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地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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『Z世代ための異文化コミュニケーション論の難しさ③』★『日本世界史』-生麦事件、薩英戦争は英国議会でどう論議されたか③

   

   『リーダーシップの日本近現代史』(145)再録

  

レヤード氏-私は日本との戦争を引き起こすことになるかもしれない要求をわれわれが日本政府にしなければならないということを.皆さんと同じように残念に思っている。もっとも戦争の可能性は,野党議員のお2人が述べられたほど大きいものではない。同時に,現在のこの状況は不可避であり,しかもわれわれは望みに反してこの立場に置かれたもので,政府としてはただ義務を果たすしかないということを主張したい。

1854年まで,わが国は日本とほとんど関係を持っていなかった。そのとき,日本沿岸で難破した船の乗組員に対する好待遇を保証する協定が結ばれた。アメリカ政府も同様の協定を結んでいたが、そのすぐ後でアメリカ公使は通商条約を結んだ。ロシアも同様の通商条約を締結した。

不幸なことにイギリスの通商は世界中に広がっており,イギリス人は売買できるものがある場所はどこへでも必ず出かけていく。そしてまた不幸なことには,イギリスの偉大さの多くは.疑いもなくその貿易事業精神によるところが大きいのだが、それになんらかの不幸な点があるとすれば.イギリス貿易の行く先々で,保護が必要となることだ。

もしロシアとアメリカ合衆国の両国政脚咽の貿易資源を発展させ拡張させている間.わが国がなんの活動もせずにいたとしたら.そしてもし日本に赴いたイ

ギリス商人が追い払われ不法な扱いを受けたとするなら,イギリス政府は.日本と条約を結ばなかったことに対して.商人やそれに議会からも非難されはしないだろうか?

そしてなぜロシアとアメリカ合衆国の例にならわなかったかという非難を受けないだろうか?わが同僚議員は政府が条約を結んだことを非難しておられるが・エルギン卿に条約締結を命じたのはマームズ‘ペリー卿だということを,お忘れのようだ。

コクラン氏一一条約を非難した覚えは全くない。

レヤード氏-わが同僚議員は日本人に条約をむりやり押しつけられたと言われるが,サー.R.オールコックによれば.日本人には外国人と貿易する気は十分にあり,極めて親切に外国人を受け入れたとのことだ。不幸なことに,日本には保守党という(笑い声)ある一派があって,彼らは改革と進歩,な-らびに外国人との通商いっさいに反対している。

富裕な大名の多くはこの党派に所属しているが,すべてがこの党派に入っているわけではない。有力な大名一門から選ばれた大君自身は,外国との関係を結ぼうと並々ならぬ意欲を見せ,この政策は掛、反対に適ったにもかかわらず.最も有力な大名の一部によって支持されたのだ。

イギリス政府は,ロシアやアメリカ合衆国が条約を結び,また外国との条約を結ぶだけの完全な力を持つと信じた.その同じれっきとした日本政府当局と条約を結んだ。日本で貿易をし始めた当初のイギリス商人が全く恥ずべき行為をしたという点については,わが同僚議員に全面的に同意する。

しかし,日本人に対して手ひどい侮辱を与えた人物を褒めそやすとは驚いたものだ。この人物は入場禁止区域に狩りに出かけ日本人が神聖なものとみなしている鳥を撃った。しかもそれを止められたとき,日本の警官を銃で撃ち重傷を負わせた。それは偶然だったということだが,私は故意にやったものと考えている。サー・R.オールコックはこの人物を罰しようと努力したが,不幸にも力及ばなかった

その男は香港に行き訴訟を起こし,実際にサー.R.オールコックから損害賠償金をかちとったのである。

わが同僚議員は議会のテーブルの上に置かれた書類を読まれた。それには,わが国商人が極めて度を超えた不名誉極まりないやり方で,日本政府に押しつけた要求についてふれられていた。わが国政府はこのことを聞き及んだとき,即座に対日貿易に従事している有力な商人たちに書簡を送り,彼らの力でそのような行為をやめさせるよう求めた。

それに対し彼らは・できる限りを尽くしそのような行為をやめさせることを約束した。われわれが望むのは.これらの人物がとられた措置におじけづいて日本から去り,その代わりにもっと評判のよい人々が増えること,そして日本とのトラブルの大きな原因となったこれらの人物が,将来一掃されることだ。

わが同僚議員はわれわれの行動をアメリカ公使のものと比較し,われわれだけが暴力行為にさらされていると,議会を信じ込ませようとしている。

最初に起きた暴力行為はロシア人士官1人と水兵2人に対する残忍な殺人であり,それに対する賠償はまだ行われていない,ということをお忘れのようだ。

そのすぐ後でアメリカ公使館の書記官が殺され,引き続きサー・R・オールコックの通訳がその住居の入口で殺された。イギリス公使館襲撃の際はオリファント氏が負傷し,公使館の警備を務めていた海兵隊員2人が殺された。このころまでは,われわれは日本政府に対してできるだけの配慮を示し,彼らにあまりむりな要求を押しつけるつもりはないことを提示していた。

わが国の賠償要求は極めて寛容かつ穏やかなものだった。そして日本政府がわが国に派遣した使節団に対して,われわれはできる限りの親切を尽くし,もてなしている。

使節団の目的は,イギリス政府に対し,条約港すべての早期開港を督促しないようにというものであった。現在,大君が反対政党によって包囲されており,また日本の諸侯は外国人に嫉妬心を抱いているので,開港要求をしばらく延期することは大君に対して思いやりのある行為だという陳情があった。

イギリス政府は直ちにその要求を受け入れ,そのうえフランス,オランダをはじめ.同様の権利を有する他の国の黙諾まで取り付けたのだ。(謹聴,謹聴の声)これこそ,わが国が日本政府を過酷に扱うつもりのないことを示す証拠である。

使節団がちょうどイギリスに滞在している最中に,リチャードソン氏ならびに3人の同行者に対する凶暴な襲撃事件が起きた。この事件は誤って伝えられたようにけんかから生じたものではない。というのは,けんかなどなかったし,また西洋人の通行が禁止されている本街道ではなく,日本当局との取決めによって.はっきりと認められている本街澤の1つで起きたものだった。(謹聴,謹聴の声)まさしく暴虐で正当な理由のない襲撃であった。

このような状況のもとでイギリス政府は何ができるだろうか?政府は賠償要求をする以外にない。もし政府がなんの手も打たなかったとしたら議会の議員諸君の非難の矢面に立たされることは必至である。(謹聴,謹聴の声)罪のないイギリス人に加えられた,こういういわれのない暴力行為に対して賠償要求をするのが政府の果たすべき義務である。

そこで政府は,日本政府ならびに,その家臣がリチャードソン氏殺害に関与した侯の両方に対して賠償を求めたのだ。わが同僚議員は,だれと戦争を始めようとしているのかとの質問を投げかけられた。われわれは決して戦争を起こしてはならないと私は信じている。最新情報によると,大君と反対党派との確執はいまだに続いているとのことだ。大君はまだ江戸に戻ってきていないが.イギリス政府の要求が受け入れられるという望みはかなりある。

大君自身はわれわれの要求を不合理とは思わないと言ってさしつかえないと信ずる。(謹聴,謹聴の声)その家臣がリチャードソン氏殺害犯人であることについては,海岸近くに居城を構えているので,容易に捕らえることができるだろ

う。大君が侯(島津公)を指して責任を問うか,イギリス政府が侯と直接交渉をするかは言明の限りではない。

だが,政府がこれ以外の行動をとりえたかどうかになるとそれは分からない。政府は日本政府に極めて思慮深く対処し,できる限りの方法で友好的精神を発揮してきた。わが同僚議員は,ほかにどういうとるべき道があったのかについて指摘していない。

イギリスは全世界と通商関係を結んでおり,イギリス商人の保護が必要になる。その際,こういった不慮の事件にさらされることになるのだ。もっとも,まずわれわれがしなくてはならないことの1つは,日本駐在のイギリス人にもっとりっぱに振舞うようにさせることだ。(謹聴.謹聴の声)

私は,わが同僚議員が言及された日本における同胞の一部の者に対する非難に全く同感する。中国と日本の両国には,絶えず現地政府と問題を起こし,それについて干渉されるとまっ先に本国政府に反撃を加えてくる商人や山師たちがいる。こういった人物がもっとイギリス紳士らしく振舞ってくれるなら,日本ともっとたやすく友好関係を維持することができるだろう。(謹聴.謹聴の声)

コクラン氏-私は政府を攻撃するつもりはなく,ただ日本政府への賠償要求が履行されやすいものにされることと,そしして戦争が回避されることを切望しただけだ。ここに動議の取下げを願いたい。そして動議は撒回された。

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