名将・川上操六⑪の『最強のリーダーシップ』とは(3)<元老、先輩など眼中に置くな」>
2015/02/16
<頭山満の評「川上は偉い。元老、先輩など眼中に置かなかった」>
前坂 俊之(ジャーナリスト)
<以下は頭山満翁正伝(未定稿)1943年版」(昭和56年、葦書房)の中での、頭山満の1943年(昭和18)5月におこなった川上操六への思い出話である。>
頭山の話
人間という奴は妙なもので、民間にいる間は一かどの役に立つべき豪傑肌の男でも一度、官吏の仲間入りするが最後、三文の価値もない骨抜きの幽霊になってしまう。つまりお役目ゆえに骨抜きになるのじゃなあ。
軍人とか何々官とか、エラそうにいいながら、先輩や上官の前に出ると、ネコににらまれたネズミのごとくふるえへ上って、たゞもうどうして御機嫌を取ったらよいかということばかりに気を取られて、男一匹自己の意見を述べることが出来ないとは、何たることか。情ない人間が多くなったものじゃ。
そこへ行くと川上操六は実に偉かったと思う。彼は随分面倒の多い時代の陸軍を背負っていたが、いやしくも自己の計画がこれだと信ずる以上、あくまでも無遠慮に押通しておった。たとえ元老だろうが先輩だろうが、眼中に置かなかった。
(注・ところが川上は日清戦争では現地で総大将として指揮をとった山県有朋を参謀総長の自分の指揮を無視して作戦を実施したとして、解任して引き揚げさせている。昭和の統帥権干犯問題とは180度違う見事な統帥ぶりである)。
水清ければ魚棲まずで、川上が陸軍部内にある間は、日本の陸軍は大丈夫じゃったが、それだけ川上は元老連から嫌われていた。川上は頭脳の緻密な男で、国防問題を担任、研究する参謀総長として、まことに適任であったと思う。
歴代の総長は誰も彼も元老の圧迫を受けて、思う存分の仕事が出来なかったが、川上だけは格段じゃった。いやしくも一国の干城として軍務に携わるほどのものが、左顧右鞭、他の御機嫌を伺うようなことで何が出来るか、川上は近代の軍人中の偉い男じゃ。
川上の身後を飾るべき美徳は一意専心君国のために働いたことである。これまでの役人や軍人が、表面にはヤレ国家のためとか、大君のためとか、体裁のよいことを言うてはいるが、その実、彼等は職務を利用して私腹を肥やしているのだ。立派な面を被って天下を欺き、自己を偽る偽善家の群である。
こういう腸の腐った人間が国政を左右するから、種々忌まわしい問題が起るのだ。その点になると川上は気持のよい程、潔白じゃった。
武人がゼニに執着するようになれば、それでおしまいじゃ。荒尾精が日清貿易研究所を作って金に窮した時、川上が番町の自宅を抵当にして四千円の金を都合してやったことなどは、今時の軍人には薬にしたくも見ることは出来ない。軍人精神の著しく堕落してゆくにつけ、自分は川上を憶ひ出す。
<参考文献「頭山満翁正伝(未定稿)1943年版」(昭和56年、葦書房)>
関連記事
-
-
日本リーダーパワー史(668)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(50)●「明治4年の岩倉使節団の『政府首脳の大半が国外にでる壮挙』この知的探求心、国家改造力、ベンチャー精神こそが『明治の奇跡』を生んだ。
日本リーダーパワー史(668) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(50) …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(73)記事再録/『日露300年戦争(4)』『露寇(ろこう)事件とは何か』★『ロシア皇帝・アレクサンドル一世の国書を持って、通商を求めてきた第2次遣日使節・ラスクマンに対しての幕府の冷淡な拒絶が報復攻撃に発展した』
2017/11/18 / 日露300年戦争(4 …
-
-
昭和外交史④ 日本の一番長い日 陸軍省・参謀本部の最期
1 昭和外交史④ 日本の一番長い日 陸軍省・参謀本部の最期 <阿南陸相の徹底 …
-
-
『日本の歴代首相で英語力・外交力で国際情報発信力をもった『世界的な政治家』は一体誰でしょうか?』★ 『初代総理大臣・伊藤博文(44歳)です』★『1896(明治29)年7月20日の「ニューヨーク・タイムズ」の34頁は全面つぶして伊藤博文が英語で答えたインタビューが掲載されている。』★『日本の女性問題-「吉原遊郭」の問題性について反論した』
2010/02/08 日本リーダー …
-
-
『5年前の記事を再録して、時代のスピード変化と分析ミスをチェックする』-『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか⑤』★『アベノミクスで政権100日は成功、この難題山積のナロウパス (細いつり橋)を素早く突破しなければ、日本の明日は開けない』★『スピード突破できずTimeout、釣り橋から落下の運命が迫りくる?』
★『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか ー―日本興亡150年史』⑤― < …
-
-
名リーダーの名言・金言・格言・苦言・千言集⑥『熟慮、祈念、放下、断行』(伊庭貞剛)●『逆境にいて楽観せよ』(出光佐三)ほか11本
<名リーダーの名言・金言・格言・苦言 ・千言集⑥> 前坂 俊之選 & …
-
-
ジョーク日本史(6)西郷隆盛の弟・西郷従道②ー兄以上の超大物 で 『バカなのか、利口なのか』『なんでもござれ大臣」の面白エピソード、機智、ユーモア
ジョーク日本史(6) 西郷隆盛の弟・西郷従道は兄以上の超大物 『バ …
-
-
日本リーダーパワー史(255)空前絶後の参謀総長川上操六(34)野党の河野盤州を説得した驚異のインテリジェンスと交渉力
日本リーダーパワー史(255) 空前絶後の参謀総長・川上操六(34) ◎「日清 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(183)記事再録/★「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が報道した「日韓併合への道』⑯「伊藤博文統監はどう行動したか」(小松緑『明治史実外交秘話』昭和2年刊)①
2015/09/03   …
-
-
日本リーダーパワー史(941)~「ノーベル賞とジャーナリズム」★『社会を根本的に変えるのは科学技術の進歩とイノベーション』★『最も必要な教育とは科学教育であり、論理的な思考力である』
日本リーダーパワー史(941) ノーベル賞とジャーナリズム 今年のノーベル生理学 …
