前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(520)『「明治の国家参謀・杉山茂丸に学ぶ」➃『軍事、外交は、嘘(ウソ)と法螺(ほら) との吐きくらべ」

      2021/08/19

  

 日本リーダーパワー史(520

 

『「明治大発展の国家参謀・杉山茂丸の国難突破力に学ぶ」

今こそ杉山の再来の<21世紀新アジア主義者>

が必要な時」』➃

 

                前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)

 

ほら丸を自称した杉山の交渉術―『軍事、外交は、嘘(ウソ)と法螺

(ほら)との吐きくらべで、吐き負けた方が大損をするのである。

つまり国家の命脈はかかって嘘と法螺にある。

 

さて、このように大物キラーの茂丸の交渉術には一貫した『戦略的思考』「外交術」が見えるが、それについて明治42年1月号、週刊『サンデー』の『法螺の説』の中でこう書いている。

 

『一体法螺というものは、大きい嘘を吐くことにて、嘘というものは人間の一番悪い行為としてあるが、悪い行為だから一切これを吐かぬことに厳禁したら、人間の交際は丸で石地蔵の頭を金槌でたたくようなものである。中国戦国時代の諸葛孔明も「手のつけようのない大法螺吹き」ということになる』

『殊に軍事、外交の如きは、嘘と法螺との吐き競べで、吐き負けた方が大損をするのである。つまり国家の命脈はかかって嘘と法螺にあると云うてよいのである。

『捨身でさえかかれば世の事は安々と運ぶものだ。無を有にし、有を無にするという禅味三分と、世界識見五分とを突き混ぜて足の親指と下っ腹に渾身の力をこめて大法螺をふくのじゃ》(某日庵叢書弟二篇) (以上多田茂治『夢野久作と杉山一族』弦書房2012年刊)

 

これが「ほら丸」交渉術なのである。捨て身の覚悟、胆識と世界識見(いまでいうグローバルインテリジェンス)を心得て実践、成功した日本を勝利に導いた稀有の戦略家であった。

 

このようにして杉山の「ホラ丸交渉術」は次々に功を制していくが、杉山と他の国粋的なカチカチの右翼壮士、玄洋社のメンバーとも大きく違うのは、その経済通、国際経済にも深い造詣を持っていたこと。茂丸は「経済の神様」といわれた松方正義首相、金子堅太郎農商相らのところを度々訪れ、経済、金融政策について議論をふっかけた。一国の総理からみれば全くの若造だが、松方が真剣に耳を傾けたところを見ると、その並々ならぬ経済通がうかがえる。


下村も『茂丸の座談は、まことに経済なるもの口にする。払い込がいくらで配当が何分だから利回りがいくらくになる、為替が何ドルを割ったから外債の利子がいくらいくらになるとか、日歩がいくらの、コールが何厘だのと、ソロバンの細かい数字を、大日本の百年の国策に取り交ぜ、談論風発、相手を煙幕に巻き込んでしまう』という。

政治分野と同時に、「日本の空を工場のエントツで真っ黒にしてみせる」といち早く工業立国論を唱え、児玉台湾総督の知恵袋として台湾銀行を作り、日本興業銀行の創設、満鉄創設、鉄道の国有化にも熱心に取り組んだ。

香港や上海、アジアを相手に貿易に携わり、特に米国には工業の視察に前後五回も訪れ、内閣嘱託として日本公債引き受け交渉にも従事した。

日本興業銀行創設のため、一片の紹介状も持たず渡米して、金融王・モルガンとわたり合ったいきさつは、「もぐら流」のタフネゴシエイタ―が世界にも通用した一例である。


・金融王・モルガンを煙に巻く

 

杉山は1898年(明治31)、一片の紹介状も持たず単身渡米して、各国の元首でも容易に会えないといわれた世界最大の金融業者のモルガン商会のJP・モルガンに面会した。
その得意の弁舌で一億三千万ドルの融資を引き出すことに成功する離れ業を演じ
た。
この時のやりとりも茂丸一流である。交渉がまとまった際、茂丸はその内容を覚書にしてほしいと依頼すると、モルガンは突然大声で怒りだし「私がイエスといったのだ
ぞ」とテーブルをドンと叩いた。
部屋の空気は一瞬、凍りついた。通訳らも契約破棄?か、と青くなった。しかし、茂丸は平気の平座。
「もう一度、テーブルを叩いてください。そうすれば、その音が日本まで聞こえるでしょう」とタンカを切った。


Why!」-今度はモルガンが驚いた。

 

「私は日本政府と関係ない一介の観光客にすぎない。その私が世界のモルガンに会えて、日本にとって大変有り難い工業開発の条件をいただいた。その声、音を日本政府、国民に聞かせたい。私はあなたがイエスと言った言葉を信じるとか、信じないかの資格のある男では有りません。私の希望としてはあなたがテーブルを叩く音よりも、あそこにいる美人秘書のタイプライターの音なのです」

 

ジョークを交えての、胸のすく一発である。


これには、さすがのモルガンも1本参って、早速、美人文書をタイプさせ、茂丸に手渡した。この手のエピソードには事欠かない。茂丸は日本刀の愛好者で「備前長船」の名刀を頭山にプレゼントすると、即座に頭山は手放してしまい、杉山をあきれさせたというエピソードがあるが、このやりとりを見ていると『交渉の達人』の日本刀切れ味鋭い、一閃というかんじである。



この茂丸の離れ業には伊藤、山県とも今更ながら茂丸の交渉力に目を見張った。ところが、松方蔵相が銀行家の猛反対に押されて「そんな安い外資が入ると、日本の銀行はつぶれる」と反対に回り、外資導入はオジャンとなった。

結局、国内資本だけで日本興業銀行は創設され、杉山は初代総裁に推されるが、蹴ってしまう。伊藤からも警視総監に就任を要請されたが、そんな小さい役はゴメンだと、生涯浪人を貫いて、自由自在に国益のために奔走したのである。

杉山の交渉術、凄腕についてはモルガンの顧問弁護士のF・ジェ二ンゲが明治三二年六月、母校ハーバード大学において法学博士(名誉学位)を受けるために渡米した金子堅太郎に次のような茂丸評を寄せた。

「彼があなた(金子のこと)と同じょうに英語が話せるのなら、この国では大いに歓迎されることであろう。彼は既成概念を超えた新しい発想の持主であるようで、その発想を数字具体的に組立て、理論整然と説き来り、説き去り、聞く者をして十二分に納得せしめ得る話術の持ち主である。私は今までに沢山の日本人に会っているが彼ほどの人物には会ったことがない。あなたから時々米国に来るように話してくれ」(野田「杉山茂丸伝」204P)と折り紙をつけている。

                                                                                      つづく

 - 人物研究, 最先端技術『見える化』動画 , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『リーダーシップの日本近現代史』(236)/百歳現役入門― 団塊世代は元気な百歳をめざそう, <健康長寿の秘訣はこれじゃ>『「少くして学べば、則ち壮にして為す有り。壮にして学べば、則ち老ゆとも衰へず。老いて学べば、則ち死すとも朽ちず」(佐藤一斎)』

   2018/02/09 /百歳学入門(198)/記事再録 …

no image
明治史の復習問題/日本リーダーパワー史(83) 近代日本二百年で最大の英雄・西郷隆盛を理解する方法論とは・(上)」★『西郷隆盛はどこが偉かったのか』(下)<政治リーダーシップは力より徳>』尾崎行雄の名講義

日本リーダーパワー史(83)   近代日本二百年で最大の英雄・西郷隆盛 …

no image
日本リーダーパワー史(185)『世界一の撃墜王・坂井三郎はいかに鍛錬したか』ー<超人(鳥人)百戦百勝必勝法に学ぶ>

日本リーダーパワー史(185) 『世界一の撃墜王・坂井三郎はいかに鍛錬したか』< …

★『アジア近現代史復習問題』・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(4)ー「北朝鮮による金正男暗殺事件をみていると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」●『(朝鮮政略) 一定の方針なし』(「時事新報」明治27年5月3日付〕』★『朝鮮は亡国寸前だが、李鴻章は属国として自由に意のままに支配しており、他国の侵攻の危機あるが、緊急の場合の日本側の対応策、政略は定まていない』★『北朝鮮リスクとまるで同じ』

 ★『アジア近現代史復習問題』 ・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(4)  「 …

no image
日本リーダーパワー史(485)幕末・明治(約60年)は「西郷隆盛・従道兄弟政権 時代」が、日本大躍進をもたらした。

  日本リーダーパワー史(485)   明治人物ビックリ仰天の新しい視点― 徳川 …

『70-80代で世界一に挑戦、成功する方法②』★『100歳でロッキー山脈を滑った生涯現役スキーヤー・三浦敬三氏(101歳)は三浦雄一郎のお父さん』★『ギネスブックの「世界一のスキー・ファミリー」の驚異の長寿健康実践法とは』

 2015/03/27 /「百歳・生涯現役学入門(108)記事再編集 …

no image
ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉑ 『大日本帝国最後の日(1945年8月15日)14日、最後の御前会議での昭和天皇の言葉は⑥

  『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉑   『大日本帝国最後の日― (1945年8 …

『京都名刹・名園ぶらり散歩動画は楽しいよ」★「静かに名園、長谷川等伯を観賞できる穴場の『智積院』(ちしゃくいん)はステキだね」

京都名刹/名園ぶらり散歩(2017年9/3)ー静かに名園、長谷川等伯を観賞できる …

『湘南ビーチ・ぶらぶら散歩は心が晴れるよ①』『鎌倉材木座海岸、逗子海岸、葉山森戸海岸からの富士山絶景ビュー』(葛飾北斎/スマホ写真版8変化)

鎌倉材木座海岸から江の島の右手、山上に三角形の白雪富士山が見えた。 2025/0 …

『F国際ビジネスマンの『世界漫遊・ヨーロッパ・カメラ・ウオッチ(18)』★『オーストリア・ウイーンぶらり散歩⑤』(2016/5) 『旧市街中心部の歩行者天国を歩く』★『ケルントナー通り、グラーベン、コールマルクトには有名ブランドやハプスブルグ家御用達の老舗、カフェの名店、高級スーパーが立ち並ぶ。』

  2016/05/18 『F国際ビジネスマンのワールド・カ …