前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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<IT 革命で社会の仕組みはどう変わるか>

   

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=日大広報部発行『桜門春秋』2000年夏季号NO84号に掲載= 
<IT 革命で社会の仕組みはどう変わるか>    
前坂 俊之
(静岡県立大学国際関係学部教授)
『200X年。あるビジネスマンA さんの一日。A さんは長野県軽井沢の別荘で在宅勤
務をしている。朝六時、鳥の声で目を覚ましたAさんは携帯用ディスプレーで『電子新
聞』の朝刊を読む。興味を持った記事は電子ペンで拡大して読み、スクラップする記
事は画面上で切り取ってフロッピーにファイルする。
朝食後は仕事。部屋の壁一面には大画面の液晶ディスプレーがある。本社、各支店
とも光ファイバー網で結ばれており、HDTV(高精細度テレビ)のテレビ会議で互いの
表情をしっかり確かめながら、資料、設計図、模型なども画面上でVR(バーチャル・リ
アリティー=仮想現実感)表示する多店間テレビ会議システムだ。
新製品のデザインをどうするか。ロサンゼルスにすむ米国人デザイナーと打ち合わ
せをするため、早速、音声認識による万国語同時翻訳電話を利用して、互いに日米
語のまま細かい点まで話合った。
昼食後、A さんは婦人と森の中に散歩に出かけた。三歳になる娘はお昼寝中。途中
で気になった奥さんは『PIC(パーソナル・インテリジェント・コミュニケ一夕』(携帯用情
報端末)で娘のスヤスヤ眠る寝顔を確認して、安心する。A さんは帰ったら一風呂浴
びて、コーヒーを飲みたい、と思い『PIC』を操作して、風呂とコーヒーポットのスイッチ
を入れる。
家に帰った奥さんは大画面で娘の洋服のショッピング。子供服専門店にアクセスして
娘の身長、首回りの寸法を入れ色や柄もHDTV で確認して注文、代金はホームバン
キングで支払った。
夜は夫婦でゆっくり最新の映画ビデオを楽しむ。メニュー画面で探して選択ボタンを
クリックすると、即座にみることが出来る。『ビデオ・オン・デマンド』だ。CATV ネットワ
ークを通して、みたいビデオ、ニュース、スポーツと何でもいつでも見ることができる。
このような時代を間もなく迎える。』
この未来予想図は今から約七年前に「マルチメディアでどんな社会が到来するか」を
予想して私が書いた文章の中の一節である。200X年は2010年の予想だったが、
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すでに携帯用情報端末、携帯パソコン、i モードの携帯電話、大型壁掛け液晶ディス
プレー、BS デジタル放送の登場などほぼ半分以上は実現している。
7 年前は「マルチメディア」が一大ブームになったが、以後、インターネットの登場し、
携帯電話が爆発的な普及し、IT 革命の劇的な浸透などデジタル技術の進歩は「ドッ
クイヤー」の驚くべきスピードで進行している。
現在、われわれ先進国の産業社会、工業社会の基盤が形成されたのは、いうまでも
なく18 世紀末に英国で起きた産業革命によってであるが、今それ以上の急激な『パ
ラダイムシフト』が情報通信分野で爆発的に起こっている。

それはIT(インフォアメーション・テクノロジ-)革命、デジタル情報革命、情報通信革
命、インターネット革命、ネット革命などさまざまな名前で呼ばれているが、この急激
な『パラダイムシフト』を引き起こしているものは一体何なのか、というと次の点に要約
できる。
(1)デジタル技術の発展。
(2)コンピュータ、パソコンの性能の飛躍的向上。
マイクロプロセッサー、チップの奇跡。2年ごとに性能が2倍になり、価格は逆に半分
になるという驚くべき技術革新が猛スピードで進んでいる。
この結果、コンピュータの処理能力は「メガ」(100 万単位)から 「ギガ」(10 億単位)
へと超高速化し、メモリーの 大容量化、ダウンサウジング(小型化)などが一挙に
向上した。
(3)情報のマルチメディア化。
このようなデジタル化した情報の一元的な処理が可能となり、従来バラバラで あった
文字、テキスト、データ、音声、静止画(写真)、動画や放送、通信といったメディアの
垣根はなくなり、情報は自由自在に双方向でやりとりができる、いわゆるマルチメディ
ア化が進み、「メディアの統合、融合」が劇的に進んでいる。
(4)さらに大きいのは、こうしたメディア化した情報を流すことができるインターネットに
象徴されるグローバルで双方向のネットワークが発展してきたこと。
インターネットによってデジタル情報を地球上で自由に流通させることによって、世界
中の知識や情報を共有し、交換できるようになった。
この結果、100 年に一度というデジタル情報革命,IT 革命によって、人類史上初め
3
ての未知のフロンティアとしての『第三の空間』が出現しつつある。地球上の『物理的
空間』『宇宙空間』についで、人間の『意識空間』に対して、全く新しく発見したのが『第
三の空間』である。
インターネットやデジタルネットワーク上に形成された『サイバースペース』こそがこの
『第三の空間』である。一般的には「サイバースペース」は電脳空間と呼ばれている
が、「インターネットで結ばれたデジタルコミュニケーションの仮想空間」のことであ
る。
また、「コンピュータ内に広がる電子世界であり、シュミレーション可能なCG 技術に
よって作られたバーチャル・リアリティの仮想空間」といってもよい。
つまり、パソコンやテレビ、携帯電話などで見ることができる「インターネット電子空
間」である。このサイバースペースこそ人類が初めて手にする「距離と時間、場所とい
う物理的制約から全く開放された空間」であり、この中に21世紀の新しい社会、経済
システムが構築されていくことは間違いない。
このサイバースペースは経済、産業面では巨大な「電子マーケット」や「ビジネスフロ
ンティア」となり、世界の人々が、国境を越えて情報を交換し、交際し、出会い、おしや
べりをして、コミュニケーションをする場所になるなど無限の可能性を秘めている。
これまでのシステムとは全く違った、これらを劇的に変革していくであろう社会経済活
動の仮想空間としてのサイバースペースが今、爆発的に出現しつつある状況である。

IT革命の10大特徴
では、IT革命よって何が変わるのだろうか。それを考えるためにはインターネットの特
性、サイバースペースの法則、本質を理解する必要がある。
(1) 時間、距離、組織という物理的な制約を超越。
そこは時間、距離、空間、場所的な制約からも自由であり、地理的なハンディーはな
い。これまでの組織や国家の壁も越えてしまう。そこはボーダレス(国境がない)でグ
ローバル(地球規模)である。
「時間的な制約を越える」ので、24 時間、365 日、年中無休で世界を相手にビジネス
できる。世界最大のインターネット書店である「アマゾン・コム」はサイバーショップがあ
るだけで、倉庫はあるが実際の店舗はない。街の本屋さんならば、営業時間も場所も
スペースも制限を受けるが、サイバー書店ならば一切ない。
4
つまり、誰でも、どこに住んでいても、北海道の田舎に いても、長野県の山の中に
いても、地理的、時間的な制約を越えて世界を相手にビジネスも出来るし、コミュニ
ケーションができる。
(2) 無限性。
サイバースペースは無限のフロンティアである。情報量 は無限である。物理的な制
約がないので、サイバースペース上には無限の情報をつめこむことが出来る。
「アマゾン・コム」は本ならば400 万冊以上、CD も数十万 タイトルが並び、即座に検
索できる。実際の本屋で同じ 店舗を作り、本を陳列すると膨大な設備投資が必要だ
が、それよりずっと安い費用でできる。
しかも、これまでのように地域の人々しか相手にできな かったのが日本全国、世界
中を相手にしたマーケットに 拡大できる。商圏、マーケット、コミュニケーション空 間
が無限になる。
(3) スピード性。
これまでのメディアと比べると、光のスピードに近づく。地球全体が結びついて、光の
速度で動く電子市場が形成される。スピード性は同時に「リアルタイム」(即時
性)であり、検索すれば即時に情報をえることができる。
そこはスピードが支配している世界であり、社会の変化 のスピードを劇的に加速さ
せる。「ドッグ・スピード」から「シケイダル・スピード」(セミのスピード)にた とえる人も
あるが、リアルタイム、瞬時のアクセス、「オン・デマンド」が基本になる。
(4) バーチャル性。
サイバースペースは′仮想(バーチャル)な世界であり、 空間的、地理的、場所的
な制約から解き放された結果、ネットワークで結ばれた「遠隔・・・」(バーチャル性)が
基本原則になる。
「遠隔教育」「遠隔医療」(テレ・メディスン)、「遠 隔診断」「遠隔工場」(バーチャル・
ファクトリー)「遠隔福祉」「遠隔企業」(バーチャル・カンパニー)である。
「遠隔労働」(テレワーク)や自宅で仕事を行い、在宅勤務する「SOHO」(スモールオ
フィス・ ホームオフィス)が普及する。モバイルがこの架け橋として必要になる。
(5) 双方向性(インタラクティブ性) 
これまでの情報 はマスメディアからの一方的な流れだったが、これが双方向的で、
インタラクティブな流れに変わる。人々はインターネットで自由に情報を発信すること
5
ができるし、「いつでも、だれでも、どこでも、どうゆう方法でも、自由に」情報を手を入
手することもできる。
消費者に選択権が移る。「オン・デマンド」(欲しい時 に、欲しいものを、欲しいでけ
買うことができる)ようになる。
(6) メガコンペティション(大競争)が始まる。参入障壁なし、廉価性。
サイバースペースには誰でも簡単に参入できるし、参入は従来のものに比べて著しく
障壁が低い。誰でもチャンスがあり、大企業や大組織よりも中小企業、個人により大
きいものになる。
サイバーショップでの商品は廉価であり、ショップそのものも安く構築できるし、コスト
を削減できる。世界単一マーケットの創出によって、従来の地域的に限定されていた
ものから、世界的なメガコンペティションが起こる。
(7) マスから個へ
ワンt o ワンで顧客と直結する。マスメディアからパーナルメディアへ。情報がデジタ
ル化されると、これまでの工業社会の単位であるマス(大量、大衆)から、分子化して
個別化する。大量生産から個別生産、マスメディアからパーソナルメディアへと変 わ
っていく。
マスから分子化することによって逆転が起きる。メーカーと消費者がネットによって直
接結びついていく。消費者が力を持つようになる。企業ではなく消費者の主権になる。
ヒトとヒトがネットを通じて直接結びつく。
(8) 仲介機能の排除。
大量生産、消費の現在の工業社会では組織はピラミッド型で、トップから情報を一斉
に流す。メーカーと消費者 の間には何重にも仲介、卸業者が介在する。
ところが、インターネットは仲介機能を飛び越えてメー カーと消費者がネットで直結
する。仲介業者、商社、代理店、卸業者、小売店は必要がなくなる。 組織内の中間
管理職もおなじようにネットで中抜きされていく。
(9) 生産・消費者(プロシューマ)の誕生。
生産と消費の境が消えていき、「第三の波」の著者でいち早く高度情報社会の到来を
予言したアービン・トフラーのいう生産(プロデュース)し、消費(コンシューム)するとい
う「プロシューマー」が出現する。
画一的な大量生産のマス商品から自分だけの一人一人の 好みに合わせた特注品
の生産へと移行していく。 オンライン上ですべての消費者の好みのコンピュータを
受発注する「デル・コンピュータ」のような成功企業が出ている。
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(10) マスマーケットの終焉
そこでは従来の大量生産、大量消費を基調とした工業社会で価値のあった「土地」
「資本」「モノ」「労働」と いった資源やハードよりも「知識」「知恵」「アイディ ア」「創造
力」といった「情報力」「ソフト」そのものが重要になってくる。
IT 革命の波にいち早くのった米国ではインターネットによる電子商取引(E コマース)
が急速に普及し、電子マーケットプレイス(電子市場)も拡大しており、既存のビジネス
が「サイバースペース」に急速に移行している。
E コマースではBtoB(企業間電子取引),BtoC(企業対消費者電子取引),CtoC
(消費者間取引)などの種類があるが、BtoC の総額は2000年に二百億ドルあった
のが、2004年には一八四○億ドル、BtoB は2003年には何と二兆八千億ドルに達
して、米国のビジネス全体の10%になると予想されている(米フォーレスター/リサー
チ調べ)。
日本のBtoC も2004 年には六兆六000 億円と急拡大の見込みだ。
E コマースではネットオークション、逆ネットオークシヨンなど今までに全くなかったビ
ジネスモデルがネット上で増えており、これまでの新聞、テレビなどのマスメディアに
よって築かれていた工業社会のマスマーケットの終焉をうかがわせている。
結論・コミュニケーションの関係性の転換こそIT革命の本質
IT 革命の本質はこれまでの物理的な空間、時間、組織の制約を打ち破るコミュニケ
ーション革命である。光ファイバーなどによってブロードバンド(広帯域)の大容量高速
通信が可能になると、どこからでも、自由自在に高速、大容量の情報の双方向のやり
取りが可能になる。
この結果、モノと人、人と人、モノのモノ、組織と組織、人と組織のすべてのコミュニケ
ーション、関係が全く違ったものになる。この関係性の転換が最も重要な点で革命と
いわれる所以である。
従来の関係、コミュニケーションによって成り立った社会、経済、人間のシステムは崩
壊して、ネットによる「サイバースペース」に暫時、移行していくことは間違いないであ
ろう。
IT 革命はまだ始まったばかりで、その全体像は見えていないが、技術や経済の面ば
かりでなく、社会、政治、生活のあらゆる面でこれまで想像しなかったような大きな変
7
化を及ぼすことであろう。

 - IT・マスコミ論

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