前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(810)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、リスク管理 、インテリジェンス㉕ 『日英同盟の核心は軍事協定で、そのポイントは諜報の交換』★『日露開戦半年前に英陸軍の提言ー「シベリヤ鉄道の未完に乗じてロシアの極東進出を阻止するために日本は一刻も早く先制攻撃を決意すべき。それが日本防衛の唯一の方法である。』

      2017/05/21

 日本リーダーパワー史(810)『明治裏面史』

★『「日清、日露戦争に勝利』した明治人のリーダーパワー、

リスク管理 、インテリジェンス㉔

 

田村次長は陸軍内では慎重派の巨頭とみなされていた。「湖月会」の早期開戦論、主戦派のグループの突き上げにも、「ロシアと事を構えるならば、弾は何発用意すればよいのか。野砲は、山砲は何門持っていけばよいのか。回答せよ」と部下に迫った。

部下が答えられないと、「では日清戦争での平壌攻撃で何発、弾を使ったか、答えてみろ」と言っても返事がない。田村は数字をはっきり示して、ロシアを相手にする場合はその何十倍も必要なのだ。お前たちの湖月会の会合など、茶飲み話の書生論に過ぎぬ」と、その匹夫の勇を一喝した。

戦争とは兵力、兵器、兵備、兵站、ロジスティクス、動員力、経済力、情報力、科学力、外交力などを総合した国家総力戦である。重要なのはそれらの数字的、科学的、合理的な裏づけである。

クラウゼヴィツの「戦争論か」から学んだ田村のインテリジェンスとロジスティクスから、国力10分の1以下の日本がどうすればロシアに勝てるのか、勝てないにしても引き分けに持ち込む方法について、頭脳を極限までしぼっていた。

明治27年の日清戦争後、日本は10年間、臥薪嘗胆してツメに火を灯して、国家予算の半分以上を対ロシア戦に備えて軍備増強(軍事費)に充ててきた。その数字を上げると、明治29年は43%30年は50%31年は51%32年は45%33年は45%34年は38%35年は30%36年は33%にものぼる。 しかし、日ロの戦力差はまだ大きく開いたままだった。

 

6月11日、甲府までの鉄道が開通し、甲府駅で祝賀会が開催されるため田村は新宿停車場から列車に乗りこんだ。車中には元老の伊藤博文も一緒だった。

伊藤は「田村君、参謀本部内では主戦論が強いようじゃが、準備は大丈夫なのか」と聞いた。

「参謀本部がロシア討つべしで固まっているわけではありません。国内の工業力からみて、自信をもってロシアに勝てると申しあげられないのです」

「海軍では『三笠』も『朝日』も完成し、六六艦隊を整備できたが、陸軍の方はまだ足りんというわけか」

「組織はできました。兵卒も集めました。形の上では十三個師団ですが、銃や砲や弾丸が、まだ不十分です」と田村は慎重論を唱えていた。

(篠原昌人「 知謀の人田村 怡与造、光人社」(1997年)

 

伊藤、山県の両元老はこの田村参謀次長の見解をもとに、慎重姿勢を崩さなかった。622日、田村は「朝鮮問題解決意見書」という和戦両面の意見書を大山参謀総長に提出したが、大山参謀総長も慎重派であった。

 日英同盟の核心は軍事協定で、そのポイントは、諜報の交換である。

『月とスッポンの結婚』といわれた日英同盟の締結は明治35年1月で、日露戦争のちょうど2年前のことである。日英同盟の核心は秘密協定の軍事協定にあった。

日英同盟の調印が終るとただちに東京で、英国大使館付武官とわが陸海軍当局とのあいだで極秘のもとに日英軍事協定の試案が作られ、同年7月初にはロンドンの陸軍省で両国の正式調印のための会議が開かれた。

日英軍事協商の秘密協定のポイントは、諜報の交換である。

「情報を制する者が世界を支配する」 のセオリー通り、次の三点の密約が交わされた。

(1)両国は、ロンドン、東京の日英公使館付海陸軍武官を通して、すべての諜報を相互に自由に交換する。

(2)両国の公使館付武官は、いずれの任地でも自由に情報を交換する。

(3) 両国海軍連絡将校の各艦隊付と、両国陸軍連絡将校のインドと日本間の交換派遣。戦時における陸海軍従軍武官を各司令部に配属する。

7月に入って、この諜報交換に基づいて、福島と田村次長にイギリス陸軍の次のようなロシア情報がもたらされた。

➀「シベリヤ鉄道の未完に乗じてロシアの極東進出を阻止するために日本は一刻も早く先制攻撃を決意すべきである。それが日本を防衛するための唯一の方法である。

②もしこの機会を逸してシベリヤ鉄道による後方補給路を確立したロシャ陸軍が極東に進出することになれば、ロシア軍は絶対優勢の軍事力で満州はもとより、朝鮮半島に対しても日本の勢力を駆逐することは火を見るよりも明らかである」

③ロシアのパルチック艦隊の極東廻航に関しては、イギリスとしてスエズ運河の通航に制限を加え、廻航途中の給水給炭の支援を拒絶し、特に監視を継続して適時これらの情報を日本に提供することを約束する。

この情報と福島情報のダブルチェックで、7月以降に慎重派の田村次長が、対ロ積極派へ転換していった。

 日本リーダーパワー史(805)/記事追加再録版 「国難日本史の歴史復習問題」-「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス⑥」 ◎「ロシアの無法に対し開戦準備を始めた陸軍参謀本部』★「早期開戦論唱えた外務、陸海軍人のグループが『湖月会』を結成」●『田村参謀次長は「湖月会の寄合など、茶飲み話の書生論に過ぎぬ」と一喝』 

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/24728.html

 

日本リーダーパワー史(679)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(58) 『戦略情報の開祖」福島安正大佐ー 明石元二郎の「明石謀略」は裏で英国諜報局が指導、福島、宇都宮太郎(英国駐在武官)がバックアップして成功した。

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/15027.html

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本メルトダウン( 978)『トランプ米大統領の波紋!?』●『トランプ新大統領、中国には脅威と好機 ー経済的・地政学的には両面の影響がありそうだ(WSJ)』★『フランス極右政党の党首がトランプ勝利を大喜び 来春の大統領選への影響は?』●『不法移民、犯罪者をまず送還=壁はフェンスも利用-トランプ氏』★『首席補佐官にプリーバス氏=共和主流派との連携狙いか-米次期大統領』●『ついに馬脚現した習近平、歴史歪曲が白日の下に–南京虐殺の捏造がついに暴かれ始めた』

  日本メルトダウン( 978) —トランプ米大統領の波紋!? 【W …

no image
日本リーダーパワー史(727)(クイズ)明治維新150年の中で、最も独創的、 戦闘的な経営者とは一体誰でしょうか <答え>『出光佐三』でしょう。 かれの国難突破力、逆境突破力、晩年長寿力 に及ぶ大経営者は他には見当たらない。

日本リーダーパワー史(727) ≪クイズ≫明治維新150年の中で、最も独創的、 …

no image
片野勧の衝撃レポート(66)「戦後70年-原発と国家<1955~56> 封印された核の真実」「平和利用原発なくして経済発展なし今なお、解除されていない緊急事態宣言(上)」

片野勧の衝撃レポート(66) 「戦後70年-原発と国家<1955~56> 封印さ …

no image
日本リーダーパワー史(741)『だまされるなよ!安倍ロシア外交の行方』(対ロシア外交は完敗の歴史、その復習問題)●『ロシャに対しては、日本式な同情、理解で 仕事をしたら完全に失敗する。 ロシャは一を得て二を望み、二を得て三を望む国であり、 その飽くところを知らず、このようなものに実力を示さずして 協調することは彼らの思うままにやれと彼らの侵略に 同意するのと同じことだ」 (ロシア駐在日本公使・西徳二郎)』

  日本リーダーパワー史(741)『だまされるなよ!安倍ロシア外交の行 …

no image
★『リーダーシップの日本近現代史』(74)記事再録/「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」-「日英同盟はなぜ結ばれたのか⑤」★『1902年2月19日付『ノース・チヤイナ・ヘラルド』『 日英同盟の成立ー『日本は地理的位置の問題を除けば,完全に西洋の国家であるということができる』

    2016/12/01/「日本の歴史をかえた …

no image
「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など 外国紙は「日韓併合への道』をどう報道したか③<朝鮮は日本の評判を傷っけるようにプロパガンダ工作し、朝鮮人を日本の暴虐の犠牲者として印象づけている

「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が 報道した「日韓併合への道』 …

no image
日本リーダーパワー史(62) 辛亥革命百年⑤―孫文を全面支援した怪傑・秋山定輔②(秋山定輔が語る「孫文と私」(村松梢風筆録昭和15年11月「月刊亜細亜」)★『日本リーダーパワー史(53)辛亥革命百年②孫文を助けた日本人たち・宮崎滔天、秋山定輔、桂太郎、坂本金弥、宮崎龍介らの活躍①』

    2010/07/02 日本リーダ …

no image
世界リーダーパワー史(933)ー『ウォーターゲート事件をすっぱ抜いてニクソン大統領を辞任に追い込んだ著名ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が 今月11日に発売するの最新作「Fear;Trump in the White House」(恐怖─ホワイトハウスの中のトランプ)」の抜粋』★「トランプ大統領の無知な暴君、裸の王様の実態を完膚なきまでに暴露』

世界リーダーパワー史(933)  著名米記者の「トランプ本」が暴露 「 …

no image
速報(226)「ニューヨーク・タイムズ」(1/21) 『低線量被爆に関する世界の実験場が日本ー福島で始まった』

速報(226)『日本のメルトダウン』 「ニューヨークタイムズ」(1/21)付記事 …

『オンライン入門講座/シルバーYou tuber(前坂俊之チャンネル)になる方法』★『ネット動画の時代に乗り遅れる既存メディアー 情報をあまねく広げる「個人」の出現で社会が変わる』(2012年でのインタビュー)記事全文再録)

取材場所:日本記者クラブ (インタビューの聞き手:沖中幸太郎氏)   …