池田龍夫のマスコミ時評(24) 「非核三原則」を堅持し、実践をー核抑止の幻想を断ち切れー
2015/01/02
キッシンジャー元国務長官、シュルツ元国防長官、ペリー元国防長官、ナン元上院軍事委員長という歴代米政権の中枢にいた四氏が「核のノウハウ、そして核物質の拡散の結果、我々は劇的変化を目前にしている。核兵器が手に入りやすくなっている現在、抑止効果は下がっており、逆に抑止に伴う危険が高まっている」と警鐘を鳴らし、「核のない世界」構築を訴えた。その後誕生したオバマ新大統領の「プラハ演説」(〇九年四月五日)――「全面戦争の危機は去ったが、(核拡散により)核攻撃の危険性は高まった。米国は核兵器を使った世界で唯一の核大国として、行動する道義的責任がある。
時間はかかるが、世界を変革できることを信じ、核廃絶に向け確実に行動する」との決意表明へと継承された。その後、同年九月に国連安保理「核廃絶」決議、十一月には「核兵器のない世界」に向けた日米共同声明、一〇年四月「米ロ・新戦略兵器削減条約」合意、同年五月の核不拡散条約(NPT)再検討会議などのウネリが高まり、今年の「ヒロシマ平和記念式典」の成果につながったと言える。
被爆65年の8・6は、国内外のメディアの注目を集めた。国連トップに加え、原爆を落とした米国や核を持つ英仏の代表が初めて黙とうの輪に入ったからだ。とりわけ心強いのが『世界の安全のためには核兵器廃絶しかない』とする潘事務総長の熱意だ。記念講演では、平和市長会議が目標とする『2020年までの廃絶』に賛同。かねての持論である核兵器禁止条約の交渉へ向け、国連で議論を進める姿勢を示した。
一方、もう一人の『主役』のルース米駐日大使は口を開かず広島を後にした。参列をよしとしない米国内の声にも配慮したのかもしれない。その点は残念だが、被爆地から世界へ、これまでにも増して強いメッセージが発信されたのは間違いあるまい。国際社会に行動を促すとき、問われるのは自国の姿勢だ。秋葉忠利広島市長が平和宣言で日本政府に注文を付けたのは当然である。非核三原則の法制化や、米国の『核の傘』からの離脱を求めた。
日本が禁止条約の音頭を取ることも提案している。政権交代した政府の姿勢はどうか。菅直人首相は式典で非核三原則の堅持を表明し、核兵器の悲惨さを海外に伝える『非核特使』のアイデアを打ち出した。これまで被爆者らが地道に続けてきた取り組みを国が後押しするようだ。そこは評価できよう。
首相は、日本が先頭に立って行動するのは『道義的責任』とも述べた。ただ核保有国の首脳に働きかけたい、とするのは『核軍縮と核不拡散』にとどまる。禁止条約については触れなかった。記者会見では『核抑止力は必要』とも明言した。国際情勢や米国への気遣いがあるにしても、被爆者の思いとは相いれまい。
道義的責任というなら、まず『傘』に頼らない覚悟と外交戦略が求められるのではないか」。この中国新聞の指摘(8・7社説)は、「核なき世界」を目指して実践している広島市民の率直な気持ちを代弁したものとして感慨深い。
菅首相も「核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、日本国憲法を遵守し、非核三原則を堅持することを誓います」と記念式典で述べたが、その後の記者会見で、「核抑止力は我が国にとって引き続き必要だ」と述べたことに驚き、前段の「非核三原則堅持」が〝空念仏〟に過ぎなかっことが情けない。
「平和憲法遵守、非核三原則堅持」が、形式的な常套句に堕した感が深く、二〇〇一年の小泉純一郎政権以降十年の「歴代首相あいさつ」を調べたところ、その言い回しは〝オウム返し〟そのもの、民主党政権の菅首相あいさつにも新味を感じなかった。さらに、国民を愚弄するような
「核抑止力」の〝二枚舌〟は許せない。「衣の下からの鎧」が透けて見える。民主党政権は年末に「防衛大綱」改定を公約しているので、正式報告書を受けた上での対応が極めて重大な政治案件に浮上したと言える。非核三原則のうち「持ち込ませず」を修正、「二・五原則」に変えようとする流れを看過できるだろうか、一般国民は強い警戒心を持たなければならない。
鳩山由紀夫前首相は「密約調査の結果を踏まえた上で、非核三原則を堅持する」と表明、岡田克也外相も同調し、菅首相も広島で堅持を確約しているから、「二・五原則」への変更はあり得ないとは思うが、楽観は禁物である。メディア報道を見る限り、「新安保懇・報告書案」を大々的に報道しただけで、その背景を分析し問題点を指摘する記事が、ほとんど見当たらなかったことは、極めて遺憾である。
政府審議会や懇談会の在り方、密室審議などの問題点が指摘されているものの、情報公開は遅々として進んでいない。今年の「ヒロシマ平和記念式典」が見せた国際連帯と核廃絶への潮流に感動した反面、民主党政権の核廃絶など防衛政策全般の体制変革(トランジション)への覚悟、取り組み方に甘さを感じた。普天間基地移設のトラブルや核抑止に関する安易な発言が、菅政権の行方に不安を掻き立てている。
核廃絶を求めながら、一方では米国の核に依存する“矛盾”をいつまでも続けてはならない。日本政府は先ず、国際社会に対して核兵器禁止条約締結の音頭を取り、国内では「非核三原則」の法制化に踏み切って欲しい。
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