『明治裏面史』★『日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊴『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力と責任⑪』●『日露戦争開戦前-陸海軍統帥部協同の準備と意見相違の内情』★『児玉次長の海軍将校に対する態度は慇懃を極め、あの敏活なる決心も、あの強硬的態度も、あの気短かも海軍の面前に出ては一切控えて常に反対の現象を呈した。』
2018/04/25
『明治裏面史』 ★
『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、
インテリジェンス㊴『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力と責任⑪』★
日露戦争開戦前ー 陸海軍統帥部協同の準備と
意見相違の内情
開戦前、参謀本部、海軍軍令部は、相互に若手とベテランの将校を交換して作戦に関する協同作業に努め、星桜会を組織して鯨飲談笑(飲み会でコミュニケーションを深める)ことで意思疎通を計った。しかし、両者間の根底には根本的な意見の相違があって、協調は容易でなかった。
当時、海軍の実勢力を握る山本海相は、海軍の微弱なる勢力を省みて、朝鮮をロシアの手に委ねてもわが固有領土を保全し、国防は全うできると考えていた。参謀本部の意見とは全然、根底より方針を異にしていた。
6月22日に於ける参謀総長の献策当時の経緯、その他の言説によってそれは知ることができよう。
陸軍が北韓作戦を決行するためなるべくこれに近く仁川、鎮南浦、元山津より上陸する方針に対して、海軍は絶対にその海上擁護の不安を主張し、ただ単に対島海峡の安全を保障するのみであった。
そのため、陸軍の立案せる韓国内における作戦計画諸案は海軍側は同意しないため決定できなかった。参謀本部は「もし海軍の情況がこれを許すならば・・」との前提で仁川又は元山の上陸に関し単に研究するのみであった。
海軍軍令部にも少壮参謀中山下大佐、財部中佐、上泉中佐の如く頭脳明晰にして大勢に通じるものもいて、陸海両軍の間に熱心協調を試みたが、軍令部長、次長は常に海相との間に立って板狭みの状態となって、意見はなかなか一致しなかった。
かくして、国家有事の時間は刻一刻と過っていったが、12月下旬に至り時局は切迫を告げ、政府の方針も概略、決定に近づき陸海軍の出兵準備をはじめた。
12月25日、児玉次長は各部長と会し断然陸海軍主任者の協同会議の緊急なることを告げ、海軍への交渉となり、いよいよ12月30日を以て参謀本部に会合、陸海軍協同作戦会議が開かれた。
この日、陸軍側よりは総長、次長及び各部長出席し、海軍は軍令部長、同次長、財部、上泉及び中野の三中佐が列席した。会議ではつぎのことを決定した。
➀、命令一下第一、第二艦隊は旅順の敵艦隊に対し決戦を企図す。これがため佐世保を出発し先ず木浦附近に集結し、
主力を以って旅順に到る予定なるも、敵艦の不意を急襲できなければ、木浦附近の根拠地に至りて偵察を行い、逐次決戦を求む。
第三艦隊主力を鎮海湾に集結し、一部を竹数に配置し、対馬海峡の整備に任ず。
②、陸軍の臨時派遣隊は海軍の行動に先んじて派達しないこと。早くも之れと同時なること(即ち第十二師団長に通報す)
➂、北京より張家ロを経てキャクタに通ずる電線を切断すること (青木大佐に訓令す)
④、鏡城以北の電線架設に対する処但法(桜井大佐に訓令)
⑤、対島、函館要塞に臨時演習召集を命じ、大口径砲一門につき30発の弾丸を整備すること(即日陸相へ協議)(右会議後更に参謀木部は部長会議を行い上述括孤内のことを決議す)
なおこの会議において注目すべき要件あり。伊集院軍令部次長は、海軍は命令一下あらば、24時以内に敵に向い出帆することができる証言したことである。
そのため、陛軍側は韓国への先遣徴発隊及び臨時派遣隊の出発をも見合せ、海軍側の希望に応じ以って京城の秩序を犠牲にせんとし、海軍第一作戦たる急襲を成功させるため海軍の提言に同意を表した。
明治37年になり、1月7日の閣議に臨みては、海軍は運送船を集合するため本20日にならなければ出発の準備は整わないと表明した。これを聞いた陛軍側は、慨嘆措く能わざりしも、如何ともすることができなかった。決議の表明上、政府は外交の手段を以ってしばらく開戦を猶予し海軍の準備整うのを待つことに決した。
一方、臨時派遣隊の搭乗すべき運送船は着々と儀装を終え、その一部は近く出発し得る情況になり、他方時局は、益々切迫し一日も早く出発の必要を認めたため、参謀本部各部長は次長に迫り、内閣の決心を促した。
11日再び閣議において陸軍側は単独出兵をも検討したが、依然海軍の準備整うまで出兵を見合すことに決定し、翌日の御前会議においてこの決定を再確定したに過ぎなかった。
ところが19日に至り、先遣徴発者を搭乗せる長門丸は突然門司を出帆したと報告があった。実はそうではなかった(この際参謀本部は不意のこととて決行延期を通告し、石本陸軍次官に反って敢行させようとしたのである)。
即日、参謀本部は海軍に交渉し、臨時派遣隊の構成を至急、上奏御裁可を経、予定の如く翌20日、海軍の準備整い次第出発せしめ、且北京営口間電線の破壊をも青木大佐、錦州駐劉川崎大尉に訓令すべきを協議したが、意外にも海軍軍令部次長は又、復来る25、6日にあらざれは準備は整わない旨を回答し、
その真因は「春日」「日進」の両艦が途中コロンボでの石炭補給の関係上遅れて26日にならなければ同港を出帆することができないため時機を待ちつつあったことがわかった。
この事は海軍側には必要の事であろうが、一方、政府の諸準備が整った今日、此一事が先制の利を占めべき帝国陸軍の緒戦に影響を与うべきを顧慮した陸軍側にとっては、一は以って一日千秋の思いとなり、一は以って憤慨のタネを播くものであった。(コミュニケーショングアップの問題)
このようにして明治37年2月4日の開戦は、御前会議を経過、遂に臨時派遣隊は2月6日まで出帆することができなかった。
当時ロシア軍が韓国に侵入して攻勢をとらなかったので、この出帆期の遷延は何等大局に影響する所なかったが、日本軍がロシア軍に代っていたならば、と今日これを考えると肌に粟を生ずるものがある。
言わんや参謀本部は、在仏の久松少佐より1月13日発電、ロシア軍陸上作戦として、第一、第二両軍団が園門江口と昌城方面より朝鮮に南下し、安州で連絡
の上京城占領を企図すとの電報を入手するに及んではなおのことであった。
これを要するに、開戦準備期間陸海軍の協調は上出来とはいい得ない。当時、児玉次長ありてこの始末である。10月16日、児玉次長就任直後、参謀本部各部長に開陳した左記談話によっても、その一端を知ることができよう。
昨今の時局実に国家の重大事なり。対ロシアの策、陸海軍協同和合より急なるはなし。然るに従来の行懸り上往々同者の円滑を欠き、互に確執あるを免れざりしは甚だ遺憾とする所なり。余が職分の半面は両者の円満を計るを以て主とする。
これがためには些々たる意気地の如きは放擲しなければならぬかも知れぬ。要はただ大局に於いて帝国を危急の中に救い、結局の大功を収むるに在り。此旨諒とせられたし
爾来、児玉次長の海軍将校に対する態度は慇懃を極め、あの敏活なる決心も、あの強硬的態度も、あの気短かも海軍の面前に出ては一切控えて、常に反対の現象を呈したことは、側にあった陸軍将校の記憶に新しいところで、児玉次長の心中の苦心察すべきものがあったのである。
(以上、谷寿夫『機密日露戦史』原書房 1966年、100-102P)
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