日本リーダーパワー史(71)明治のトップリーダーの素顔は・中江・山県・川上・・・<頭山満が語る明治リーダー真の姿>
2015/03/20
日本リーダーパワー史(71)
明治のトップリーダーの素顔・中江・山県・川上
<頭山満が語る明治リーダー真の姿>
前坂 俊之(ジャーナリスト)
① 中江兆民の素顔
中江は狂態を装おうていたが、実に天真爛漫なものじゃ。初めて知ったのは自分の三十前後の時じゃ。大阪で有志大会があった時、その席上、「私は中江といいます」と名乗って来た。それから三日続けて自分の宿にやって来て、ビールを下さい、私は他の奴のところには行きませんが、貴方のところじゃから来ますといって、ビールを半ダースずつ飲んで帰った。その時、岡山県代議士で国民党の竹内というのが、自分のところに来て中江と一緒になった。
「中江さん、私は是非一皮貴方のところにお伺いしようと思って居ります」といつたら「俺は貴様に用はない、来ることはいらぬ」とぴしゃり。
これには竹内も閉口していた。中江はいつも貧乏していたが、実に天真を流露していて、心はなかなか冴えていた。
井上馨や何かは物の数にも入れず、伊藤博文より大隈重信を上に見ていた。
自分は中江が病気をしていると聞いたので、日下部正一と一緒に見舞に行った。「さわるようだったら面会せずに帰るが、差支へなかったら会いたい」といつたら奥さんが「障るどころじゃありません、会わせくれと毎日黒板にお名前を書いているような訳で」上って枕許に座ったら非常に喜んで、自分の手をシツカリ掴んだ。
黒板にチョークで「伊藤、山県駄目、あとのこと頼む」と書いた。自分がウム、ウムと二度肯いてみせたら非常に喜んだ。その日から一日か二日して死んだ。(昭和18年、5、10日速記)
② 山県有朋の素顔

山県は徳川家康を細引きにしたやうな男じゃ。楷書の画の足らんような男でもある。一体はなかなかの者じゃろう。細心で用心深く、何事によらずよく考へる質の奴じゃろう。
考へる時は夜も寝ずに考へるといふ風じゃろう。
同じ長州でも伊藤博文や井上馨よりはしっかりしているようじゃ。思慮にも富み、胆気も多少あろう。
今時の連中のように口先だけで天下を取ろうなどというのとは、少し違っているやうじゃ。然しいつも何だか楷書の画の足らぬような感じがするわい。あれに乃木のよい所を加へたなら、それこそなかなかのものであらう。
如何にも惜しいものじゃ
③ 川上操六の素顔
人間という奴は妙なもので、民間にいる間は一かどの役に立つべき豪傑肌の男でも一度、官吏の仲間入りするが最後、三文の価値もない骨抜きの幽霊になってしまう。つまりお役目ゆえに骨抜きになるのじゃなあ。

軍人とか何々官とか、エラそうにいいながら、先輩や上官の前に出ると、ネコににらまれたネズミのごとくふるえへ上って、たゞもうどうして御機嫌を取ったらよいかといふことばかりに気を取られて、男一匹自己の意見を述べることが出来ないとは、何たることか。情ない人間が多くなったものじゃ。
そこへ行くと川上操六は実に偉かったと思う。彼は随分面倒の多い時代の陸軍を背負っていたが、いやしくも自己の計画がこれだと信ずる以上、あくまでも無遠慮に押通しておった。たとえ元老だらうが先輩だらうが、眼中に置かなかった。
水清ければ魚棲まずで、川上が陸軍部内にある間は、日本の陸軍は大丈夫じゃったが、それだけ川上は元老連から嫌われていた。川上は頭脳の緻密な男で、国防問題を担任、研究する参謀総長として、まことに適任であったと思う。
歴代の総長は誰も彼も元老の圧迫を受けて、思う存分の仕事が出来なかったが、川上だけは格段じゃった。いやしくも一国の干城として軍務に携わるほどのものが、左顧右鞭、他の御機嫌を伺うやうなことで何が出来るか、川上は近代の軍人中の偉い男じゃ。
川上の身後を飾るべき美徳は一意専心君国のために働いたことである。これまでの役人や軍人が、表面にはヤレ国家のためとか、大君のためとか、体裁のよいことを言うてはいるが、その実、彼等は職務を利用して私腹を肥やしているのだ。立派な面を被って天下を欺き、自己を偽る偽善家の群である。
こういう腸の腐った人間が国政を左右するから、種々忌まわしい問題が起るのだ。その点になると川上は気持のよい程、潔白じゃった。武人がゼニに執着するようになれば、それでおしまいじゃ。荒尾精が日清貿易研究所を作って金に窮した時、川上が番町の自宅を抵当にして四千円の金を都合してやったことなどは、今時の軍人には薬にしたくも見ることは出来ない。軍人精神の著しく堕落してゆくにつけ、自分は川上を憶ひ出す。
④ 頭山・自らの心境を語る
自分は、自分の絶対の自覚信念を喜び楽しんでいるばかりじゃ。迷いもなく、恐れもなく、ただそれを楽しんでいるだけじゃ。褒めようと、謗(そ)しろうと人の勝手じゃ。凡人など百人おらうと何人おらうと、己一人きりが頼みじゃ。その百人のうちに万世生き通し、不老不死の奴がたまにはおる。
笑う奴は笑わせて置けばよい。佐久間象山は「嗤(わらう)ふ者汝の嗤ふに委す、謗(そし)る者汝の謗(そし)るに委す。天光我を知る。他人の知るを求めず」というておる。強いて知己を人間に求めようと思っていない。天地を相手としておればそれでよい。
自分一人を多数と思うておる。独りで居て淋しくない人間でなくてはならん。自分は絶対の魂は人後に落ちんが、学者でもなければ能者でもない。
独りで居て淋しくない人間になれ。子供の時からこの考へでいたが、今でもさうじゃ。
世間には、自分が浪人者だから、不遇じゃの、気の毒じゃのという者があるようじゃが、自分は何とも思わん。不満も不平もない。日本という結構な国に生れたことが何よりも有難い。たゞ開闢以来、祖先から受けた大恩を如何にして報ゆるか、それを只管考えるだけだ。その為には励積あるのみじゃ。
< 参考文献「頭山満翁正伝(未定稿)1943年版」(昭和56年、葦書房)>
関連記事
-
-
★『巣ごもり動画で私の鎌倉古寺巡礼で最も好きな<苔の寺/妙法寺』を紹介します』★『鎌倉通―梅雨で美しい<奇跡の苔石>800年前の鎌倉時代の面影を残す唯一の古寺』★『<鎌倉古寺巡礼>『鎌倉で最高の巡礼のお寺はどこでしょうか?ー妙法寺(苔寺)の山道じゃ。単独で往け』
「秋の紅葉の鎌倉めぐりのおすすめは!・・苔寺/妙法寺 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(182)記事再録/★『高橋是清の国難突破力(インテリジェンス)②』★『「明治のリーダー・高橋是清(蔵相5回、首相)は「小さな 政治の知恵はないが、国家の大局を考え、絶対にものを恐れない人」 ★『政治家はすべて私心を捨てよ』(賀屋興宣の評)
2019/09/25   …
-
-
日本敗戦史(50)マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る 『なぜ日本は敗れたのか』②リーダー不足と力量不足
日本敗戦史(50) マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る 『な …
-
-
再録『世田谷市民大学2015』(7/24)-『太平洋戦争と新聞報道』<日本はなぜ無謀な戦争を選んだのか、500年の世界戦争史の中で考える>③
『世田谷市民大学2015』(7/24)- 戦後70年夏の今を考える 『太平洋戦争 …
-
-
知的巨人の百歳学(140)-『六十,七十/ボーっと生きてんじゃねーよ(炸裂!)」九十、百歳/天才老人の勉強法を見習え!』★『「日本経済の創始者」/「日本資本主義の父」渋沢栄一(91歳)』★『「論語とソロバン」の公益資本主義を実践、その哲学は「会社の用はわがものと思え。会社の金は人のものと思え」★『年をとっても楽隠居的な考えを起さず死ぬまで活動をやめない覚悟をもつ』
記事再録・2017/08/06/百歳生涯現役入門(177) 渋沢栄一1840年( …
-
-
知的巨人の百歳学(154)記事再録 <日本超高齢社会>の過去④<日本の天才長寿脳はだれなのか・黒澤明(88歳)、『野上弥生子(99歳)、昭和天皇が87歳で最長寿、在位期間も63年で一番長いですね>
2010/01/26 /百歳学入門(14) < …
-
-
記事転載/1895(明治28)年1月20日付『ニューヨーク・タイムズ』 ー 『朝鮮の暴動激化―東学党,各地の村で放火,住民殺害,税務官ら焼き殺される。朝鮮王朝が行政改革を行えば日本は反乱鎮圧にあたる見込』(ソウル(朝鮮)12/12)
: 2014年11月4日/「申報」や外紙からみた「日中韓150年戦争史 …
-
-
新刊出版『世界史を変えた「明治の奇跡」(インテリジェンスの父・川上操六のスパイ大作戦)』★『150年前の明治維新で世界にデビューした極東アジアの<弱小貧乏島国国家・日本>はどのように西欧列強、中国/韓国と立ち向かい、「世界史の奇跡」』(日清・日露戦争勝利の方程式)を解いていったのか。』★『空前絶後の名将・川上操六の戦略を解明する!』
世界史を変えた「明治の奇跡」 インテリジェンスの父・川上操六のスパ …
-
-
『Z世代のための昭和政治史講座/大宰相・吉田茂論①」★『<国難を突破した吉田茂(84歳)の宰相力、リーダーシップ、歴代宰相論』★『首相なんて大体バカな奴がやるもんですよ』★『明治と昭和のリーダーの違い、総理大臣バカ論』★『文芸春秋』1962年2月号の「私は隠居ではない」より)』
2011/3/11/福島原発事故があった 半年後の09/22 &nbs …
-
-
「Z世代のための、約120年前に生成AI(人工頭脳)などはるかに超えた『世界の知の極限値』ー『森こそ生命多様性の根源』エコロジーの世界の先駆者、南方熊楠の天才脳はこうして生まれた(2)』★『独学/独創力/創造力/観察力/絵画力/集中力の研究』
2009/10/02 日本リーダーパワー史 (23)記事再録 『ノーベル賞を超え …
