前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(819 )『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス㉞『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力⑥』★『明治32年1月、山本権兵衛海相は『陸主海従』の大本営条例の改正を申し出た。』★『この「大本営条例改正」めぐって陸海軍対立はエスカレートが続いたが、児玉参謀次長は解決した』

      2017/06/05

 日本リーダーパワー史(819 )『明治裏面史』 ★

『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、

インテリジェンス㉞『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力⑥』★

 

児玉参謀次長誕生の前から開戦に強く反対していた巨頭は山本権兵衛海相と伊藤博文元老らである。特に、陸海軍の対立は明治の日本軍制が誕生して以来の問題で、日清戦争から太平洋戦争まで延々と続き、日本大敗北の原因の1つとなった。

大本営条例の改正

 1894年(明治278月の日清戦争時の大本営は、陸軍の参謀総長が海軍の軍令部長に対し全般統制をするように大本営条例で規定されており、法的に陸海軍の作戦は統合されていた。

 当時の陸軍参謀総長は有栖川宮や小松宮の皇族殿下であり、また山県有朋などの元老が座っていたので、海軍軍令部長の中牟田中将や樺山中将は大物の陸軍参謀総長に比べると年齢差も大きく、地位も低かったので『陸主海従』の大本営条例も、問題とはならなかった。

このため、日清戦争では川上操六参謀次長大本営上席参謀兵站総監が事実上、陸海軍を1本化して統帥して、見事な勝利を収めた。大本営条例はうまく機能した。

この日清戦争直前(明治277月)、政府を前にした陸海軍合同作戦会議では、まず、陸軍を代表して川上操六参謀次長が朝鮮への兵力派遣を海軍の協力にふれずに説明した。そのあと立った山本権兵衛海軍主任が「陸軍は海軍の重要性、制海権の重要性をまるで理解していない。それなら、陸軍は単独で朝鮮まで橋を架けて、軍隊を送り込めばよい。」と川上を正面から批判して、会議の一同は唖然とする、一幕があった。

川上は山本の批判に対して即座に陳謝し、翌日、山本らを招いて陸軍参謀本部と合同の作戦会議を開催し、海軍の作戦について聞いて、以後協力体制を強化することになった。

日清戦争では川上大本営上席参謀兵站総監の『ワンボイス』で統括指揮を行った。従来の『陸主海従』大本営条例によって、戦争は遂行勝利を収めた。

 ところが、日清戦争後、対ロシア海軍を相手に、海軍がいわゆる六六艦隊(戦艦六、重巡六隻を主力艦とする)の軍備大拡張にのりだすと、予算面での『陸主海従主義』が足かせとなりに海軍は大いに不満を募らせた。

日露戦争当時は『艦隊決戦の海軍』の時代に入り、対外戦の場合、平素保有の艦隊がそのまま戦時の艦隊となり、勝敗を左右する。陸軍のように戦時には2倍や3倍に動員拡大することができない。軍艦の増艦、保有数の海軍力が勝敗を左右する『陸海協力主義』の時代に入ったのだ。

 海軍の特性を知らない陸軍出身者が常に陸主海従の思想を振りかざすのに海軍は我慢ならなかった。

明治32年1月、海軍大臣大臣となった山本権兵衛は『陸主海従』の大本営条例の改正を申し出た。「帝国陸海軍の大作戦を計画するは参謀総長の任とす』とあるのを「特命を受けた将官」に改めよ、というのである。

これに真っ向から反対したのが川上操六参謀総長だった。

「戦時作戦は平時から計画、準備され、国防全般との緊密な連繋のもとに、敵味方の情報を収集してこれに備える機能を平素から備え、完全に陸海軍を統合できるものでなければならぬ」という持論であった。

『日本のモルトケ』と呼ばれた川上参謀総長の言だけには、山本海相を意見は抑えられてしまった。同年5月、川上は50歳の若さで対ロシア戦略立案に燃え尽きて急死する。

これ以降、山本海相は海軍が憲法上の帷幄上奏権を利用して単独で明治天皇に改正意見を上奏するという事態にまで発展し、陸軍もこれに反発して同じく帷幄上奏権による海軍案反対を上奏するなど陸海軍対立はエスカレート、手の付けられない状態になった。

当時の陸海軍元帥も元老たちも打つ手がなく、明治天皇も処置に困り果てて、約四年間にわたってこの「大本営条例改正」案は棚ざらしとなり、陸海軍の抗争は続いたままだった。

明治33年に陸軍大臣になった児玉はもちろんこの間の事情をよく知っている。日露開戦近しという国難迫る状況で、「陸海軍の対立の根源である」戦時大本営条例の改正問題が、大至急解決せねばならぬ問題であることは、児玉が参謀本部次長に就任してから最直近の課題であった。

「児玉が陸軍のエース」とすれば、山本海相は『海軍の建設者』「海軍経営者(CEO)」そのものの2大巨頭である。大本営条例提出の本尊であった山本海相にとっては、こうした背景があり、「戦争に勝つためには」、陸軍に従う作戦戦略から対等の関係が必要不可欠であるとの認識をもとに、陸軍主導の『早期開戦論』には断固反対であった。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報(381)『日本のメルトダウン』『安倍財政で日本は年内にも破綻、「ガラガラポン」藤巻氏』◎『アジア諸国で高まる反中国感情』

速報(381)『日本のメルトダウン』   ◎『安倍財政で日本は年内にも …

no image
終戦70 年・日本敗戦史(57)A級戦犯指定の徳富蘇峰の『なぜ日本は敗れたのか』⑨「世界戦史上、最も愚劣な戦争だった支那事変(日中戦争)」

  終戦70年・日本敗戦史(57) マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰 …

no image
『 オンライン動画<2012年5月7日・連休!鎌倉カヤック・ハッピー日記>『沈黙の鎌倉海で―「釣れなければよし、生物を殺生するなよ、地球環境破壊の外道たちの未来を考える』★『2021年連休、地球温暖化で鎌倉海の生物は絶滅中だよ,ホントの動画❣・・・』

    2012/05/07  <鎌倉カ …

no image
 日本メルトダウン(1006)―『惨敗!プーチンに授業料3000億円を払って安倍首相が学んだこと』●『  困難は自明の北方領土交渉、過去の約束を突きつけよ ソ連だけでなくアメリカにも翻弄されてきた北方領土』★『北方領土はこうしてソ連に奪われた 日本の歴史的領土は千島列島全体だった』●『  習近平主席の改革が成功し得ない理由 中国危機は時間の問題、レーニン主義が強すぎる一党制国家の宿命(英FT紙)』●『アメリカの「核の傘」がなくなったら…を想像できない困った人たち』●『  安倍首相「真珠湾訪問」は、中国ロシアを牽制する絶妙の一手 日米ハワイ会談の正しい読み方』

 日本メルトダウン(1006)   惨敗!プーチンに授業料3000億円を払って安 …

no image
日本メルトダウン脱出法(883)『 コラム:次は意図的な「チェルノブイリ」発生か』●『コラム:気候変動が生む「世紀の投資機会」』●店内で栽培した「採れたて」野菜を売るスーパー』●『三菱自と東芝、名門企業を蝕んだ「日本病」の正体』●『錦織圭を育てたコーチが見た「天才という病」 なぜ有名選手が続々と不祥事を起こすのか』

 日本メルトダウン脱出法(883) コラム:次は意図的な「チェルノブイリ」発生か …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(140』VW不正事件―4兆円どころか、もっと天文学的数字になるのではない でしょうか?何にしても、一人のリーダーの狂気が悲劇的な結末を招いたのです。

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(140』 VW不正事件―4兆 …

no image
日本作家奇人列伝(38)作家は変人ばかり。三島由紀夫、志賀直哉、壇一雄、野村胡堂、久生十蘭、土井晩翠、草野心平・・

日本作家奇人列伝(38) 作家はなくて7クセ、変人ばかり。三島由紀夫、 志賀直哉 …

『Z世代への日本外交史研究講座』★『強権的・タフマンのトランプ大統領の再登場が世界を震撼させている』★『日本のトップリーダーはトランプ氏とどう交渉するのか?』★『 勝海舟の外交突破力④オランダ、イギリスとの紛争をアッという間に解決した 勝海舟の外交突破力を見習え>』

2014/05/23/日本リーダーパワー史(502)『 勝海舟の外交突破力④』記 …

日本リーダーパワー史(814)『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス㉙『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力』★『2階級降下して参謀次長になり、この機会(日露戦争開始4ゕ月前)に起って、日本は文字通り乾坤一擲の大血戦をやる以外に途がない。不肖ながらわしが参謀次長として蝦蟇坊(大山厳)の忠実なる女房役になろう』

   日本リーダーパワー史(814)『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露 …

no image
昭和外交史② 日本で最も長い日 1945 年8 月15日の攻防②

1 昭和外交史② 日本で最も長い日 1945 年8 月15日の攻防② ―<大日本 …