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『リーダーシップの日本近現代史』(115)/記事再録☆『百年先を見通した石橋湛山の大評論』★『一切を棄てる覚悟があるか』(『東洋経済新報、大正10年7月 30日・8月6日,13日号「社説」)『大日本主義の幻想(上)』を読む②『<朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、中国や、シベリヤに対する干渉もやめろーいう驚くべき勇気ある主張』

   

 

   /日本リーダーパワー史(307)記事再録


福島原発事故1年半「原発を一切捨てる覚悟があるのか」

 <ケーススタディー石橋湛山の警世の大評論『一切を棄てる覚悟があるか』『大日本主義の幻想(上)』を読む②-<朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、中国や、シベリヤに対する干渉もやめろーいう驚くべき勇気ある主張を貿易デ―タ―などで実証的に論じた歴史的な大論文

 

 
 前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
 
① これは石橋湛山の「東洋経済新報」の「社説」大日本主義の幻想大正10年7月30日・8月6日,13日号「社説」の全文である。
② 第一次世界大戦後(1914―1918年))の日本は欧米各国が戦争中のスキに中国に「対華21ヵ条要求」を突き付けて満州利権を独占、青島も占領し「五・四運動」、中国の民族独立運動に火をつけ、欧米から猛反発を受けた。
③ この事態に米国はワシントン軍縮会議を提案して、日本の姿勢をけん制した。
④ 日本の帝国主義的、武力的な強引な姿勢「大日本主義」に、石橋は一貫して反対して、軍事力ではなく相互貿易主義の「小日本主義」を唱えて、「朝鮮、台湾、満州を棄てる、支那(中国)から手を引く、樺太も、シベリヤもいらない」という先駆的な「一切を棄つるの覚悟」「大日本主義の幻想」の警世の大評論を掲げた。
⑤ この「大日本主義」は明治の『富国強兵」「軍国主義」の延長線であり、結局、「大日本帝国の滅亡」につながるとして「小日本主義」『覇道から王道政治への転換』「軍縮論」を大胆に唱えのである。その意味では、日本の未来を予見した石橋のジャーナリストとしての大慧眼が示されている。
⑥ この論議は今でいえば「原発から全面撤退せよ」の主張と同じである。そして、「原発からの撤退とクリーンエネルギーへの転換」「TPP,FTAに加入しての全面開国」「核廃絶、原子力廃絶」を主張したのと同じである。原発をゼロにしても大丈夫、日本はやっていけるし、「核廃絶」と『脱原発、全面クリーンエネルギー政策転換』こそ日本の21世紀国家戦略として世界をリードしなければならない。
 
 
 
『大日本主義の幻想』(上)(『東洋経済新報、大正10年7月
30日・8月6日,13日号「社説」
 
 
朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、支那(中国)や、シベリヤに対する干渉は、勿論やめろ。これ実に対太平洋会議策の根本なりという、吾輩の議論(前号に述べた如き)に反対する者は、多分次の二点を挙げて来るだろうと思う。
 
① 我が国はこれらの場所を、しっかりと抑えておかねば、経済的に、また国防的に自立することが出来ない。少なくも、それを脅さるる虞がある。
② 列強はいずれも海外に広大な殖民地を有しておる。しからざれば米国の如くその国自らが広大である。而して彼らはその広大にして天産豊かなる土地に障壁を設けて、他国民の入るを許さない。この事実の前に立って、日本に独り、海外の領土または勢力範囲を棄てよと言うは不公平である。
 
この二つの反論に対しては、次の如く答える。
 
第-点は幻想である、第二点は小欲に囚えられ、大欲を遂ぐるの途を知らざるものであると。
第一点より論ぜん。朝鮮、台湾、樺太ないし満州を抑えておくこと、また支那シベリヤに干渉することは、果してしかく我が国に利益であるか。利益の意味は、経済上と軍事上との二つに分れる。まず経済上より見るに、けだしこれらの土地が、我が国に幾許の経済的利益を与えておるかは、貿易の数字で調べるが、一番の早道である。今試みに大正九年の貿易を見るに、我が内地および樺太に対して
 
 
           移出          移入           合計
・朝鮮   169,381千円    143,112千円     312,493千円
・台湾     180,816                  112,041                        292,857
・関東州 196,863               113,686                        310,549
 
 計  547,060                       368,839                       915.899
(備考)朝鮮および台湾の分は各同地の総督府の調査、関東州の分は本邦貿易月表による。
 
であって、この三地を合せて、昨年、我が国はわずかに九億余円の商売をしたに過ぎない。同年、米国に対しては輸出入合計十四億三千八百万円、インドに対しては五億八千七百万円、また英国に対してさ、ろ三億三千万円の商売をした。朝鮮、台湾、関東州のいずれの「地を取って見ても、我がこれに対する商売は、英国に対する商売にさえ及ばぬのである。米国に対する商売に至っては、朝鮮、台湾、関東州の三地に対する商売を合せたよりもなお五億二千余万円多いのである。      

 
すなわち貿易上の数字で見る限り、米国は、朝鮮台湾関東州を合せたよりも、我に対して、一層大なる経済的利益関係を有し、インド、英国は、それぞれ、朝鮮台湾関東州の一地ないし二地に匹敵しもしくはそれに勝る経済的利益関係を、我と結んでおるのである。
もし経済的自立ということを言うならば、米国こそ、インドこそ、英国こそ、我が経済的自立に欠くべからざる国と言わねばならない。
 
 もっとも貿易の総額は少ないが、その土地にて産する品物が特に我が工業に、もしくは国民生活上に欠くべからざる肝要の物であり、この点において特殊の経済的利益があるという事もある。
しかし幸か、不幸か、朝鮮、台湾、関東州には、かくの如き物はない。我が工業上、雷重要なる原料は棉花であるが、そは専らインドと、米国とから来る。
 
また我が食物において、最も重要なるは米であるが、それらは専ら仏領インド、シャム等から来る。その他石炭にせよ、石油にせよ、鉄にせよ、羊毛にせよ、重要という程の物で、朝鮮、台湾、関東州に、その供給を専ら仰ぎ得るものは1つもない。
 
たとえば鉄の如き、昨年、関東州から約五千七百万斤の輸入があった。しかし同年の我が鉄の輸入は総額二十億五千万斤を超えた。これに対する五千七百万斤は九牛の一毛だ。
また米にしても、朝鮮および台湾を合せて、我が国に移入し得るはようやく二、三百万石だ。三のくらいの物のために、何故我が国民は、朝鮮台湾関東州に執着するのであろう。吾輩をして極論せしむるならば、我が国がこれらの地を領有し、もしくは勢力範囲とした結果、最も明白に受けた経済的影響はただ砂糖が高くなったことだけである。
 
以上は朝鮮、台湾、関東州についてである。樺太については、領有以後既に十余年、遂に何の経済的利益ももたらし得ぬは、遍く人の知るところ、じょ説するまでもない。この頃更に、北樺太の方は大いに有望だとか言うて、ニコライエフスクの変を理由として占領しておるが、恐らくは十余年前、南樺太を大いに有望なりと吹聴したと同じ筆鋒であろう。しからば残るは支那とシベリヤの問題である。
 
 支那およびシベリヤに対する干渉政策が経済上から見て、非常な不利益を我に与えておることは、疑うの余地がない。支那国民および露国民の我が国に対する反感、これはこれらの土地に対する我が経済的発展を妨ぐる大障碍である。
 
而してこの反感は、我が国が、これらの土地に対する干渉政策をやめない限り、除くを得ない。干渉政策の結果は、あるいは部分的には利益があろう。たとえば支那が綿糸の輸入税を引き上げることを妨げる。しかれば我が綿糸は、その限りにおいて、支那に輸出することが楽である。
 
しかしかくて種々の干渉をした結果、全体として我が支那に対する貿易は、どれ程の発展を遂げたかと言えば、過去十年間において、その増加は、同年間における米国に対する我が貿易の増加の約三分の一にしか当らない。すなわち明治四十三年の我が支那に対する貿易は、輸出入合計一億五千九百万円であったが、これが大正九年には六億二千八百万円になった。すなわちこの間約四億七千万円を増加した。      

 
しかるに我が米国に対する貿易は、同じく輸出入合計で、明治四十三年には、ほとんど支那に対せると同額の一億九千八百万円であったが、大正九年には十四億三千八百万円に増加した。
 
すなわちこの間の増加額約十二億四千万円である。支那に対する干渉政策なるものが、いかに経済上無力であったかが、これで知れる。実にこの間における支那に対する貿易の増加額だけは、インドに対してさえも増加しておるのである。
 
更にまた、前に朝鮮等について述べた如く、貿易の総額に関してはこのようであるとしても、何か特殊の工業原料にても、干渉政策の結果、支那から得ておるかと言うに、これもまたほとんど説くに足りない。たとえば世人はしばしば支那の鉄、支那の石炭と、大騒ぎするが、昨年において、その鉄はようやく二億五千三百万斤、石炭は五十五万八千トンを、輸入しておるに過ぎない。こればかりの物に、何の利権騒ぎをする要があろう。普通の商売として、昨年米国からは十二億五千五百万斤、英国からは三億三千二百万斤の鉄の輸入があったのである。      

 
シべリヤに対する干渉が、経済上どんな結果をもたらすかは、これからの問題であるが、思うに支那に見た先例より悪ければとて、善くないことは明白である。
 さて朝鮮、台湾、樺太を領有し、関東州を租借し、支那、シベリヤに干渉することが、我が経済的自立に欠くべからざる要件だなどいう説が、全く取るに足らざるは、以上に述べた如くである。
 
我が国に対する、これらの土地の経済的関係は、量において、質において、むしろ米国や、英国に対する経済関係以下である。これらの土地を抑えておくために、えらい利益を得ておる如く考うるは、事実を明白に見ぬために起った幻想に過ぎない。果してしからばこれらの土地が、軍事的に我が国に必要なりという点はどうか。
 
 
軍備については、この頃、いろいろの説が流行する。けれども畢寛、これを整うる必要は、①他国を侵略するか、あるいは②他国に侵略せらるる虞あるかのニッの場合の外にはない。
他国を侵略する意図もなし、また他国から侵略せらるる虞もないならば、警察以上の兵力は、海陸ともに、絶対に用はない。さてしからば我が国は、いずれの場合を予想して軍備を整えておるのであるか。政治家も、軍人も、新聞記者も異口同音に、我が軍備は決して他国を侵略する目的ではないと言う。勿論そうあらねばならぬはずである。
 
吾輩もまたまさに、我が軍備は他国を侵略する目的で蓄えられておろうとは思わない。しかしながら吾輩の常にこの点において疑問とするのは、既に他国を侵略する目的でないとすれば、他国から侵略せらるる虞のない限り、我が国は軍備を整うる必要のないはずだが、一体何国から我が国は侵略せらるる虞があるのかということである。      

 
前にはこれを露国だと言うた。今はこれを米国にしておるらしい。果してしからば、吾輩は更に尋ねたい。米国にせよ、他の国にせよ、もし我が国を侵略するとせば、どこを取ろうとするのかと。
 
思うにこれに対して何人も、彼らが我が日本の本土を奪いに来ると答えはしまい。日本の本土の如きは、只遣ると言うても、誰も貰い手はないであろう。さればもし米国なり、みるいはその他の国なりが、我が国を侵略する虞があるとすれば、それはけだし我が海外領土に対してであろう。否、これらの土地さえも、実は、あまり問題にはならぬのであって、戦争勃発の危険の最も多いのは、むしろ支那またはシベリヤである。
 
我が国が支那またはシベリヤを自由にしようとする、米国がこれを妨げようとする。あるいは米国が支那またはシベリヤに勢力を張ろうとする、我が国がこれをそうさせまいとする。
 
ここに戦争が起れば、起る。而してその結果、我が海外領土や本土も、敵軍に襲わるる危険が起る。さればもし我が国にして支那またはシベリヤを我が縄張りとしようとする野心を棄つるならば、満州、台湾、朝鮮、樺太等も入用でないという態度に出づるならば、戦争は絶対に起らない、従って我が国が他国から侵さるるということも決してない。
 
論者は、これらの土地を我が領土とし、もしくは我が勢力範囲としておくことが、国防上必要だと言うが、実はこれらの土地をかくしておき、もしくはかくせんとすればこそ、国防の必要が起るのである。それらは軍備を必要とする原因であって、軍備の必要から起った結果ではない。
 
 
 しかるに世人は、この原因と結果とを取り違えておる。謂えらく、台湾、支那、朝鮮、シベリヤ、樺太は、我が国防の垣であると。安ぞ知らん、その垣こそ最も危険な燃草であるのである。而して我が国民はこの垣を守るがために、せっせといわゆる消極的国防を整えつつあるのである。吾輩の説く如く、その垣を棄つるならば、国防も用はない。
 
あるいは日く、我が国これを棄つれば、他国が代ってこれを取ろうと。しかりあるいはさようの事が起らぬとも限らぬ。しかし経済的に、既に我が国の爾かく執着する必要のない土地ならば、いかなる国がこれを取ろうとも、よいではないか。
 
しかし事実においては、いかなる国といえども、支那人から支那を、露国人からシベリヤを、奪うことは、断じて出来ない。もし朝鮮、台湾を日本が棄つるとすれば、日本に代って、これらの国を、朝鮮人から、もしくは台湾人から奪い得る国は、決してない。日本に武力があったればこそ、支那は列強の分割を
免れ、極東は平和を維持したのであると人は言う。過去においては、あるいはさようの関係もあったか知れぬ。しかし今はかえってこれに反する。日本に武力あり、極東を我が物顔に振る舞い、支那に対して野心を包蔵するらしく見ゆるので、列強も負けてはいられずと、しきりに支那ないし極東を窺うかがうのである。
 

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