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日本リーダーパワー史(673) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(55)『三国干渉』後に川上操六はスパイ大作戦をどう組み立てたか『日英同盟締結に向けての情報収集にエース福島安正大佐 をアジア、中近東、アフリカに1年半に及ぶ秘密偵察旅行に派遣した』

   

 日本リーダーパワー史(673)

日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(55)  

『三国干渉』後に川上操六はのような戦略を立てたか

『日英同盟締結に向けての情報収集に福島安正大佐

をアジア、中近東、アフリカに1年半に及ぶ

長期秘密偵察旅行に派遣した』

『三国干渉』後、川上操六はどのように戦略を立て直したか

『三国干渉』という一大国難に張り倒された日本はこの失敗を猛反省して、西欧各国への情報収集の強化、今後の防衛政策と長期国家戦略の立案が緊急課題になった。その戦略情報立案は、いうまでもなく陸軍参謀本部・川上操六次長の任務である。早速、腹心の福島安正大佐を呼び、協議検討した。

川上「露独仏の三ヵ国の威力の前に屈服させられたわが国が、これに対抗するには英米の二ヵ国と組んでいく以外にはないとみるがどうか」

福島「そのとおりと考えます」

川上「しかし、英米とわが国が何を条件に協力できる可能性があろうか」

福島「たしかに容易ではないことは明瞭です。まず日英両国の協力態勢を獲得するための戦略企画のため、その戦略情報を集めてくることが先決と信じます」

川上「そうか、シべリヤ鉄道建設予定が今後10年先と考える場合、どうしても対露戦略上からみて欧米強国の戦略情報支援を仰がずしては成立しないな」

(以上、「島貫重節『戦略・日露戦争【上】』原書房、20P)

福島大佐は明治28年9月初旬に川上次長に次の詳細、壮大なプランを提出した。三国干渉から3ヵ月後、単騎シベリア横断からかえって、わずか1年半後のことである。時に福島大佐は43歳。今度の偵察プランは約1年半かけて、イギリスのアジア、アフリカ、中近東における植民地の実態を調査し、特にロシアに対するイギリスの弱点を探し、イギリスを日本に振り向かせるためには何が必要かを探るスパイ大作戦。

福島が『亜欧旅行』と呼んだこのプランは明治28年10月5日に東京出発ー明治30年3月まで18ヵ月間かけて、明治30年3月25日東京帰着する。全行程、約7万キロ(地球1周半)、全日数は538日という壮大無比、破天荒なものである。

その最終目的は「日英同盟締結」に導くための情報収集、関係ある諸情報を取得し、これらの情報収集要領について現地を踏査していく極秘偵察旅行であった。

もともと、川上は福島安正を参謀本部のエースにし、国際的にも一流のインテリジェンス・オフィサーに育てあげた。川上の「片腕」というよりも『超長耳』であった。英、仏、独、ロシア、中国の五ヵ国語を自由にあやつる語学の天才で、明治7年に22歳の時、陸軍通訳として勤務して以来、大正3年退官するまでおおむね情報一筋に勤めあげ、最後は陸軍大将にまでなった。

その陸軍在職40年間のうち27年間は主として海外情報収集のため歩きまわり、しかも彼は英、仏、独、露、中の五力国語の会話を自由に使い、いつも通訳抜きの単独行動を得意とし、日本の国家戦略に見合う長期情報の獲得に最大の実績を挙げた、

いわば『戦略情報の開祖』といえる。

福島の情報学は「真の情報とは相手が秘匿しているものを頭脳と足でせしめてくるものであり、他人の話や文書などで適当に作文されたものとはまったく似て非なるものだ。

もっとも歴史、地理、社会、経済等の、すでに公表されてある資料などが情報の価値判定等の前提であることはいうまでもない。

しかし、これらの前提資料の不勉強の欠を補う類のものをもって情報と勘違いしているのがよくあるが、これは能力の低劣を物語るに過ぎない」と断じていた。

明治25年、福島は破天荒な1年4ゕ月にも及ぶ単騎シベリア横断冒険旅行(ベルリンからウラジオストックまで約1万8000キロ) に出発するが、その狙いは川上の指示による対ロシア戦争に備えた軍事情報収集、特にシベリア鉄道建設情況の把握の任務を遂行させ、成功した。

ただし、今回は無名の福島の「単騎シベリア横断」(1年4ヶ月)の時とは違い、日清戦争勝利後の諸外国の日本に対する関心は飛躍的に高まっている。『ビッグネーム』となった福島大佐の行動を各国はきびしく監視している。この亜熱帯、熱帯、乾燥、砂漠、酷暑地域の偵察難行は果して身の安全と危険が保障されるかどうか、川上にとっては危惧の念もよぎったが、即、ゴーサインを与えた。明治のトップリーダーのこの速戦即決、スピード決断力と実行力こそが昭和前期のリーダー、現在のリーダーとの

決定的な違いである。

「亜欧旅行」で、福島は明治28年10月5日に東京出発し、続いて上海―香港―サイゴン一カイローアレキサンドリーベイルートーコンスタンチノーブルーポートサイト―スエズ運河―コロンボ―ラングーンーカルカッタ―カラチ(五・二)、ボンベィーマスカットーテヘランーカスピ海、―コーカサスースカパット(中央アジア)-サマルカンドータシケントーコーカンド―テヘランーバグダットープシールーボンベイーカルカッタ―ラングーン―シンガポール―バンコク―ハノイー香港―上海―長崎に帰国。明治30年3月25日に東京帰着した。

視察目的とその行動はー

  • 上海、香港、シンガポールはイギリスをはじめ欧米列国が、まさに東洋の国際都市として、この地に最も有力な極東情報の収集機関を設けている。これら先進国の情報員と連絡してその取得した情報をすみやかに東京に報告する。
  • サイゴン、バンコック、ラングーンは東南アジア諸国の情報はそのつど、各種の方法で参謀本部に報告、写真機(コダック)を利用して適確な資料を送っていた。これらの資料は甲乙丙の三種類に分けられた。
  • 甲は最も機密度の高い情報で参謀本部の川上次長宛に送致、乙は政府高官、陸軍省、参謀本部等の重要幹部に配布。

この福島大佐の超人的な体力と知力によって成し遂げられた『長期秘密亜欧旅行』は日本のインテリジェンス史上に輝く、明石工作と並んで最高度の情報収集成功事例であろう。なぜなら、これが日英同盟締結(明治35年)につながったからである。

同時に、世界をまたにかけた福島の縦横無尽のスパイ活動を指揮したボス・川上操六こそ「日本インテジェンスンの父」であることがよくわかる。

 

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