前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

世界が尊敬した日本人◎「日本らしさを伝える<小津スタイル>-世界の映画ベストワン「東京物語」に輝いた小津安二郎監督「なんでもないことは<流行>に従う。重大なことは<道徳>に従う。芸術家は<自分>に従う」­(小津の信条)

   

 

2023年12月12日は、日本映画の巨匠・小津安二郎監督の没後60年、生誕120年である。今年の第36回東京国際映画祭(10月23日―11月1日)では、4Kデジタル修復された小津監督の名作の数々が大々的に回顧上映された。

12月2日NHKETV特集「生誕120年・没後60年 小津安二郎は生きている」(小津映画の秘められた謎に迫る)が放送された。若い時に見た小津の作品はほとんど印象に残っていないが、80歳の老人となって「東京物語」を再見しこの特集をみて、小津映画の原節子、山中貞雄 、小津安二郎の深い関係性がよくわかった。
  2013/10/12  記事再録   

世界が尊敬した日本人

◎「日本らしさを伝える<小津スタイル>-世界の映画ベストワン「東京物語」に輝いた小津安二郎監督

「なんでもないことは<流行>に従う。重大なことは<道徳>に従う。芸術家は<自分>に従う」­=小津の信条

<歴史読本(2012年12月号)に掲載>

前坂 俊之(ジャーナリスト) 

〔世界が評価した『東京物語』〕

十年に一度、英国映画協会発行の雑誌に発表される「世界の映画監督が選ぶ史上最高の映画」には、三百五十八人の映画監督の投票結果によると、小津安二郎監督の『東京物語』(昭和28年一九五三))が第一位に輝いた。

「完壁な技術で、家族の時間と喪失を描いた非常に普遍的な映画」(二〇二一年八月三日付日経新聞)と評された。第二位は 『二〇〇一年宇宙の旅』(一九六八年、スタンリー・キュープリック監督)第三位は 『市民ケーン』(一九四一年、オーソン、ウェルズ監督)だった。さらに、同時に発表された八百四十六人の映画批評家が選ぶ名画ランキングでも、『東京物語』は三位のランクインを果たした。

じっは、『東京物語』はこの映画ランキングの常連である。小津安二郎は溝口健二、黒澤明と並ぶ日本映画の巨匠だが、その評価は世界でも不動のものとなっている。

〔戦前・戦後を通じた多作監督〕

小津安二郎は一九〇三年(明治三十六年)十二月に、東京市深川区(現在の東京都江東区深川) の肥料問屋の二男として生まれた。十四歳のとき、ハリウッド映画を見て米映画のとりこになり、大正十二年(一九二三)、十九歳で松竹蒲田撮影所に入り、撮影助手などの経験を積んだ。 

二十三歳で監督に抜擢されると、中、短篇の喜劇、家庭映画を数多く手がけ、新進監督として認められた。

「小津スタイル」といわれる独特の映画技法を完成し、昭和七年『生れてはみたけれど』、八年『出来ごころ』、九年『浮草日記』と、三年連続で映画雑誌『キネマ旬報』が主催する「キネマ旬報ベスト・テン」の第一位を獲得。一躍、日本を代表する映画監督になった。

太平洋戦争中は陸軍に応召されたが、昭和二十一年に帰国、松竹に復帰、『晩春』(昭和二十四年、キネマ旬報ベスト・テン第一位)、『麦秋』(同二十六年、同一位)、『東京物語』(同二十八年、同二位)、『彼岸花』(最初のカラー作品、同三十三年、同三位)『秋刀魚の味』(同三十七年、同八位)、などの円熟した作品を発表して、小津映画の黄金時代を築いた。しかし、昭和三十八年十二月、がんで六十歳で急死した。昭和戦前には短編を含め三十八本、戦後は大作十三本と、生涯52本の映画を取った多作家でもあった。

  • 〔日本文化の理解に貢献〕

 小津作品には四つの特徴がある。

①小市民の日常生活、家族生活を中心に描くホームドラマ。主役は笠智衆、原節子ら駅撃らいつも決まっており、、カメラ、スタッフも小津組といわれ、作品ごとの変動が少ないメンバ-、キャストで作った。

②ドラマチックなストーリーはなく、平凡な小市民の日常生活を描くシナリオ。畳敷の和室に座っての淡々とした会話を中心に描き、男女、親子、夫婦らの日本の家族制度を浮き彫りにした。

③最大の特徴はカメラの位置がローァングル(日本家屋の床上五〇センチ、地上からは九〇センチ)に固定された状態のまま移動すること。パーン(撮影機を一ヶ所に据えたまま、左右・上下に動かすこと)することもなく、クローズアップなどの手法も拒否した。絵画的でシンプルな映像スタイルを生涯変えなかった。

④オーソドックスなストーリー、活劇、移動カメラなどの技術)とは対極にある、静かな舞台劇を見るような作風なのである。

 このように静かな特徴の小津作品は、国内では人気を勝ち得たが、溝口、黒澤のような海外での評価は長いあいだ得られなかった。そのあまりに日本的と思われる、反映画的な、活動的でないスタイルのためである。

ところが、日本映画を海外に紹介した映画評論家、ドナルド・リチーは「小津作品は神秘的であり、宗教美術を見るような感動がある。正座、無言、無表情な日本人のコミュニケーション態度を的確に表現している」と、小津作品を評価した。これがきっかけで、海外からも注目され、高評価を得ることとなる。

黒澤明は、『羅生門』『七人の侍』などの派手なアクション時代劇で日本の男をダイナミックに描いた。その一方で、小津はカメラを固定して日本の女性や家族生活を記録することで、世界における日本文化への関心に応え、世界の映画監督にも大きな影響を与えた。

 

 

 - 人物研究, IT・マスコミ論, 湘南海山ぶらぶら日記

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(251)「日本を救った男」というべき空前絶後の参謀総長・川上操六(31)田村怡与造について

 日本リーダーパワー史(251) 「日本を救った男」というべき空前絶後の 参謀総 …

no image
正木ひろしの戦時下の言論抵抗(正木ひろし伝Ⅱ)(下)

1 <静岡県立大学国際関係学部紀要『国際関係・比較文化研究』第3巻第1号(200 …

「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース②」『日露戦争の原因となった満州・韓国をめぐる外交交渉決裂』●『米ニューヨークタイムズ(1903年4月26日 付)「ロシアの違約、日本は進歩の闘士』★『ロシアの背信性、破廉恥さは文明国中でも類を見ない。誠意、信義に関してロシアの評判は最悪だから,これが大国でなく一個人であれば,誰も付き合わないだろう』

    2016/12/24 &nbsp …

no image
“World Camera Watch (60)”< I look up the Yakushiji three statues of Treasures Nara overthe world>①

   "World Camera Watch of …

no image
終戦70年・日本敗戦史(72)「新聞界一致で「米英撃滅国民大会」開催」「米英撃滅・屠れ米英、我等の敵・進め一億火の玉だ」

 終戦70年・日本敗戦史(72)  大東亜戦争開戦の「朝日, …

『Z世代のための日中韓外交史の研究』★『米ニューヨーク・タイムズ』(1895(明治28)年1月20日付))の「東学党の乱と日本の態度」★『日本は過去10年間、朝鮮を支配してきた政治より、平和的で高潔で安定した政治を導入すると誓約したが,これまでのところ朝鮮の役人の二枚舌に悩まされている」』

 2011/03/16 の記事再録 <朝鮮の暴動激化―東学党、各地の村 …

no image
『オンライン/160年前の『ニューヨーク・タイムズ』で読む日本近現代史講座』★『日本についての最初の総括的なレポート<「日本および日本人ー国土、習慣について>(1860(万延元)年6月16日付)

     2012/09/10 の記事再 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(162)記事再録/日本名人・達人ナンバーワン伝ー『イチローは現代の宮本武蔵なり』★『「五輪書」の「鍛錬」とは何か、鍛とは千日(3年間)の稽古、錬とは1万日(30年間以上)の毎日欠かさずの練習をいう』●『武蔵曰く、これが出来なければ名人の域には達せず』(動画20分付)★『【MLB】なんで休みたがるのか― 地元紙が特集、イチローがオフも練習を続ける理由』

2017/10/22『イチローと宮本武蔵「五輪書」の「鍛錬」の因果関係ー免許皆伝 …

★10『人気記事リクエスト再録』ー『ストーカー、不倫、恋愛砂漠、純愛の消えた国日本におくる史上最高のラブストーリー』★『結婚とは死にまでいたる恋愛の完成である』「女性学」を切り開いた高群逸枝夫妻の『純愛物語』

リクエスト多数により再録 『史上最高のラブストーリー』 ★★『結婚とは死にまでい …

no image
 日本リーダーパワー史(830)(人気記事再録)『明治維新150年』★『日露戦争勝利の秘密、ルーズベルト米大統領をいかに説得したかー 金子堅太郎の最強のインテジェンス(intelligence )②』★『ル大統領は金子特使を大歓迎 ー米国到着、米国民はアンダー・ドッグを応援』

 日本リーダーパワー史(830)(人気記事再録)『明治維新150年』★ &nbs …