前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『中国紙『申報』が報道した『明治日本』― 日中韓150年対立史のパーセプションギャップの研究』①

      2015/01/01

  

『中国紙『申報』が報道した『明治日本』―

日中韓150年のパーセプションギャップの研究』①

 

明治維新後の日本の近代化を清国はどう見ていたか、北海道開拓や、日本政治
の在り方について、自国の政治と比較して論じている。1882
7月は朝鮮で
壬午
事変が発生しており、三国間に火花が散った年である。

壬午事変は1882(壬午の年)7月に朝鮮の首都,漢城(ソウル)で起きた

軍人暴動。1873年に大院君(興宣大院君)から閔(びん)氏に政権が移ると,

軍隊の待遇は悪化し,新たに新式軍隊の別技軍が設けられて優遇された。

その結果,旧式の軍人たちの不満が給米の不正支給によって爆発し暴動と
なった。大院君はこの暴動を利用して,閔氏政権の転覆と日本公使館の
襲撃を図った。彼は,
1880年代に入って開始された閔氏政権の開国
政策を覆し,
鎖国攘夷政策に戻そうとしたのである。

 

『日本の善政を論す』(1882(明15)年49日、光緒8年、
壬午
222日『申報』

 

古来政治を行うには,順序を追って漸進すべきであり,いたずらに性急であってはならない。日本は東方海洋上の大国であり.歴史は非常に長い。これまでに各国と通商を開いてきたが.その内政は,外国人には許(つまびら)かでなかった。近ごろしだいにそれが伝

えられるようになった。

 

各紙が報ずるところによると,日本の政治はただ性急一本槍であるかのように思われる。かって私はこれを論じて.「日本は近年政治に精励し.西洋文明を導入しているが,国内的には財政困難を免れないようだ。これは政策があまりに性急なためだろう」と述べた。

 

しかし北海道地方一帯の原住民がにわかに開化し,農作や学問にいそしんでいると開き,非常に感服した。そして日本の政治にはもとより緩急の順序があって,一律に行っているのではないことを知ったのだ。

北海道地方一帯の原住民(アイヌ民族)は.中国の未開民族と同様,原始的な生活をし,君主の政治も及ばなかった。彼らを統治し,教化することは非常に困難だった。土地は広大なものの.農耕も行われず,深くその土地に入り原住民を教え導こうとする者もなかった。

 

日本の皇帝は,彼らが文明に浴さず,土地が打ち捨てられ荒廃しているのを哀れみ,開拓使1名を選出し派遣したのだ。彼はその地に着任するや,しだいに開墾や農耕を教えた。そして10年間の努力の後.現在に至って大いに成果をあげたのだ。これまで労働を知らなかった者も.今では農耕に励み,これまで礼儀を知らなかった者も,今では各々に生業にいそしむようになった。

 

日本政府は開拓使の業績が十分にあがったことを知り.続いてこれを裁革し,新たに北海道の南北両地方のそれぞれに県庁2か所を設置し,また学校6か所を建設した。

 

ここを行政と教化の中心とし,有能な人材を選抜して赴任させたのだ。その後、北海道はもはや日本内地と異ならず,各地では人々が農業や学問に励み.互いに競いあっているという。

日本がこのような内政を行っているのならば,国政が日増しに発展しているのももっともなことだ。先に日本が琉球を併合したことは,ごうごうたる議論を呼んだ。長い歴史をもつ琉球を突然滅ぼしたのだから,日本人は強国が弱小国を虐(しいた)げたという謗(そし)りを免れない。

 

日本人の行動がおおむねこのようだとすれば,なぜその国勢は日々興隆しているのだろうか。今北海道の状況を見るに.日本の興隆にはもとより理由があったのだ。中国の未開民族の中には,今なお文明に浴さない者がある。しかし中国は寛容に彼らに対処し.決して性急な対応はとっていない。

 

12人が感化されれば12人だけ事を進め,順序を追って漸進するようにすれば.頑迷な民もついには感化されるのだ。「易経」にも「聖人其の道に久しくして,天下化成す」とある。

 

ところが寧波の衛山や.台湾の台北などの地方では.今なお土地は多く荒廃し,人民は多く服従していない。このように無理やりに未開民族を関化させることはできないのだ。今日本の北海道地方一帯の原住民は.10年越しでついに開化に成功した。

 

これは日本人のために慶賀すべきことだ。そもそも国政の根本は,行政と司法にある。そして行政と司法を行う上で最も重要なのは,教化なのだ。商●(革へんに央)は,木を移させたように厳格な行政を行い.むしろ過酷というに近かった。秦は,父母・兄弟・妻子の3族を連座させたように厳重な司法を行い,むしろ暴虐というに近かった。行政が過酷で司法が暴虐であれば,良民でさえなおしだいに君主を恨むようになる。

 

頑迷固陋な未開民族ならなおさらのことだ。日本の北海道における成功の鍵は,それを漸進的に行ったことにある。まず開拓使を派遣し.農耕を教え,開墾を勧めさせ,そのつど適切な対策を講じて人々を従わせた。

 

君主の政治が及ばなかった原住民も.衣食の資が得られることを顧わない者はない。荒地が開墾され農耕が広がり,飢えや寒さを免れたために,彼らは皆深く感激したのだ。こうして彼らが感激したからには.これを統治するのも難しくはない。まことに古来「衣食足りて後、栄辱を知る」と言うとおりだ。

 

こうして衣食に不自由しなくなれば,彼らを教化し.しだいに礼義を知らしめ.文明に浴させることができる。しかしこれを行うことは,開拓使では困難だ。故に,すぐさま北海道に2つの県の設置と,6か所の学校の建設を図ったのだ。感激している原住民に政治を行えば,彼らはそれに従うだろうし,教化を行えば,旧習は一変するだろう。

 

これは.古の聖王の政治にも比すことができよう。古人は「外を治めんと欲する者は,必ず先に内を治める」と述べている。これはまさに「内を治める」良法と言えよう。

日本はヨーロッパ諸国と通商を開いて以来.事々に西洋人を模範として,刻一刻と西洋文明を学び,富国強兵に努め.軍備を整えている。

従来、対外政策に関することが多く知られ.国内政策に関することはよく知られていなかった。故に日本の政治に論及する者は.往々これを蔑視し,与(くみ)しやすしと見ていた。今北海道における成功を見るに.日本にもすぐれた人材は多いようだ。

 

頑迷な未開人をなびき従わせ.感化したのだから,その成果は決して小さくはない。国内政策が成功すれば.以前よりも外国の侮りを防ぐこともできよう。中国も近年事々に西洋文明を学び,鉱山を開き,商業を振興して富国を図るとともに.軍艦を製造し,大砲を購入して強兵を図っている。

 

もしも内政に努めなければ,国内には良民は少なく頑迷な民は多いのだから.将兵が勇猛で.軍艦や軍糧が充実していたとしても.頼むには足りない。故に中国には,対外政策のみならず.国内政策に関しても,有能な人材が必要なのだ。台北の生蕃は目下ようやく平定され.衝山や岱山でも再び租税が納められるようになった。

 

情勢不穏だった西北方の辺境も.ようやく安定しつっある。これを機に善政を行い国民を教え導いて感化させるならば.中国の礼儀文物はもとより世界に冠たるものだったのだから.決して日本に後れをとることはないだろう。

私は日本の善政について知り,心中感じるものがあり,ここにそれを記した。

 

 

 - IT・マスコミ論 , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『オンライン・鎌倉カヤック釣りバカ日記動画』★『筋トレダイエット、地産池消、自給自足、百歳めざす健康長寿、一艇・五長の「シルバー」には超お勧め』★『『美しい鎌倉海』で海の恵みをいただいて『ハッピーライフ」「天然生活」ー釣った魚をおいしく食べる』

『鎌倉カヤック釣りバカ日記』筋トレダイエット、地産池消、自給自足、百歳めざす健康 …

『Z世代のための日本の超天才人物伝⑥』★『Z世代のための生成AIを超えた『世界の知の極限値』★『南方熊楠先生の書斎訪問記(酒井潔著)はびつくり話③』★『先生は本年65歳。数年前より酒を廃して養生に心がけ、90歳まで生きて思うよう仕事を完成して、「死んだら頭の先から爪の先まで売り払って乞食にいっぱ飲ましてやる」と豪語された』

  2015/05/01  記事再録編集 <以下は …

no image
わが「古本狂」の愛読 『一読両断』書評ー『刑事裁判を問う』下村幸雄著◎『殺さなかった』五十嵐二葉著

     わが「古本狂」の愛読、乱読、速読、つん読 …

no image
世界/日本リーダーパワー史(914)-『米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか(上)

米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか 前坂 俊之(静 …

no image
日本リーダーパワー史(970)ー『政治家の信念とその責任のとり方』★『<男子の本懐>と叫んだ浜口雄幸首相は「財政再建、デフレ政策を推進して命が助かった者はいない。自分は死を覚悟してやるので、一緒に死んでくれないか」と井上準之助蔵相を説得した』

日本リーダーパワー史(970) 政治家の信念とその責任のとり方   統 …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(65) 「本土と沖縄 内なる歴史問題(10・8)」● 「くるくる変わる野田改造内閣の評判は悪い(10・5)」

池田龍夫のマスコミ時評(65) ●  本土と沖縄 内なる歴史問題(10・8) ● …

no image
野口恒のインターネット江戸学講義(14)>身分制度から外れた境界・周縁・無縁の世界に生きた「漂白の民」(下)

  日本再生への独創的視点<インターネット江戸学講義(14)> &nb …

no image
 日本メルトダウン(1025)『3・11東日本大震災・福島原発事故から6年』ー『l  ウエスチングハウス破産申請か 東芝に問われる保証責任』◎『福島原発事故から6年 「アンダーコントロール」からほど遠い現状、海外メディア伝える』★『3・11とメディア 福島 もう一つの真実』●『原発事故から6年。食品の汚染度は低下するも「食の安全」は本当に取り戻せたか?』◎『国の東芝支援はあり得ない…「ゾンビ企業」を保護する日本に海外メディアが苦言』★『廃炉措置機関の創設で国が責任を持つ体制に変えよ 福島事故6年目、ガバナンスの根本改革にとりかかるときだ』

 日本メルトダウン(1025) 『3・11東日本大震災・福島原発事故から6年』 …

『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座(45)』★<日本最強の外交官・金子堅太郎の名スピーチ>『武士道とは何かールーズベルト大統領が知りたいとの申し出に新渡戸稲造の英語版「武士道」を贈る。感激したル氏はホワイトハウス内に柔道場を作り、自ら稽古した」

2015/01/19<日本最強の外交官・金子堅太郎④>記事再録   前 …

 片野 勧の衝撃レポート⑥「戦争と平和」の戦後史⑥『八高線転覆事故と買い出し』死者184人という史上最大の事故(下)■『敗戦直後は買い出し列車は超満員』▼『家も屋敷も血の海だった』★『敗戦直後、鉄道事故が続発』●『今だから語られる新事実』

  「戦争と平和」の戦後史⑥   片野 勧(フリージャーナリスト) 八 …