前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

月刊誌『公評』7月号掲載 『異文化コミュニケーションの難しさ―『感情的』か、『論理的』かーが文明度の分かれ目➂

      2015/01/01

 

 

月刊誌『公評』7月号―特集『実感』❸

『異文化コミュニケーションの難しさ―

『感情的』か、『論理的』かーが文明度の分かれ目➂

 

 

                       前坂 俊之

(静岡県立大学名誉教授)

 

 

(以下の原稿は5月15日までの状況分析である)

 

 

●では、この問題での日本人と西欧人との違いは何か

 

というと、感情主義の小保方氏と科学論理主義の西欧といえる。西欧の近代社会の根底には近代科学主義が根づいている。

西欧での近代化の過程は神話や迷信の支配していた中世・封建社会から宗教改革を経て、コペルニクス、ガリレオ、ニュートンらの「地理上の発見」や真理の発見で「ルネッサンス」(文化革新、人間解放)を経て、近代科学が誕生し、合理主義、個人主義が開花し、ヨーロッパでの近代文明が幕を開けた。

日本人と西欧人の違いはこうしたヨーロッパ人の理性的な思考、真理の探究、近代科学主義、合理主義に対しての日本の仏教・儒教・朱子学、土着の自然崇拝的なものの融合した「日本主義的思想」である。140年前に鎖国から開国したばかりの明治初期の日本にきたフランス人ジャーナリストは、日本人を観察してこう書いている。

 

1874(明治7)年5月23日付  フランス紙『ル・タン』(日本便り 江戸 
330日)はこう書いている。

 

 

「彼らの理解力の鋭さとすばやさは.驚くべきものだ。また知識が欠けているわけでもない。その教育は確かに初歩的なものだが、きわめて大規模に、くまなく十分に普及している。大変貧しい娘ですら.小説を満喫している。

日本人には何が欠けているのだろうか?彼らに欠けているのは.論理の技術だ。そしてそれは.人類の精神が中国的とアーリア的の2つに分かれるという,われわれにとって重大な結果をもたらす問題がない限り、1つの方法なのだ。彼らの教育制度は.ただ記憶力だけを対象としている。

頭脳は無秩序、無分別に中国古典一式を詰め込み.覚えることができることはすべ暗記し,歴史学は日付を覚えること.教学は計算方法を覚えること,論理的な学問は全くない。

逸話の収集.あるいは政令の編さんがすべて。それが師弟にとって理想なのだ。かつての大君による変化のない統治は.人親の自立の発展を停滞させたが,同時に理性の発展を停滞させた。

それは.理性的学問の分野では.小学生と同じくらい無能な学者を作ることを目的とした,計り知れない政策だ?たように思える。われわれがあまりに長くスコラ哲学にはまり込んでいたのと同じように,日本は中国的教養主義にはまり込んでおり.依然として自らのルネサンスを待っているのだ。

こうした制度が人々の精神の中のばく然とした優柔不断で不完全な事素を必ず残してしまうことは.容易に理解できる。さまざまな事実を脈絡なく押し込まれれば.論理的な能力はなくなり.たどたどしい物言いが同じ言葉のくり返しに変わるだけで.成熱することはない。

校を卒業するときには,新しい要素に同化できない,古い要素でできた欠陥のある精神になっており.その性格に応じて半睡状態か妄想状態に陥る。そうした人物には.実際的な良識が欠けている。」(『外国新聞からみた日本』毎日コミュニケーションズ 1989年)

 

140年前に日本人の国民性への驚くべき洞察力である。

 

私の言う『日本病』を指摘している。これから約70年後の1945年(昭和20)8月に、日本はアジア太平洋戦争で全面敗北した。

 

GHQ(連合軍総司令部)のマッカーサー元帥は敵国の日本人とドイツ人を比較して「民主主義において、アメリカやドイツが45歳ならば、日本は、まだ12歳の少年、ドイツ人は経験を積んだ大人にも関わらず戦争を犯したが、日本人はまだ経験の無い子供だから戦争を起こした」、と、米議会で証言して、日本人はショックを受けた。

 

マッカーサーは「日本人は12歳の少年の精神状況であり、大人の判断力、理性的で、論理的な思考力がまだ備わっていない」と、フランス人ジャーナリスト同様の指摘したのである。

 

それからさらに、約70年が経過した現在の日本で、『311原発事故』が起こり、今回の「STAP細胞スキャンダル」が「最高の頭脳集団」を直撃した。日本人の精神構造は大人に成熟したのかどうか、その論理的な思考力、コミュニケーション力が問われている。

 

 

●日中韓対立の根源にある『民族感情』のギャップ

 

そんな思いから、今回のSTP細胞疑惑と同時並行的に展開された日本、中国、韓国の一連の対立、外交非難に心を痛めながら、この各民族のもつ感情表現、コミュニケーション態度、行動のギャップをヨーロッパ人のそれと比較しながらつくづく考えさせられた。

 

45月には習近平がヨーロッパを歴訪し、日本の安倍首相の歴史認識を批判すれば、こんどは安倍首相がヨーロッパ各国と中国の軍事費増大を批判する、中国、韓国は協力してハルピンに伊藤博文暗殺の安重根の記念博物館をつくり、外国人記者たちを招いて、日本側をけん制する、激しい外交つばぜり合いが繰り広げられた。

 

ウクライナ問題ではロシアに経済制裁を加えた米EU各国の大統領、外相は電話会談を含めて度々、会談しているのに、日中韓ではなぜ、話し合いさえできないのか。

 

その答えは仏ジャーナリストの言うヨーロッパ論理社会と中華圏の「メンツ重視」思考、感情中心のギャップにある。自己感情に重きを置くか、感情を超えた『論理』を優先するか、ヨーロッパの3世紀にわたる戦争、外交、友好、和解の繰り返しで築かれた成熟した大人の思考力によるEU統合のレベルに日中韓国三国はまだ遠く及ばないといえる。

 

そこに異文化間コミュニケーションの難しさが横たわっている。なぜ国や地域、民族が異なると『感情表現』『価値観』「コミュニケーション」「行動様式」は違ってくるのか。

人間の感情イメージは生まれ育ったその国の国土、風土、自然、生活文化、歴史の中で生まれる「文化スキーマ」によって規定される。

 

「文化スキーマ」とは脳の中で何十億もの神経回路網のことで、赤ん坊から成長していく過程でさまざまな感情表現、思考回路、コミュニケーション、行動形式、体験を通して記憶し他膨大な「データ・べース」なのである。

 

外部からの大量の刺激・情報をこの神経回路網を通じてこの脳コンピュータに集めて言語変換処理、チェック、判断、行動指令を瞬時に行う巨大なコンピュータと同じ。

この「文化スキーマ」は地球71億人の各個人でもすべて異なり、国、民族単位ではもっと複雑に異なる。

 

                           つづく

 

 

 - 現代史研究 , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『Z世代のための昭和史失敗復習講座』★『ガラパゴス・ジャパン・シンドローム(日本敗戦病)の研究』★『国家統治中枢部の総無責任欠陥体制ー太平洋戦争下の『大本営』『大本営・政府連絡会議』『最高戦争指導会議』 『御前会議』のバカの壁』★『今も続く『オウンゴール官僚国家の悲劇』

逗子なぎさ橋通信(24年/7/14/pm800富士山はお隠れ   20 …

no image
世界、日本メルトダウン(1032)ー 「トランプの『中国が制御できなければアメリカが 単独でもやるするぞ』と恫喝した理由』ー『『制裁逃れは中国が助ける』(中国が北朝鮮制裁に賛成しながら、陰で制裁回避を支援する実態が国連報告書で明白に』★『  北朝鮮の制裁逃れ、中国が加担 ミサイル調達、金融取引…抜け穴多く 国連報告書で浮かぶ 』

  世界、日本メルトダウン(1032)ー 「トランプの『中国が制御できなければア …

no image
百歳学入門(105)本田宗一郎(74歳)が画家シャガール(97歳)に会ったいい話「物事に熱中できる人間こそ、最高の価値がある」

百歳学入門(105) スーパー老人、天才老人になる方法— 本田は74歳の時、フラ …

『日米戦争に反対した』反戦の海軍大佐・水野広徳の取材ノート/遺品の数々」★『水野広徳年譜●『国大といえども戦いを好む時は必ず滅び、天下安しといえども戦を忘るる時は必ず危うし』』

米戦争に反対した』反戦の海軍大佐・水野広徳の取材ノート/遺品の数々 前坂 俊之( …

『私が最も尊敬した人物列伝①』★『正義を希求し「死刑と冤罪(司法殺人)と人権擁護に命をかけた正木ひろし弁護士をしのんで』★『その生涯と追憶、著作目録など』★『日本一高名な刑事弁護士がボロ屋に住み、貧苦の中「無実で獄に苦吟している人たちのことを思うと、ぜい沢などできないよ」と語った」 

    2009/02/06  「正木ひ …

『オンライン現代史講座/2・26事件の原因の1つは東北凶作による女性の身売りが激増』③『アメリカ発の世界恐慌(1929年)→昭和恐慌→農業恐慌→東北凶作ー欠食児童、女性の身売り問題→国家改造/超国家主義/昭和維新→5・15事件(1932)→2・26事件(1936)、日中戦争、太平洋戦争への道へと転落した』

昭和七年(1932) 悲惨、娘身売りの残酷物語ー売られ行く娘たち  凶作地の惨状 …

『Z世代のための日本世界史講座』★『MLBを制した大谷翔平選手以上にもてもてで全米の少女からラブレターが殺到したイケメン・ファースト・サムライの立石斧次郎(16歳)とは何者か?』 ★ 『トミ-、日本使節の陽気な男』★『大切なのは英語力よりも、ジェスチャー、ネアカ、快活さ、社交的、フレンドリー、オープンマインド 』

  2019/12/10 リーダーシップの日本近現代史』(194)記事 …

「Z世代のための日本リーダーパワー史(1233)』★『三苫薫選手と岸田首相を比較する-プロとアマ、実力と人気稼業』★『憲政、議会政治の神様・尾崎行雄は「売家と唐様で描く三代目」を唱え、「三代目が日本をつぶす」と警告していた。今やその「日本沈没」の極限に』

日本リーダーパワー史(1233) 三苫選手と岸田首相を比較する-プロとアマ、実力 …

no image
日本リーダーパワー史(646) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(39)日清戦争勝利後の小国の悲哀・日清講和条約後の 「三国干渉の真の首謀者は何と陸軍の恩人『ドイツ』だった。

日本リーダーパワー史(646) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(39)   …

no image
日本リーダーパワー史(478)日本最強の参謀は誰か-「杉山茂丸」の研究④「人跡絶えた谷間の一本杉のような男だ』(桂太郎評)

  日本リーダーパワー史(478) <日本最強の参謀は誰か& …