前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

記事再録/知的巨人たちの百歳学(134)『本田宗一郎(84歳)』ー画家シャガール(97歳)に会ったいい話「物事に熱中できる人間こそ、最高の価値がある」

   

 百歳学入門(105)

スーパー老人、天才老人になる方法—

本田は74歳の時、フランスの画家シャガールの自宅を初めて訪ねた。

94歳のシャガールは本田から硯、墨、筆をもらい、嬉々としてアトリエに入って、

画業に熱中して出てこなかった」ーその姿に本田は感動した。

「物事に熱中できる人間こそ、最高の価値がある」

「やっぱり好きじゃなければだめです。好きこそものの上手なれというが、

これは未来に続く基本の理念でしょう」(本田の言葉)

 前坂 俊之(ジャーナリスト)

本田宗一郎【84歳)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E7%94%B0%E5%AE%97%E4%B8%80%E9%83%8E

マルク・シャガール【97歳)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB

「人間が物事に熱中できるということ-」に本田宗一郎は絶対的な人生の価値観を見出していた。「ホンダの経営」はとっくの昔に若手にまかせて、悠々自適し日本画に熱中していた本田は74歳の時の1980年12月、好きなフランスの画家シャガールの自宅を初めて訪ねた。このシャガール邸を訪問した時、20歳も年上ながら94歳のシャガールの若々しく画業に熱中するその姿に強烈なショックを受けた、という。

本田は硯、墨、大小の筆をシャガールへのオミヤゲとして持参した。94歳ののシャガールは思った以上に若々しく。カタシャクとしていた。

シャガール夫妻は、愛想よく本田を応接間に招き入れた。こうした初対面でも本田は生まれつきの「天真爛漫」さで、大声で話し、笑い、泣く「日本人特有の遠慮がち」など態度は全くなかった。欧米人でも少しオーバーに思えるほどの派手なオーバーアクションであいさつした。

そのためか、初対面のシャガールとも、たちまち打ち解けた。通訳の言葉を待つより、本田のアクションジェスチャー、スマイルのほうがシャガールにはストレートに気持ちが伝わったのだろう。

「ムッシュー・ホソダ、私は広重などの浮世絵のラインは素晴らしいものだと思う。広賓は、あなたが私にくれたこういう筆で書いていたのか。これは私にとって、なによりの贈り物だ」

老画家は、本田の贈り物がことのほか気に入った。そうこうしているうちにシャガールは熱心に硯をすりはじめた。やがて嬉々とした足どりで、硯と筆をもって隣接するアトリエに入って行った。

本田は「あんまり喜んでいるので、その場で一枚描いてくれるのか」

と思っていると、シャガール夫人が言った。

「ムッシュー=・ホソダ、ごめんなさい。あの人はアトリエに入るともう出て来ませんよ。いつ出て来るのか、私もわからない。仕事になると食事もなにもないんだから……」

この夫人の言葉に、本田は、はっと我にかえり、すぐに感動がこみ上げてきた。九十四歳となった巨匠が、これほどまでに「仕事に熱中している」生涯現役の姿を目の当たりにみて、ショックを受けたのである。

本田はこの時、現役を引退しており、自分は熱中した仕事に対してはいまや過去形でしか話せなかったが、七十四歳の本田よりも二十歳も年長のシャガールは、仕事についてはまざれもなく「現在進行形、生涯現役」だったのである。

「心の底からシャガールをこの時はうらやましいと思ったね。たしかに、シャガールは俺にさよならも言わずにアトリエに消えた。人によっては、本田さん、シャガールはずいぶん失礼な人だね、と言われるが、俺は絶対にそうは思わない。自分も若いときはシャガールと同じだった。

仕事になれば失礼もへったくれもないよ。三旦二晩、一睡もせず、何も食べずに研究していたことが何回もあった。そのときは夢中だ。自分が生きていることすら忘れてしまう。どうやらメドがついて部屋から出て来ると、初めて眠気と食い気に気がついて、なあんだ俺は生きているんだ、と思うんだな。

そんな経験があるから、シャガールの喜びと夢中になってアトリエに入って行った気持ちが理解できるんだ。俺は誰よりもシャガールを理解できたと思った。シャガールの絵のことは専門家の人々にかなわないが、シャガールという人間についての理解は、俺なりに自信を持ったが、そんなことよりもシャガールが本当にうらやましかったな」

 さて、このあとがいかにも本田らしい。

シャガールがアトリエに入ってしまって、本田宗一郎はシャガール夫人と応接間に取り残されてしまったが、そこでシャガール邸を辞する前に、本田らしいサービスをシャガール夫人に披露した。

本田はいきなり、ソファから立ち上がると、シャガールが筆と硯を手に持って喜んでアトリエに入って行くさまを真似してみせた。あまりにもおどけた本田の姿にシャガール夫人は笑い転げた、という。この物まねジェスチャーは正し言語コミュニケーションをこえた「ボディラングエッジ」(肉体言語)で二人の間には、言葉以上の心が通じ合ったという。

九十四歳のシャガールの姿に本田はよほど感動したのである。

「熱中できるものには二種類ある。趣味でやるのと、なんらかの使命感を持ってやるのとだ。たしかに趣味も熱中できるが、使命感のある仕事の熱中には及ばない」とも語っている。

「策では絶対大きくならん。やっぱり好きこそものの上手なれです。好きなものに情熱を燃やし、仮に燃え尽き灰になったところで、いっこうに後悔しない」

「やっぱり好きじゃなければだめです。好きこそものの上手なれというが、これは未来に続く基本の理念じゃないでしょうか。どこの国に行っても、好きなものでないかぎり絶対だめだと思う。策では絶対大きくならんです。いっペんはふくらむだろうが、絶対ではない。あくまでも中のほうは空気で、炭酸入れてふくらませたようなものです。好きこそものの上手なれ。これはどこにも通用する真理だと思うな。命令されて働くのと、自主的に働くのではまったく違うんです。」

「経営とは何か」と質問されると、本田「俺はハソコさえ押したことがないんだよ、俺に経営なんかわからんよ」と、はにかんで答えたという。

「好きなものに情熱を燃やし、それを持続させる。具体的には子供のころから好きだった〃機械いじり〃を終生しつづけたい、そのためには会社をつくり、大きくして、新しいものへ次々と挑戦していかざるを得ない環境をつくる」 ー 本田にとっては、会社づくり、経営は〃好きなものをやる〃手段だったのである。好きなことに熱中し努力し、精進した結果がたまたま〝成功〃という二文字を手中にしたということなのだ。

<参考、引用 梶原一明著「本田宗一郎 男の幸福論」(PHP研究所.1982年刊)>

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(190) (まとめ)『この150年間で、異文化体験に成功したベストジャパニーズ100人』①

  日本リーダーパワー史(190)   (まとめ・リーダーシ …

no image
<クイズ>-世界で最ももてたイケメンの日本人はだれでしょうか③トミーの愛称の立石斧次郎

<クイズ>-世界で最ももてたイケメンの日本人はだれでしょうか③   活 …

no image
★「コロナ騒ぎの外出自粛令で、自宅で閉じこもっている人のためにお勧めする<面白い人物伝>★<超高齢社会>創造力は老人となると衰えるのか<創造力は年齢に関係なし>『 ダビンチから音楽家、カントまで天才が傑作をモノにした年齢はいずれも晩年』★『 ラッセルは97歳まで活躍したぞ』

  <創造力は年齢に関係なし、世界の天才の年齢調べは> 前坂 俊之 ( …

no image
『オンライン/新型コロナパンデミックの研究』-『時代は、時代に後れる者を罰する』(ゴルバチョフ)ー今、冷戦崩壊に次ぐ、2020年の「withコロナ」時代、「地球温暖化・第3次デジタル世界大戦」に突入した。この時代の大変革に乗り遅れた国家、企業、個人は,明日の世界で生き残れないだろう。

  『時代は、時代に後れる者を罰する』ー     …

『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座(42)』★『金子サムライ外交官は刀を持たず『舌先3寸のスピーチ、リベート決戦」に単身、米国に乗り込んだ』

  『金子サムライ外交官は『スピーチ、リベート決戦」に単身、渡米す。 …

no image
『F国際ビジネスマンのニュース・ウオッチ(99)』内向き志向の強い日本人へ、現実を正確に直視させるのがジャーナリズムの役割

  『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(99)』 &n …

no image
辛亥革命(1911年10月10日)百周年④ー★逆転日中史●『孫文革命を外国新聞はどう報道したか』④

辛亥革命(1911年10月10日)から百周年   ―逆転した …

『オンラン講座・日本最大の英雄・西郷隆盛の終焉の地を訪ねる動画旅』★『西郷精神「敬天愛人」をたずねて「城山終焉の地」「最後の司令本部洞窟」★『「終焉の地」で「晋どん、もうここらでよか」と果てた』★『南洲墓地にお参りする』

  2015/09/23「日本史見える化動画」-西郷精神『敬天愛人」を …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(129)/記事再録★『日野原重明先生(105歳)』★『92歳の時の毎日の生活ぶりだが、そのエネルギーと分刻みの緻密なスケジュールと仕事ぶりはまさに超人的!

    2018/01/22 &nbsp …

no image
野口恒のインターネット江戸学講義(14)>身分制度から外れた境界・周縁・無縁の世界に生きた「漂白の民」(下)

  日本再生への独創的視点<インターネット江戸学講義(14)> &nb …