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片野勧の衝撃レポート(78)★『原発と国家―封印された核の真実⑫(1985~88) 』-チェルノブイリ原発事故30年(上)

   

 片野勧の衝撃レポート(78)★

原発と国家―封印された核の真実(1985~88)

チェルノブイリ原発事故30年(上)

■日米原子力協定

国会で参議院本会議が開かれていた。

1988年5月13日午前10時――。「原子力の平和利用に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定の締結について」。この時の総理大臣は竹下登。まず提出者の宇野宗祐外務大臣が趣旨説明を行う。その要旨。

――昭和43年(1968)、締結された日米原子力協定。核燃料の再処理に当たって必要とされる米国の同意を円滑に進めることが緊急の課題だった。昭和62年(1987)11月4日、同協定の改定が東京で倉成正外務大臣とマンスフィールド駐日大使との間でこの協定に署名した。

この協定は平和利用に限定されることを確保するため国際原力機関の保障措置が適用されること、核物質の適切な防護の措置が維持されること、などが盛り込まれたというもの。  その後、日本社会党・護憲共同の小川仁一氏が反対質問に立つ。

――協定の一方の当事国アメリカではプルトニウムの上空飛行が禁止されているのに、なぜ日本上空を航空輸送しようとするのか。またチェルノブイリ事故以降、中止あるいは棚上げされた原子力発電所はソ連、イタリア、デンマーク、西ドイツなど9カ国24基に上っている。

その中でプルトニウムを使用する高速増殖炉を開発し続けるのは日本だけ。核燃料サイクルの計画を見直す時期ではないのか、と迫る。それに対する竹下総理の答え。

「わが国の貴重なエネルギー資源であるという前提の上で、使用済み燃料再処理によって得られるプルトニウムを位置づけておるということが基本的な考え方であります。…

(中略)このため、政府としては、今後とも安全の確保をまさに大前提に、そして必要な核物質防護措置を講じながらプルトニウムの利用を推進していく、これが基本的な考え方でございます」

 これが日本政府の公式見解。

歴代総理が何度も何度も国会で繰り返してきた決まり文句である。さらに答える。

「わが国がプルトニウム航空輸送を行う場合には、万一の航空機事故が発生した際に安全を確保し得るような輸送容器を用いるなどによりまして、安全の確保を大前提にこれを実施してまいるという考え方でございます」  公明党・国民会議の伏見康治氏の質問に対しても、竹下総理は同じような答えを繰り返していた。

■チェルノブイリ原発が爆発

1986年4月26日未明の1時23分、旧ソ連のウクライナ共和国のチェルノブイリ原発が爆発した。史上最大の原発事故を表す国際評価尺度「レベル7」。ソ連の国民が事故発生を知ったのは2日後の28日19時(モスクワ時間)、スウェーデンの国営通信社イタルタスを通じてだった。

事故発生からほぼ56時間後の28日7時(パリ時間)、首都ストックホルムから北へ120キロのフォッシュマルク原発機内で放射能汚染が検知された。

スウェーデン政府はこの事実をすぐに公表した。周辺住民の屋内避難が始まった、その後の調査で原子炉内で生成されるセシウム134があったことから、スウェーデン政府はソ連政府に問い合わせをした。

その結果がイタルタス通信発表だったのである。  事故から8カ月後の12月19日、ソ連のゴルバチョフ書記長は、ゴーリキー市に幽閉されていた反体制派で75年のノーベル平和賞受賞者であるソ連水爆の父、A・サハロフにモスクワに戻るよう電話した。

就任から1年足らずの書記長のところに事故情報が入らず、情報閉塞の現状を改めて身にしみて体験したという。それにしても、なぜ担当者がトップに情報を流さなかったのか、その真相はいまだ不明だ。

■日本では事故は起こらない、しかし……

「とまった場合に直ちに予備電力が作動をすれば問題が起こらないわけですが、…(中略)ソ連の原子炉につきましては予備電力の作動に時間がかかる。…(中略)日本の場合には、電源がとまりましてもしばらくは水が二次系に入るという構造になっておりますのと、予備電力が幾つもつくってありまして、直ちにそれが作動するという状況になっております」

1986年10月8日、国会の委員会。通産省資源エネルギー庁長官の「安全神話」の証言である。日本の原発は軽水炉で、チェルノブイリは黒鉛減速軽水冷却炉だから、事故は起こらないという。しかし、3・11。機能せずに、事故になったのである。(常石敬一『日本の原子力時代』岩波現代全書)

■原発のない未来へ! 3・26全国大集会

福島原発事故から5年、チェルノブイリ事故から30年を迎えた2016年3月26日。東京・代々木公園は3万5000人の人で埋まっていた。「原発のない未来へ! 3・26全国大集会」――。

 

1人の女性が壇上に立った。通訳の松川なおこさんが、その脇に立った。  「ミ・ナ・サ・ン、コン・ニ・チ・ハ」。チェルノブイリ原発のあるロシア・ベラルーシから来たジャンナ・フィロメンコさんである。彼女の第一声。

「私はまだ小さかったころ、広島と長崎の原爆の悲劇を学びました。この恐ろしい原爆が世界に広がっていかないことを願っていました」  やがてフィロメンコさんは結婚し、2人の男の子に恵まれて、平和な暮らしを送っていた。

しかし、その生活が壊された。チェルノブイリ原発事故のためである。  チェルノブイリ原発の4号炉が爆発――。

10日間で放出された放射性物質は東京電力福島第1原発事故の約6倍の520万テラベクレル(テラは1兆)。高濃度汚染地域はウクライナ、ベラルーシ、ロシアにまたがり、避難者は約40万人。そのチェルノブイリ原発の近くに住んでいたフィロメンコさんの証言。

「当時、ソ連政府は国民に危険を知らせませんでしたので、みんな普通の生活をしていました。子どもたちは外で遊んでいました。しかし、1986年の春以降、子供たちはなぜ、外へ行ってはいけないのか、なぜリンゴをもぎ取ってはいけないのか、理解ができませんでした」  政府の情報隠し。チェルノブイリの真実を知らせまいとする隠ぺい操作……。それに対する戦いを止めてはなりません、とフィロメンコさんは強調する。

 

その叫びは代々木公園に集った人々の心を揺さぶった。

「私はデモや集会に行ったりしました。医師や教師、労働者、そして何よりも子供の健康を守りたいという母親たちがいました。そしてチェルノブイリ事故から5年目にして、ようやく故郷を離れて移住できました」

原発事故で一番被害を受けるのは農村地域。平和の核と言われた“原発”は祖国ベラルーシを破壊し、生活を壊した。私たちの子どもや孫が、いつ病気になるのか、と不安を常に抱き続けていると、フィロメンコさんは言う。

「私たちはバラバラに移住させられたために、友人関係が絶たれてしまいました。先祖代々、住んでいた故郷を奪う危険な原発は、世界のどこにでも起こり得るものです。…(中略)ですので、原発を止めてほかのエネルギーを探すために努力しなければなりません」

最後に彼女はこう述べた。

「被害者の声を聞き、被害者に話す機会を与え、彼らの権利を守らなければなりません。被害者を忘れてはいけません」

■東電テレビ会議 49時間の記録

私はインターネットテレビ局「OurPlanet-TV」代表の白石草(はじめ)さん(46)を訪ねた。2016年4月8日午後5時。東京千代田区猿楽町の、あるビルの2階の事務所――。彼女は平和や環境、原発などについて市民の視点から鋭く情報を発信し続けているジャーナリストである。

――3・11。東京電力福島第1原発事故の様子を克明に記録したテレビ会議映像を基に作られたドキュメンタリー「東電テレビ会議 49時間の記録」は「科学ジャーナリスト大賞」を受賞。私も「ポレポレ東中野」で観た。BGMもナレーションもなく、「動かない画面」の公開映像だけを素材にして作られた、その時のエピソードから話が始まる。白石さんは語る。

「テレビ会議の映像があること自体、早くから分かっていたのですが、東京電力は公開を前提としないなどと理由をつけ、映像を出しませんでした。1年ほど経った2012年春に、東京電力の株主代表訴訟をしている原告がこの映像の証拠保全を求め、さらに朝日新聞が公開キャンペーンを展開したことがきっかけで、映像の公開が決まったのです。

しかし、それは非常に限定的なもので、視聴する際には、『外部に映像を持ち出さない』などと記載された誓約書にサインをさせられるような形となりました」

白石さんはその映像を見て驚く。現場では、あと何分後に炉心損傷し、炉心溶融するのか。1分単位で、刻々と読み上げられていたのだ。過酷な状態の中で何時何分、何が起こっていたのか。細かくテレビ会議で映し出されていた。

「何だ。みんな分かっていたではないのか。これは、すごい記録だ、多くの人に見てもらいたい」――。白石さんはそう思った。気骨の映像ジャーナリストの横顔がのぞいた。  「テレビ会議の映像を見て、驚いたのは、1つには、私たちが受け取っていた情報と東電内の情報の落差のあまりの大きさでした。もう1つは東電の対応です。後先のことも考えないというか、すべてが後手、後手。戦時中の日本軍の負け方とはこういうことだったのかと、そんな気持ちになりました。南太平洋で日本軍が補給を絶たれて、餓死した、それと同じ。

これだけの大事故が起こっているのに、『ガソリンがない』『飲料水がない』『現金がない』と、まったく備えがないのです。作業員から、自家用車のガソリンや現金を集めている光景を見て、日本って、この程度の国なのか。負けるって、こういうことだったのか、と思いましたね」

 

繁栄に向けて走り続けてきた果てに辿り着いた社会の姿は、言いようのない虚脱感、閉塞感に満ちている。白石さんには、そのように思えた。「実は……」と白石さんは話を継いだ。

「当初、他メディアが撮った住民避難の様子や、原子力安全・保安院の記者会見、テレビ報道などを繋ぎ合わせて同時進行で追うような構成を考えていました。

しかし、たまたま映画監督の森達也さんに、東電のテレビ会議の話をしたら『そのまま見せるのも面白いじゃない?』と言われまして……。そうかと思って、テレビ会議だけで映画を作ったのです」

■作る際、最もこだわった点は?  ――

作る際、最もこだわった点は?  「時間を感じてほしいということです。東電がインターネット上に公開しているバラバラの映像を時系列に一本化して、そこに時間を入れました。時間的な経過と事故の全体像を感じてもらうことが重要だと思いました」

――細かいフィルムを集めて、それを張り付けていったと言われますが、何コマぐらいあったのですか。  「全部で400本ぐらい。1本あたり数秒から10分ぐらいです。面倒くさい作業ではありましたが、あまり苦労して作ったとは言えません。起こっている事実はすごいのですが、ただ映像を繋いでいっただけですから。科学ジャーナリスト大賞の話があった時に、『本当にもらっていいのかな?』と思いました」

「しかし……」。白石さんはつぶやいた。  「本来であれば、東電はネット上に流している一部の映像だけではなく、全部公開すべきです。作業員を含めた被曝についての情報は極めて重要です。これからでも遅くはありませんから、公開してもらいたいと思います」

そして、語気を強めた。

「1号機が爆発した日の夜、東電幹部が愚痴を言っていましたが、これには驚きました。それ以上に驚いたのは、福島が大変なことになっている『あの日』に東電本店では幹部が帰宅していたことです」  やるせなさをにじませた。  ――原発事故は白石さんにとって、どういう意味を持っていますか。じっと考え込む。1秒、2秒、3秒……。数秒の沈黙後、続けた。

「それは、まだ分かりません。ここずっと考えているのですが、原発事故は日本社会にものすごい影響を与えているにもかかわらず、忘れ去られようとしています。いろんな事件の中の1つとなっているのです。

それこそ、アレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り』ではないけれども、人間がコントロールできない恐るべき核の問題が、日本になかったかのように封じ込めようとしている力が働いている、この現実にどう向き合っていったらよいのか。どうアプローチしていったらよいのか、まだ分かりません」

つづく

 - IT・マスコミ論, 戦争報道, 現代史研究

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