17)年5月2日

  日本リーダーパワー史(708) 日中韓150年史の真実(11) 「 …