池田龍夫のマスコミ時評(58)『再稼動の「大飯原発」内に活断層の疑い』『在京6紙は「脱原発大集会」をどう報じたか(7・18)』
池田龍夫のマスコミ時評(58)
◎『再稼動の「大飯原発」内に活断層の疑い…
再調査へ(7・20)』
●『在京6紙は「脱原発大集会」をどう報じたか(7・18)』
池田龍夫(ジャーナリスト)
再稼動の「大飯原発」内に活断層の疑い…再調査へ(7・20)
大飯原発(福井県おおい町)は7月18日夜、3号機に続いて4号機再稼動に踏み切った。16日の「脱原発10万人大集会」での再稼動反対の声が空しく響く。世論を無視して突っ走る野田佳彦政権の原発政策に不安が募っていたところ、最近の地質調査によって活断層の疑いが相次ぎ指摘されている事に驚かされた。
原子力安全・保安院が「大飯」「志賀」原発に指示
この点を重視した通産省原子力・安全保安院は18日、関西電力大飯原発と北陸電力志賀原発(石川県)敷地内の断層が活断層か否かを判断するため両電力に対し再調査を命じた。北陸電は7月25日までに、関電には7月末までに調査計画を提出するよう求めた。専門家会合で計画の妥当性を審議したあと、現地調査するというが、物騒な話ではないか。
「再稼動のまま調査」とは…
特に、再稼動した大飯原発をどうするかが心配だが、保安院は「活断層調査中でも、原発停止は求めない」方針のようである。同原発敷地内に走る「破砕帯」について「活断層を否定しきれない」として専門家から指摘されていたが、関電側はこれまで応じてこなかった。今回の保安院指示は無視できないはずで、調査の結果によっては再稼動推進にブレーキがかかるかもしれない。
断層の徹底調査こそ先決
朝日新聞7月19日付社説は「安全行政の甘さがまた浮き彫りになった形だが、電力会社にも問題があった、専門家が活断層の可能性を指摘しても、否定を繰り返し、十分に資料や情報を公開していない。活断層についても、『積極対応すれば運転が危うくなる』との姿勢があったのではないか。……活断層かどうかの調査には、数カ月かかる見込みだ。政府は8月末をメドに、将来の原発依存比率を決める方針だが、活断層の徹底調査の結果を待たずに比率を決めても、絵に描いたモチではないか。まずは活断層のチェックを厳格に進め、危ない原発は直ちに廃炉にすべきだろう」と指摘していたが、その通りと思う。
日経新聞19日付社説も徹底調査が先決と指摘、「保安院は活断層を洗い出す作業を進めており、既に敦賀原発(福井県)でも活断層の疑いが濃い地層が見つかっている。科学的な根拠に基づき個々の原発のリスクを見定め、必要な対策を講じる。原子力安全にはこれが欠かせない。地震への国民の不安はとりわけ強い。活断層の有無をしっかり調べ、懸念を少しでも払拭することが何より大事だろう」と、警告していた。
野田首相は責任を持てるのか
野田首相は「安全性について、私が責任を持つ」と強調して、大飯原発再稼動にゴーサインを出したが、新たな「活断層の危険性」について国民にきちんと説明していない。国民の声、専門家の指摘を一顧だにしない野田首相への反発は高まりそうだ。
在京6紙は「脱原発大集会」をどう報じたか(7・18)
「脱原発・10万人大集会」を報じた7月17日付朝刊各紙を点検して、価値判断の著しい落差を感じた。在京6紙にはそれぞれ社論があることは承知しているが、紙面扱いが対照的で、「ニュースの価値判断とは…」という根源的な問題を考えさせられた。
猛暑の中、全国から10万人もの市民が集まる
脱原発を訴える「さようなら原発大集会」は猛暑の16日、東京の代々木公園で開かれ、全国から集まった市民で立錐の余地のない盛会となった。主催者側発表で約17万人、警察側集計でも7万5000人というから、「3・11原発事故」後の市民集会としては最大規模だ。市民団体や労働組合でつくる「さようなら原発1000万人署名市民の会」が主催したものだが、全国から多くの市民が参加した熱気は、〝時代状況〟を反映したニュースに違いない。
予断と偏見抜きのニュース報道を
挨拶に立った呼びかけ人・大江健三郎氏(77歳)は、約750万人分の署名を野田佳彦首相に提出した翌日に大飯原発再稼動を決めた経緯に触れ、「私たちは侮辱の中に生きている。政府のもくろみを打ち倒さなければならない」と訴えた。
90歳の瀬戸内寂聴さんは「政府への言い分があれば、口に出していいし、体に表していい。たとえ空しいと思う時があっても、それにめげないでいきましょう」と語りかけたが、一市民として純粋な気持ちを吐露したものと受け取り、予断と偏見抜きにこの市民集会を伝えることは新聞の責務との感慨を覚えた。
価値判断の差が歴然
具体的に各紙を点検すると、東京新聞が1面大トップ扱いで、社会面・第2社会面ブチ抜きの展開。毎日新聞は1面2番手扱いで、社会面トップに雑感記事を掲載した。朝日新聞は社会面2番手扱いだったが、本記・雑感を詳しく報じていた。3紙の価値判断の尺度は妥当と考えるが、いかがだろうか。
他の3紙のうち読売新聞は第2社会面に3段1本見出し、産経新聞が第3社会面2段1本見出しだったが、見出しに「警察発表の7万5000人」を掲げていた。日経新聞の社会面ベタ扱いには驚いた。経済専門紙であっても、社会面を作っている以上こんな扱いでは読者が満足するはずがない。
先に「市民運動」に対する視点が欠落していないかと問題提起したが、流動化する社会の動きを監視していくのはメディアの責務だ。原発関連の報道では、6紙の傾向が3対3に分かれていることがますます鮮明になってきた。社論に差があって然るべきだが、生起したニュースの価値判断だけは歪めてはならない。
(いけだ・たつお)1953年毎日新聞入社、中部本社編集局長・紙面審査委員長など。
関連記事
-
-
池田龍夫のマスコミ時評⑭ 普天「核密約」裏づける新資料が続々,<佐藤・ニクソン極秘文書が私邸に隠匿>
池田龍夫のマスコミ時評(14) 普天「核密約」裏づける新資料が続々   …
-
-
『オンライン講座/ウクライナ戦争と安倍外交失敗の研究 ④』★『「ロシアに対して日本式な同情、理解で仕事をしたら完全に失敗する。ロシアは一を得て二を望み、二を得て三を望む国であり、その飽くところを知らず、彼らに実力を示さずして協調することは、ロシアの思うままにやれと彼らの侵略に同意するのと同じことだ」(当時のロシア駐在日本公使・西徳二郎の警告)』
2016/09/25 日本リーダーパワー史(7 …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(917)米朝首脳会談開催(6/12)―「結局、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)は先延ばしとなりそう』★『米朝会談の勝者は金正恩委員長か』(上)
米朝首脳会談開催―「すべてはこれからはじまる」 前阪俊之(静岡県立大学名誉教授) …
-
-
新刊発行★『決定版ムック 日本人「再生」と「復興」の100年』=近未来へのヒントを過去100年から学ぶ。
過去を振り返れば未来が見えてくる。 これまで日本は多くの天災、人災 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ ウオッチ(232)』-『3/30午後、東京を代表する目黒川周辺の桜並木は満開の<春爛漫>、ビユーティフル・ワンダーランド』
『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ ウオッチ(231)』- 3/30 午後 …
-
-
『リーダーシップの世界日本近現代史』(278)★「パリ・ぶらぶら散歩/ピカソ美術館編」(5/3日)⑦ピカソが愛した女たち「マリ=テレーズ・ワルテル」
2015/06/03『F国際ビジネスマンの …
-
-
野口恒のインターネット江戸学講義⑪第5章海の物流ネットワ-ク「菱垣廻船・樽廻船・北前船」大坂から年貢米海上輸送(上)
日本再生への独創的視点<インターネット江戸学講義⑪> 第5章 海の …
-
-
★Z世代へのための<日本史最大の英雄・西郷隆盛を理解する方法論>講義㉑』★『「米国初代大統領・ワシントンとイタリア建国の父・ガリバルディと並ぶ19世紀世界史の三大英雄・西郷隆盛の国難リーダーシップに学ぶ』★『「廃藩置県」(最大の行政改革)「士農工商・身分制の廃止」『廃刀令」「奴隷解放』などの主な大改革は西郷総理大臣(実質上)の2年間に達成されたのだ。』
2019/07/27 日本リー …
-
-
日本リーダーパワー史(978)ー「米中貿易5G戦争勃発」★『五四運動から100年目、文化大革命(1989年4月)から30年目の節目の年。その五四運動百周年記念日の数日後に米中関税交渉が決裂したことは、「歴史の偶然なのか、必然なのか」気になる!?』
「米中貿易5G戦争勃発」 米中関税交渉はついに決裂し5月13日、米国は第4弾の追 …