前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

終戦70年・日本敗戦史(99)『大東亜戦争とメディアー<新聞は戦争を美化せよ>『メディアコントロールを 検証報道で本質に迫れ』⑦

      2015/06/27

 

終戦70年・日本敗戦史(99

『大東亜戦争とメディアー<新聞は戦争を美化せよ>

平時は<新聞は政権を美化せよ>となる。

『政府のメディアコントロールを 徹底した検証報道で本質に迫れ』⑦

前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)/

聞き手 米田 綱路(図書新聞編集長)

 

―――前坂さんは本のなかで、戦争への暴走にジャーナリズムはどの時点で歯止めをかけることができたのか、と問うておられますけれども、客観報道と、起こっている事態の本質を見抜くという意味でのジャーナリストの批判精神とのかねあいを、前坂さんはどう考えておられますか

―前坂――

確かに、戦時下の新聞の紙面を見ても、国民の間に熱狂的な天皇制イデオロギーがあり、排外熱の昂揚などは、それから軍部や内閣情報局の指導に沿ったものですけれども、底流としてあるのは反中国感情、中国への蔑視、民族的な偏見、エスノセントイズムですね。

それを他者の目を通してグローバルに、冷静に見ていくジャーナリズムの目が、紙面からは感じられません。中国側から日本を見ていくというジャーナリズムの公正さ、客観的な視点が全く欠落していますね。

そうした愛国主義的な報道を見れば、ジャーナリストのなかにも盲目的なナショナリズムが満ちていたのかもしれません。客観的に見る目、公平、多角的な視点が、残念ながらその当時の論調そのものに少ないですね。

――現在のジャーナリズムの取材体制のなかで、速報性ということと検証的なフィードバックを両立させていくということは、やはり至難の技なのでしょうか。朝刊制作帯と夕刊制作帯という時間的制約のもと、締め切り前に記事を突っ込まなければならないという日々のなかで、検証と事態の本質を見抜くジャーナリストの批判精神との兼ね合いはどうなのか。

とりわけ、新聞が戦争を美化してしまった事実が決して特殊なものではなく、現在のジャーナリズムの枠組みを規定している記者クラブ制度や速報性を見ても現に存在しているということを、『新聞は戦争を美化せよ!』は問い掛けているように思います。

そのことは決して六〇年前の戦時体制下の特殊な出来事ではなく、先ほど話されたように、昭和天皇の下血報道においても再現されたわけですね。そうした現在のジャ―ナリズムに通底する問題について、前坂さんはどうお考えですか。

⑦ 重要な検証報道で本質に迫る

―前坂――

新聞の場合には、事件発生した段階では、速報するため熱狂的に現場に行きますけれども、また新しい事件が発生するとまたそこに行く。「砂地獄」のような、そうした状態の繰り返しになっています。

 

いわば、犬が公園で木切れを、左に投げられると喜んで尻っぽをふりながら取りに行って拾ってくる、すると今度は右に投げられる。シッボを振って、また急いで拾って喜んで返ってくる。次々に発生するニュースとメディアの関係は、この「ペットドッグ(愛犬)」と主人の関係です。

大切なのは投げられたもの、その意図何なのかを見分けること。その本質を解明すべきなのに、くり返して素早くニュースを持ってくるだけの愛犬です。メディアは権力を監視する「ウォッチドッグ(番犬)」であるという、本来の意味に立ち返るべきですし、メディアがアジェンダセッティング(議題設定機能)を取り戻すべきですね。

記者クラブという統制されたニュース製造工場の《鎖につながれた巨人》から、自由になるべきです。そして、いま求められているいちばん大切なことは、速報性の繰り返しだけでは真実に迫れないということを踏まえて、時間をおいてフィードバックして事実を徹底して追及、検証することですね。

―前坂――

九〇年代に入って起きた湾岸戦争の場合には、最初から情報のコントロールがなされて、戦争の報道の前に、関係者を一切現地に行かせない『プール』取材で、取材ができなかったわけですね。

報道される内容も、米国防省によって限定されていますし、速報で真実を伝えようとしても最初から無理だったわけです。そして、実際にイラクでどのくらいの人間が死んだのか、戦争の実態はどういうものであったのかということについては、その後も報道されていないわけです。

ピンポイント爆撃で軍事施設だけを破壊する「クリーンな戦争」であるということが、テレビで繰り返し報道されましたけれども、新聞の場合は、立ち止まって真相に迫る武器を持っているわけですから、時間をおいて、速報性に身を任せるのではなくて、事実をもう一度追跡して、検証していくという作業を、もっと徹底してやるべきだと思いますね。

それから、情報をコントロールする側は、山中さんの『新聞は戦争を美化せよ!』を見ても非常に巧妙にやっていることが明らかにされているわけですから、読み手は紙面だけでは全然それがわかりません。

ですから、情報をコントロールする側のさらに上に行くようなジャーナリズムの文法を持つためには、ジャーナリズムが検証する力を持たなければならない。そうしないと、同じように速報主義と発表でやっていては、情報をコントロールされているところから結局のところ脱出できませんね。

バブル以降の不況報道もまったく検証されずそれに、過去十数年間のバブル崩壊以降の「失われた十年」、本当は「失った十年」の経済、不況報道も、依然として六〇年前と同じ報道パターンがくり返されていますね。

戦争中の戦争の既成事実を追認して報道していく「戦局報道」、日本の政治報道も「政局」の変化を追っていくだけの「政局報道」に終始して質的転換が遂げられていないように、経済面でも、くり返された経済対策やスローガンだけの構造改革がその本質、結果はどうだったのかほとんど検証されることなく、くり返して前へ前へと報道される。

つまり、過去10 年の経済対策、公共事業優先緊急対策がどのように使われ、効果がまったく出ていないその対策の中味を徹底して検証すること、どのような効果と目的を果たしたのか、フィードバックして十二分に検証して報道することがなされていない。

大本営発表の「勝った、勝った」というウソの大戦果の報道と全く同じことをくり返しているわけで、こうした「状況報道」よりも、鋭く本質に迫っていく、速報性はテレビに譲って事実の真偽をチェックしていく「本質報道」こそが、求められていると思いますね。(了)

    <以上 図書新聞2001 55日から採録したものです>

 - 戦争報道

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『対中戦略の回顧』ー記事再録/日本リーダーパワー史(631)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(24)『荒尾精の日清貿易商会、日清貿易研究所設立は 「中原正に鹿を逐ふ、惟に高材疾足の者之を獲る」

      2015/12/31/日本リ …

『電子書籍 Kindle版』の新刊を出しました。★『トランプ対習近平: 貿易・テクノ・5G戦争 (22世紀アート) Kindle版』

米中二大大国の覇権争い——開幕。 「トランプ大統領の大統領の大統領就任から2年間 …

no image
★『オンライン/新型コロナパンデミックの世界』(2020年12月―21年1月15日)★『 コロナ第3波に襲われた世』★「トランプ大統領の最後の悪あがき、支持者が米議事堂に乱入!』★『バイデン新大統領の就任式(1/20日)★『中国の強権、戦狼外交が続く』★『今年7月に中国共産党は結党100年を迎える』(下)

  「トランプ大統領の最後の悪あがき、支持者が米議事堂に乱入!」 前坂 …

●『徳川封建時代をチェンジして、近代日本を開国した日本史最大の革命家・政治家は一体だれでしょうか講座②』★『国難の救世主「西郷隆盛のリーダーシップはー「敬天愛人」「命も名誉も金もいらぬ」「子孫に美田を残さぬ」が信条』★『これだけの大民主革命をやり遂げた政治家は日本史上にいない』

  2017/10/29    …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(164)記事再録/『袁世凱の政治軍事顧問の坂西利八郎(在中国25年)が 「日中戦争への原因」と語る10回連載』●『万事おおようで、おおざっぱな中国、ロシア人に対して、 日本人は重箱の隅を小さいようじでほじくる 細か過ぎる国民性が嫌われて、対立がエスカレーとし戦争に発展した』

       2016/09/13日中韓 …

no image
『「申報」『外紙』からみた「日中韓150年戦争史」(64)『(日清戦争開戦50日後)-『ロイターと戦争報道』

『「申報」『外紙』からみた「日中韓150年戦争史」 日中韓のパーセプションギャッ …

no image
『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊶★『明治37(1904)/2/4日、日露開戦を決定する御前会議が開催』●『明治天皇は苦悩のあまり、10日ほど前から食事の量が三分の一に減り、眠れぬ日が続いた。』★『国難がいよいよ切迫してまいりました。万一わが軍に利あらざれば、畏れながら陛下におかれましても、重大なるご覚悟が必要のときです。このままロシアの侵圧を許せば、わが国の存立も重大な危機に陥る(伊藤博文奏上)』

  『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 …

「Z世代への遺言」「日本を救った奇跡の男ー鈴木貫太郎首相②』★『ルーズヴエルト米大統領(68)死去に丁重なる追悼文をささげた』★『鈴木首相とグルー米国務省次官のパイプが復活』★『ポツダム宣言の受諾をめぐる攻防』★『鈴木首相の肚は聖断で一挙にまとめる「玄黙」戦略を実行した 』

2024/08/17   記事再録再編集 ルーズヴエルト米大統領(68 …

『Z世代のための日本政治史/復習講座』★『ニューヨークタイムズなど外国紙からみた旧統一教会と自民党の50年の癒着』★『ニセ宗教と反共運動を看板に、実質的には「反日霊感ぶったくりビジネス」で「コングロマリッド」(巨大世界企業)を形成』

「旧統一教会」(反日強欲カルトビジネス教集団と自民党の癒着問題 「米ニューヨーク …

no image
日中韓異文化理解の歴史学(7)(まとめ記事再録)『日中韓150年戦争史連載81回中、71-81回終)★『『ニューヨーク・タイムズ』仰天論評(日清戦争未来図ー 日本が世界を征服してもらえば良くなる』●『文明化した聡明な日本が世界征服すれば、中国は野蛮なタタール人に征服され続けているよりは、より早く近代化する。 現在ヨーロッパ各国政府の悪政という重荷と各国間の憎悪と不信感という重荷を背負わされている一般民衆は.日本人を解放者と思うようになり,天皇の臣民の中でも最も忠実な臣民となるだろう』

  「日中韓150年戦争史」(71)『ニューヨーク・タイムズ』仰天論評(日清戦争 …