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★『明治裏面史』 -『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊺★『世界史を変えた男・明石元二郎』-『日露戦争勃発。児玉から「至急、ストックホルムに行き、ロシア反体制革命家を扇動して、ポーランド人と一体となって武力闘争を起こせ」との秘密命令を受けた』★『ロシアの植民地なった周辺各民族の革命家を一堂に集めて組織、資金提供、武器援助をしてロシア革命に火をつけた奇跡の男』★『「明石一人で20万人の兵に相当する」とドイツ皇帝は驚嘆した』

      2017/08/02

 『明治裏面史』

★ 『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー,

リスク管理 ,インテリジェンス㊺

★世界史を変えた男/明石元二郎大佐

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中京大学社会科学研究所台湾史研究センター編『明石元二郎関係資料』(二〇一〇年刊)で、孫の明石元紹氏が書いた略歴によると、明石元二郎は元治元年(一八六四)九月に福岡市で生まれた。父が早逝したため、極貧の中で母・秀子から

「死を恐れず恥を恐れよ。卑屈になるな。金銭は卑しいもの」と厳しく育てられた。

 明治十年、陸軍幼年学校に入学、成績は上位でフランス語はトップだった。同二十年、二十四歳で陸軍大学に入学。メッケル少佐から戦術論を学んだ。二十四年、二十八歳のとき参謀本部第二部員(歩兵大尉)となり、ここで川上操六次長に可愛がられた。

 明治二十七年、ドイツへ留学。翌年、日清戦争従軍のために留学を中断して帰国。二十九年、参謀本部第三局員となり、同十月、川上参謀次長によって台湾、仏領インドシナの五カ月間にわたる視察調査団が編成された。メンバーは川上参謀次長、伊地知幸介第二部長、村田惇副官、福島中佐、明石少佐で、川上が明石を高く評価していたことがわかる。

 明治三十一年二月に川上は参謀総長に就任し、川上の命令で明石はフィリピンに出張した。スペインの植民地だったフィリピンで独立運動が起こり、アギナルド将軍が決起した。アメリカが艦隊を派遣して支援したが、その後、フィリピンを領有、圧政をしいた。明石はその植民地の惨状を目の当たりにして衝撃を受けた。

 明治三十二年五月、川上参謀総長が急逝し、後任に大山巌が就任した。三十四年一月に明石はフランス公使館付武官としてパリへ。パリは前年に盛大な万国博覧会を開催し、エッフェル塔ができた直後であった。ほぼ同時期に、これはロンドンだが夏目漱石が留学している。明石はパリでフランス語を独学で猛勉強した。

 日露開戦の二年前の三十五年八月、ロシア公使館付武官としてぺテルブルグに赴任した。これは当時、内相兼台湾総督の児玉源太郎の人事だった。明石はここでもロシア語を一からやり直して勉強して、諜報活動に従事した。

 そして、いよいよ明治三十七年(一九〇四)二月八日に日露戦争勃発。その直前、「至急、ストックホルムに行き、ここで不平覚(反ロシア運動の革命家)たちを扇動して、同時にポーランド人を利用して武力抗争を起こせ」との極秘命令を受けた。

ここから明石大佐の戦いがはじまるが、この極秘作戦の全容は、日露戦争終結と同時に帰国して、明治三十八年に参謀総長あてに提出した「復命書」に詳細に記録されている。

 

『落花流水』と題されたこの復命書は、日露戦争の最重要史料であり、

陸軍部内ではトップシークレットで、その後、参謀の教育用に長く参謀本部で利用されていた。

昭和十三年、外務省調査局が対ソ謀略用内部資料としてこれをタイプ印刷したが、昭和二十年の終戦時に、他の多くの文書とともに焼却されたといわれる。これは秘密工作の全容を当事者が報告した稀有の記録であると同時に、日本の近代史をかえた歴史的文書といってよい。

 昭和三十七年七月、明石復命書『落花流水』原本の写しは、元陸軍少将明石泰二郎氏(元二郎の甥) から防衛庁戦史室に寄託された。これと同じ写しは国会図書館憲政資料室の「明石元二郎文書」、「寺内正毅文書」、防衛庁防衛研究所戦史部図書館、神奈川県立図書館にも保存されている。

 ところで、昭和三年(一九二八) に刊行された小森徳治著『明石元二郎伝』 (八六七頁、台湾日日新報社。その後、原書房で昭和四十三年に上下二冊で復刻) は、明石の伝記の決定版である。この上巻第二編で 「ヨーロッパ時代の事績」 と題して明石のヨーロッパにおける諜報活動が記録されているが、この部分は『落花流水』をもとに明石がレーニンをはじめ各革命家との会見、工作した様子なども真偽おりまぜて小説風に描写されている。この本が明石のネタ本となっており、革命と謀略の渦巻くヨーロッパで活躍した「スパイ明石の巨人伝説」がふくらんでいったといえる。

 

 また、ほぼ同時期の大正十四年に作成された陸軍大学講義用テキストの原本である谷寿夫『機密日露戦史』(六九〇頁。原書房刊で昭和四十一年に復刻) でも、第七章「全戦役間大諜報網の構成と実際」 (五二頁) のなかで、『落花流水』は二二頁にわたって紹介しており、山県有朋が言ったとされる「明石は恐ろしい男だ」、あるいは 「明石一人で二十万人の兵に相当する」というドイツ皇帝の話などを紹介し、「日露戦争勝因の一つは明石工作である」としており、この本が明石像と明石評価を決定づけたことは間違いない。

 昭和二十年以降も、杉森久英『錆びたサーベル・日露戦争秘史 明石元二郎伝』、司馬遼太郎『坂の上の雲』、豊田穣『情報将軍明石元二郎-ロシアを倒したスパイ大将の生涯』、黒羽茂『日露戦争と明石工作』「日ソ諜報戦の軌跡」(いずれも『落花流水』 の全文を収録)、水木楊『動乱はわが掌中にあり-情報将校明石元二郎の日露戦争』など、明石を扱った小説、ドキュメントが次々と出版されているが、いずれもこの『落花流水』に大きく依拠していることにかわりはない。

 その点で『落花流水』にこそ、日露戦争のインテリジェンスを解くカギが秘められている。また、「謀略工作」という性格上、その内容は誇張や虚偽、秘密のベールに包まれているだけに、この原本を読み解く作業が一層大切となってくる。

『落花流水』は今から百年以上前の明治三十八年に書かれた。

内容は当時使われていた旧漢字と旧カタカナ文字の文語体による軍報告書形式で書かれており、大変読みづらいし、容易に判読できない。それに同書の前半はロシアの五百年にわたる膨張、戦争の歴史、周辺国との対立を記述しており、国の漢字表記にしても旧漢字の当て字であり、振り仮名があっても歴史的、専門的な知識がないと判読できない代物である。

 そこで神奈川県立図書館所蔵の外務省ガリ版の『落花流水』などと付き合わせながら、なるべくわかりやすい現代文にあらためて、次の章で紹介する。

 この初めての現代文を読むことによって、今から百年前の日露戦争の勝因の一つとなった日本のインテリジェンスの質を知ることができるし、読者のインテリジェンスリテラシーを養うこともできる。

明石のその後の活動を追跡すると日露開戦後、明石は戦争用の暗号を作成し、ロシア人将校を五百円で買収する。ロシア人三名をスパイに雇ってシベリア鉄道の情報を得るために配置して、スウェーデンのストックホルムへ飛んだ。ここで参謀本部付(ヨーロッパ滞在)に身分を変え、私服で諜報・潜行する。

 ロシア国内や周辺国での反戦、反政府運動の火に油を注ぎ、テロ、暴動、革命へ誘発する政治情勢を扇動するために、ロシアの植民地にされ圧政と戦うフィンランドやポーランドの独立運動家と接触する。

 もともとロシアは力まかせに周辺国を征服、併合しており、フィンランド、エストニア、ラトビヤ、リトアニア、ポーランド、ウクライナ、コーカシア、アルメニア、トルコなど少数民族を含めてその数は数十にのぼり、数十年にわたって激しい独立運動、反ロシア闘争が続いていた。「この敵の敵は味方だ」との戦法で、周辺民族の独立運動家、革命家との共同戦線を模索していく。

 すぐ亡命していたフィンランド憲法党の指導者カストレンと接触し、フィンランド革命党の党首シリヤクスを紹介され、盟友関係となり、資金提供を約束した。全ヨーロッパの革命運動家に幅広い人脈をもつシリヤクスは、明石に代わってロシア打倒に奔走した。

 ポーランドの革命家たちとのパイプもつながり、同年三月、ポーランド社会党執行委員から林董駐英公使に対し、ポーランド人による反ロシア工作の提案があった。

極東戦線へ送り込むロシア増援兵要員のポーランド青年の徴兵や動員に反対する暴動がポーランド各地で頻発し、ロシア軍約三十万人が釘づけとなり、極東へ増援できなくなってしまう。

 七月には、それまで革命家、反政府活動家たちを徹底して弾圧していたロシア内務大臣・プレーヴエが馬車ごとダイナマイトで暗殺された。

 明石は、ロシア内外の革命グループとのネットワークづくりに成功し、七月末、シリヤクスとともにスイスに行き、ロシア社会民主党のレーニンやプレバーノフ、エスエル(社会革命党)のアゼフ、ユダヤ系の革命組織・ブントやアルメニアの民族運動家たちにも工作。シリヤクスの助言でロシア革命派を大同団結させ、反ロシア闘争を活発化させることに成功した。

 十月にはパリでシリヤクスを議長として、ロシアと抑圧されている各民族の革命派が一堂に会し、各党派はそれぞれの手段方法で反ロシアの戦いをおこなうことを決議した。明石は、闘争資金、武器購入について援助を約束した。

 明治三十八年一月、難攻不落といわれた二〇三高地がついに日本軍の手に落ち、旅順は陥落した。

 この時、レーニンはボルシェビキの機関紙『フぺリョード紙』第二号二月十四日付)の「旅順港の陥落」で、「ヨーロッパ諸新聞が、全部こぞって、難攻不落の折り紙をつけた旅順港、要塞を、ちっぽけな、今まで誰からも馬鹿にされていた日本が八カ月で攻略してしまった。この降伏はツァーリズム降伏の序曲である」と書き、日本に対して「神秘的な、うら若い少年のような力」と称賛し、「進歩的、先進的なアジアは、立ち遅れた、反動的なヨーロッパに癒やし難い打撃を加えた」と高く評価した。

 明治三十八年一月九日、サンクトぺテルブルグで、ロシア正教会司祭のガボン神父の率いるロシア皇宮への六万人もの請願行進に対して、政府当局が発砲、弾圧し、約千人以上が流血する大惨事の「血の日曜日事件」が起きた。こうして、反ロシア、ツァー(専制君主制)打倒の革命の火が大きく燃えあがっていった。

 五月に日本海海戦でバルチック艦隊が壊滅すると、六月末にはロシア海軍の誇る最大・最強の戦艦「ポチョムキン」で、水兵による反乱が勃発し、ロシアを席巻する革命の気運は皇帝の軍隊にまで及んでくる。

同月、ぺテルブルグで武装蜂起させるために明石とシリヤクスは銃一万五千挺、弾丸二百万発を購入することに成功し、ロンドンで輸送船「ジョン・グラフトン号」に積載して出港させ、船はバルト海を北上した。ロシアのヴィンドゥで武器の一部を降ろし、トルネオ・ヤコブスタットでも陸揚げしたが、ラタン地方で座礁。残された武器は没収されてしまう。

 こうした反乱分子の武装蜂起を支えた陰に日本の諜報活動があったことにロシア政府は大きな衝撃を受け、ロシアを講和のテーブルにつかせる一押しとなったことは間違いない。

 九月五日にポーツマス講和条約が締結された。明石工作は打ち切られ、十一日には明石に参謀本部から帰国命令が出された。

 このような明石工作には、当時日本の国家予算二億三千万円のうち、合計百万円が山県有朋らの決断で支給され、明石はこのうち二十七万円を使わずに持ち帰り返還した。

≪以上は前坂俊之『日露インテリジェンス戦争を制した天才情報参謀・明石元二郎大佐』(新人物往来社、2011年)から転載した。>

 

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