日本リーダーパワー史(61) 辛亥革命百年④ 仁義から孫文を支援した怪傑・秋山定輔①
日本の政治経済、外交軍事は申すに及ばず、日常の問題になっても、直ち支那(中国)ということが出て来るなど、日本の国民生活にとって、支那ほど大きな関係を持っている国はない。別して今日、此の時代、支那は日本の支那であると同時に、世界の支那である。世界の沸騰、噴火の根元は支那であると云っても差支へない。
其の私が、妙なことから支那に関係するやうになったのである。支那を知らず、支那趣味を持っていない私が支那に関係したのであるから、其の心持や、動機を云へば、純粋な日本的な気持からである。やれ支那をどうしようの、支那革命がどうのといふ議論からではない。実はお恥かしいくらい貧弱な、単純な気持からである。いわば、一片の同情心、気の毒だなと思った感情、人のか艱難に同情する惻隠の心から始まったことである。そして、其の対象が孫文だったのである。
、中村をして大倉に交渉させたのは犬養の差図であったから、犬養としては大責任があるわけだ。処が、「私は中村さんに廃銃であることをお断りして、廃銃の値段で売りましたのです。私としては不都合はいたしません」と大倉は云ふ。支那の国情や、革命の理論は別としても、第一、孫文一個人としての人間に付けられる点数を云へば、どれ丈け付くか、甚だ心細いものであった。
「いくら国では革命を唱へても、第一あんなヒヨロヒョロした生青い男に何が出来るものか」
大概の人がさう云ふやうな孫文であった。実際それは一理あることだ。健康が保たず、中途で倒れるやうな男では何にも出来ないのだ。
同情の結果、無条件に結び付いたやうなものの、私も最初の間は不安だった。私はこれまで、随分と日本人にも騙されたが、西洋人や支那人の食わせ者にも騙された経験がある。それを知っている私の友人達から頻りに苦情が出た。
「あんな男を信用すると馬鹿を見るぞ。気を付けたがいい」
諸友は多くさう言った。けれども、一旦義によって結ばれた隣邦の友をそんなことで見棄てることはできないが、併し、「先づ第一に体力から試して見る必要がある」と私も考えた。
孫文と一緒に、家で飯を食うこともあるが、築地辺へ食ひに出掛けることもしばしばあった。其の時は神田の錦町から丸ノ内を通って築地の本願寺の側まで必ず歩いた。錦町から築地までは何なりの道程だ。
私は脚には自信があった。緩くりゆっくり歩くつもりでも可成り速い。ところが、孫文もヒヨロヒョロしているに似合はず、なかなか脚が達者だ。途々も話しながら楽々ついて来る。ついでながら会話は英語だ。孫の英語は達者なもの。私も英語は少し得意だったから両人とも談話では何ら不自由はなかったのだ。とにかく、孫の脚は予想を裏切ってなかなか強い。
「君は割りによく歩くね、僕について歩けるとは思わなかったよ」
と私が云ふと、孫は笑って、
「僕は脚は達者だ。苦力をしたことがあるからね」
と答へた。成る程それぢや脚は強い筈だ。
その時分私は盛んに素人角力を取った。自分の家に土俵を築いて「錦部屋」と称してゐた。諸友が集まって盛んに取った。
終ひには孫文も仲間に入って角力を取った。
孫文を知る動機は以上申し上げたやうなことで、理想からでもなければ理窟でもない。ただ一片の同情心から彼を知ったのだった。
併し、知ると共に増し情味も深くなり、私は彼の打ち明け話しやら希望やらを開き、又ますます彼の口から革命の哲理を聞いた。
聞いて見れば、これがいわゆる琴線に触れると云ふか、よく解る、解る以上だ。しまいにはわかり過ぎてどっちが元やら分らんくらい。恰も私がいわんとすることを孫が云ってくれたり、又孫の方でも、私の云ふことが、彼の云はんとすることであったりするといふ工合。私はその時分、自分が考へていたことを其のまま孫文に話した。
関連記事
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(261)/ 『2011/ 3/11から2週間後に書いた記事- いまリーダーは何をすべきかー「海軍の父」山本権兵衛 から学ぶ』★『山本権兵衛は歴代日本宰相のーのベスト3に入るリーダーパワーを発揮した『坂の上の雲』の真の主人公>
2012/05/27 日本リーダー …
-
-
日本リーダーパワー史(405)『安倍国難突破内閣は最強のリーダーシップを発揮せよ③『今後4ヵ月の短期国家戦略提言』
日本リーダーパワー史(405) 『安倍国難突破内閣は最強のリーダーシ …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(164)記事再録/『袁世凱の政治軍事顧問の坂西利八郎(在中国25年)が 「日中戦争への原因」と語る10回連載』●『万事おおようで、おおざっぱな中国、ロシア人に対して、 日本人は重箱の隅を小さいようじでほじくる 細か過ぎる国民性が嫌われて、対立がエスカレーとし戦争に発展した』
2016/09/13日中韓 …
-
-
『Z世代のための歴史の復習問題・福沢諭吉研究』★福沢諭吉の『朝鮮独立党の処刑』(『時事新報』明治18年2月23/26日掲載)を読む➀『婦人女子、老翁、老婆、分別もない小児の首に、縄を掛けてこれを絞め殺すとは果していかなる国か』★『この社説が『脱亜論」のきっかけになり、日清戦争の引き金になった』
2017/02/20 /日本リーダーパワー史(767 …
-
-
『オンライン講座ー★人生/晩成に輝いた偉人たちの名言①』●『日本一『見事な引き際・伊庭貞剛の晩晴学②『「事業の進歩発達を最も害するものは、青年の過失ではなく、老人の跋扈である。老人は少壮者の邪魔をしないことが一番必要である」』』
2019/11/20 『リーダーシップの日本近現代史』( …
-
-
『百歳学入門(202)』<100歳社会の手本―葛飾北斎に学ぶ -「創造力こそ長寿力」★『70歳以前に画いたものは取るに足らない。八十歳にしてますます精進し、九十才にして奥義を極め、百才にして神技となり、百才を超えて一点一画を生きているように描きたい』(画狂老人述)
100歳社会の手本―葛飾北斎に学ぶ ―「創造力こそ長寿力」 私は富士山マニアであ …
-
-
日本リーダーパワー史(498)『アジア太平洋戦争から69年を前に「憲政の父」・尾崎咢堂の『敗戦の反省』(1946年)を読む
日本リーダーパワー史(498) 来年(1 …
-
-
『Z世代のための明治大発展の国家参謀・杉山茂丸の国難突破力講座⑥』★『杉山茂丸の国難突破力に学ぶ』★『22歳の杉山と46歳の元老黒田清隆、元老伊藤博文(45歳)とのスピーチ、ディべィ―ト決闘、勝負!して手玉にとった!』
2014/08/08 /日本リーダーパワー史(519)『杉山茂丸の国難突破力に学 …
-
-
国際ジャーナリスト・近藤健氏が<2016年アメリカ大統領選挙>について語る≪60分ビデオ)
近藤健氏は元毎日新聞ワシントン支局長・外信部長・元国際基督教大学教 …
-
-
人気記事再録/「日本興亡150年史―外国人が日本を救う』★『明治の大発展から昭和の戦争敗北が第一の敗戦』★『戦後(1946年)廃墟から立ち上がり独立、奇跡の高度成長で世界第2の経済大国にのし上がるが、一転、バブルがはじけて第2の敗戦へ』★『「少子超高齢人口急減国家」「ゾンビ社会」に明日はない』
2018年6月20日/日本興亡150年史―外国人が日本を救う。 日本はついに移民 …
