戦うジャーナリスト列伝・菊竹六鼓(淳)『日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった稀有の記者』★『明治末期から一貫した公娼廃止論、試験全廃論など、今から見ても非常に進歩的、先駆的な言論の数々』
日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった稀有の記者
明治末期から一貫した公娼廃止論、試験全廃論など、今から見ても非常に進歩的、先駆的な言論の数々
書評『記者ありきー六鼓菊竹淳の生涯』木村栄文著
朝日新聞刊、1997年)
前坂俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)
「ペンは剣より強し」と言われるが、日本のジヤーナリズムの歴史と照らし合わせてみると、全くこの逆である。
「ペンは剣より弱し」がほぼ常態であり、ジャーナリズムが敗退を続けた歴史の中で、ごくわずかペンが輝いた時があった、といったほうが適切であろう。特に、昭和戦前期のジャーナリズムは「剣はペンより強し」の下で、全滅した惨憺たる歴史であった。
そんな中でへ例外的に光を放っているのが菊竹六鼓(本名・淳)の5・15事件件での論説である。
昭和七年に犬養毅首相が海軍軍人に暗殺された、いわゆる5・15事件。この事件をきっかけに昭和戦前の議会政治は終止符を打たれ、急速に軍部ファシズムが確立されていくが、大部分の新聞が軍部におそれをなして沈黙し、テロを黙認した中で、ただ一紙「福岡日日新聞」(現・西日本新聞)の編集局長・菊竹は社説で徹底して批判しジャーナリズム史上に名をを残している。
三十年来、この稀有のジャーナリストに魅せられ続けている著者はこれまでに菊竹をテーマにしたテレビ作品で「記者ありき」(七七年)のほか、「編著六鼓菊竹淳・論説・手記・評伝』(葦書房)という大作をものにしているが、本書はこれらをベースにした詳細きわめた伝記である。
菊竹は5・15事件での論説のみが吃立して伝えられているが、明治末期から一義して女権擁護論や公娼廃止論、試験制度全廃論など今から見ても非常に進歩的であり、先駆的な一言論を展開している。菊竹はリベラリストであり、ヒューマニストであった。
「女子共同の敵」(明治四十五年二月十九日付)など女性の権利の拡墾擁護を論説で訴え続けて、普通選挙を唱える論者も婦人参政櫓になると反対したり、消極的になっている姿勢を批判して、性的差別の解消、男女同権論を大胆に主張している。
公娼廃止、娼妓の眉由廃業は山室軍平の日本救世軍が取り組んだが、菊竹はこの運動に参加して熱心に支援し、論説でも勇気あるヰヤンペーンを行い、自宅には連日、脅迫状が舞い込んだが、より激しく攻撃した。
博多は大陸浪人や遊廓業者が幅を効かせている所だが、菊竹は「日本の恥部をない」と主張して、一歩も退かず相手の心眼を寒からしめた。
「全教育過程から試験を全廃せよ」という試験制度全廃論も菊竹の持論で明治から昭和まで彼の論説で息ながく主張されており、どれをとっても先駆的、進歩的である。
戦時のジャーナリストによる言論抵抗については菊竹は桐生悠々と並び称されている。
信濃毎日新聞主筆として「関東防空演習を嗤う」を書いて、軍部の不覚運動にあって余儀なく退社に追い込まれ、個人雑誌「他山の石」を出して、鋭い時局批判を続けた桐生と、一貫して福岡日々の記者ともて社説書いてきた菊竹とは違う。
5・15事件では鋭い時局批判をみせた菊竹も「満州の権益は守れ」と声高に叫ぶナショナリストでlぁり、二・二六事件ではその厳しい時局批判のペンは全くみられなかった。
それに比べると、乃木大将の殉死に際して、その旧弊を徹底して批判し2・26事件ではさらに鋭い切れ味をみせた桐生は姿勢が一貫しており、リベラリスとして一段と高く評価される面もあるが、本書は菊竹のそうした言論活動の全貌にきっちりと光を当てている。
菊竹は公私に厳格、潔癖な性格であり、地元の有力者との招待宴会は一切こせわり、私的な交際を好まなかった。主義主張のためには親友とも絶交し、弾圧や翠刀にも屈しなかった。
その一方でジャーナリストというよりも詩人的な菊竹は生涯、恋愛問題悩み傷心を抱いて自殺を思う。明治の木鐸記者の人間性をまるごと描いた秀逸な評伝である。
(図書新聞1997年8月16日付掲載)
関連記事
-
-
『Z世代のための<ガラパゴス日本病>の研究講座①』★『150年経っても変わらない、かえられない日本の政治、教育、思想の根本的欠陥をズバリと指摘したフランスの新聞』
2011/12/25   …
-
-
『トランプ大統領と戦う方法論⑰』★『明治の国家参謀・杉山茂丸の国難突破・交渉力を見習え」➃』★『軍事、外交は、嘘(ウソ)と法螺(ほら)との吐きくらべで、吐き負けた方が敗れる』★『杉山35歳は一片の紹介状も持たず単身渡米して金融王・モルガンを煙に巻き、1億3000万ドル(約1900億円)の融資に成功した。』★『その時のタンカの切り方』
2024/11/15/記事再編集 2014/08/09 /日本リーダ …
-
-
日本リーダーパワー史(295)-3.11福島原発事故から1年半-②メディアの原発報道は『過去の戦争報道の教訓』を生かせ②
日本リーダーパワー史(295) –3.11福島原発事故 …
-
-
『世界史を変えるウクライナ・ゼレンスキー大統領の平和スピーチ』★日本を救った金子堅太郎のルーズベルト米大統領、米国民への説得スピーチ」★『『日本最強の外交官・金子堅太郎のインテジェンス➅』★『シベリア鉄道のおどろくべき秘密』●『ドイツ皇帝からの親書を金子が読む、大統領は親友だから見せないが、話すよ』●『日本海海戦勝利にル大統領 は大喜びして、熊皮を明治天皇に プレゼントした』
2017/06/25&nb …
-
-
『超高齢社会日本』のシンボル・『クリエイティブ長寿思想家』の徳富蘇峰(94)に学べ②
『クリエイティブ長寿思想家』の徳富蘇峰(94)に学べ②<生涯500冊以上、日本一 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ(71)』「「日本サッカーの国際競争力は?、世界レベルに引き上げるにはどうする」
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ …
-
-
『リーダーシップの日本世界近現代史』(297)『歴史は繰り返されるのかー1940年「東京オリンピック」は日中戦争により返上したが、その二の舞になるのか!』★『新型コロナウイルス感染症の「パンデミック化」(世界的大流行)によって、東京オリンピック開催も中止の議論が起こってきた①』★『世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は27日、パンデミックになるつつあることを初めて認めた』
歴史は繰り返されるのかー1940年「東京オリンピック」は日中戦争によ …
-
-
★新連載<片野 勧の戦後史レポート>②「戦争と平和」の戦後史(1945~1946)②『婦人参政権の獲得 ■『金のかからない理想選挙』『吉沢久子27歳の空襲日記』『戦争ほど人を不幸にするものはない』 (市川房枝、吉沢久子、秋枝蕭子の証言)
「戦争と平和」の戦後史(1945~1946)② 片野 勧(フリージャーナリスト) …
-
-
世界、日本メルトダウン(1033)ー『米中会談の内幕は・』★『中国が北朝鮮問題を解決すれば、米国との通商の取り決めは中国に良いものになる」とブラフ外交、ディール外交(取引外交』を展開』●『トランプ氏は「まず外交,不調なら軍事行動の2段階論」を安倍首相に説明した』
世界、日本メルトダウン(1033)ー 『まず外交,不調なら軍事行動 …
