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池田龍夫のマスコミ時評(32) 世界各地への騒乱拡大を危惧-米独善主義に反発が強まる

   

 
池田龍夫のマスコミ時評(32)
 
世界各地への騒乱拡大を危惧-米独善主義に反発が強まる
 
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
(このレポートは大地震発生の3月11日は、4月号原稿出稿寸前でしたので、地震関連のウオッチは5月号にさせて頂きます)
 
 「9・11同時多発テロ」から十年、世界各地で騒乱が多発し、混迷の嵐が全世界に吹き荒れている。瞬時に情報が飛び交うインターネット社会の影響もあって、安閑としていられない時代になってきた。

年初チュニジアから始まった独裁政権打倒の騒乱は、エジプト、リビアなどの北アフリカ諸国から中東各国を揺さぶる様相を深めている。ヨーロッパ、アジア、南北アメリカ大陸、オセアニア、南アフリカ地域もそれぞれ〝火だね〟を抱えており、菅直人政権を取り巻く環境も厳しい時代状況。まさに「内憂外患」――与野党の主導権争いに終始している日本政治の劣化が、極めて憂慮される昨今である。
 

  「貧困・失業・格差」解消を求める民衆
 携帯電話の爆発的な普及、さらにフェイスブックやツイッターなどのネット交流によって、情報が地球を駆け巡る時代。いま世界を震撼させている騒乱は、一地域に限定できない様相を呈してきた。一方、ウィキリークスによって、これまで権力者側が隠してきた残虐行為や謀略の数々が流出し、大国の横暴や独裁権力者が政治を壟断できなくなった実態を、エジプトやリビアの騒乱が物語っている。
 
 「米国は、これまで三十年間、毎年イスラエルとエジプトの二国に、米国の対外援助総額の半分近くを、3対2の配分比率で注ぎ込んできた。だから、そのエジプトで、三十年間強権を振るってきたムバラク政権が終わるという事態は、中東のそうした巨大変化の引き金となるだけでなく、イスラエル国家の存続に賭ける米・殴の戦略の筋書き変更を迫る可能性すらはらむものである。
……いま、世界史的に新しい市民形成と斬新な市民社会の潮流が動き始めたのだ。貧困・失業・格差・不公正・腐敗・こころの操作に対するる怒りの真実は、『いのちの安全・融通(ゆうずう)無碍(むげ)に支えあう環境・人間らしさ』の要求とウラハラなのだ。それは、現代世界にのたうつ悪あがきの植民地主義・人種主義・軍国主義・オトコ中心主義との闘いでもある」と、板垣雄三・東大名誉教授は分析している(『DAYS JAPAN』3月号)。
一九世紀末の民衆蜂起に失敗して英国の植民地になったエジプトが、「共和国」として独立したのは、一九五三年(ナセル大統領)。その後、対米従属的ムバラク政権の圧政に民衆が鉄槌を下した今回の市民革命が、周辺諸国に拡大する様相を帯びてきた。イラク・アフガニスタン戦争終結のメドが立たない米国は、今後どのような外交姿勢で臨むだろうか。ソ連崩壊から二十年、超大国アメリカの威信失墜も甚だしい。
 
 米国は今まで独裁国家をも利用する外交戦略で優位を誇示してきた。「自由な人権国家」は盾の一面であり、冷徹な「軍事大国」の一面を併せ持つ。いわゆるダブルスタンダード(二重基準)によって、世界に睨みを利かす外交手法。今回のエジプト民衆革命に続く動乱の連鎖は、米外交戦略の破綻を示したとも分析できる。一方、米国に次ぐ経済大国に躍り出た中国政府に〝民主化要求〟の声が、今後どう伝播するか気懸かりだ。まさに〝天下大動乱〟の予感すら覚えるのである。
 
  75年前の「2・26事件」を想起
日本に目を転じると、菅政権の相次ぐ失政によって、国民の不信感は増幅。七十五年前の「2・26事件」など世界恐慌後の〝暗黒・昭和〟の悪夢が蘇えるが、杞憂だろうか。
 
この点につき松本健一・麗沢大学教授は「政党不信、今と類似」と題する論評を東京新聞(2・26朝刊)に寄せ、「政党政治に愛想を尽かした国民の期待は『清新なる軍人』へと向かい、人気の高い近衛文麿を首相に担ぎ大衆迎合のポピュリズム政治を展開し、ファシズムへの道を開いた。…今は軍部の代わりにマスメディアが支持率を武器に首相を次から次へと引きずり降ろし、橋下徹大阪府知事らの人気者を担ぎ出す。大衆受けを狙った近衛首相は軍部を抑える政治力を持たなかった。そのポピュリズムの失敗が蘇える」と述べていたが、政党政治の劣化がもたらす〝逆コース〟への警鐘と受け止めたい。
 
朝日新聞は「2・26事件と財政」と題する社説(2・27朝刊)を掲げたが、軍事予算膨張に抵抗、暗殺された高橋是清蔵相に「何を学ぶか」の論旨に共感した。――「軍事費と民生費とを同列にはできないが、財源の裏打ちなき出費は無責任のそしりを免れない。

…世界に例のない速さで高齢化が進む日本で、社会保障は最重要課題である。その財源を優先しつつ、負担を国民に求め、他のムダや我慢すべき政策は徹底してそぎ落とす。まして財力に見合わぬ軍備に巨費を投じる余裕はない。争いを未然に防ぐ外交に心血を注ぐことが不可欠だ。そうやって国民の今と未来を命がけで守る。今も昔も、責任ある為政者の使命というものだ」との指摘はもっともで、「歴史に学ぶ努力」の必要性を痛感させられた。
 

〝知日派〟メア日本部長の暴言に愕然
 一方、沖縄・普天間基地移設の行方が憂慮されている最中(さなか)、米国務省のケビン・メア日本部長(前在沖縄米総領事)の暴言が明るみに出て、〝傲慢な米国〟への怒りが高まっている。

メア部長がアメリカン大学で昨年十二月三日、沖縄訪問を控えた学生十四人に特別講義した内容だ。来日した米大学生に取材した共同通信と沖縄県紙が「沖縄への侮蔑発言が多かった」講義内容に驚き、三月七日朝刊に報じて波紋が広がった。トーリ・ミヤギさん(20歳=ハワイ出身の日系4世)が、「録音はしなかったが、メモを確認し合ってまとめたもので、内容は正しい」と、差し出した講義録(A4判4㌻)には、ビックリする文言が記されていた。

 「①海兵隊八千人をグアムに移すが、沖縄の軍事的プレゼンス(存在)は維持し、抑止力を提供する。②日本政府は沖縄の知事に対して『もしお金が欲しいならサインしろ』と言う必要がある。③日本の文化は合意に基づく和の文化だ。しかし、彼らは合意と言うが、ここで言う合意とはゆすりで、日本人は合意文化をゆすりの手段に使う。合意を追い求めるふりをし、できるだけ多くの金を得ようとする。沖縄の人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。

④沖縄の主産業は観光だ。農業もあり、ゴーヤー(ニガウリ)も栽培しているが、他県の栽培量の方が多い。沖縄の人は怠惰で栽培できないからだ。⑤沖縄の人は普天間飛行場は世界で最も危険な基地だと言うが、彼らは、それが本当でないと知っている。福岡空港や伊丹空港だって同じように危険だ」(『共同』3・6配信)等々、その侮蔑的言葉にビックリ仰天した。
 

また「憲法9条を変えるべきだと思わない。憲法が変わることは米国にとって悪い。日本に在日米軍が不要になり、日本の国土を米国の国益を促進するために使えなくなる。日本政府が支払う高価な受け入れ国支援は米国の利益だ。我々は日本でとてもいい取引をしている」との暴言に、「日本を〝食い物〟にする米国」の驕りが垣間見える。
 
琉球新報と沖縄タイムスは、三月七日~八日朝刊で大々的に報じ、本土メディアも後追いして、「メア暴言」に抗議、謝罪を求める〝怒りの声〟が高まった。折から来日したキャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は十日、松本剛明外相を訪ね、「米政府は深い遺憾の意を表し、深くお詫びする」と正式謝罪、メア日本部長を同日付で更迭して後任にラスト・デミング元駐日主席公使が就任したと伝えた。

ルース駐日大使も同日、沖縄県に飛び、仲井真弘多知事に陳謝した。日米関係の悪化を懸念して、米側が早期収拾を図ったと推察するが、06年から09年まで在沖米総領事だったメア氏の「日本蔑視」発言を、形式的陳謝だけで〝水に流す〟わけにはいかない。

米軍普天間飛行場の返還・移設問題に深く関わる国務省日本部長の要職に就きながら、日米の基本認識である危険性を軽視するのなら、日米交渉の根底が崩れる。…。

重大なことは、知日派と称されるメア氏が発信する沖縄に関するゆがんだ情報が、米政府の普天間交渉の対処方針に悪影響を与えている恐れが大きい点だ」(琉球新報3・8社説)「沖縄が振興策と引き換えに基地負担を甘受する状況でないことを知らないようでは、とても知日派とは言えない。…周辺住民の危険除去という普天間問題の出発点を覆す議論であり、重大だ」(『毎日』3・10社説)との指摘を、米政府は真摯に受け止めるべきである。  

池田龍夫=ジャーナリスト)
 

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