前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(128)/記事再録★『明治のトップリーダーのインテリジェンスー日露戦争開戦前の大山厳、山本権兵衛の「軍配問答」(出口戦略)にみるリーダーパワー(指導力)』★『アベクロミクス、地球儀外交には出口戦略があるのか!?』★『日韓衝突は近衛外交の「国民政府は相手にせず』の轍を踏んではならない』

   

  日本リーダーパワー史 ⑩記事転載

 
       前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
国家の戦争や外交を考えた場合、一番大切なことは戦争を開始することではありません。そのエンディングです。勝った場合も負けた場合もどこで、手をあげるかが最も難しい。兵を挙げるはやすく、引くのは難しいのです。企業の場合、利益がでなくなり、赤字が膨らんで倒産するかもしれない場合でも、株主や従業員がなるべく損をさせないところで手をひくのかトップのリーダーシップがとわれます。
 
個人のケンカの場合も、どこで手を打つのかをかんがえず、衝動的に手をだしたのでは知恵のある大人のすることではありません。古来、日本軍学の最高峰である、武田信玄の戦法は「戦は5分5分の勝利をもって上とす』とあります。相手にも花をもたせる。「8分の勝利はおごりを生じ、10分の勝利は下の下である。なぜなら、慢心して、相手の恨みをかい、次の戦いの敗北につながる」という意味のことを信玄は家訓として、残しています。
 
日露戦争では当時のリーダーは勝てる見込みの少ない超大国ロシアと準備万端整えて、乾坤一擲、戦を挑み、開戦と同時に、どこで手を打つかをしっかり話し合っていて、リーダー間の意思統一をやっていました。この先人のリーダーシップを学ぶ必要があります。「勝ちすぎるな」『相手にも花をもたせよ』です。
 
●大山厳が満洲軍総司令官になった時、山本権兵衛海軍大臣を訪れ軍配の揚げ方を依頼せられた事。(「山本権兵衛と海軍」海軍省編より)
 
 日露戦争で、大山厳の満洲軍総司令官に就任されるやいなや、直ちに山本海軍大臣を其官邸に訪問した。
 
「予は只今。満洲軍総司令官の職を拝し、不日に征途に上らんとす。就ては貴下に対し一つの御願いありて、まかり出でたる次第なり。予は幾たびか軍部に出入し今日に至れり。
 
これ偏に 陛下の優渥なる寵春に由る所にして感泣に堪えざるなり。今回の役、幸にして出征の大命を拝したれは是れよりは唯、軍旗の事に一身を捧げて報効を期するの外何等心胸に彼来するものなし。露国の方にても相当の準備あり、人数も多きことなれば此戦争は三年或は五年位は掛かる積りにて従事せねばならぬことと思う。
 
予も何時死するか測られざるも、切めては満洲より彼等を撃退し志すまでは、是非仕遂げて見たいと考え居れり。然るに勝負はどこまで行きたらはつくものなるや、此軍配の揚げ方を極めるのが中々難しきものと思わる。
領内狭き国にて忽ち城下の盟をなさしむるを得べきものならは軍配を揚ぐるの必要もなしといえども、露国の如きは此例はあてはまらず。さればとて打捨て置くにおいては何時何処の返にて如何にして政局せしむべきや甚だ心許なく感ずべし。
 
軍隊は唯進んでさえ居れば、夫れにてよろしからんが、国家としては或時と場合とを見て局を結ばねはならぬと云うことは今更言うまでもなし。然れども予や閣外に出でて事を従うもの是等の機微に関しては解ることを得ず。故に此軍配の揚げ方(即ち講和)の時機を定むるは、中央の枢位に居らるる貴下の御心配を煩わしたく切に御願申す次第なり。
 
大凡そ連戦連勝と云う場合には国民全体皆勝つことのみを知りて、負くると云うことを想わず有頂天となりて手の舞い足の踏む所をも知らぬものなり。
 
斯かる場合に際し軍配を振る(戦争を止むる)と云うことは誠に大役にして一身を犠牲にするの覚悟がなければ能わざることなり。此役は西郷従道氏が居られたならば頼む所なりしも、既に亡し今、之を頼むは貴下をおいて他に之を求むるに由なし。願わくは此意を諒せられんことをと。
 
 山本権兵衛はこれに対していわく
 
「閣下の深き御考慮と切なる御希望とは之を諒せり。惟うに講和の事たる宣戦と相待て均しく国家の大事たり。而して其決定は全く大権に属するものなりといえども、之が時機を捉うることの如きは国務大臣として輔弼の責任の地位に在る者のすべからく最も大切なころである。
 
予は終始彼我の対勢と戦局の進展とに留意し之を逸せざることに努力すべし。而して其機会到来せば適当な措置を執るに於て躊躇せざるべく、一身の毀誉褒貶の如き問う所にあらざるなり。閣下請う意を安んぜられんことを。
唯今日予は閣下の御話を承り一つの考を抱きたり。そは閣下の如きは大権下に在て枢機に参ぜられ、満洲の方は野津大将等へ御任命を仰ぐことに致さるるを可なりとせられざるやと。
 
大山いわく「貴諭深謝す、然れども満洲は予が出掛けざれは叶わざる事情あり、野津大将等は戦争に掛けては勿論予よりも上手なり。併しながら彼等は出先にて、互に剛情を張り意見の一致せざること多々あるべきは予知するに難からざる所、その時之をまとめて決行せしむることが予の任務にして他の者にては予の如く「本調子にて頑固に之を押し切る訳には参らぬなり。尤も他に山県元帥の如きあるも児玉大将などは山県元帥にては到底まとまりが付かぬ。
予でなければ行かぬと申し居る事情もありて、予が出掛けねば済まぬ事となれり。故に予は今どこまでも屍を戦場にさららす覚悟にて在るなり。出征先にては大体の事は固より予の管知統督する所なるも、細かき事は児玉大将(満州軍総参謀長)に任かす等なり。
 
又勝ち戦さの時は児玉大将に任かして置く積りなるも、ますます負け戦さとなりたる場合には予は陣頭に立つ決心なり。斯かる事情なれば予は矢張り満洲に行かねはならぬ次第なり。このへん宜しく御諒察を乞う云々と。
 
 斯くて大山厳は辞し去れりと云う。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『オンライン/渋沢栄一講座』★経済最高リーダー・渋沢栄一の『道徳経済合一主義の経営哲学に学べ』<晩年は社会慈善公益事業に財産を還元せよ>

日本リーダーパワー史(88回)   2010/08/20&n …

no image
終戦70年・日本敗戦史(92) 戦後70年を考えるー「終戦」という名の『無条件降伏(全面敗戦)』 内幕<A級戦犯に指定の徳富蘇峰の戦争批判

終戦70年・日本敗戦史(92) 戦後70年を考えるー「終戦」という名の『無条件降 …

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(201)』-冬の京都・三千院、比叡山延暦寺、湖西の石山寺、三井寺を周遊、『この数年ヨーロッパばかり回り、石造り建築の露骨な存在感に食傷しておりましたので、自然と一体となった日本の寺院建築の楚々とした佇まいに改めて魅了されました。』

 『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(201)』- -冬の京都・三 …

『オンライン講座/野口恒の先駆的なインターネット江戸学講義⑯』★『諸国を遍歴、大仕事をした“歩くノマド”たち(下)』ー90歳まで描き続けた葛飾北斎』★『全国を歩いて学問を修め、数々の発明を成した破天荒の「平賀源内」』★『紀州藩御庭番として各地を遍歴、膨大な著作を残した「畔田翠山」』

    2012/05/30  /日本再 …

no image
●日本の司法の犯罪と無責任ー「袴田事件:再審開始を決定、衣類血痕のDNA型鑑定を「新証拠」と認定」ー

     ●「袴田事件:再審開始を決定 静岡地裁 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉚』●「EU域内のドイツの躍進ぶり」◎「平均寿命より健康寿命を延ばそう」

   『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉚』 &nbs …

オンライン/藤田嗣治講座②』★「最初の結婚は美術教師・鴇田登美子、2度目は「モンパルナスの大姉御」のフェルナンド・バレー、3度目は「ユキ」と名づけた美しく繊細な21歳のリュシー・バドゥ』★『夜は『エ・コールド・パリ』の仲間たちと乱ちきパーティーで「フーフー(お調子者)」といわれたほど奇行乱行をしながら、昼間は、毎日14時間以上もキャンバスと格闘していた

2008年3月15日 「藤田嗣治とパリの女たち」            …

no image
  日本メルトダウン( 976)『トランプショックの行方!?』●『[FT]トランプ氏が「レーガン流」から学ぶべき教訓(社説) 財政赤字の規模や中身が問題』◎『トランプ政権で「米軍の日本撤退論」は強まるー米国民にとっては「リアルな選択肢」だ!』●『マイケル・ムーア「トランプは任期4年を全うできない」』●『トランプ氏、習主席との電話会談「なし」、中国「あった」』★『  移民、貿易で強硬姿勢=トランプ次期政権の「100日計画」―オバマケア廃止再考も』★『トランプ氏勝利でも株式相場の見通しなお明るい=バフェット氏』

  日本メルトダウン( 976) —トランプショックの行方!? &n …

no image
『日中韓150戦争史』(58)★「明治維新後の日朝交渉が長期に停滞した理由、「江華島事件」は起るべくして起った。

  『中国紙『申報』などからの『日中韓150戦争史』  日中韓のパーセ …

『Z世代のための<バカの壁>の秘密講座②』★『杉山茂丸の超人力の秘密「馬鹿(バカ)と阿房(アホウ)の壁」★『約三千人の宮女に家の中で駈けっこをさせたいと「阿房宮」(長さ400キロ)を作ったのが「阿房(あほう)の語源』だよ」

    2024/12/03 &nbsp …