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池田龍夫のマスコミ時評(115)解釈改憲で「集団的自衛権」行使できるのか(7/4) ―在京6紙を点検――

      2015/01/01

 池田龍夫のマスコミ時評(115

 

解釈改憲で「集団的自衛権」行使できるのか(7/4

―在京6紙を点検――


池田龍夫(ジャーナリスト)

 

 

 安倍晋三内閣は71日の閣議で、憲法9条の解釈を変更して集団的自衛権行使を容認することを決めた。

政府は苦し紛れに、3条件・①わが国への武力攻撃が発生した場合のみならず、密接な外交関係に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される危険が発生したばあいに、②これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るための手段がない時に,③必要最小限度の実力を行使すること――との歯止めをかけたとの政府の説明は曖昧模糊としている。

 

外務官僚の原案を政府がこね回し、強く抵抗していた与党・公明党をねじ伏せた事態は見え見えである。在京6紙は今回の閣議決定をどう見たか、論説を中心に7月1日付朝刊を点検してみた。

 

 本題に入る前に、朝日新聞7月1日付夕刊1面・「陸自、米と水陸両用訓錬」の4段写真に驚かされた。630日ハワイ・オワフ島沖での訓練。米軍は日本の集団的自衛軍参加を歓迎しており、早くも大っぴらな訓練のお披露目に戦慄を覚えた。

 

海外での武力行使に道開く

 

 朝日新聞1日付朝刊は、「安倍内閣が集団的自衛権行使を認めた71日は、日本の立憲主義の歴史において、最も不名誉な日として残るだろう。

 

首相自ら憲法の制約をふりほどき、定着した解釈をひっくり返した。国会に諮ることもなく、国民の意思を改めて問うこともなく、海外での武力行使に道が開かれた。(中略)69年前、日本は世界を相手にした戦争に敗北した。

 

明治以来の『富国強兵』路線のうち、『強兵』は完全に破綻した。それに代えて国民が求めたのが、9条に基づく平和主義だった。戦後レジームからの脱却を唱えて靖国神社に参拝する首相の後ろ向きのナショナリズム。だが、ナショナリズムと軍事の結合ほど危ういものはない。

 

懸命な外交がなければ、どんな軍備でも国家を守ることはできない。第1次大戦勃発100年の今年、20世紀の動乱の発端として大戦を回顧しナショナリズムや軍事依存の危うさを反省する機運が、欧米を中心に高まっている。そんな中、日本の選ぶ道が『強兵』への復帰でよいはずがない」と1面で述べている(三浦俊章編集委員、15面に社説)。

 

歯止めをかけるのは国民だ

 

 

 1面に社説を掲げた毎日新聞は、「第1次世界大戦開戦から今年で10年。欧州列強間の戦争に、日本は日英同盟を根拠にした英国の要請に応じて参戦した。中国にあるドイツ権益を奪い、対中侵略の端緒としたのである。

 

その後の歴史は、一続きの流れの中だ。資源確保のため南部仏印に進駐し、対日石油禁輸で自暴自棄になった日本は、太平洋戦争に突入する。開戦の証書には『自存自衛のため』とあった。集団的自衛権を行使可能にする憲法解釈の変更が、閣議決定された。

 

行使の条件には『明白な危険』などと並び、『わが国の存立』という言葉が2度出てくる。『国の存立』が自在に解釈され、その名の下に他国の戦争への参加を正当化することは、あってはならない。

 

(中略)文民統制は、軍の暴走を防ぐため政治や行政の優位を定めた近代民主国家の原則だ。閣議決定で行使を容認したが、政治家や官僚の権利ではない。歯止めをかけるのは、国民だ。私たちの民主主義が試されるのはこれからである」と警戒を呼びかけていた。

 

アジアで「強い日本」を目指す

 

 東京新聞社説は、「安倍内閣は安保政策見直しの背景に、中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発などアジア・太平洋地域の情勢変化を挙げる。

 

しかし、それ以上に、憲法改正を目標に掲げ、『強い日本』を目指す首相の意向が強く働いていることは否定できない。

安保政策見直しは、いずれも自衛隊の軍事的役割と活動領域の拡大につながっている。その先にあるのは、憲法9条の下、必要最小限度の実力しか持たず、通常の軍隊とは違うと終戦から七十年近くがたって、戦争経験世代は少数派になった。戦争の悲惨さや教訓を受け継ぐのは、容易な作業ではない。

 

終戦から70年近くがたって、戦争経験世代は少数派になった。戦争の悲惨さや教訓を受け継ぐのは、容易な作業ではない。その中で例えば、首相官邸前をはじめ全国で多くの人たちが集団的自衛権の行使容認に抗議し、若い人たちの参加も少なくない。

 

 (中略)政府の憲法解釈を変える『結論ありき』であり、与党協議も十五事例も、そのための舞台装置や小道具にすぎなかったのだ。 政府自身が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使や、海外での武力の行使を一転して政府の憲法解釈を変える『結論ありき』であり、与党協議も15事例も、そのための舞台装置や小道具にすぎなかったのだ。

 

 政府自身が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使や、海外での武力の行使を一転してされてきた自衛隊の『国軍』化であり、違憲とされてきた『海外での武力の行使』の拡大だろう。一連の動きは、いずれ実現を目指す憲法改正を先取りし、自衛隊活動に厳しい。

 

安保政策見直しが、日本の平和と安全を守り、国民の命や暮らしを守るために必要不可欠なら、国民の「理解」も進んだはずだが、そうなっていないのが現実だ。

 

正規の改正手続きを経て、国民に判断を委ねるのならまだしも、一内閣の解釈変更で行われたことは、憲法によって権力を縛る立憲主義の否定にほかならない。繰り返し指摘してきたが、それを阻止できなかったことには、忸怩(じくじ)たる思いがある」と、警告を発した。

 

 

 

 

戦後日本の安全保障政策の転換/async/async.do/?ae=P_CM_REPRINT&sv=NX

 

また日経社説は「助け合いで安全保障を固める道へ」と題し、

 

 

大国の力関係が変わるとき、紛争を封じ込めてきた重しが外れ、世界の安定が揺らぎやすくなる。歴史が物語る教訓だ。いまの世界は、まさにそうだろう。平和を保つために日本は何ができるか。問い直すときにきている。安倍政権は政府の憲法解釈を変え、禁じられてきた集団的自衛権の行使をできるようにした。戦後の日本の安全保障政策を、大きく転換する決定である」と主張する。

 

抑止力向上へ意義深い容認

 

 一方、読売新聞社説は「集団的自衛権 抑止力向上へ意義深い容認との見出しで、次のように述べていた。

 「米国など国際社会との連携を強化し、日本の平和と安全をよりたしかなものにするうえで、歴史的意義があろう。安倍首相記者会見で『平和国家』としての歩みをさらに力強いものにする。安全保障法制を整備すると語った。行使容認に前向きな自民党と、慎重な公明党の立場は当初隔たっていたが、両党が歩み寄り、合意に達したことを歓迎したい。

 (中略) 政府・与党は秋の臨時国会から自衛隊法、武力攻撃事態法の改正など、関連法の整備を開始する。様々な事態に柔軟に対応できる仕組みにすることが大切だ。PKOに限定せず、自衛隊の海外派遣全体に関する恒久法を制定することも検討に値しよう。 安倍首相は今後、国会の閉会中審査などの機会を利用し、行使容認の意義を説明して、国民の理解を広げる努力を尽くすべきだ」。

 

「助け合えぬ国」に決別を

 産経は「集団的自衛意権容認、『助け合えぬ国』に決別を」と題し、次のように主張。

 「戦後日本の国の守りが、ようやくあるべき国家の姿に近づいたといえよう。政府が集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を閣議決定した。日米同盟の絆を強め、抑止力が十分働くようにする。

そのことにより、日本の平和と安全を確保する決意を示したものでもある。自公両党が高い壁を乗り越えたというだけではない。長年政権を担いながら、自民党がやり残してきた懸案を解決した。その意義は極めて大きい。閣議決定は、自国が攻撃を受けていなくても他国への攻撃を実力で阻止する集団的自衛権の行使を容認するための条件を定めた。

さらに、有事に至らない「グレーゾーン事態」への対応、他国軍への後方支援の拡大を含む安全保障法制を見直す方針もうたった。(中略)一連の安全保障改革で、日本はどう変わるのか。安倍首相が説明するように、今回の改革でも、日本がイラク戦争や湾岸戦争での戦闘に参加することはない。だが、自衛隊が国外での武器使用や戦闘に直面する可能性はある。自衛隊がより厳しい活動領域に踏み込むことも意味すると考えておかねばならない。どの国でも負うリスクといえる。積極的平和主義の下で、日本が平和構築に一層取り組もうとする観点からも、避けられない。

 反対意見には、行使容認を『戦争への道』と結び付けたものも多かったが、これはおかしい。厳しい安全保障環境に目をつむり、抑止力が働かない現状を放置することはできない。仲間の国と助け合う態勢をとって抑止力を高めることこそ、平和の確保に重要である。行使容認への国民の理解は不十分であり、政府与党には引き続き、その意義と必要性を丁寧に説明することが求められる。

重要なのは、今回の閣議決定に基づき、自衛隊の活動範囲や武器使用権限などを定めるなど、新たな安全保障法制の具体化を実現することだ。

 関連法の整備は、解釈変更を肉付けし、具体化するために欠かせないものだ。政府は法案の提出時期を明確にしていないが、集団的自衛権への国民の理解を深めるためにも、できるだけ早く提出し、成立を目指してほしい。

憲法解釈の変更という行使容認の方法について「憲法改正を避けた」という批判もある。だが、国家が当然に保有している自衛権について、従来の解釈を曖昧にしてきたことが問題であり、それを正すのは当然である。同時に、今回解釈を変更したからといって、憲法改正の核心である9条改正の必要性が減じることはいささかもない。自衛権とともに、国を守る軍について憲法上、明確に位置付けておくべきだ。安全保障政策上の最重要課題として、引き続き実行に移さねばならない」。

6紙社説は真っ二つ

 6紙社説の概略を紹介だけでも長文になったことをお許し願いたい。一目瞭然、朝日・毎日・東京3紙はいずれも集団的自衛権を強引に閣議決定した安倍首相の〝戦前回帰〟路線を糾弾していた。これに対し読売・産経2紙は安倍政治礼賛の感が深い。(日経はやや曖昧)

 正式な法案の提出を受けた国会は審議を尽くし、絶対多数の自民党に簡単にいなされては困る。世論は〝批判・反対〟が強いようだが、「国民主権」「三権分立」の議会制民主主義に徹して「糾すべき」はただして、国民の負託に応えるべきである。

 

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