前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史 ⑩ 日露戦争での大山厳、山本権兵衛の軍配問答にみるリーダーシップ

   

日本リーダーパワー史 ⑩日露戦争での大山厳、山本権兵衛の軍配問答にみるリーダーシップ
 
 
       前坂 俊之
 
国家の戦争や外交を考えた場合、一番大切なことは戦争を開始することではありません。そのエンディングです。勝った場合も負けた場合もどこで、手をあげるかが最も難しい。兵を挙げるはやすく、引くのは難しいのです。企業の場合、利益がでなくなり、赤字が膨らんで倒産するかもしれない場合でも、株主や従業員がなるべく損をさせないところで手をひくのかトップのリーダーシップがとわれます。
 
個人のケンカの場合も、どこで手を打つのかをかんがえず、衝動的に手をだしたのでは知恵のある大人のすることではありません。古来、日本軍学の最高峰である、武田信玄の戦法は「戦は5分5分の勝利をもって上とす』とあります。相手にも花をもたせる。「8分の勝利はおごりを生じ、10分の勝利は下の下である。なぜなら、慢心して、相手の恨みをかい、次の戦いの敗北につながる」という意味のことを信玄は家訓として、残しています。
 
日露戦争では当時のリーダーは勝てる見込みの少ない超大国ロシアと準備万端整えて、乾坤一擲、戦を挑み、開戦と同時に、どこで手を打つかをしっかり話し合っていて、リーダー間の意思統一をやっていました。この先人のリーダーシップを学ぶ必要があります。「勝ちすぎるな」『相手にも花をもたせよ』です。
 
●大山厳が満洲軍総司令官になった時、山本権兵衛海軍大臣を訪れ軍配の揚げ方を依頼せられた事。(「山本権兵衛と海軍」海軍省編より)
 
 日露戦争で、大山厳の満洲軍総司令官に就任されるやいなや、直ちに山本海軍大臣を其官邸に訪問した。
 
「予は只今。満洲軍総司令官の職を拝し、不日に征途に上らんとす。就ては貴下に対し一つの御願いありて、まかり出でたる次第なり。予は幾たびか軍部に出入し今日に至れり。
 
これ偏に 陛下の優渥なる寵春に由る所にして感泣に堪えざるなり。今回の役、幸にして出征の大命を拝したれは是れよりは唯、軍旗の事に一身を捧げて報効を期するの外何等心胸に彼来するものなし。露国の方にても相当の準備あり、人数も多きことなれば此戦争は三年或は五年位は掛かる積りにて従事せねばならぬことと思う。
 
予も何時死するか測られざるも、切めては満洲より彼等を撃退し志すまでは、是非仕遂げて見たいと考え居れり。然るに勝負はどこまで行きたらはつくものなるや、此軍配の揚げ方を極めるのが中々難しきものと思わる。
領内狭き国にて忽ち城下の盟をなさしむるを得べきものならは軍配を揚ぐるの必要もなしといえども、露国の如きは此例はあてはまらず。さればとて打捨て置くにおいては何時何処の返にて如何にして政局せしむべきや甚だ心許なく感ずべし。
 
軍隊は唯進んでさえ居れば、夫れにてよろしからんが、国家としては或時と場合とを見て局を結ばねはならぬと云うことは今更言うまでもなし。然れども予や閣外に出でて事を従うもの是等の機微に関しては解ることを得ず。故に此軍配の揚げ方(即ち講和)の時機を定むるは、中央の枢位に居らるる貴下の御心配を煩わしたく切に御願申す次第なり。
 
大凡そ連戦連勝と云う場合には国民全体皆勝つことのみを知りて、負くると云うことを想わず有頂天となりて手の舞い足の踏む所をも知らぬものなり。
 
斯かる場合に際し軍配を振る(戦争を止むる)と云うことは誠に大役にして一身を犠牲にするの覚悟がなければ能わざることなり。此役は西郷従道氏が居られたならば頼む所なりしも、既に亡し今、之を頼むは貴下をおいて他に之を求むるに由なし。願わくは此意を諒せられんことをと。
 
 山本権兵衛はこれに対していわく
 
「閣下の深き御考慮と切なる御希望とは之を諒せり。惟うに講和の事たる宣戦と相待て均しく国家の大事たり。而して其決定は全く大権に属するものなりといえども、之が時機を捉うることの如きは国務大臣として輔弼の責任の地位に在る者のすべからく最も大切なころである。
 
予は終始彼我の対勢と戦局の進展とに留意し之を逸せざることに努力すべし。而して其機会到来せば適当な措置を執るに於て躊躇せざるべく、一身の毀誉褒貶の如き問う所にあらざるなり。閣下請う意を安んぜられんことを。
唯今日予は閣下の御話を承り一つの考を抱きたり。そは閣下の如きは大権下に在て枢機に参ぜられ、満洲の方は野津大将等へ御任命を仰ぐことに致さるるを可なりとせられざるやと。
 
大山いわく「貴諭深謝す、然れども満洲は予が出掛けざれは叶わざる事情あり、野津大将等は戦争に掛けては勿論予よりも上手なり。併しながら彼等は出先にて、互に剛情を張り意見の一致せざること多々あるべきは予知するに難からざる所、その時之をまとめて決行せしむることが予の任務にして他の者にては予の如く「本調子にて頑固に之を押し切る訳には参らぬなり。尤も他に山県元帥の如きあるも児玉大将などは山県元帥にては到底まとまりが付かぬ。

予でなければ行かぬと申し居る事情もありて、予が出掛けねば済まぬ事となれり。故に予は今どこまでも屍を戦場にさららす覚悟にて在るなり。出征先にては大体の事は固より予の管知統督する所なるも、細かき事は児玉大将(満州軍総参謀長)に任かす等なり。
 
又勝ち戦さの時は児玉大将に任かして置く積りなるも、ますます負け戦さとなりたる場合には予は陣頭に立つ決心なり。斯かる事情なれば予は矢張り満洲に行かねはならぬ次第なり。このへん宜しく御諒察を乞う云々と。
 
 斯くて大山厳は辞し去れりと云う。

 - 人物研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『オンライン講座/よくわかる尖閣問題の歴史基礎知識』★『日中、台湾、沖縄(琉球)の領土紛争の底にある『中華思想』と台湾出兵との関係、交渉は・・・』

    2012/09/26 &nbsp …

[ 知的巨人たちの百歳学(143)』★『世界の総理大臣、首相経験者の最長寿者としてギネスブックに登録された昭和天皇の叔父の東久邇稔彦(102歳)』★『終戦直後の東久邇宮稔彦首相による「1億総ざんげ」発言後に54日間で、首相を辞任」★『敗戦の責任をとって直宮家以外の皇族は全員皇籍を離脱すべきだ、と主張』★『1947年10月の皇室改革で皇籍離脱し、やっと念願の庶民になった。』

2015/12/12 知的巨人たちの百歳学(143)記事再編集   前 …

no image
 『日本と世界のソフトパワー/コンテンツ対決』―『「君の名は。」アカデミー賞に近づいた?LA映画批評家協会のアニメ映画賞を受賞』●『5つ星!『君の名は』を英メディアが大絶賛』★『「君の名は。」中国で大人気も、日本はまったくもうからない!?ネットでは』●『中国、トランプに対決姿勢 「iPhoneが売れなくしてやる」と宣言』★『世界で最も稼ぐユーチューバー、2連覇の首位は年収17億円』◎『スナップチャットで年収5千万円 元ウェブデザイナーの27歳女性』●『8割が偽物? 中国・アリババと4万人の盗賊 』

 日本と世界のソフトパワー、コンテンツ対決 「君の名は。」アカデミー賞に近づいた …

no image
★『リクエスト再録記事 (2013/02/14 )』宮崎滔天ー―尖閣問題で軍事衝突が危惧されている今こそー100年前の中国革命(辛亥革命)の生みの親・宮崎滔天に『日中両国民』は学ばなければならないー

    2013/02/14 に執筆 ―尖閣問題で軍事衝突が危惧されて …

no image
「日本風狂人伝⑥歌人・若山牧水「生来、旅と酒と寂を愛し、自ら三癖と称せしが命迫るや、静かに酒を呑み・」

日本風狂人伝⑥             2009,6,22 歌人・若山牧水 「生 …

no image
日本リーダーパワー史(222)<明治の新聞報道から見た大久保利通 ② >『明治政府の基礎を作った男』

 日本リーダーパワー史(222)   <明治の新聞報道から見 …

no image
知的巨人の百歳学(126)『天才老人/禅の達人の鈴木大拙(95歳)の語録』➂★『平常心是道』『無事於心、無心於事』(心に無事で、事に無心なり)』★『すべきことに三昧になってその外は考えない。結果は死か、 生か、苦かわからんがすべき仕事をする。 これが人間の心構えの基本でなければならなぬ。』

 記事再録/百歳学入門(41) 『禅の達人の鈴木大拙(95歳)の語録』 …

no image
『リーダーシップの日本世界近現代史』(298)★『東京オリンピック開催はどうなる②』『 WHOは「パンデミックの可能性がある」とはじめて言及』★『27日のニューヨーク株式相場は、1190.95ドルと過去最大の暴落』★『新型コロナウイルスの封じ込めは不可能。世界人口の4~7割が感染する」との予測』

 「新型コロナウイルスの封じ込めは不可能。世界人口の4~7割が感染する …

no image
<まとめ>『国難の日本史』『日本の決定的な瞬間にリーダーはどう決断、行動したのか』(ピンチはチャンスなり)

  <まとめ>『国難の日本史』    『 …

『オンライン・日本自主外交論講座』★『TPP,中韓との外交交渉には三浦梧楼の外交力に学べ②』★『交渉はこちらが弱味を見せると、相手はどこまでもつけ上がるが、強く出ると弱る。自主外交のこれが要諦』

  2012/11/13  日本リーダー …