前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

池田龍夫のマスコミ時評⑮ 「非核三原則」守り抜く覚悟―「核の傘」偏重の冷戦構造を見直せ

   

池田龍夫のマスコミ時評⑮
「非核三原則」守り抜く覚悟―「核の傘」偏重の冷戦構造を見直せ
 
ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 「世界の指導者に、ぜひ広島・長崎を訪れ核兵器の悲惨さを心に刻んでほしい。日本には核開発の潜在能力があるのに、なぜ非核の道を歩んだか。日本は核の攻撃を受けた唯一の国家だ。我々は核軍拡の連鎖を断ち切る道を選んだ。唯一の被爆国として果たすべき道義的な責任と信じたからだ。

近隣国家が核開発を進めるたびに『日本の核保有』を疑う声が出るが、それは、我々の強い意志を知らないがゆえの話だ。日本が非核三原則を堅持することを改めて誓う」――鳩山由紀夫首相は国連安全保障理事会(2009・9・24)で力強く表明した。「日本は核廃絶の先頭に立たねばならない」と全世界に向けて宣言した姿勢を高く評価するが、従来の核政策を見直し、具体策を実行する覚悟が求められている。
 

 一方、オバマ米大統領が「プラハ演説」(09・4・5)で、核兵器を使用した道義的責任を米大統領として初めて言及、「核のない世界」を目指す姿勢を鮮明にしたことは、核の脅威から地球を救う強烈なメッセージだった。さらに米大統領自らが国連安保理首脳会議を主催したことは初めてで、核問題に絞った論議を深め、「核兵器のない世界に向けた条件構築を決意、▽核不拡散防止条約(NPT)非加盟国に加盟を要求、▽核実験全面禁止条約(CTBT)の早期批准に向け、署名、批准を要請、▽兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉促進を要請」などの決議を全会一致で採択した意義は大きい。オバマ大統領は同会合で、特に北朝鮮・イランに対し「安保理決議の順守」を求めており、核軍縮→核廃絶へのウネリを感じさせる国際会議だった。
 
 米国のブッシュ共和党政権からオバマ民主党政権へのチェンジ、自民党長期政権終焉と鳩山民主党政権誕生が、世界平和の架け橋、牽引車役を果たす両輪になることを期待する声は強い。 
 今年は「日米安全保障条約改定」五十周年の節目。国際環境の急激な変化を見据えた日米安保再構築の動きが年初から高まっており、「安保条約」と「非核三原則」についての考察を試みたい。
 
  踏みにじられた、安保条約「極東条項」
 一九九九年の日米防衛協力指針(新ガイドライン)関連法成立によって「日米安保条約」は著しく変質し、自衛隊の行動範囲が拡大、日米軍事一体化を強化する方向へ舵を切った。さらに二〇〇一年の「9・11テロ」以降の国際的緊張に呼応し、小泉純一郎政権がイラク・サマワへの陸上自衛隊派遣のほか、クウエートへ空自輸送機、インド洋には海自の給油艦派遣に踏み込んだことは、日本の安保・防衛政策の大転換。

日米安保条約に規定された「極東条項」(第六条=基地の供与)や事前協議(交換公文)から逸脱しているだけでなく、憲法に違反する暴挙だった。二〇〇六年五月、日米安全保障委員会で決まった「在日米軍再編最終報告」は、米国のトランスフォーメーション(米軍再編)に基づく新戦略に〝同盟国〟日本を引き込み、共通の戦略目標の下に日米軍事協力を推進しようとの意図が明らかだ。
 

  非核政策」を訴え、発言権を強めよ
 冒頭に紹介した鳩山首相の「非核三原則堅持」の理念に共感するが、「核の傘」に依存している現実との矛盾・混乱をどう打開するか、その道筋を鮮明にすることこそ政策転換の試金石となる。
 
 「オバマ政権が核不拡散の強化を打ち出した今、日本でも、これまでより核に頼らないアジアの安全保障の議論がしやすくなった。広島、長崎というシンボルを訴えるだけでなく、具体的な政策に移すチャンスだ。北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議で重要なことは、米露中など核保有国中心の交渉に、日本が割り込むことだった。日本政府は、核保有国でないと核問題の交渉ができないとあきらめているが、それは間違いだ。日本が核兵器の主導権をとったらいい。

核保有国が主導する核軍縮交渉には必ず限界がある。自分が減らしたくないのに、相手に減らせとは言えないから。互いに減らし合っていくためには、非核保有国が軍縮交渉で発言権を強めることが必要だ。被爆体験を持つ国として主張することに対し、他国が、『きれいごとを言いやがって』とは簡単に文句が言えないはずだ」と、藤原帰一・東大教授の指摘(『毎日』09・7・29朝刊)は、「外交観念変える好機」と捉えた、示唆に富む論稿と言えよう。政権交代を予見したような問題提起を真剣に受け止め、新外交戦略に臨むべきで、その要諦は「非核三原則」堅持に他ならない。
 

 「密約文書」を隠匿していた佐藤栄作首相
昨年六月以降、元外務省高官らの「核持ち込み密約」証言が相次いでいたが、故佐藤栄作首相邸から昨年暮、「核密約」を証明する日米覚書が見つかったことに大きな衝撃を受けた。『読売』09・12・22夕刊特ダネで、沖縄返還交渉に当たった故佐藤首相の私邸に隠されていたことを、佐藤氏の次男・信二氏(元通産相)がマスコミ各社に明らかにした。

「一九六九年十一月二十一日発表のニクソン米大統領と日本の佐藤首相による共同声明に関する議事録」と題した最高機密文書の実物が〝発掘〟されたのだ。有事の際沖縄への核再持ち込みを裏付ける文書であり、岡田克也外相の下で「密約」検証作業に当たっている有識者委員会(座長・北岡伸一東大教授)はもちろん、「密約」の事実が国民に大きな波紋を巻き起こしている。
 

もう一つの密約といわれる「沖縄返還交渉・密約文書開示訴訟」(東京地裁12・1)で、交渉当事者だった吉野文六・元外務省アメリカ局長が「沖縄返還に伴う米軍基地復元補償費を日本側が肩代わりする密約があった」と証言しており、隠し続けてきた「密約」のベールが次々剥がされている。
 
 ここで警戒しなければならないことは、「非核三原則」の一つ『持ち込ませず』の虚構が暴かれたことを逆手にとって、「非核二原則」または「二・五原則」への〝現実的修正〟をたくらむ超保守勢力の動きだ。「密約証言」が急に飛び出してきた時代背景が気がかりだが、その防波堤として鳩山首相の国連総会での、「非核三原則堅持」表明の意義は大きく、尊重しなければならない。
 
 「核の傘」でなく、核兵器の国際管理を
第二の重要課題として、「非核三原則」と「米国の核の傘」に頼る二律背反の実態を打開するために外交政策転換が肝要だ。二十年前のソ連邦崩壊後、東西冷戦構造が劇的に変化してきた国際環境を冷静に分析して「核の傘」にすがる外交を見直し、新たな針路構築を急がなければならない。
 
「米国は日本の核兵器を懸念し、日米安全保障の取引で、日本に攻撃能力を発展させないことを含めたのである。米国が日本を守る姿勢を示すことは、第一義的には米国の国益のためである。…では、米国の核の傘の下で安全か。これも万全ではない。核戦略の中で、核の傘は実は極めて危うい存在である。米国が日本に核を提供することによって、米国の都市が攻撃を受ける可能性がある場合、米国の核の傘は、ほぼ機能しない。

日本が完全な核の傘の下にいないことを前提に安全保障政策を考えねばならない」――外務省国際情報局長などを歴任した評論家、孫崎享氏の著書「日米同盟の正体」(講談社現代新書)が指摘した『核の傘論』のほんの一部を引用したが、これこそ国益を賭してせめぎ合う外交の実態であろう。それだけに、「非核三原則」を国是とする日本の〝立ち位置〟は極めて難しい現状だが、日本の国益のために軌道修正することに躊躇してはならない。
 

「米同時多発テロを経て核兵器の存在の相対化が進んでいるように思う。オバマ大統領のプラハ演説では、多元化・相対化が強く意識された。『全廃論』への道義的責任と、核兵器が存在する限り核抑止を維持すること、さらに核テロの脅威に対する関心、核関連技術の防止という目標が、複合的に追求されている。

従来の軍縮派と抑止派による議論だけではなくて、第三の派として、世界の核兵器及び核関連物質の管理をどうするかという新しい柱が、明確に立ち上がろうとしている。核テロ、ずさんな核管理や核流出といった問題だ。それがより意識されるのが、三月(2010年)の核安全保障サミットだと思う」という神保謙・慶大准教授の指摘(『朝日』(09・7・17)は、現在の核状況を的確に捉えた分析である。
 

現段階で核問題解決の処方箋を、誰も書くことはできないが、「核兵器は地球を破滅させる」との認識を共有できる国際的な枠組づくりを目指すべきで、日本が世界に示す旗印は、「平和憲法九条」と「非核三原則」であることを再確認しておきたい。    
 
  (池田龍夫=ジャーナリスト)
   
 

 - IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『 京都古寺巡礼のぶらり旅』/ 『秀吉ゆかりの「京都醍醐寺」全動画案内30分』―わが 『古寺巡礼』で深く感動した古刹、庭園です①』

ホー    2016/09/05  記事 …

『 オンラインW杯カタール大会講座 ①』★『<ドーハの悲劇>から<ドーハの奇跡>へ、ドイツに2-1の逆転勝利』★『第2戦は1-0でコスタリカに敗北し、再び天国から地獄へ』★『スペイン戦が運命の一戦になる!』

  『 オンラインW杯カタール大会講座① 』(11月23日→27日) …

no image
世界/日本リーダーパワー史(901)米朝会談への参考記事再掲ー『1993、94年にかけての北朝鮮の寧辺核施設疑惑でIAEAの「特別査察」を拒否した北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)を脱退したのがすべての始まり』★『米軍はF-117戦闘機で寧辺の「核施設」をピンポイント爆撃し、精密誘導爆弾で原子炉を破壊する作戦を立案した』

2009/02/10掲載 有事法制とジャーナリズム-1993年の北朝鮮核疑惑から …

『オンライン/今年は真珠湾攻撃から80年目。新聞と戦争を考える講座』★『小磯内閣のメディア政策と大本営の実態』★『新聞も兵器なり』との信念を堅持して、報道報国のために挺身したすべて新聞』★『戦う新聞人、新聞社は兵器工場へ』★『大本営発表(ウソと誇大発表の代名詞)以外は書けなくなった新聞の死んだ日』

  『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉝総理大臣を入れない「大本営」、決断 …

『Z世代のための日中韓外交史講座』⑳」★『150年前の「岩倉遣米欧使節団」の国家戦略と叡智に学べ』★『『1872年―岩倉遣米欧使節団がロンドンに到着』(英タイムズ1872年8月20日付)』

2012/09/22  日本リーダーパワー史(322)記事再編集 前坂 …

『Z世代のための日本スタートアップ企業史講座』★『リサイクルの巨人・浅野総一郎(82歳、浅野財閥創業者)の猛烈経営』★『廃物コークスをセメント製造の燃料として使用』★『究極の廃物利用の人糞尿処理に目をつけ、肥料として農村に売り込んだ』★『わが国初の京浜工業地帯、コンビナートを完成した。』

2010/11/27  日本経営巨人伝①記事再録 前坂 俊之 …

no image
再録『世田谷市民大学2015』(7/24)-『太平洋戦争と新聞報道』<日本はなぜ無謀な戦争を選んだのか、500年の世界戦争史の中で考える>③

『世田谷市民大学2015』(7/24)- 戦後70年夏の今を考える 『太平洋戦争 …

no image
藤田嗣治とパリの女たちー「最初の結婚は美術教師・鴇田登美子と、「モンパルナスの大姉御」といわれたフェルナンド・バレーと二度目の結婚、3度目は「ユキ」と名づけた美しく繊細な21歳のリュシー・バドゥと』★『夜は『エ・コールド・パリ』の仲間たちと乱ちきパーティーで「フーフー(お調子者)」といわれたほど奇行乱行をしながら、昼間は、毎日十四時間以上もキャンバスと格闘していた』いた。

      &nbs …

『オンライン憲法講座/<エピソード憲法史>④』★『現憲法はペニシリンから生まれた?>』★『毎日新聞スクープから始まった憲法草案!』★『天皇日蝕論』★『白洲次郎のジープ・ウェー・レター』★『『アトミック・シャンシャイン』★『憲法問題の核心解説動画【永久保存】 2013.02.12 衆議院予算委員会 石原慎太郎 日本維新の会』(100分動画)

   2006年8月15日「憲法第9条と昭和天皇」/記事再録 …

『オンライン60/70歳講座/佐藤一斎(86歳)の語録『言志四録』講読』 ★『陽明学者・佐藤一斎(86歳)の「少にして学べば、則ち 壮にして為すこと有り。 壮にして学べば、則ち老いて衰えず。 老いて学べば、則ち死して朽ちず』(現代訳=人は少年のときに学んでおくと、壮年になって必ずそれが役に立ち、なにかをなすことができる。壮年のときに学んでおくと、老年になっても、気力が衰えることはない。老年になっても学ぶなら、それが人や社会の役に立つから、死んでもその声望は高まり朽ちることはない」

  2018/04/11    …