前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

☆(お勧め記事)渡辺幸重の原発レポート④-『最悪のシナリオから考えるー日本海溝投棄の疑問・提言(2)』

   

 
『最悪のシナリオから考えるー日本海溝「投棄」案の疑問』(2)
                 
渡辺幸重(ジャーナリスト) 
 
 
 人は、わけのわからない状況に対してとめどもなく大きな不安を持ち、うろたえ、行動を誤る。したがって、危機に直面したときはどこまで悪い状況がありうるかを考え、どう対応すればよいのかを考えるために的確な情報提供が重要になる。
 
今回の原発事故でも信頼できる情報が与えられず、楽観的な情報やパニックを起こさないためにという意図的な情報が不安を大きくしている。そこで今回は、誰でもが思い浮かべる最悪の事態がありうるのかどうか、それについてどのような情報が得られるか、検討してみる。
 
 その際、私は次のような圓山重直・東北大学教授の言葉を希望としたい。
 
「原発は巨大で不気味な怪物で我々はこれを収めなければならないが、戦争や自然災害と異なり、相手は物理法則に基づいて反応する。また、原発は我々が作り出した物である。人間が相手の戦争や未知な現象が複雑に絡まる自然災害より制圧は容易なはずである。」
 
原発では核爆発はない
 
 原発事故と聞いたとき、我々は一般にどんな最悪の事態を想像するだろうか。考えられるすべてのケースについて考えてみる。
 
 自然に存在するウランのうち0.7%を占めるウラン235は放射線を出しながら崩壊(分裂)し、7億年たって半分の量になる性質を持っている。したがって自然のままにしておけばだんだん少なくなるのだが、ウラン235の密度を高くすると分裂する際に出す2個または3個の中性子が隣のウラン235の分裂を促し、多くの核分裂を起こすようになる。
 
これが連鎖反応である。ウラン235の濃度によって連鎖反応が一定の割合で継続している状態を「臨界状態」といい、それ以下のだんだん連鎖反応が少なくなっていく状態を「未臨界状態」、連鎖反応が増えていく状態を「超臨界状態」と呼ぶ。臨界状態が原発の発電時の状態であり、短時間に超臨界に達するのが核爆発である。臨界にさせやすくするために原発(軽水炉)ではウラン235の濃度を2~5%程度に濃縮したウランを燃料としている。
 
 今回、福島第一原発が爆発した、と聞いたとき、きのこ雲を連想し、核爆発が起きたのではないか、と思った人も多かったのではないだろうか。しかし、核爆弾は普通ウラン235が90%以上の高濃縮ウランを使っており、核爆発には最低70%以上の純度が必要といわれているので、原発では核爆発は起きない。したがって原発事故では“最悪の事態”として核爆発を考える必要はない。
 
水蒸気爆発、水素爆発への警戒は必要
 
 次の問題は再臨界が起きるかどうかである。
福島第一原発は運転停止と同時に臨界状態から未臨界状態になっている。だが、冷却や制御が十分でないと連鎖反応が再開する臨界が起きる可能性がある。再臨界になると、温度・圧力が上がり、高温物質と水の接触による水蒸気爆発が心配される。素人考えではあるが、その可能性はあると思われる。
 
ただし、冷却が続けられるということを前提に考え、溶融した核燃料が水中に落ちていることを考えると(不幸中の幸いである)、再臨界の可能性は少ないのではないだろうか。
 では、再臨界にいたらないとしても水蒸気爆発は起きないのだろうか。未臨界の状態であっても、ウラン235は崩壊を続けるのでかなり多量の熱を出し続けることに変わりはない。
 
これを崩壊熱と呼んでいる。これが冷却を続けなければならない理由である。すなわち、冷却が行われなければ、極端なケースとして水蒸気爆発もありえるのではないだろうか。
 すでに我々が経験している水素爆発は今後も起こりうるだろうか。
 
何度も経験しているので感覚が麻痺してきているかもしれないが、この水素爆発が一度でも起きてしまったことは実は大変なことなのである。当然これからも一度たりとも起こしてはならない。爆発の原因となる水素は、燃料被覆管のジルカロイが高温の水蒸気と反応して発生し、それが酸素と反応して爆発する。
 
核燃料は溶融しているので、被覆管も溶けているのであろうが、ジルカロイはまだ残っているはずなので水素爆発の可能性は残っているとみるべきではないだろうか。ここでのポイントも冷却である。
 
 爆発によって放射性物質の拡散の量や地域が異なってくる。それに伴って住民の避難や防御の仕方を考えなければならない。作業員の仕事の仕方も変わってくるだろう。国や公的機関、専門家は水蒸気爆発や水素爆発の可能性と起きた場合の対応策を示すべきではないだろうか。
 
 事故収束のポイントは放射性物質の閉じ込めである。空中、地中、海中への放射性物質の放出がないようにするためには、爆発だけではなく、大雨や地割れ、余震や津波があっても(もちろん何もなくても)外部汚染をさせないことである。
 
そして、汚染水や汚染土を処理して、学校のグラウンドで子どもがのびのびと遊び、地域で安心して農林水産業を営み、工場で働けるようにすることである。そのためにはきめ細かい汚染状況調査を行い、対応スケジュールを示す必要がある。
 
「正確な情報」と「的確な洞察力」が必要
 
 ここで東北大学の圓山重直教授が示している「一日も早い原発事故収束に向けた工程表」(2011年5月14日作成、5月22日改訂)を見てみよう。
 
 
 圓山教授が示す原発事故収束の目的は次の3つである。
 
(目的1)原子炉が水素爆発や水蒸気爆発を起こして、大規模な放射能汚染を起こさないようにする。
(目的2) 大気中・地中・海洋へ漏れ出る放射能を封じ込める。
(目的3) 今後起こるかもしれない津波や大規模余震で上記(1)、(2)が起きないようにする。
 
 圓山教授は、(目的1)で指摘した「大規模蒸気爆発」については「各原子炉の放熱量が小さくなっているのでその危険性は回避できていると考えられる」という見解を述べている。そして、汚染水の増大など外部汚染を心配し、放射能封じ込めの方法を提案している。
 
そこでのポイントはやはり核燃料の冷却である。地震と津波でぼろぼろになった原発設備だが、外部汚染を生じない冷却システムでなんとか核燃料を制御し、放射性物質を閉じ込めてほしいと切に望む。私たちが冷静に判断できるようにするためにも、国や東電は、心配される事態(最悪を含めて)とそれへの具体的な対応策、うまくいった場合といかなかった場合の次の対応など、わかりやすい工程表を明示してほしい。
 
 なお、圓山教授の工程表はWebページを見てほしい。そこには次のような言葉もあった。
 
 「原発収束のためには、相手を知ることが一番重要である。原発で起きている現象は物理現象の結果なので、正確なデータと適度な洞察力があれば、かなりの確度で原発の現象が推定できるはずである。」
 
 時間がかかるかもしれない。だが、「正確な情報」を得て、みんなが知恵を出し合えば、「的確な洞察力」が発揮でき、必ずやこの困難な事態を乗り切ることができると信じたい。

 - 現代史研究 , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報「日本のメルトダウン」(490)◎「新著『政治の起源』を フランシス・フクヤマが語るー講演動画(90分)』」(11/8)

 速報「日本のメルトダウン」(490)   ◎「『政治の起源 …

片野勧の衝撃レポート(79)★『 原発と国家―封印された核の真実⑫(1985~88) 』 チェルノブイリ原発事故30年(下)

 片野勧の衝撃レポート(79)★ 原発と国家―封印された核の真実⑫(1985~8 …

『Z世代のための米大統領選挙連続講座⑤』★『トランプ氏暗殺未遂事件の衝撃(7月13日)★『トーマス・クルックス容疑者(20歳)犯行のプロセス』★『1インチの奇跡が歴史を変えた。助かったトランプ氏』

前坂俊之(ジャーナリスト) トランプ前大統領の暗殺未遂事件を見た瞬間、私は60年 …

『Z世代のための日本風狂人列伝①』★『 日本一の天才バカボン・宮武外骨伝々』★『「予は危険人物なり」は抱腹絶倒の超オモロイ本だよ。ウソ・ホントだよ!』

  2009/07/12 、2016/03/31/記事再録編 …

no image
日本メルトダウン脱出法(866)『世界のCEOが選んだ尊敬するリーダー第1位! チャーチルの不遇と成功』●『2025年問題」をご存知ですか?~「人口減少」「プア・ジャパニーズ急増」…9年後この国に起こること』●『アベノミクスの「頭打ち」を示す二つの証拠〜その限界は5月にはっきりする!?』●『ウソで固めた「中国経済」大崩壊〜空前の倒産ラッシュ、各地で発生する「報道されない暴動」』

日本メルトダウン脱出法(866) 世界のCEOが選んだ尊敬するリーダー第1位! …

no image
世界一の授業をみにいこう(3)初代総理大臣・伊藤博文による『明治維新論の講義』ー攘夷論から開国論へ転換した理由

世界一の授業をみにいこう(3)   初代総理大臣・伊藤博文による『明治 …

no image
『昭和戦後史の謎』-『東京裁判』で絞首刑にされた戦犯たち」★『 勝者が敗者に執行した「死刑」の手段』

東京裁判で絞首刑にされた戦犯たち  ― 勝者が敗者に執行した「死刑」の手段― 前 …

no image
★『コロナ不況を突破するためにロボットをどう活用するかを考える巣ごもり勉強動画一挙公開(100本)』★『日本の最先端技術「見える化」動画に協働ロボット、組み立てロボット、タコ焼きロボットなど各種ロボット動画が100本以上、公開している』

日本最先端技術『見える化』チャンネル ー Youtube公式サイトで「前坂俊之× …

no image
速報(339)◎東アジア安全保障の進化を阻む日韓の歴史問題』◎『橋下徹氏は日本版ポール・ライアンか』 

速報(339)『日本のメルトダウン』   ◎東アジア安全保障の進化を阻 …

no image
★➉外国人観光客へのおすすめベスト第1位ー「世界文化遺産.醍醐寺」のすべて―『 慶長3(1598)年の春、豊臣秀吉が開いた「醍醐の花見」を契機に 秀吉と秀頼によって金堂や三宝院、山上では開山堂や如意輪堂などが再建された。』●『三宝院の秀吉が設計した庭園。天下の名石『藤戸石』がある。』

★➉外国人観光客へのおすすめベスト第1位ー「世界文化遺産.醍醐寺」のすべて➀   …