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産業経理協会月例講演会>2018年「日本の死」を避ける道は あるのか-日本興亡150年史を振り返る⑤

      2015/01/01

 産業経理協会月例講演会


2013
年6月12日 

2018年「日本の死」を避ける道は
あるか
<日本興亡150年史を振り返る>

                
                ジャーナリスト/静岡県立大学名誉教授/

                              前 坂 俊 之

 

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日本を沈没させた“老害”とならないために

 

 日本はまさに超高齢化社会化しつつあります。その中で既得権を握っている老人が、この社会で老害になってはいけないと自戒を込めて感じています。

 

そして我々の既得権も、今の財政の状況からいって維持できるものではありません。持てる者はそれを後世のために吐き出すという、米一俵の思想と同じことを行動に移さなければ日本再生は不可能であると思います。

 

 今の若い人は非常に進んでいます。我々のようにいつまでも成長や繁栄という幻影を抱き、モノを所有する昔の考え方に拘束されてはいません。持っているモノを分け合い、自由に、フランクに、ビジネスベースではなくコミュニケーションを深めていくという生活態度に変わってしるのではないでしょうか。

 

 明治、大正、戦前の昭和の日本も老害によって滅びの道に歩を進めています。昭和の初め、日本海軍の中では、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を撃破した東郷平八郎といえば、神格化された存在だったわけですが、当時の海軍の主流派は最後まで日米戦争に反対していました。1931年に満州事変が勃発した頃に、「満州事変は結局、対米英戦争となるおそれがある。それに備えるためには軍備に35億円(当時)を要する。

 

日本の国力ではこれはまったく不可能なことである」と主張した海軍軍令部長の谷口尚真大将の発言に対して、東郷元帥は烈火のように怒ったと言われています。「軍令部は毎年作戦計画を陛下に奉っているではないか。

 

いまさら対米戦争ができぬというならば、陛下に嘘を申しあげていたことになる。また、東郷も毎年この計画に対し、よろしいと奏上しているが、自分も嘘を申しあげたこととなる。いまさらそんなことがいえるか」というわけです。これはまったく理屈にならぬ屁理屈です。

 

というのも、海軍の軍令部や陸軍の参謀本部が毎年作戦計画を立てて天皇の裁可を受けるのは、万一に備えるための単なる平時の計画に過ぎず、断じて戦争計画ではないからです。後に第三次近衛内閣の海相及川古志郎は東郷平八郎のその発言に縛られて渋々陸軍に追従せざるを得なくなり、やがて日米開戦に突き進むこととなったのです。要するに、東郷平八郎という日本海海戦の神様が老害化し、日本はその後の道を誤ったということです。

 

 ところで、高齢者の呼び方について、日本とアメリカとの間では考え方

の違いがあります。

 

日本の場合、6575歳は前期高齢者、7585歳は後期高齢者、85歳以上は末期高齢者と公的には呼んでいますが、アメリカではそうではありません。6574歳まではベビーオールド(赤ちゃん老人)、7584歳までがリトルオールド(小さい老人)、8494歳まではヤングオールド(若い年寄り)、そして95歳以上がリアルオールド(真の高齢者)と呼ばれており、根底にはエージングに対する前向きな考え方があります。

 

実際にアメリカには若々しい気持ちで時間を過ごしている高齢者がたくさんいます。そうなると生涯現役ですから、最期はほとんど自然死に近いPPK(ピンピンコロリ)ということになります。

 

 日本の場合もこれから激増する高齢者は、寝たきりや認知症では困ります。三浦雄一郎さんは80歳でエベレストに登頂されました。

 

本当にすごいものです。あの人の場合は足に5キロのバーベルを巻き、背中に30キロの重石を背負って毎日8時間運動をするそうです。体力、気力はやはり元気でないと湧いてきません。この元気のない日本を変えていけるのは誰か。今70歳の人であれば、学生時代には全共闘運動が盛んであったはずで、当時は本気で社会を変えようと考えていたのではないでしょうか。その時のパワーをもう一度取り返す必要があると思います。

 

「孫子の兵法」に見る成功の秘訣

 

長々と日本の将来に対する悲観的な見方を述べて来ましたが、こうした状況を逆転する土壇場力こそ「孫子の兵法(インテリジェンス)」です。ヨーロッパにはマキャヴェッリの『君主論』やクラウゼヴィッツの『戦争論』がありますが、中国や日本では古来「孫子の兵法」が非常に重視されてきました。「孫子の兵法」はインテリジェンスの基本だったのです。

 

「孫子の兵法」の第1条は「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」です。個人の場合も組織の場合も国家の場合も、やはりこれが基本になると思います。

 

 日露戦争における明治のリーダーの場合、彼を知る、つまりロシアを徹底して研究して日露戦争に備えたわけです。日清戦争から日露戦争まで10年の間隔があります。日清戦争でロシア、フランス、ドイツの三国干渉によって、一度奪い取った遼東半島を日本は泣く泣く還付しました。

 

その後、臥薪嘗胆の合言葉のもとで、10年間ロシアを研究し、戦略を練り上げたのです。そしてイギリスを味方に付けるとともに、六六艦隊と言われる戦艦6隻を建造します。あの明治のカネのない段階で、爪に火を灯すようにして軍備を増強したのです。これに対して戦後の一部の歴史家は、日露戦争は中国、韓国に対する植民地侵略戦争であると言っていますが、単純にそのように割り切れるものではありません。

 

 「孫子の兵法」の第2条、第3条は意外と知られてはいませんが、第2条は「彼を知らず己を知れば、一たびは勝ち、一たびは負ける」、つまり相手を研究しても自分自身を知らなければ当然、勝ったり負けたりすると言っています。

 

そして3条は「彼を知らず己を知らざれば、百戦百敗」とされています。これはまさに太平洋戦争の時の日本そのものであると思います。

 

太平洋戦争の死者は兵士で100万人以上を数え、戦線を拡大した太平洋の島々では、戦闘による死傷者数よりも餓死した数のほうが多いのが実態です。そもそも軍事侵攻をかけるとき、食料は10日分ぐらいしか持って行きません。後日後方から運ばれるはずだったのですが、輸送船は悉くアメリカの潜水艦に沈められてしまいました。結局、物資は戦線に届かなかったのです。このように戦法では、百戦百敗は必定です。

 

 今回のアベノミクスの景気対策を評価する際にも、当然「孫子の兵法」は有効です。金融緩和、財政出動によるショック療法でマインドを変えていくと言いますが、果たしてこれらは管理できるものなのでしょうか。果たして勝算が明らかではない大実験をしているという自覚はあるのでしょうか。百戦百敗の方法でないことを祈るばかりです。

                               おわり(文責在産業経理協会)

 

講師紹介

                  まえさか としゆき

ジャーナリスト、ノンフィクション作家、評論家

静岡県立大学名誉教授・元毎日新聞社情報調査部副部長

 

略 歴  1943年岡山県岡山市生。

1969年に慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞社に入社。呉支局、大阪本社阪神支局、京都支局等を経て、1981年に東京本社調査部へ移動し、情報サービスセンター主任。その後、情報調査部副部長などを経て、1993年、静岡県立大学国際関係学部教授、1995年に大学院国際関係学研究科教授兼務。2009年に定年を迎え、同大学名誉教授。

以降は生涯一ジャーナリストにもどり、日本記者クラブ会員として、同記者クラブ(東京日比谷・プレスセンタービル9階)を拠点にして、国際関係政治経済、人物、昭和史まで幅広くカバー、マスメディアの終焉、ソーシャルメディアの台頭に合わせて20117月から情報発信をテキスト、写真からビデオ・youtubeに大幅にシフトしで意見・情報を発信している。

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★『前坂俊之youtubeチャンネル』

http://www.youtube.com/user/TOSHIYUKI1812

 

主要著書 論説等は多数に上るため、以下主要著書の一部のみ紹介

『日本死刑白書』(1982年・三一書房)、『冤罪と誤判』(1982年・田畑書店)、『誤った死刑』(1984年・三一書房)、『新聞記者』(1984年・実務教育出版)、『日本犯罪図鑑/犯罪とは何か』(1985年・東京法経学院出版)、『兵は凶器なり/戦争と新聞19261935』(1986年・社会思想社)、『昭和超人奇人アルバム』(1990年・ライブ出版)、『サクセス名言明訓集』(1990年・総合法令出版)、『言論死して国ついに亡ぶ/戦争と新聞』(1993年・社会思想社)、『ビジネス名言海』(1994年・ライブ出版)、『ニッポン奇人伝』(1996年・社会思想社)、『メディアコントロール/日本の戦争報道』(2005年・旬報社)、『ニッポン偉人奇行録』(2006年・ぶんか社・文庫)、『太平洋戦争と新聞』(2007年・講談社・学術文庫)、『百寿者百語/生き方上手の生活法』(2008年・海竜社)、『痛快無比!ニッポン超人図鑑/奇才・異才・金才80人』(2010年・新人物往来社・新人物文庫)、『インテリジェンス外交/戦争をいかに終わらせるか』(2010年・祥伝社・新書)、『日露インテリジェンス戦争を制した天才参謀明石元二郎大佐』(2011年・新人物往来社)、『座右銘/人を動かすリーダーの言葉』(2011年・新人物往来社・新人物文庫)ほか

以上

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