前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉕「開戦2ゕ月前の『ロシア紙ノーヴォエ・ヴレーミヤ』の報道』-『満州におけるロシアの権利は征服に基づくものであり、これほど多くの血を流し,金を費やした国で活動していく可能性をロシア人に与えなければならない。』

      2017/08/19

 

『日本戦争外交史の研究』/

『世界史の中の日露戦争』㉕

『開戦2ゕ月前の19031211日、

『ロシア紙ノーヴォエ・ヴレーミヤ』

『ロシアと満州』

 

中国では1842年の南京条約によって,外国貿易のために5つの港が開かれたが,

それに加えて1858626日,天津において中国とイギリスの間で結ばれた条約の第11条によって,イギリス臣民は満州の牛荘,台湾のタイワン,さらに3か所の港および都市を訪ねていいということが決められた。

ヨーロッパ人の間で牛荘という名で知られている港は,中国人にはインズィ.あるいは営口と呼ばれ,遼河の河口すぐ近くの左岸に位置し,遼東半島から見て西側にある。

アメリカ合衆国と中国の間の最近の国際条約では-この条約は,まだ批准されていないが-中国政府は,奉天と,鴨緑江河口の大東溝を開くことに合意した。しかし,アメリカとの条約は死文のままで終わるものと考えるべきなので,

 満州の唯一の開かれた港は牛荘だけということになる。この牛荘では,諸外国が領事裁判権を持っている。

 今のところわれわれは満州に対する中国の主権を認めており,われわれが不特定の長期にわたって占領したこの地方は,ロシア帝国の一部になったわけではない。その点にはいささかも疑いはない。

そして,ヨーロッパ列強は条約によって獲得した権利の放棄の十分な見返りをわれわれから得るためだけにでも,満州の都市や港を公開するようにと,中国に要求するかもしれない。

満州における法的に不明瞭な状態を支えるために,われわれは毎日ますます多

くの困難を自分で作り出しており,すでにロシアの軍事力によって獲得したものを,将来,高い値段でもう1度買わざるを得なくなることだろう。

 しかし,満州を中国からロシアへ譲渡することは,営口における諸外国の権利を侵害しないどころか,むしろ彼らの権利を拡大するものである。というのは,この国が最終的に鎮静化して,統治機構が整備されれば,外国人はこれまでロシアの他の国境地帯で享受してきたのと同様の権利を,満州でももちろん享受することになるからだ。

その上われわれはすでに,列強諸国が領事裁判権を辞退したという先例を知っ

ている。下関条約によって日本が台湾島を中国から受け取ったとき,イギリスはこの島のタイワンにおける治外法権を放棄した。

そして,同時に,中国の低い税率を放棄して,日本の高い税率を受け入れざるを得なくなった。しかも,台湾におけるいくっかの貿易部門は一一たとえば,樟脳の貿易がそうだが-日本政府によって独占されていたのだ。

<中略>

 イギリス人やアメリカ人は,自分たちが満州のロシア併合に反対するのは,ロシア本国への輸出品にかけられているのと同じ禁止関税が満州でも導入されるからだと,われわれに言う。

外国の外交官たちが私に語ったところによれば,もしもロシアが満州で無税輸出入権か.あるいは中国の現行の関税を保持すると約束さえすれば,ロシアが中国とあれこれの協定を結ぼうと全く異存はないとのことだった。

しかし一方では,ロシアは満州に対するいかなる法的権利も持っていないため,その統治に関していかなる義務を負うこともできないし,また他方では,こんな問題もある。

≪中略≫

私が確信を持って言えるのは,以下のことだ。

11896年の条約は,ロシアと中国の双方によって破られ,もはや満州問題解決のための土台とはなり得ない。

2)満州におけるロシアの権利は征服に基づくものであり,このことについて中国皇帝や南方の総督たちはイギリスおよび日本政府に対して苦情を申し立てているが,われわれはこの権利を守っていき,しかるべき条約か宣言の形にして,これほど多くの血を流し,金を費やした国で活動していく可能性をロシア人に与えなければならない。

われわれが満州から撤退するとか.しないとか言っているうちに.もう3年が過ぎてしまった。このことは,わが国の国際関係にも,また内政問題にも,きわめて有害な影響を与えずにはおかないだろう。

内政問題は,周知のように.1国の対外的な状況と切り離せないものだ。

3)満州の統治は,困難であるはずがない。中国の統治の基礎は,現代ロシアと同様の農民の自治と,改革以前のロシアと同様の郡を単位とした統治だからだ。

4)満州におけるわが国の政治的利益は,経済的利益よりもはるかに重要であり,自らの政治的利益を守るためならば,われわれは一時的に経済的利益を犠牲にしてもよい。

そして,産業的利益の損害は東清鉄道による交通の発展から得られる利益で埋め合わせるよう,努力しなければならない。

5)中国の行政機構が現存している状態で,ロシア軍が満州を占領したことは,この地方に無政府状態を引き起こしており,その有害な結果はわれわれが身をもって味わうことになろう。

占領と同時に進行しなければならないのは,中国人高級官吏の特権を廃止すること,中国人の郡長官付のロシア人による統制機構を設置すること,そして中国人の郡長官を徐々にロシア人に替えていくことだ。

6)日本の台湾における経験や,フランスのチュニスにおける経験が証明しているように,牛荘における領事裁判権の廃止は困難であるはずがない。

7)満州を分割する計画はすべて,政治的な意味で全くだめなものだという判断を断固として下さなければならない。満州とは全体として1つの命を持った.政治的な体である。

それは一定の境界の中で.歴史的に形成されてきた。歴史的に形成された全体で1つのものを分割した場合,どのような結果が生ずるかということは,ポーランド分割の例が示している通りだ。われわれが今直面しているのは,2通りの解決法だ。満州の全体がロシアのものとなるか,あるいは満州の全体が日本のものとなるか。第3の出口はない。

        S・スイロミャトエコフ

 - 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(98)記事再録/ 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(31)<川上参謀総長からロシアに派遣された田中義一大尉(後に陸相、首相)はペテルスブルグで活躍<ダンスを習いギリシャ正教に入信して情報収集に当たる>②

   2016/01/14/日本リーダーパワー史(638) …

『オンライン講座/財界巨人たちの長寿・晩晴学①』★『渋沢栄一、岩崎久弥、大倉喜八郎、馬越恭平、松永安左衛門―『<〝晩成〟はやすく〝晩晴″は難し>』★『晩晴は人生そのものを第一義とし、真に老いに透徹した達人でなければ達し得ぬ人生最高の境地こそ〝晩晴〟である』

  2012/12/29  百歳学入門( …

no image
戦うジャーナリスト列伝・菊竹六鼓(淳)『日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった稀有の記者』★『明治末期から一貫した公娼廃止論、試験全廃論など、今から見ても非常に進歩的、先駆的な言論の数々』

  日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった …

『50、60,70歳のための加齢創造学入門』★『国産ロケットの父・糸川英夫(86)の『加齢創造学』ー人間の能力は6,70歳がピークだよ』★『「なにも知らない人間だから、新しいことを勉強しなければならない」と挑戦意欲をもつ』

逗子なぎさ橋珈琲テラス通信(2025/10/26 /am1100) 2012/0 …

no image
知的巨人たちの百歳学(169)記事再録/小説家・小島政二郎(100歳)の人生訓ー 『いつまでもあると思うな親と金、ないと思うな運と借金』

   2012/11/23  百歳学入門 …

no image
片野勧の衝撃レポート(38)太平洋戦争とフクシマ⑪<悲劇はなぜ繰り返されるのか「ヒロシマ・ナガサキからフクシマへ」

       片野勧の衝撃レポ …

no image
日本興亡学入門⑪ー『2010年世界はどうなる』ーアジア共栄圏のビッグチャンス到来!

日本興亡学入門⑪    2010年世界はどうなるーアジア共栄圏のチャンス到来! …

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ ウオッチ(229)』-『35年ぶりに、懐かしのイスラエル第3の都市・ハイファを訪ねました。』★『エルサレムでは偶然、岩のドームの金色屋根に接近し、数名の自動小銃武装の警官からムスリム以外は接近禁止と言われ写真だけは撮りました』

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ ウオッチ(229)』 2月8日から10 …

no image
『リーダーシップの世界日本近現代史』(280)★『勝海舟の国難突破力に学ぶ 』★『勝海舟の中国・韓国との付き合い方』★『そして、この経済上の戦争にかけては、日本人は、とても中国人には 及ばないだろうと思うと、おれはひそかに心配するよ。』

2012/11/23・日本リーダーパワー史(347)記事再録   &n …

no image
速報(56)(お勧め記事)『原子力の死の灰の恐怖、その太鼓の音は専門家には響かない』(ニューヨーク・タイムズ・5月2日)

速報(56)『日本のメルトダウン』 ●(お勧め記事)『原子力の死の灰の恐怖、その …