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池田龍夫のマスコミ時評⑳「日米密約」の存在を暴くー民主党政権が設置した有識者委員会

   

池田龍夫のマスコミ時評⑳
 
「日米密約」の存在を暴くー民主党政権が設置した有識者委員会

ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 
 自民党政権が隠し続けてきた「日米間の密約」のベールが剥がされた。鳩山民主党政権発足直後、外務省に設置した「密約調査・有識者委員会」(座長、北岡伸一東大教授)は三月九日、岡田克也外相に調査報告書を提出した。
 
検証対象は、(1)核搭載艦船の一時寄港・領海通過、(2)朝鮮半島有事の際の米軍による在日米軍基地の自由使用、(3)緊急事態の際の沖縄への核の再持ち込み、(4)沖縄返還時の原状回復補償費肩代わり――の「四密約」。今回の報告、「いわゆる『密約』問題に関する外務省調査報告書」が冒頭に掲げた「序論 密約とは何か」の記述を紹介したうえで、本論に進みたい。
 
「(1)『狭義の密約』とは、両国間の合意あるいは了解であって、国民に知らされておらず、かつ、公表されている合意や了解と異なる重要な内容(追加的重要な権利や自由を他国に与えるか、あるいは重要な義務や負担を自国に引き受ける内容)を持つもの。厳密には密約とはそういうものを指して言うべき。その場合、当然合意文書が存在。他方、『広義の密約』とは、明確な文書による合意でなく、暗黙のうちに存在する合意や了解であるが、やはり、公表されている合意や了解と異なる重要な内容を持つもの。今回の作業は民主主義の原則に立って行う検証作業の一つであり、広義の密約も対象。 

  (2)安保改訂交渉の重点は、基地使用に係る日本側の発言権の確保(核心は核持ち込み)、朝鮮半島における米軍の基地自由使用。核兵器については戦術核兵器の発展も考慮する要あり。

(3)しばしば指摘されるように、条約それ自体は一片の紙切れ。権利義務が履行されるのは、両国間に信頼関係と共通の利益があるとき」。

 
核持込み・米軍出撃・補償肩代わりは密約 
 有識者委は、以上の共通認識に基づいて関係資料を精査して「報告書」を作成。次の「四密約」のうち三項目を「密約」と認定した。
▼核搭載艦船の一時寄港・領海通過=一九六〇年一月の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日大使が事前協議を巡って交わした「討議の記録」のコピーなどが見つかった。

しかし、日米間の解釈にずれがあった。六三~六四年にライシャワー駐日大使が大平正芳外相、佐藤首相に米艦船の核持ち込みを「事前協議の対象外」にする立場を伝えた。日本側は米側に解釈を改めるよう働きかけず黙認。米側も深追いせず、「暗黙の合意」が形成された。これは「広義の密約」。

▼朝鮮半島有事の際の米軍による在日米軍基地の自由使用=六〇年一月の藤山外相マカーサー大使が交わした「朝鮮議事録」のコピーなどが発見され、「密約」と認定した。半島有事に出撃する在日米軍の戦闘行動の際、事前協議なしに米軍が在日米軍基地を自由に使用できることを例外的に認める内容。

ただ日本側は「事前協議の意義を減殺させる不本意なもの」とも認識し、後の沖縄返還交渉で米側に同議事録の失効を求めたが、調整はつかなかったことも判明した。

緊急事態の際の沖縄への核の再持ち込み=  沖縄返還時に「有事の際の沖縄への核持ち込み」を認める密約があったとされる問題で、佐藤栄作首相とニクソン米大統領が六九年一一月の日米首脳会談の際に密かに交わした「合意議事録」について、拘束力はなく「必ずしも密約とは言えない」と否定的見解を示した。なお、佐藤元首相の遺族が保管していた「合意議事録」の効力について、後継内閣に引き継いでいなかったことから「(佐藤氏は)議事録を自分限りのものと考え、長期的に政府を拘束するものとは考えなかったのではないか」と推定した。
沖縄返還時の原状回復補償費肩代わり=この「肩代わり密約」は、最大の根拠とされていたスナイダー駐日米公使と吉野文六外務省アメリカ局長による七一年六月の議事要旨が、外務省調査では見つからなかった。米側の公開資料を精査した結果、報告書は、議事要旨の「狭義の密約」性を否定。しかし、米側が「自発的」に支払うとした四〇〇万㌦の肩代わり合意と、日本側が支払う三億二〇〇〇万㌦への積み増しを双方が了解したことが確認できたので、「広義の密約」と判断した。
 「『日米安保』を支えたガラス細工」
「調査報告書」はA4版一〇八頁にも及び、三九一件の関連文書も併せて公表された。歴代自民党政権から民主党への政権交代によって、半世紀以上も隠蔽されていた「密約」の実態が国民の目に曝された意義は極めて大きく、戦後外交の〝暗部〟に迫った有識者委報告を評価したい。歴代自民党政権は、密約の存在すべてを否定してきた。

東西冷戦時代にあって「密約」を結ばざるを得なかった国際状況があったにせよ、国民を欺き続けた罪は大きい。特に一九九〇年の「冷戦終結」から二十年間も自民党政権は「事前協議がないから、密約はなかった」という牽強付会な理屈で国民を煙に巻いてきたのである。

今回の調査によって六八年一月二十七日付の東郷文彦北米局長による極秘メモが見つかったことは、大きな成果と言える。同メモには「安保改定交渉、特に事前協議条項に関する交渉を通じ、我が方は総ての『持ち込み』(introduction)は事前協議の対象であるとの立場をとり、艦船航空機の『一時的立ち寄り』について特に議論した記録も記憶もない。この点はジョンソン大使による米国のメモとも一致する。

一月二十六日の同大使の説明によれば、事前協議に関し、『事前協議は米軍及びその装備の日本国内への配備、並びに艦船航空機が日本の領海及び港へ入る場合の現行の手続きを変更するものではない』という了解事項にあり、米側交渉当事者は、具体的に言及しなくともこれが『一時立ち寄り』の関するものであるということは日本側にとっても自明であると考えていたということである。

然るに日本側交渉当事者は、右了解は事前協議条項と地位協定第五条に関するものと解し、『一時的立ち寄り』に関するものとは思っていなかったのが実情である」と記されている。
 

 東郷氏は、東京新聞(3・5朝刊)のインタビューに応じ、「日本は『米国が言ってこないのだから、核は搭載していないと信じます』。米国も日本の状況を理解して黙っている。こうやって両立不可能なものを両立させて、一九八九年の冷戦終結までこのデリケートなガラス細工で突っ走った。その結果、日本は冷戦の最大の勝ち組として生き残ったわけだ」と語っていたが、「日米安保を支えた『ガラス細工』」の表現には、冷厳な外交トリックが秘められている。

日本政府は国民に対して「表向きは核搭載艦船の寄港を認めない」と言い続ける反面、〝米側の解釈〟を知りながら異を唱えず、寄港を黙認してきたことが証明されてしまった。当時の佐藤首相から田中角栄、中曽根康弘、竹下登の各氏らが首相在任時に説明を受けたことを示す記載もあり、八九年のメモには、首相就任直後の海部俊樹氏に説明したと記されている。

 
 「佐藤首相の署名文書」は、一級資料だ
 有識者委は、この「核搭載艦船寄港」に関しては「広義の持ち込み」と認定したものの、「沖縄への核再持ち込み」について「佐藤元首相の遺族が保管していた『日米首脳合意議事録』は、(佐藤首相が)自分限りのものと考え、長期的に政府を拘束するものとは考えなかったのではないかと推定する」として、「密約とは言えない」と結論づけたことに疑問が残る。佐藤氏自らが署名した「極秘文書」が見つかったのに、この判断は不可解だ。
有識者委員会の検証作業が難航したのは、当然あるべき重要文書が存在せず、文書があっても不自然に欠落していたからだ。有識者委は「歴史的に重要な文書の不用意な廃棄が行われていた」と指摘、行政官庁に文書管理の徹底を要請した。岡田外相は直ちに省内に記録公開と文書管理の改善に向けた対策本部を設置。情報公開へ向け、適正運用する仕組みづくりを急ぐ方針という。
そもそも「密約」論議の引き金は、二〇〇〇年前後の「米国公文書」公開だった。民主党への政権交代によって「密約」検証作業が進み、「情報公開法」の厳正適用が確認されたことは、民主政治確立のためまことに有意義だった。

                                     (池田龍夫=ジャーナリスト)
 
 
 
 

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