池田龍夫のマスコミ時評(33) 「原発依存」社会から決別を–東日本大震災で崩壊した〝安全神話〟
池田龍夫のマスコミ時評(33)
「原発依存」社会から決別を–東日本大震災で崩壊した
〝安全神話〟
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
「9・11同時多発テロ」(2001年)の衝撃から10年後の3月11日、「福島原子力発電所」爆発惨事が全世界を震撼させている。マグニチュード9の大地震が、東北地方太平洋岸地域を襲ったのは、11日午後2時46分ごろ。震源地は宮城県牡鹿半島沖130㌔で、大津波が福島原発を破壊、放射能汚染が拡大している。
地震・津波による死者・行方不明3万人弱の大惨事になったが、福島第一原発のダメージは甚大で、1カ月半を過ぎた現段階でも炉心溶融拡大の危機から脱出できず、日本国内の不安はもとより、全世界を恐怖に陥れてしまった。原発周辺の放射線濃度が極めて高いため、破損個所の点検・修復は進まず、政府・東京電力の発表に一喜一憂するばかり。原発専門家も明快な分析・解決策を示せない、憂慮すべき現状だ。
茨城県東海村で日本初の原発が稼動したのは1965年。東京電力が米ジェネラル・エレクトリック社(GE)の沸騰水型原発を導入して福島第一原発1号機が動き始めたのは、1971年3月。その技術は東芝と日立製作所に引き継がれ、福島第一・第二原発全体で10基の原発が林立、〝原発銀座〟と称されて原子力発電のメッカになってきた。
以来、電力9社のうち「沖縄電力」を除く8社の原発建設が相次ぎ、いま日本の原発は54基。米国104基、フランス59基に次ぐ「原発大国」で、日本の総電力の約30%を原発が供給している現状。国と電力会社、さらに学者・技術者によって「安全神話」が構築され、一部の批判派・反対勢力を封じ込めて「クリーンで安上がりな原発」との旗印のもとに原子力行政を推進してきたことを、大災害に直面して初めて気づかされたのである。まさに「政・官・業・学」癒着の構造が、原発災害の元凶と言わざるを得ない。また、過去の原発事故への綿密な検証を怠ってきたメディアの責任も大きい。本稿では、大地震発生以来の諸情報に基づいて、一市民として感じた素朴な問題点を提起したい。
〝カネとムチ〟の原発立地政策
今回の津波・原発災害をモロに受けた福島・宮城・岩手3県はいずれも「東北電力」管内だが、「東京電力」が福島県に10基もの原発を管理し、大部分の電力を首都圏に送電している。2007年の中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発がある新潟県も「東北電力」管内だが、これも東電の施設。原発立地をめぐる政府・地方自治体・電力会社の取り組みを探っていくと、莫大な政府交付金や固定資産税減免、雇用創出などをエサに、財政難・過疎対策に悩む自治体に原発立地を認めさせてきた政・官・業の深慮遠謀が透けて見える。
「沖縄電力」を除く電力8社管内の原発は、東京電力が福島県(大熊町と楢葉町)に10基・新潟県柏崎市に7基の計17基。関西電力は福井県美浜町・高浜町・おおい町に計11基、九州電力が佐賀県玄海町と鹿児島県川内市に計6基、東北電力は宮城県女川町・青森県東通村に計4基、北海道電力が泊村に3基、中部電力は静岡県御前崎市に3基、四国電力が愛媛県伊方町に3基、北陸電力も石川県志賀町に2基、中国電力が島根県松江市に2基で、大都会から離れた辺地に原発が集中的に建設されてきた。このほか青森県「六ヶ所再処理工場」の危険性も指摘されており、〝アメとムチ〟を駆使して原発立地を操ってきた〝政・官・業〟一体の強引な政策の恐ろしさを感じざるを得ない。
政府と東京電力は地震発生直後、〝想定外”と言い訳していたが、「原発安全神話」を信じ込んで二重三重の防災対策を怠った〝人災〟だったことは明白ではないか。しかし政府・東電の状況説明が曖昧なため〝情報不信〟を招き〝デマ情報〟が飛び交って不安を増幅させた責任も大きい。
「福島原発」は廃炉の運命だが…
東電の勝俣恒久会長は3月30日、震災後初めて記者会見に臨み、津波対策が不十分だったことを認めて、「第一原発1~4号機の今の状況を客観的にみると廃炉にせざるを得ない。廃炉のゴールは、まずは冷却。最終的に遮蔽をどうするか。(チェルノブイリのように)石棺も一つの方法だが、まだ確定したものではない」と表明した。5、6号機については言葉を濁したが、枝野幸男官房長官は同日「政府の判断という以前に、客観的状況としてはっきりしているのではないか」と述べており、第一原発6基すべてが廃炉の運命と推察できる。更に隣接の第二原発4基の運転再開も期待できまい。ただ〝廃炉〟を決断しても、危険が直ちに消えないのが〝放射線封じ込め〟の厄介な点だ。現在作業中の原子炉格納容器への海水、窒素注入によって沈静化させたうえで、「石棺」などの作業に移ることになるが、最低でも10年以上の歳月を要すると、専門家は指摘している
原子力安全・保安院は4月12日、原発災害の危険度を示す国際レベルを「最も危険なレベル7」に変更した。当初「レベル5」(米スリーマイル島事故)をチェルノブイリ級の「レベル7」に変更したことで、放射能汚染の深刻さが明白になった。
大津波警告を無視した「原子力村」の面々
「原発事故と通常の震災が複合する事態は『原発震災』と呼ばれる。その恐れを地震学者の石橋克彦さんらが早くから指摘してきた。それが生かされなかった。……福島第一原発が想定した津波は最高5・7㍍。東電は沖合にそれより高い防波堤を設置した上で1~4号機を海面から10㍍、5、6号機を13㍍の高さの敷地に設置した。
今回の津波の高さは、それを上回る14㍍だった。東電は、設計段階で津波被害に対する想定が甘かったことを認めた。1号機の運転開始はちょうど40年前だ。その後、津波の研究は大きく進んだ。それを受けて対策を取るべきだった。産業技術総合研究所の岡村行信活断層・地震研究センター長らは、869年(平安時代)に起きた貞観地震(推定震度M8・3)が残した地中の土砂を調査し、その津波が福島第一原発近くの町まで及んでいることを突き止めた。岡村氏は2009年、国の審議会で大津波が同原発を襲う危険性を指摘したが、東電側は『十分な情報がない』として地震想定の引き上げなどに難色を示した。
この時点で非常用電源など設備を改修していれば、原発事故を防げた可能性がある。東電と国の姿勢が問われる。……日本には海岸沿いに54基もの原発がある。原発震災を繰り返さないため、想定している地震規模や津波の高さで本当に大丈夫か、洗い直すべきだ。巨大な規模が予想される東海地震が気掛かりだ。中部電力浜岡原発について安全性を綿密に再点検し、十分に説明してほしい」と『信濃毎日』(3・31社説)が、東電の責任を厳しく指摘していたが、「貞観津波」以降の江戸・明治・昭和期にも三陸海岸はたびたび大津波に襲われていた。
原発推進役の経済産業省の系列下に、ブレーキ役である原子力安全・保安院が置かれていること自体が異常である。名ばかりの原子力安全委員会、原子力委員会と御用学者…。この「政・官・業・学」馴れ合いの「原子力村」を解体し、今後のエネルギー政策を策定する機関を早急に立ち上げるべきだ。全国の原発総点検は当然だが、福島原発に次いで危険視される浜岡原発の操業をストップさせ、存続の是非にまで踏み込んだ抜本的対応を急いで欲しい。
将来的には、原発に頼らない電力源の開発・拡充を目指した新エネルギー長期計画を構築すべきだ。〝脱原発〟をすぐ実現できないにしても、「安全神話」が崩壊した今を好機に、原発依存から脱出してクリーンエネルギーに移行する政策を最優先すべきだと考える。
「原発に依存しない、あるいは依存度を極力小さくした社会を構築すべきではないのか。化石燃料依存へと、単純な先祖返りができないならば、太陽光、風力、地熱など再生可能な自然エネルギーを総動員する必要がある。従来型の電力供給システムの弱点もはっきりした。地方に巨大な発電所を集中させ、離れた大都市の需要を賄わせる仕組みでは、事故があった時の影響の拡大が甚だしい。
分散して電力を生み出し、それを出来るだけ近くで消費してロスを少なくする『地産地消』の取り組みを強めたい。…東電など全国9電力体制の存続には疑義がある。小回りの利く発送電が出来る自由化や再編が必要だ。東日本の危機に西日本から都合出来る電力は余りに小さい。東西の周波数の違いも放置できない。
…少ない資源を分かち合い、持続可能な形で、地球を子孫に残す共生の道、即ち『より人間らしい暮らし』にこそ希望があるのではないか」(『朝日』4・4社説)との指摘に、共感する。「原発依存の時代」に決別し、「自然との共生社会」再構築の好機にしたいと切に願っている。
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