前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑰『開戦4ゕ月前の『米ニューヨーク・タイムズ』報道ー『ロシアがもし撤退を遅らせるなら,世界の前で破廉恥な背信を断罪される』●『ロシアの日本に対する待遇は協調的とは逆のもので,現実に欲しいものはなんでも取り,外交的にも,絶大な強国のみがとってはばからぬ態度で自らの侵略行為を正当化している』★『ロシアの倣慢な態度は,人類に知られた事実に照らし,正当化されない』

   

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑰

1903(明治36)年109

     『米ニューヨーク・タイムズ』

『ロシアと日本』

わが国務省は.ロシアの満州撤退に関しては「成行きに任せる」ことを決めているようだ。中国の保全はロシアの占領によって正式には脅かされておらず.われわれ自身の通商上の権利も利益も,昨日調印されることになっていた米中通商条約により十分に保障される。

この条約はわが国に,ロシァと中国の双方に対し,ある地位を与えており,わが国の満州貿易を侵害することはロシアのためにならない。ロシアがもし撤退を遅らせるなら,世界の前で破廉恥な背信を断罪されるだけだ。そしてワシントンから,事あるごとにその居心地の悪い立場を思い知らされると見てよい。

 今の本当の危険点は満州でなくて朝鮮だ。ロシアと日本の抗争はまさに「持久力のある対立勢力間の押さえがたい抗争」と言えよう。日本は中国に対する勝利の成果として満州支配を望みロシアに阻まれたが,ロシアが朝鮮に手をつけずとれを日本に任せるなら,日本はロシアの満州支配に抵抗しないかもしれない。

だがそれこそロシアが受け入れないことなのだ。ロシアの日本に対する待遇は協調的とは逆のもので,現実に欲しいものはなんでも取り,外交的にも,絶大な強国のみがとってはばからぬ態度で自らの侵略行為を正当化しているという点で.すべての報道が一致している。

この優越的な調子は日本が苦情を述べる個々の行為と同じぐらい日本にとってまことに我慢ならないに違いない。日本はこの優越性なるものに異議を唱えるつもりであり,その異議にけりをつける道はただ1っだ。ロシアも日本もその道を行くつもりのようだ。

 統計はもとより,こうした問題への完全な解答にならない。なると思ったのが南アフリカの戦争に突っ走ったイギリスの政治家や投機家の一大虚妄だった。参考書を読む限り「無敵イギリス」に対するプール人の抵抗は陸軍1個軍団で1か月で片づくはずだった。その予想に根拠がなかったことをわれわれは今知っている。

プール人の底力に対しロンドンが4年前に抱いた意見が,日本人の底力に対し今ペテルプルグが抱いている意見のようだ。

机上では日本とロシアの軍事力はもちろん比較にならない。だがロシア兵が日本兵に匹敵するということは,北京解放作戦という国際的,競争的な軍事博覧会の部隊に参加した将校なら,だれも認める者はいないだろう。

しかも問題なのは両国の陸軍力ではなく,海軍力なのだ。朝鮮の外で地上戦が行われる可能性はきわめて薄い。日本は満州侵攻を試みることはあるまい。ロシアも日本侵攻を試みそうにない。朝鮮支配をめぐる争いに決着をつけるのはおそらく日本海においてだろう。実際の問題はアジアの海域でどちらが優勢かということだ。

 両国の海軍を比較してもむだだし,まさにどの2国の海軍の比較もむだだ。世界の海軍をかくかくしかじかの戦闘単位の集積に単純化できるようなシステムを海軍の専門家が考案することが切に望まれる。

陸軍の場合は戦闘単位は1人の武装兵であり,その他のことが同等なら,その有効性はその人数に比例する。その他のことは地上軍においても,もとより同等ではない。

そして海軍部隊では,あまりにも多くの要素があるので,比較は不可能に近い。だが「大小の軍艦90隻から成る」ロシア艦隊が旅順を出航し朝鮮南岸へ向かったという報道は明らかな大間違いだ。ロシアの全海軍は,バルト海.黒海,太平洋そのほかどこを合わせても78隻にしかならない。

 

これは「完成ないしは建造中」の水雷艇53隻を除いた数字だ。一方,日本海軍は,やはり水雷艇を除き47隻しかないが,実際に戦闘をする艦の兵力ではロシアにさほど劣らず,戦艦ではロシアの6に対し6.装甲巡洋艦ではロシアの7に対し6,防護巡洋艦ではロシアの19に対し14隻だ。ロシア艦隊は実際には未知数だが,日本艦隊の力は証明済みだ。

確かに中国の抵抗は不合理だったとはいえ,鴨緑江海戦の勝利はマニラ湾やサンティアゴにおける勝利に劣らず明白かつ決定的で,この海戦で日本側は見事な計画と戦闘を示し,操鑑も西洋の国の操緻並の手腕だったと海軍専門家は一致している。

まだ若いとはいえ日本海軍はすでに実戦の伝統があるのに,ロシア側にはなく.そして実戦の伝統は大きな価値を持つ。その上,日本側は島を基地としてい

るから,攻撃的な海上作戦を行っている間でも,ウラジオストクや旅順から出撃してくるロシア艦隊に対し「内線」の利点を持つことになる。

日本は1896年,中国から戦勝の果実を取ろうとしてロシアの干渉に阻まれた際,11の戦争に訴えたかっただろう。

今や英日同盟が,11の戦いを世界一の海軍力のもとで保障するのだ。総じて,ロシアの日本に対する倣慢な態度は,人類に知られた事実に照らし,正当化されないものだ。

 - 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟はなぜ結ばれたのか④」1902(明治35)年2月14日『仏ル・タン』- 『英日条約』(日英同盟の意義)

  ★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟はなぜ結ばれたのか」④ …

no image
<まとめ>『日清戦争,日露戦争』の戦略を立案した参謀総長・川上操六の<最強のインテリジェンス>こそ明治躍進のカギ②

 <まとめ>川上操六について②   『日清戦争』『日露戦争』 …

no image
速報(56)(お勧め記事)『原子力の死の灰の恐怖、その太鼓の音は専門家には響かない』(ニューヨーク・タイムズ・5月2日)

速報(56)『日本のメルトダウン』 ●(お勧め記事)『原子力の死の灰の恐怖、その …

no image
速報(373)『日本のメルトダウン』『政権交代、景気失速どうなる? 日本経済
「総予測2013」◎『安倍政権が外交でやってはいけないこと

速報(373)『日本のメルトダウン』 <総選挙は自民党過半数の圧勝,安倍政権の誕 …

no image
日本リーダーパワー史(612)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』⑦明治政府が直面した「日本の安全保障問題」対外的軍備を充実、ロシアの東方政策に対する防衛策、朝鮮、 中国問題が緊急課題になる>

 日本リーダーパワー史(612) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』⑦ 『明治新 …

no image
<イラク戦争とメディア> 『グローバルメディアとしてのアラブ衛星放送の影響』―アルジャジーラを中心に(下)ー

静岡県立大学国際関係学部紀要「国際関係・比較文化研究第2巻第2号」〈2004年3 …

no image
世界/日本リーダーパワー史(900)ー何も決められない「ジャパンプロブレム」を変革する大谷選手の決定力 /最速王―「日本人の歩みは遅い」と批判した ハリルホジッチ前監督は解任」★『日本は当たり前のことさえ決めるのに15年はかかる』(キッシンジャー)』

「ジャパンプロブレム」を変革する大谷選手の決定力、 スピード最王―「日本人の歩み …

F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(203)★『2017/5月、6、7年ぶりに、懐かしのアメリカを再訪した』★『NYでは、コニーアイランドとNathansのホットドッグやシーフード、ブルックリンとイーストリバー、9.11 跡地、Staten島往復と自由の女神、 セントラルパークと5番街、有名教会見学、タイムズスクエア周辺ウオーキングとカフェ巡り。』

6、7年ぶり、アメリかにきてしまいました。5月、GW中なので格安チケットがとれな …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(166)記事再録/「日清戦争勝利の秘密」日本軍《死んでも戦う)対中国軍(売命銭分しか戦わぬ)の圧倒的な差

  2015/08/03   &nbsp …

no image
『オンライン講座/日本陸軍の失敗研究』★『大東亜戦争敗因を 陸軍軍人で最高の『良心の将軍』今村均(大将)が証言する①』★『第一次世界大戦後のパリ講和会議で、日本は有色人種への「人種差別撤廃提案」を主張、米、英、仏3国の反対で拒否され、これが日本人移民の排斥につながった』★『毎年100万人以上の人口が増加する日本はアジア・満州に移民先を求めたのが、満州事変、日中戦争の原因になった』

日本リーダーパワー史(711)  Wiki 今村均陸軍大将 https …