前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉖「開戦2ゕ月前の「英タイムズ」の報道』ー『極東情勢が改善されていないことは憂慮に耐えない』●『ロシアは中国に対し.いまだにあらゆる手段を用いて,ロシアの満州占領に関し協定を結ぶように仕向けようとしている。』★『日本が満州でロシアに自由裁量権を認めれば,ロシアは朝鮮で日本に自由裁量権を認めるだろうとの印象を抱いている。』

   

 

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉖

1903(明治36)1219

   『英タイムズ』

    『極東情勢が改善されていないことは憂慮に耐えない』

 

元老と閣僚の会議が木曜日に東京で開かれ,1030日の日本側提案に対するロシアの回答を審議した。審議の成行きや得られた結論については,もちろん何も確かなことは分かっていないが.東京から本紙に2日前に連絡してきたところによれば.ロシア案は受諾不可能と見なされ,同国とさらに交渉が再開されるだろうという。

交渉が正式に決裂しなければ,妥協が成立し,両国にとり確実な損害と高度

の危険をはらんだ戦争が避けられると期待できる余地はある。交渉の一方の当事国には遅延は苦にならないと見られる。

本紙北京通信員によれば,ロシアは中国に対し.いまだにあらゆる手段を用いて,ロシアの満州占領に関し協定を結ぶように仕向けようとしている。

ロシア外務省とフォン・ローゼン男爵はペテルプルグと東京駐在のそれぞれの中国公使に対し.外務部に相手と早急に合意するよう督促する電報を打たせる手段を講じた。

フォン・ローゼン男爵が小村男爵の前に,ロシアの満州における地位を合法化した協定文を置くことができれば,こんな好都合なことはなかろうが,幸いにして外務部も,両公使の無邪気な電報がどんな影響を受けて届いたのか承知し

ており,また北京註在日本公使の内田氏にも.寝耳に水ではなかったろう。

その上,本紙上海通信員の報道にもある通り,北京の相当数の当局者の中にも,ロシアの侵略には徹底的に抵抗すべしという感情が強まっている。

だが一方,ロシアと日本の交渉が遅々として進まず.両国政府が決着を熱望していると言いながら実質的な進展が見られないことは,日本の大衆感情をいらだたせており,それがいつ平和を危機に陥れるかも分からない。

最近の電報で本紙東京通信員は,情勢がある程度重大化していることは誤解の余地がない旨を報じていた。

それによれば,ロシアは口で日本との和解を望んでいると言いながら,その実質的な証拠はなにひとつ見せようとしないという確信が東京で広まっている。

日本側はパリやベルリンの曲がりくねった経路を通じロシアの平和目的の保証を受け取っているが,それを信じてはいない。日本はロシアを,ヨーロッパにおける言葉でなく,アジアにおける行動によって判断している。

その基準に照らせば,ロシアの態度には1つの解釈しか当てはまらないと信じ,ロシアはヨーロッパでは平和に熱心のように見せかけながら,実際には日本を宣戦布告に追いやろうと懸命になっていると非難している。

日本側に言わせれば,それこそロシアが交渉を遅らせる一方,日本の目の前で

わざわざ戦争準備を見せつけていることの,真の意味なのだ。ロシアは形の上で侵略者に見えないという優位を確保するのに懸命になる一方,日本がその悪役を演ずるように追い込むためあらゆる工夫を凝らしている。

日本の政治家は完璧な冷静さと自制を常に見せてきたから,どんな強い誘惑も彼らの理性を負かすことはできないとわれわれは想像したくなる。ありきたりの誘惑ではそんな力はないことは確かだ。

日本の政治家は,どんなに抜目のないロシア外交官にも,フランスが1870年夏におめおめとはめられたような過ちに誘い込まれることは決してしないだろう。

だが日本の政治家も結局は人間だし,国民の気持が高熱に達すれば,和戦のバランスが五分五分に近づいたとき.その気持の重みが,はかりを悪い方に傾けるという,取返しのつかない事態が来ないとも限らない。

さらに忘れてはならないのは,日本の閣僚は自分の気持がどうであれ,民意の傾向を完全に無視するわけにはいかないということだ。

新議会が3月に開会するまでは,閣僚らは大いに独立した立場にあるから,忠君愛国の志操堅固な臣民として,民意に背いても国に尽くすことができょう。だが選挙戦が始まれば,世論の圧力がものを言うのは必至だし,本紙通信員の情報がいっものように正しければ,その圧力は平和の側に立って行使されはしないだろう。

同通信員によれば,憤激が国内で高まっている。

高まったあげくに,ロシアがわなを仕掛けたと非難している者の一部は今すぐにもそのわなにわざとかかって.自分の疑惑の正しさを証明したがっているようだという。

国会解散以来の短い期間に,強硬措置をとることを求めた請願が3件,皇帝のもとに提出されており,今後同様の請願が多数続くことは間違いない。ロシア側はもちろん,交渉の引延しが日本人の気持にどんな効果を及ぼすか,百も承知だ。

ロシア最大の発行部数を持っ日刊紙『ノーヴォェ・ヴレーミャ』の記事は,最近までは満州分割案に賛成するかに見えていたが、今やそれに代えて完全併合を公然と唱えている。

 

ロシアは勝者の権利として,中国のその部分を所有して当然だと言ってはばからないが,義和団動乱の当時はロシアの政府も新聞も,ロシア皇帝の軍隊がそ

の友人の中国皇帝の領地に入ったのは,ただ反乱の鎮圧を助けるためだと,絶え間なくくり返していたのだ。

台湾駐在合衆国領事のデーヴィッドソン氏は4か月の満州旅行を終えたばかりで,その記事は昨日掲載したが,正否はともかく,同氏は日本が満州でロシアに自由裁量権を認めれば,ロシアは朝鮮で日本に自由裁量権を認めるだろうとの印象を抱いている。

本紙に今朝載ったソウル発ニューヨークあて電報は,その印象を裏づけるものではない。だが仮にデーヴィッドソン氏が正しいとしても,日本が数多くの留保をつけることなく.こうした取決めに甘んじるかは,きわめて不確実だ。

満州こそ朝鮮への鍵であることを日本は忘れておらず,同地が移民と貿易の観点から大いに重要であることを別にしても,この戦略的考慮から,日本はロシアの満州恒久占領に同意する気にはさらさらならないだろう。

ロシアはそうした占領に固執しないことを何度もくり返し誓約しており,日本はその約束の履行を迫る気配だ。妥協は不可能ということはなかろうが、正直な妥協であるべきで,一方的な優位を確保するための単なる仕掛であってはならない。

ロシアがこうした妥協に応じるかどうかが注目される。それを無視したり拒否したりすれば,極東情勢はまさに深刻化することになろう。

 

 - 戦争報道, 現代史研究 ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『外紙」からみた『日中韓150年戦争史』(54)日清戦争の原因 『日本側の言い分』英紙「ノース・チャイナ・ヘラルド」

『中国紙『申報』や『外紙」からみた『日中韓150年戦争史』          日 …

no image
 日本メルトダウン(1006)―『惨敗!プーチンに授業料3000億円を払って安倍首相が学んだこと』●『  困難は自明の北方領土交渉、過去の約束を突きつけよ ソ連だけでなくアメリカにも翻弄されてきた北方領土』★『北方領土はこうしてソ連に奪われた 日本の歴史的領土は千島列島全体だった』●『  習近平主席の改革が成功し得ない理由 中国危機は時間の問題、レーニン主義が強すぎる一党制国家の宿命(英FT紙)』●『アメリカの「核の傘」がなくなったら…を想像できない困った人たち』●『  安倍首相「真珠湾訪問」は、中国ロシアを牽制する絶妙の一手 日米ハワイ会談の正しい読み方』

 日本メルトダウン(1006)   惨敗!プーチンに授業料3000億円を払って安 …

『ある国際ビジネスマンのイスラエル旅行記①』★『35年ぶりに、懐かしのイスラエル第3の都市・ハイファを訪ねました。』★『エルサレムでは偶然、岩のドームの金色屋根に接近し、数名の自動小銃武装の警官からムスリム以外は接近禁止と言われた』

2018/02/24 『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ ウオッチ(229 …

日本リーダーパワー史(724)ー『歴代宰相の器比べ』元老・山県有朋はC級宰相①「日本陸軍のCEO」と同時に派閥を作って老害ボスで君臨、政治指導をそっちのけで、趣味の庭づくりに狂熱を傾け,『椿山荘」,「無隣庵」「古希庵」など生涯、9カ所の大別荘、大庭園を造った。①

日本リーダーパワー史(724) 山県有朋天保9年~大正11年 (1838~192 …

日本リーダーパワー史(645) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(38)『陸奥宗光外相のインテリジェンスー暗号戦争に勝利、日清戦争・下関講和会議の「日清談判」で清国暗号を解読

日本リーダーパワー史(645) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(38)   …

no image
日本リーダーパワー史(972)ー初代ベンチャー企業の「真珠王」御木本幸吉(97歳)★『「資源もない」「金もない」「情報もない」「技術もない」「学歴もない」「ないないづくし」の田舎で、独創力で真珠養殖に成功した不屈の発明魂』★『エジソンも「わたしもできなかった」と絶賛』★『『スタートアップ企業は御木本幸吉の戦略から学べ』

日本リーダーパワー史(972) 世界史を変えた『ミキモト真珠』ー『スタートアップ …

no image
大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を読み解く④死刑・冤罪・誤判事件ー30年変わらぬ刑事裁判の体質②

大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を読み解くために④   裁判官・検事・弁 …

no image
速報(161)『★<小出裕章情報>●『除染必要地域は日本の3%』★『除染基本方針案骨子は本当ふざけた国」』など

速報(161)『日本のメルトダウン』 ★<小出裕章情報>   ●『東京 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(12)記事再録/『世界史の中の『日露戦争』ー<まとめ>日露戦争勝利の立役者―児玉源太郎伝(8回連載)★『児玉は日本のナポレオンか』

2016年3月5日/日本リーダーパワー史(683) 日本国難史にみる『戦略思考の …

no image
日本リーダーパワー史(437)正体を現した残忍無比の独裁処刑国家・北朝鮮金正恩体制は脱出者も激増させる

  日本リーダーパワー史(437) 正体を現した残忍無比の独 …