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『リーダーシップの日本近現代史』(61)記事再録/国難の研究― 日露戦争開戦までの外交交渉の経過と政府の対応①『児玉源太郎が2階級降下して参謀次長に就任、全軍を指揮、病気静養中の桂太郎総理の決意、参内し上奏、旨趣

   

―国難の研究―
日露戦争開戦の外交交渉の経過と政府の対応①
 
 

 〔参謀本部文書、秘密日露戦史〕

 明治三十七年開戦(日露戦争)に至るまでの情況

 
韓国臨時派遣隊と海軍出兵準備、
 
明治37年1月17日、参謀次長は韓国派遣隊を武装のまま差遣すへき場合を顧慮し、第十二師団長中将井上光に所要の件を内報せしが、
 
是日海軍側は閣議に於て一月二十日にあらされは出兵準備完了せすと言明し、参謀本部にも亦其旨通牒し来れり。
 
然れとも参謀本部に於ては、戦略上臨時派遣隊は必要に際し何時にても出発せしめさるへからす、となし己むを得されは海軍の援助を受くることなく単独韓国派遣を決意せり。
 
御前会議
 
 然るに十二日閣議あり、次て翌十二日御前会議開催せらる。蓋し、政府は重大なる危機に際し、和戦何れかに決定せんとせしなり。
 
本会議は午前十時三十分より午後零時三十分迄及午後二時十分より同六時迄、聖上親裁の下に、山本海軍大臣以下各大臣。桂総理大臣は急病のため出席せず。
 
伊藤、山県、松方、井上各元老、大山参謀総長、児玉参謀次長、伊東軍令部長、伊集院次長列席し大に論議せられたり。
 
然れとも是日未た開戦に決せす、政府はなお一応露国に再考を求むべく、又陸兵の韓国派遣は海軍出兵準備整ひたる後に行ふこととなれり。
 
臨時派遣隊編成決定
 
是に於て参謀本部は己むなく海軍の出兵準備整ひたる後、速に臨時派遣隊の韓国派遣を決行するに決し、且其予定兵力を若干滅して歩兵四大隊を以て編成し、歩兵第二十三旅団長少将木越安綱を司令官となし、
 
佐世保附近に於て乗船の後、黄海方面に進航する我艦隊に随行して、仁川に上陸せしめんことを計画し陸軍大臣中将寺内正毅より、一月十六日予め第十二師園長に臨時派遣隊編成要領及同盟旭除司令官に与ふる左の訓令を迭付せり
 
海軍出兵準備完了事情
 
次いで十八九日頃参謀本部は海軍出兵準備完了日たる二十日に臨時派遣隊を出発せしめんことを慫慂せしに、海軍側は又復二十六日頃にあらされは出発し能はさる旨同答し来り、
 
開戦決行は海軍のため、遷延に遷延を重ぬるに至れり、而して右海軍の出兵準備完了せすと為す眞因は、日本に同航中なる日進、春日両艦がコロンボ港出帆を待ちて、開戦を要すとなせしに、偶々両艦の同港に於ける石淡補給予定の期日より遅れたるを以てなり。
 


以下は公爵桂太郎伝より〕

 

対露交渉の破裂
 
露国の対案
 
 公は、露国の同答案を持つこと一箇月半。一月六日に至りて、露国は漸く其の同答を送り来れり。
 
然るに、其の同答は、僅かに我か希望の一部を容れたるに止まり、其首要なる部分に対してしては、未た全く同意を表せさりき。
 
即ち彼は満洲に関しては、日本か満州を、日本の利益範囲外なることを認むるに於ては、日本か現行條約の下に獲得したる権利を認むと云ふも、
 
尚除外例を設け、又韓国に関しては、更に多少の譲輿を為したれとも、なお多くの制限を附したりき。公及小村外相は、之を商議の余地なきものと認、
 

修正案起草事情
 
即時談判を破裂せしむるに決定したるも、当時、我か海軍戦備未た全からす、殊に運迭船の全部、佐世保に集中するは、一月二十日を期したりしを以て、この日以前に於て戦端を開くを、不便とせり。
 
因て暫らく露国の対案を修正して、之を送付し、少しく時機を延ふるに決し、小村全権をして、又一の修正案を起草せしめたり。
 

修正案に対する協議書と桂総理の病気
 
 
公は三田の私邸に於で閣僚を招集して、修正案に対する協議会を開けり。これ当時、公は流行性感冒に罷りて、官邸に在る能はさりしかためなり。此日、山本海相、小村外相、寺内陸相等皆合せり。公は小村全権をして、起草せしめたる修正案を把て、衆議に附し、其の意見を問ひたり。
 
最後の修正案修正の條件は既に記したるか如く、前陳の旨趣に従ひ、韓国に関しては、我に於て既に耄も退譲の余地なしとて、
 
我か主張を固持し、露国の提案に係る韓国領土を軍略上の目的に使用せさる事、及ひ中立地帯設定に関する條項は一切之を削除し、満洲に関しては、居留地設定の制限を削除するの外、
 
露国の提議を容れて、日本は満洲の其利益範囲外たることを承認すると共に、露国をして満洲の領土保全を尊重し、
 
又日本の満洲に有する権利を、阻害すること無きを誓はしめ、同時に露国をして、韓国は其の利益範囲外たるを承認せしめんとしたり。これ実に最後の修正案なりし也。
 

桂総理の決意
 
 公は閣僚に告けていわく、此の修正案を以て露国に交渉するとも、之れを既往の経過に徴するに、到底露国をして我か希望を容れしむるを望むへからす。此上時局の解決を遷延するは、我に取りて大に不利なり。
 
宜しく露国に通告して、此まま談判を中止し、以て我国か露国の侵迫を受けたる方面に向て、帝国の地歩を防衛し、滋に帝国の既得権、及ひ正常の利益を擁護すへきなり。
 
唯此の通告を行ふ時機は、軍事計画と最も緊密なる関係を有するを以て、両々相待て、之を決定せさるへからす。即ち、比際重ねて友誼的精神を以て、露国の再考を促さんと欲すと。
 
閣僚皆公の意見に同意し、重ねて比の修正案を露国に送ることに決定したり。(1月13日,駐露栗野公使へ電訓)
会議の席上、公は発熱甚しく、其の会議を畢り、閣僚と相別れし後、直ちに病床に入りしか、熱度方に四十度以上に勝り、静養すること二週間、其のまま軽快に趨き、官邸に帰りしは一月二十二日なりき。
 

桂総理 参内上奏旨趣
 
公は二十四日参内して、左の旨趣を上奏したり
 
 第一  露国我書に対し、全然同意を表し来らは、戦いを開くを要せさるへき。
 第二 露国若し我意に反する、意見を同答し来らは、直に戦端を開くは免れさるへき。
 
 第三 露国若し多少とも我意見を容れ、而して其事項の我に於て忍ひ得へきものたらは、重ねて廟議を尽すの必要あるへき。
 
 然るに、一月を過き二月に入りしも、露国の同答は来らす、公等は益々其の準備を怠らきりき。

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