『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑳『開戦3ゕ月前の「英ノース・チャイナ・ヘラルド」の報道』★『パーセプションギャップ(思い違い)、エスノセントイズム(自民族優先主義)による憎悪・敵意がメディア(プロパガンダ)で増幅されて戦争を起こす記事の1つ』●『日本と朝鮮、日本の恐怖、ロシアの方針、日本について付け加えるべきこと、日本人の外国人憎悪の程度、日本の孤立』
2017/01/04
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑳
『開戦3ゕ月前の「英ノース・チャイナ・ヘラルド」の報道』
1903年(明治36)10月16日
英ノース・チャイナ・ヘラルド『露日関係」
本社旅順通信員記事
8月19日(露暦)のサンクトベテルプルグスキエ・ヴェードモスチ紙は「露日関係についての「ある外交専門家の見方」と題する興味深い記事を載せている。要旨は次の通り。
オーストリアとドイツの新聞は最近、極東の情勢および現在の露日関係について、いくつかの興味深い情報記事を載せている。オーストリアの新聞はロシアが極東にばかり注意を集中していると、近東の情勢の推移に必要な注意を払うことができないだろう,と言う。
多くの新聞がロシアは朝鮮問題で多忙なので,現在、積極的政策をとるのは得策でないが,もしそうでなければ,マケドニアを助けたいと思うはずだと,悪意ある調子で述べている。これを見ても,ロシア以外のヨ一口ッパの新聞は,ロシアの外交の問題点や計画について,よく理解していないということが分かる。
このことはロシア国内の鋭い観察者の目には,ずっと以前から明らかだった。ロシアの艦隊がトルコの海域へ航行すると,驚いたことに,オーストリアとドイツの新聞は,ロシアがすでに日本と和解したとか,実はクロバトキンは東京で日本政府とある種の協定を締結したとか,今後ロシアはバルカン問題に好きなように取り組めるとか,書き立てる。
新聞はこういう調子だが,極東の現状については,おそらくあるヨーロッパ人の外交専門家の意見の方が,傾聴に値するだろう。彼は日本に20年ばかり住んでいた人物で,その意見というのは次の通りだ。
外交専門家の意見
問題の外交専門家は次のように言う。
日本とロシアが戦争をする可能性がなくなったという楽観的な意見に.私は賛成できない。ロシアが朝鮮における自分の地位を少しでも強化しようとすれば,たちまち日本の反対に合うだろう。それでもロシアがやめなければ,戦争になるだろう。
実のところ,私はそのように確信している現在,日本人は大変気がたかぶり,好戦的になっている。極端なぐらいそうなのだ。そして,ロシアと戦争になれば,日本が勝つと固く信じている。
政府関係者には伊藤博文侯爵のように対露戦争にはっきり反対している者もいる。戦争になったら日本が惨敗すると見ているからだ。
しかし.不幸なことだが,国民と代議士たちの大部分が強硬外交主義的な感情で沸き立っている。事態が真に危機的になったら,この民衆の強硬外交論がすべてを押し流してしまうだろう。
日本人の国民性も考慮に入れなければならない。
彼らは生来楽観主義者だ。彼らの計算の中に敗北が入り込むことはない。宝くじを買えば当然1等が当たると患うような国民性なのだ。同様に.いったん戦争になったら相手がどこであろうと日本が必ず勝つと信じ込んでいる」
日本と朝鮮
「日本はなぜそれほど朝鮮を大切だと思っているのか?教えてあげよう。日本人は朝鮮の独立を,日本と朝鮮との自由な経済関係ときわめて密接な関係を持つものと見なしているからだ。
事実上、朝鮮は日本にとって不可欠な存在なのだ。少なくとも日本人はそう考えている。もっとも,私自身は,よしんば朝鮮がロシアの手中に落ちたとしても,日本は朝鮮から現在と同程度の利益を吸い上げるだろうと見ている。
日本が朝鮮をこれほど重視するもう1つの理由は,日本は今のままでは4200万の国民を食べさせていくのが不可能だと思っていることにある。日本は,全体としては貧しく,肥沃ではない国だ。
日本人がその作物を,実際に田の作物の1つ1つに至るまで,どれほど丁寧に扱わねばならないかを見れば,この国民の経済的な必要を直ちに理解するだろう。
農民たちは,その収穫をいささかたりとも失うことが許されず,岩のような土壌を相手にして苦闘しなければならないのだ。
朝鮮においては.これと反対に土壌は豊かで,現時点で何百,何千,何百
万という日本人が朝鮮内外で生活している」
日本の恐怖
「だが,日本人が恐れているのは,もしロシアが朝鮮を所有するようなことになったら,日本人はしだいに朝鮮から追い出されはしないかということだ。私に言わせれば,そのような恐怖には根拠がない。
たとえばウラジオストクの状況を見ればよい。ウラジオストクにはロシア人の商人は全部セ10人ぐらいしかいない。残りはドイツ人か中国人だ。召使とか,小店舗の経営者の大部分は日本人で,けっこううまくやっているのだ。
実際問題として,ロシアはこれまでその巨大な帝国に人々を行きわたらせることができるはどの十分な人口を得たことがない。だが,こういう見方は日本では理解されない。ロシアが少しでも朝鮮占領の方向に動けば,日本人は「開戦の理由」だと見なすだろう」
ロシアの方針
「日本との戦争になったら,ロシアはスキタイ人の戦法をとるだろう。宣戦が布告されるやいなや,ロシア軍は退却し,消えてしまう。ロシア軍の位置を特定するのは不可能になるだろう。
日本の輸送船団はその時点で約20万の兵力を朝鮮に揚陸するだろうが,これだけの軍を朝鮮で維持すれば,日本は早晩、財政が破綻することになるだろう。
日本はいっでもロシア艦隊を海底に送り込めると,威勢よく自信ありげに主張しているが,そのロシア艦隊は静かに旅順に引っ込んで,その後,日本から朝鮮の日本軍への糧食の輸送を妨害することに甘んじるだろう。
もちろんそれほどの軍隊への糧食の供給は,海路に頼るしかない。
しばらくたって日本軍がわれわれの居場所を探るのに疲れ.この半島の過酷な気候に疲れ果てたとき(ご存じの通り,朝鮮の冬は8か月ぐらい続き,夏は4か月しかない),ロシア軍は姿を現し,思っていたより短い期間で勝利を収めるのだ。日本軍は敗北する。いや,全滅するだろう」
日本について付け加えるべきこと
この外交専門家は続けて言う。アレクセーェフ提督の意見に私も賛成だ。現在の日本は昔のサムライ時代の日本とは大いに異なる。文明が実際に日本を堕落させたのだ。日本人はきわめてうそつきで狡猾だ。
また強硬外交論で凝り固まっており,国内の外国人居住者を憎悪している。この憎悪は中国でさえ見られないような激しいものだ。それに加えて国の財政状態は悪く,非常な重税を課されて国民は自由に呼吸することもできない。
日本人はたとえばフランス人よりも高率の税金を支払っており,集められた巨額の金は軍備の拡張に使われている。したがってこれだけ軍隊に金をつぎ込んだのだから,その軍隊を役に立てたいと思うのは当然だろう。
国民の大多数が戦争を欲しているのは間違いない。しかし,日本の軍隊は.アジア人の目から見れば模範的な軍隊かもしれないが,ヨーロッパ列強の軍隊とは比較すべくもない。日本は結局は負けるだろう。そして日本が負けた場合,
少なくとも私の意見では,歴史上いまだかってないような外国人虐殺が日本国
こるだろう」
日本人の外国人憎悪の程度
「ところで,日本人が日本に居住している外国人をどれほど憎悪してるかは,想像を絶するものがある。一般の日本人だけではなく,公的な立場の日本人も同じだ。1例をあげれば,ちょうど今,日本ではある特別法が公布されようとしているが,この法律により,ヨーロッパ人が日本で不動産を取得することは禁止されることになる。
しかもこの法律の効果を遡及させ,法律発効時にすでに不動産を所有しているヨ一口ッパ人からその不動産を取り上げることすら意図している。列強はこれに抗議しているが,私の考えでは.効果はないだろう。結局この問題はハーグの国際司法裁判所に持ち込まれることになろう」
日本の孤立
「露日戦争が勃発した場合,日本はどこからも援助を期待できない。イギリスとの同盟は一方的な取決めで,日本がすべての義務と負担を負っているのに対し,イギリスには利点しかないのだ。それにもかかわらず.この協約の締結は,日本在住のイギリス人たちに非常に苦々しい思いで迎えられた。
私はたまたまこの同盟締結の機会にイギリス公使館で催された.イギリス公使
サー・クロード・マクドナルドの大晩餐会に出席したが,列席したイギリス人たちは,すべてのヨーロッパ人に対する憎悪を隠そうともしない日本人と政府が同盟を締結したことに対する非難を隠さなかった。
これに加えて公使が憤慨していたという事実があるが,その理由は実存にこの条約が締結されるまで.彼はこの条約こついて何も知らされていなかったからだ。予傭交渉はすべて公使のいないところで行われ.彼が何かが進行中だと疑う以前に,条約はロンドンで調印されていたのだ。
これに関連して私は1つのどちらかと言えば愉快なできごとを思い出す。英日同盟締結の直前,私の友人の1人が,この同盟の交渉が進行しているという事実に東京駐在のイギリス公使の注意を引いたことがあった。ところ
がサー・クロード・マクドナルドは.この「作り話」にはなんの根拠もないので.冗談をおっしゃっているのでしょうと答えたのだ。
私の意見の要点を言おう。
ロシアと日本の戦争があまり遠くない将来に起こることはかなり確実だ。ロシアの考えでは,ロシアが太平洋側に地歩を得るためには,朝鮮を占領し,渤海湾を支配することが必要だからだ。日本はそれが達成されるのを阻むために間違いなく戦うだろう。だが日本は完敗するだろう。
その結果日本では,未曾有の外国人虐殺が行われるだろう。これが,日本をよく知っている者の意見だ。(この記事の発信地はウィーンになっており.「A・ソコロフスキー」の署名がある。
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