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日本リーダーパワー史(205)★『トッドの提言―日本の国家戦略はアメリカの庇護下、核武装、中国従属の3つー』

   

日本リーダーパワー史(205)
 
エマニュエル・トッドの提言―2020年・日本の国家戦略』
 
選択肢は―アメリカの庇護下か、核武装か、中国従属
の3つー
核兵器と原発への非合理的な思考をただせー

前坂俊之(ジャーナリスト)
 
 
◎『エマニュエル・トッド氏を囲む会 2011.97
 
アメリカの庇護下か、核武装か、中国従属か
 
<トッド氏 >
「次に核の問題ですが、軍事的な核兵器と民生的な核エネルギーを区別する必要があると思いますが、そのうえで今から数年前に慎重な言い方で朝日新聞のインタビューに答えてフランスの観点、見地(point of view)から日本を見た場合に核兵器を持つというオプションがあるというふうに言ったことは事実です。
 
というのは日本の地政学的な条件の中でのリスクを考えると、中国の目覚しい台頭が一方にあり、一方にアメリカの弱体化、衰弱がある。それでも永遠にいつまでもアメリカに頼り続けるのか、ということが非常に大きな問題ではないかという観点があったわけです。
 
それからフランス的な考え方から言いますと、私は必ずしもドゴール主義者ではありませんけれども、国際問題におけるビジョンという点ではややそういうものに賛成するところもあり、核兵器は自律的で絶対的な安全を保証する唯一の手段だと思います。実際、核兵器の保有のみが唯一、フランスの軍事的、政治的な独立を確実な形で保障するものであり、実際、戦後のフランスの独立を保障してきたという事実があります。
 
そのような背景があって、日本の核兵器保有の可能性について述べました。もちろん日本の歴史を振り返れば様々な悲劇があるわけですから、日本で核兵器の保有を考えることに非常に大きな困難が伴うことは理解しているつもりです。これは私が研究している問題ではありませんし、私は政治活動をしているわけではありません。しかし、その問題について問われれば率直に答えます。私は意見を変えたわけではありません。

日本にとって将来にわたった選択肢は大きく言って三つあるのではないかと思います。
一つ目はアメリカの庇護に頼ることです。
二つ目は核兵器を保有することです。
三つ目は中国に従属することです。
 
選択肢というより四つ目の可能性はあると思います。それは中国の経済成長が崩壊し、あの国が弱体化し、やっていけなくなるということが可能性としては考えられます。しかし、チェスの試合の真っ最中に―こういった国際問題をシビアに考える時に―ライバルが心臓発作を起こすというような都合のいいことを考え、甘い見通しを持つのはよくないことだと思います。
 
核兵器は平和を保障、原発は危険私は専門家ではありませんが、考えているこ
とがあります。事柄が逆転しているということです。率直に言いますが、私の考えでは、軍事的な核とは危険なものではない。
一言で言ってしまえば確実な平和であり、平和を保障するもの、平和を支えるものだ、と見ています。一方で核の平和的利用というかエネルギー源としての利用、発電への利用は、パラドクサルなことに、むしろ危険だと考えます。私は日本での核に対する考え方はまったく非合理的な、あるいは非合理主義的な傾向があるのではないか、と示唆したいのです。
 
原子力発電によってエネルギーを供給するというプログラムには今回の福島の事故からも分かるように巨大なリスクがあると言えるのではないか。私は個人的にはこのような事故が起こるまでアプリオリには原子力発電に対しては好意的な考え方を持っていました。私はラディカルなエコロジストたちとは全く違う考えなので、原発を好意的に考えていましたが、こうなってみると本当に分
からなくなりました。
 
その意味では自分自身も覚醒しているところです。日本に来て言うのも何ですけれども、原子力発電所で事故が起きた場合、大変に大きな影響が出ることが明らかになりました。
 
一方で核爆弾に対して日本人は非常に拒否感を持っていますが、ここは冷静に合理的に考えてみる必要があるのではないか、と私は思います。核兵器に対して「怖い」「良くない」という考え方が日本で非常に強いことは知っていますが、これはある種の複合的な、心理的な問題もあるのではないでしょうか。というのは一方で核兵器の保有を極度に恐れていながら、これほど地震の多い国土にこれほどの数の原発を建設している……。今回の福島事故で驚いたのは日本が原子力発電所で使うロボットを持っていなかったことです。私たちフランス人は日本を「ロボット大国」で、ロボットにおいては非常に進んだ技術を持った国だと思っていたのに、フランスにあるような発電所の処理に使うロボットがないというのは本当に驚きでした。
 
そういうことからも見えてくるのは、核が象徴するものに対する日本人の態度には何か非合理的なものがあるのではないか、と感じるわけです。はっきり言えば私は、軍事、平和利用の両面で日本の方々は一度、核について内省す
る、じっくり考えてみることが必要なのではないかと思っています。なぜなら日本人は危険である民生的な核エネルギーを選択し、安全を保証する軍事的な核エネルギーを拒絶しているからです。_
 
 
 
フランス歴史人口学者、エマニュエル・トッドEmmanuel TODD氏が「9.11、アメリカ、そしてアラブ革命」のテーマで話し、質問に答えた。

トッド氏は出生率の低下識字率の向上いとこ同士で結婚する内婚率の低下--の3つの指標で家族制度と社会の変化を分析する­。これらの指標は、自立した個人の出現を意味し、政治の近代化を用意するという。アラブ革命の先頭を切ったチュニジアの場合、女­性が生む子供は2人と欧米と同じ水準に下がり、識字率も高かったことから、独裁に抵抗する近代化の動きが出てくるはずと予想して­いた、という。アラブの現状について、民主化が広がるアフリカ的アラブと、権威主義的な政治が残る中東・アジア的アラブとの二つ­の地域に分割されつつある、と述べ、その背景に中東的アラブでは出生率が3以下にならないことを指摘した。3つの指標は世界のあ­らゆる地域で起こっており、グローバリゼーションのなかでも識字率の向上が最も重要だ、と説明した。


日本の福島原発事故や核武装の質問にも答え、核兵器は平和を支えるのに対し、原子力のエネルギー利用は危険なものだとの見方を示­した。トッド氏は以前から原発に好意的だったと述べた上で、原発は巨大なリスクがあり事故の影響が大きい、と指摘。日本人には核­兵器への拒否感があるのに、(原発を受け入れ)核に対する態度に非合理的な傾向がある、と述べた。日本の核武装については、中国­が台頭し、米国が衰退する中で、今後、日本の選択肢は米国の庇護下核武装中国に従属--の3つであり、核武装のオプション­が日本にはあるとの従来の意見は変わらない、と答えた。
さらに、「移行期の危機―鎮静化」という考え方で日本とフランスの近代化や民主主義の現状を分析した。
 
 
同じくフランスの世界的な知性のジャック・アタリ21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(2008年)の「日本衰退論」の部分が以下である。
「日本は二〇世紀後半に世界の中心勢力となるチャンスがあった。…しかしながら、日本はいまだに「中心都市」とはなりえていない。それには少なくとも三つの理由が考えられる。
第一に、並外れた技術的ダイナミズムをもつにもかかわらず、日本は、既存の産業・不動産から生じる超過利得、そして官僚周辺の利益を過剰に保護してきた。また、将来性のある産業、企業の収益・利益・機動力・イノベーション、人間工学に関する産業を犠牲にしてきた。特に情報工学の分野では、日本はカリフォルニアのシリコンバレーにリーダーシップの座を譲ってしまった。…
第二に、海運業や海上軍事力などの海上での類まれな覇権力があるにもかかわらず、日本は海洋を掌握することができなかった。また日本はアジアにおいて、平和的で信頼感にあふれた、一体感のある友好的な地域を作り出すことができなかった。仮にアジアにこうした地域が存在していたとすれば、それは日本の覇権拡大の基盤となっていたであろう。さらに日本は、港湾や金融市場の開発を怠ってきた。仮に日本に発展した港湾や金融市場が存在していたとすれば、アジアと太平洋地域の中継点として、日本は世界の「中心都市」となることができたであろうし、今後もその可能性は残っているだろう。
最後に、日本は…ナビゲーター、技術者、研究者、企業家、商人、産業人の育成をこれまで怠ってきたと同時に、科学者、金融関係者、企業クリエーターを外国から招聘することもしなかった。アイデア、投資、外国からの人材を幅広く受け入れることなくして、「中心都市」になることはありえない。

ここにはいくつもの教訓がある。
1-1 既得権益の保護を打破し規制緩和を行うこと
1-2 官僚支配を脱却すること
1-3 将来性のある産業に集中投資すること
2-1 東アジアで一体感のある友好的な地域を作り出すこと
2-2 巨大な港湾(や空港)、金融市場を整備すること
3-1 自由で独創的な個人を育成し、企業家を養成すること
3-2 外国から<クリエーター階級>を呼び込むこと

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