日本リーダーパワー史(355)<日本の最も長い決定的1週間>『わずか1週間でGHQが作った憲法草案②』
2019/09/17
日本リーダーパワー史(355)
<日本の最も長い決定的1週間>
●『東西冷戦の産物として生れた現行憲法』
『わずか1週間でGHQが作った憲法草案②』
前坂 俊之(ジャーナリスト)
①秘密の1週間
米ソ核戦争の勃発寸前までいったキューバ危機を描く米映画『5月の7日間』というのがあったが、新憲法制定のドラマは昭和戦後の日本人にとってGHQの密室で行われた『日本の最も長い1週間』であったといえる。
連合国による敗者への裁き、米ソ対立、東西冷戦の激化、のきびしいはざ間に置かれた日本にとって、約1ヶ月間にわたって日米英ソの熱い憲法代理戦争が繰り広げられた。
なぜ、マッカーサーは憲法制定を急いだのか
ところで、ここまでは知られざるドラマの第一幕だが、なぜ、マッカーサーはこんなにも新憲法作成を急いだのだろうか、それを知るためにはちょうど半年前の1945年(昭和20)8月前後のポツダム宣言受諾、日本占領開始からの連合国側内部での激しい国際外交戦のつばぜり合いをさかのぼる必要がある。
第2次世界大戦の終了と平行して、米ソ冷戦が発火しており、日本の占領政策にも大きな影響をあたえた。
スターリンは北海道を真っ二つにして、ソ連に北半分を分割統治させるように米国に強く迫った。かつての大正末期に日本がシベリア出兵で広大なシベリアを占領したことにたいする復讐であった。
日本占領、管理に当たっても最高指令官は連合国の複数候補者から選ぶべきだと強硬に主張したが、トルーマン米大統領は突っぱねてマ元帥を日本に派遣した。
スターリンはドイツ分割で手に入れた巨大な戦利品、巨額の利益を、「2匹目のドジョウを狙って」日本でも得たいと米側に揺さぶりをかけていたのだ。
ベルリンの分割占領が失敗したように、この時、トルーマン米大統領がきっぱりとスターリンの要求をはねのけず、日本単独占領の先手を打たなければ、日本も分断国家になる可能性があった。米国のほぼ単独占領になったのが幸いしたのである。
連合国の日本占領の目的は「国際社会において日本を無害化すること」であり、この具体化として「日本の戦争能力の破棄」と「日本の民主化」の2点が柱であり、この目的達成に『憲法改正』が組み込まれていた。
日本の民主化のポイントが『天皇の大権を取り上げて国会の権限強化と人権の拡大によって「天皇主権」から「国民主権」へと180度シフトする憲法の改正であった。
マ元帥は日本の占領政策の実行に際して、米政府(ワシントン)の意向と連合国の出方、中でもソ連・スターリンの反撃を両にらみしながら警戒していた。
ソ連は日本占領の実務に参加することを強く要求したが、米国はこれを拒否して、10月に日本の管理機関はGHQに一本化され、実質的な権限を持たない極東諮問委員会が設置された。
同月未、米政府は「天皇が存在しなくても占領が満足に遂行できる場合には天皇を戦犯とすることを考慮する」の方針をGHQへ示して、天皇制の存続の可否についての判断はマッカーサーに一任した。
ところが、12月27日、モスクワで開かれたた米英ソ外相会議で日本管理の政策決定機関として極東委員会(13ヵ国の連合国で構成)をワシントンに、同時に連合国最高司令官の諮問機関として対日理事会を東京に設置することを決め、4ヵ国(米英ソ中)には拒否権が認められた。
これは日本占領のお目付け役的な機関で、拒否権を持つことになった同委員会の意向はマッカーサーも無視できなくなった。
マ元帥は自分に相談もなく行ったワシントンの決定に対して、怒りをぶちまけた。同委員会は早速、GHQの占領管理の視察をするためメンバーを日本へ派遣した。
ソ連やオーストラリア、ニュージーランドなどは天皇制の存続に強く反対しており、憲法改正についても同委員会が強く介入する発言、動きが目立った。そうなればこれまで独裁的に占領政策を執行していた元帥のフリーハンドはもはや許されなくなる恐れが出てきた。
いわば、敗戦国・日本が置かれた状況はマッカーサー、トルーマン、チャーチル、スターリンら各国の料理人たちに切り刻まれても何も文句も言えない、正にまな板のコイ状態であったあったのだ。
マ元帥、GHQと米ホワイトハウス、極東委員会の3つ巴の激しい外交駆け引きが展開されていたが、日本政府には全く見えていなかった。
年明けの1月7日に米国務・陸軍・海軍三省調整委員会が採択した重要文書「日本の統治体制の改革」(略称「SWNCC―228」)がマッカーサーへ打電された。
この内容は「それまでの天皇制を否定し、人民主権に基づく政府の確立を中核とする」改革案で「日本人が天皇制を廃止するか、より民主主義的に改革することを奨励しなければならない」としていた。
ただし、その実施方法は、日本政府に命令するのは、「最後の手段として限定し、連合国によって強要されたものであることがなるべくわからないようにせよ。日本国民が知れば受け容れ、支持する可能性は著しく薄れるためだ」と警告していた。
23日には極東国際軍事裁判所が開設され、日本の戦争犯罪人の裁きが始まろうとしており、天皇の戦争責任が問われるかどうかに注目が集まった。しかし、マッカーサーの腹の中はすでに「天皇の擁護で」固まっていた。日本の占領を成功させるために、天皇の協力は不可欠であり、天皇の戦争責任には目をつぶったのである。
25日、マッカーサーはアイゼンハワー米統合参謀本部長あてに「天皇の戦犯除外について」の書簡を送った。
「天皇を戦犯にする証拠は発見されなかった。
もし天皇を起訴すれば大混乱を招き、日本人は、連合国がポツダム宣言の約束を破ったとして、終わりのない復讐の連鎖反応が始まり、日本は共産化するだろう。その場合は100万人の占領軍と数十万の民間スタッフの大量派遣が長期間必要となる。アメリカの負担の面からも天皇の起訴は避けるべきだ」
翌26日、66歳の誕生日を迎えたマッカーサーは極東委員会が自分たちの政策に横ヤリをいれて、天皇制を廃止した共和制憲法を押し付けてくるのを、一番警戒していた。
2月26日にワシントンで同委員会の第1回の会合が予定されており、対日理事会は4月5日に開催が決まっており、一刻も早く日本政府に憲法作成を急がせる必要があるーと頭をめぐらせていた。
来日した極東委員会の一行は17日、GHQケーディスに面会して、憲法改正について問いただしたが、ケーディスは「GHQは権限外」と明確に否定し、29日に会ったマ元帥も「極東委員会が発足したので、それまでの憲法改正作業の関与を中止した」と回答していた。
同委員会の憲法改正への強い関心を目の当たりにしてマ元帥の決意はいっそう固まった。2月1日の偶然のタイミンであった毎日新聞スクープがマ元帥の電光石火の行動をとらせる引き金となったのである。
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