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日本興亡学入門⑫ー『なぜ日本は敗れたか』<徳富蘇峰の反省・『終戦日記Ⅳ』講談社版2007年より>

   

『なぜ日本は敗れたか』<徳富蘇峰の『終戦日記Ⅳ』講談社版2007年7月より
 
昭和20年(1945)8月15日―日本人は、なぜ今日のように、みじめな状態に陥ったかということを、研究しておく必要がある。
①日本国運の興亡の正当なる智識を得るため
②将来、再び同じ間違いを起し、過ちを繰り返さないため。
③万一、日本が再興する場合があれば、この苦がい経験を、先人が遺したる大なる教訓とするためでー歴史の上に、間違ったことを書き残して置くことは、自国を誤まるばかりでなく、世界の総ての人類をも誤ることとなる (1947年1月6日の日記)

●=『なぜ日本は敗れたか』―15の原因は・・?=○

①東条英機ら軍人、近衛文麿ら政治家、指導者に人物が欠乏したこと。明治の指導者と比べても10分の1から百分の1以下の器、能力しかなかった。
②また米英中ソの首脳者、指導者とくらべてあまりに器が違いすぎた。
 
③<日本は東亜民族を指導する資格、能力がなかった>

わが大和民族が、東亜の盟主たる役割を果すには余りにお粗末で、東亜民族の指導者たる資格がなかったことを痛感する。台湾統治五十年、朝鮮統治四十年の歳月に疫病を駆逐し、産業を起こすなどでは幾つか成功したが、人については、一大失敗をした。朝鮮が、日本の手を離れる時に、朝鮮人の誰一人として涙を流す者はなかった。それが今度は、支那大陸よりアジア大陸、太平洋諸島の人心を収攬するなぞは始めから無理であった。

④<日本人の本質的欠陥→(今も同じ=異文化コミュニケーションの失敗、無理解)>

日本人は、異民族や自己以外の者の心理状態を、洞察するには、ほとんど無能力で相手の気持はさっぱり判からず、自分の気持を押売する傾向がある。台湾や朝鮮で失敗したのもこの欠陥。今度の戦争ではいっそう露骨に、無軌道に、乱暴に行われた。そのために、同じアジアの黄色人種ながら、日本人より白人を慕う結果をきたした。日本人は野蛮人でもなければ、悪人でもない。しかし相手構わず、己れの欲するところを、他に施して相手方の迷惑を招き、やがては怨みを招いた。
<教養の欠乏である>。わが大和民族は、世界の隅っこにおける田舎者であって、世界の風が、どこを吹いているかわからず。国民的教養という水準は極めて低調。この戦争で、いわゆる捕虜虐待事件なども、別に日本人が残酷であったというではない。ただ田舎者が、田舎流儀を、無遠慮に振り回わして、世界の物笑いとなった。

⑤<
全体的大構想の欠如→(今も同じ=国家戦略の欠如)

今度の戦争は、出合頭の出来事から、それが連続的に延長したという迄であって、初めから終りまで、なんら確固たる戦略もなければ、方策もなく、組織もなければ、統率もなく、烏合の衆を以て、終ったという他はない。緒戦だけの勝利が、やがては局部でも負け、全体でも負け、負け負け負けの連続で、ただその敗戦を、国民の眼中より隠蔽することだけに、成功したに過ぎなかった。

⑥<世界戦史上最愚劣な戦争・支那事変(日中戦争)>

支那事変(日中戦争)は盧溝橋事件の1発から、ただ鹿の後を追っかけ追い廻わし、へトへトになった挙句が大東亜戦争となった。何のために戦うたか、なぜ戦うのか。国民自身も、誰れ一人これを知る者はなかった。当局者も、ただ支那人が抵抗するために、戦ったという以外に、大義名分はなく、いわば戦争をするために、戦争をしたという外なかった。
日本の兵站線が、釜山に始まり、鴨緑江を渡り、満洲を経て長城に入り、遂に支那を東西に横断し、大東亜聖戦の開始の際には、支那の国境を超えてベトナム、タイ、シンガポール、マレー半島まで拡大した。広き支那に、多き支那人を、追い回しても、十年はおろか、百年を経ても、支那が滅亡しないことは、その五千年の歴史が、これを証明している。
五年間、日本軍が支那内地を占領したが、一人の支那人も、心服させたことはない。ただ、国民党政府、蒋介石の政権を作り上げるために、御奉公をしたに過ぎなかった。
 
⑦<形式的、独善的な官学教育が日本を亡国にした>

日本軍の略奪、暴行、虐殺などの事実は兵の素質の低下と、教育の欠陥が存在する。教育そのものが間違っており、教育によって、日本は亡ぼされたと言っても過言でない。
わが官学教育は、形式的、独善的な教育であった。自分の知っている事を最善と思い、自分のなすことを最上と思い、相手が何者であるかには一切無頓着であった。(過去の方法を踏襲し、記憶するだけで、応用問題や、問題解決能力は全くなかった)。軍事ばかりでなく、一般の政務も同じで日本の政治が官学の法学士政治であって、その以外に活動する事を知らない結果、一切の政治は、全く机上における文書政治となって、書類さえ物を言えば事実はどうでもよいという事になった。泰平無事の時には、形式的で、人よがりの独善流でも、何とかくやっていけるが、一旦緩急あれば、なすところを知らず、茫然自失に至った。
また官学では、人間学は全く抜きにされた。人間学を知らない政治家、地方官、裁判官、実業家、軍人も敵が何者であるのか、味方が何者であるか、それらには、一切無頓着であった。かかる人間をかき集めて、軍国の大事をたくした日本国こそ不幸である。
 
⑦敗戦の禍機、盧溝橋事件、満州国と日本
⑧満洲対策に於ける予の宿論
⑨盧溝橋事件処理に軍は二の足、方針無し
⑩日独共通性の国民的欠陥
⑪日本の対中政策の二大失敗
⑫世界の大局に通じたる蒋介石
⑬暗中模索の対支政策
⑭日清日露戦争に比し軍の素質低下す
 
JCJ12月集会>                 07,12,07        前坂俊之   
 
=戦争言論・メディアの統制と自己崩壊、今も昔も同じ=
①1931年(昭和6年)・・15年戦争の発端としての満州事変の重大性
・「満州事変(昭和6年=1931年9月勃発)前夜の状況」
・「新聞界は朝日、毎日がリード」「満蒙は日本の生命線」「
満蒙で危機、反日排日、日貨ボイコット、万宝山事件、中村大尉事件」から石原莞爾らの関東軍の暴走、満州国の独立へ
・事変前は「軍縮を掲げた大阪朝日の高原編集局長の論説は的確に日本の転落を予見した」
・『満州事変の勃発』「関東軍の独走」「政府も追認」「朝日の社論の180度の転換、転向」「その背後に右翼の総本山黒竜会・内田良平の圧力、恫喝があった」その結果、「社論として満蒙の植民地、独立論を支持」「新聞は関東軍の自作自演の先制攻撃を支持、関東軍の謀略を暴かず」「東京裁判で満州事変の真相をはじめて知ったというのは間違い」「もし、満州事変勃発時に関東軍の謀略をしておれば、その事態は変わったであろうというifはありえない。」
・『日本のジャーナリズムの欠陥は真実へのこだわり、事実の追求力の弱さ、記録する姿勢の欠如、検証力の不足にある。事件発生、速報の重視で、裁判の無視、ある程度時間を経て、もう一度真相に迫るとい態度が弱い。ニュース宅配便屋であってもニュース鑑定人ではない。これはジャーナリズムだけではなく、日本の政治にも、日本人の思想にも共通した欠陥(日本病)。哲学の不在、あいまいさ、歴史忘却病、記録をしっかり残す態度の欠如という日本病であり、日本の人の国民性の欠陥である』『満州国は今の中国東北部にそのまま歴史記念館として、そのまま保存されているが、日本では15年戦争の歴史記録さえ保存されていない、この民族性、国民性の差が今後も異文化コミュニケーション、歴史コミュニケーションギャップとして摩擦を生み続ける』『グローバリズムの中で日本が敗れる要因にもなる』
 
②1936年(昭和11)・・・2・26事件と国策通信社としての同盟通信の誕生
国家による言論統制のシンボルである「同盟」の誕生によって、軍部や政府の圧力のほか、国家通信社によるニュースの配信で、既存の新聞ははさみ打ちになった。ニュースの統制機関そのものであり、ばく大な交付金がニュース項目によって何を目的として報道すべきか、「助成交付金示達書」という命令書が大臣名で出されていた。
「同盟通信社」は政府から新聞界に打ち込まれた強力なクサビであり、地方紙と中央紙の間で同盟を利用し、新聞界を内部から切りくずしていく武器に使われた。また、内閣情報局(外務省、陸海軍の宣伝情報機関の合同)その後の情報局が、海外ニュースの一元化で同盟を管理監督し、メディアの言論統制を行なっていった。
 
③1938年(昭和13)・・・国家総動員法によって新聞は企業統合された。

国家総動員法に『言論の自由の制限』『発行停止権』があり、新聞界は驚く。
国家総動員法(昭和13年)では「一カ月二回以上、または引続き二回以上新聞紙の発売、頒布を禁止した場合、国家総動員のため必要ある時は、勅令によりその新聞の発行を停止することができる」(第22条)の項目あり。
新聞界はこの総動員法に驚いた。これは新聞への〝死刑宣告“に等しい。近衛首相、企画院に強力に申し入れ、この削除が認められ、新聞界はホッと胸をなでおろした。
政府は国歌総動員法の提出について「これは単に法案を作っただけで必要のない限り実施をさけたい」と「抜かざる伝家の宝刀」と弁明していた。総動員法には意外な落し穴が隠されていた。言論取り締り規制の項目ではなく、新聞が対岸の火事とみていた2つの規定にこそ新聞の企業統制の法的根拠が隠されていた。
 ・【第16条の3】政府は戦時に際し、国家総動員法上必要あるときは…事業の開始、委託、共同経営、譲渡廃止もしくは休止、法人の合併、解散の命令をなすことを得
・【第18条の2】政府は……同種もしくは異種の事業の事業主、その団体に対し、当該事業の統制または統制のためにする団体、または会社設立を命ずることを得・・
すぐ後の「新聞連盟」や「一県一紙」に追い込まれる新聞の統廃合のキーワードはここにあったが、新聞は第20条の「言論の自由」の方に目を奪われ、新聞の企業体、事業としての生殺与奪を握られるこの2点には全く気づかなかった。政府側から、この提案がなされた時は有無を言わさず自動的に統合が決まったのである。
 
④1941年(昭和16)・・・・大東亜戦争勃発と同時に言論統制の120%は完成

情報局は16年2月、新聞の国家管理を画策、新聞連盟から一県一紙と同時に全国紙を合同して1会社にする「全国一社」案を提出、朝日、毎日、読売は絶対反対、全国のブロック紙、地方紙はことごとく賛成した。古野伊之助同盟社長らはあらゆる手段を使ってこの「全国一社」案を通そうとしたが、朝毎読は猛反対しまぬがれる。42年2月、日本新聞会が設立された。昭和14年ごろには全国に3000以上あった日刊紙は情報局によって廃統合れ、1県1紙にむけて昭和16年には104社、18年には54社にまで整理統合された。
言論の自由を引き換えにした新聞統合は、全国の新聞の経営状態を大幅に向上させた。地方紙の中には用紙難、広告減から廃刊寸前のものが多かったが、大新聞の進出を阻止でき、一県一紙のカルテルによって守られた。県内紙の1本化のおかげで部数が一躍二、三倍に跳ね上がった新聞が少なくなく、経営は安定しわが世の春を謳歌した。
 
⑤現在のメディア状況はどうか・・・・・70年前とさしてかわらず、言論の自由の面と同時に
情報通信産業(新聞・テレビ・インターネット)としての企業、経営、営業面を規制され、締め上げられつつある。

有事法制、国民保護法、名誉毀損事件の判決賠償額の高額化、個人情報保護法、人権擁護法案、国民投票法案、放送法の改正、地上波デジタル放送の実施、NHKの改組問題、裁判員制度、コンテンツ法案などメディア規制法案が目白押し。世界のグローバル化、米国の暴走、中国の台頭、日本政治の保守化、思考停止、問題先送りで国家の自壊と迷走と漂流が続いている。
メディアの自己検閲、自己萎縮が進んでおり、この混迷に一層輪をかけている。
 

 - 現代史研究

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