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名リーダーの名言・金言・格言・苦言・千言集(13) 『安定した企業は不安定であり、不安定な企業は安定である』(小林宏治)

   

<名リーダーの名言・金言・格言・苦言
・千言集(13)            前坂 俊之選
 
 
●誤解に対しては超然たれ
 
  大倉 喜八郎(大倉グループ創業者)
  『致富の鍵』大和出版・1992年刊
 
 私は資本家として、企業家として世間からずいぶんひどく攻撃の矢を向けられたものだ
。しかし、誤解も覚悟しているので、「人間の真価は棺を蓋った後でなければとうてい分
かるものではない」「百年の後に本当の知己を得ればよろしい」と思い、世間の毀誉褒貶
には一切頓着しないことにしている。
 
 ただ、自己の良心の指図に基づいて、自ら警め、自ら督励すると共に、高遠なところに
目標を設定して、一意専心、その目標に向かって邁往勇進することにしている。目的に向
って進むことを一秒たりとも閉脚したことはない。
 
 七十五歳になっても、自ら陣頭に立って経済戦争のうちに馳駆しているため、世間は「
張り切りすぎている」などと非難の声がある。誤解はつまるところ、その人間の利害関係
や各人の主義や考え方によって異なるものなので、気にしていても仕方ないものだ。世間
の人の言葉などには頓着せず、所信を断行しなければならない。
 
 
 ●サラリーマン根性を去れ、主人根性を持て
 
上原 正吉(大正製薬創業者)『商売は戦い』ダイヤモンド社・1964年
 
 「サラリーマン根性(奉公人根性)を去れ」―と上原はいつも叫んでいた。いかにして
社員から、この気持ちを取り去っていくかに苦心した。上原は奉公人根性という表現だか
、今でいう、サラリーマン根性、勤め人根性と同じである。
 「自分はサラリーマンである」「社員であり、使用人である」と
いう気持ちでは「叱ら
れないように気をつける」「仕事を認めてもらう」という、上司と部下の前には態度の変
わる陰日向のあるサラリーマン根性になりやすい。
 
 自分がリーダーであり、主人だという意識を持っていると、陰日向などありえない。叱
られぬよう気をつけることも、認められようと努力することもできない。
 
 日夜、最善の方策を求めて努力し、よい仕事をしようと心掛ける。“認めてもらおう”
というのはサラリーマン根性だが、人の手腕や功績を見逃さぬよう心掛ければ主人根性で
ある。この主人根性を持った人間がたくさんいればいるほど、その事業は栄える。
        
 
 ☆集団のベクトルをそろえよ
 
  稲盛 和夫(京セラ会長)   『心を高める、経営を伸ばす』
 
 人間は個として生まれ、自由に生きるのですから、いろいろな発想をする人があってよ
い。組織においても、各人が全く自由な発想のもとに行動し、調和がとれているというの
が最高の姿である。しかし、これは理想であって、実際のところは力がそろわず、決して
うまくいくことはありません。歴史を見ても、勝手な連中が集まって長く栄えた集団はな
い。
 
 集団を構成する、個々の人々の志向が一致していないと、力が分散してしまい、大きな
力を発揮し続けることができないからです。そのため、常に集団のベクトルをそろえてお
く必要があるのです。
 
 ベクトルをそろえるとは、考え方を共有していこうということです。人間として考え行
動していくための、最もベーシックな哲学をともにし、それを座標軸に、各人が持てる個
性を存分に発揮する。目的を持った集団(会社)であれば、価値感を共有してはじめて、
達成への永続的な取り組みが、可能となる。
 
 
●◎大局観を養え
 
 
大山 康晴(将棋名人)  『勝負強さの人間学』PHP研究所・1983年刊
 
 大局観を養うために具体的にどうすればよいのか。結論を先にいうと「遊び駒をなくせ
」ということである。
 
 第一は戦いのなかで、それぞれの駒の性能を活かした態勢ができているかどうか。企業
でいえば、遊んでいる社員がおらず、それぞれ適材適所で働いているかどうかである。
 第二は駒の損得と性能を含めて、遊び駒とムダな駒がないかどうか。戦いのなかで、そ
こに目を配り、遊び駒のない態勢を築こうというのが戦いの基本であり、それが「大局観
」につながる。
 
 もう一つは、「ここ一番」というきびしい勝負を数多く戦い、知らず知らずのうちに、
「鍛え」が入ってきて大局観が養われてくる。
 大企業を育て上げた大経営者も数多くの「ここ一番」の勝負を体験しながら大局観を養
い、それぞれの駒の性能をフルに生かしつつ、器を大きくしていったのであろう。運とか
、僥倖という部分は意外に少なかったのではと思う。
        
 
 
 
●安定した企業は不安定であり、不安定な企業は
安定である
 
  小林 宏治(日本電気社長)
 
 小林は大胆な発想と優れた技師術力で、「C&C(コンピュターとコミュニケーション
の融合)」を戦略の基礎に置き、日本電気を世界のトップ企業に発展させた。
 座右銘がこれである。安定した上にあぐらをかくと、不安定になり、逆に不安定から脱
出しようとすると安定する。
 
 小林は「仕事のための十ヵ条」を作っている。
 
 一 紙のうえに、自分の考えを描いてみよ。
 二 心の中に時間軸と空間軸を持ち、自分の置かれた立場を理解せよ。
 三 安定した企業は不安定、不安定な企業は安定と心得よ。
 四 チームワークは一人一人の力を倍加させる。
 五 思考の過程において一方的でなく、フィードバック・ループを作れ。
 六 事業は点から線へ、線から面へ。
 七 物事の両面性の得失を考え、バランス感覚を養え。
 
 
●今日一日の誓い
 
宮崎 甚左衛(文明堂創業者)     『商道五十年』
 
 一 今日一日、四つの御恩を忘れず、不足をいうまじこと。
 二 今日一日、堪忍を守り、けっして腹を立つまじこと。
 三 今日一日、虚言をいわず、無理なることをすさまじきこと。
 四 今日一日の存命を喜び、業務を大切に勤むべきこと。
 「カステラ一番、電話は二番…」で有名な文明堂の創業者。宮崎
は酒屋の小僧、自転車屋など四十五回も職を変えたが、兄が開いていた長崎の文明堂というカステラ屋に十八歳
で仕事についた。
 商才にたけた彼は大阪三越、三越東京店でもカステラを販売することに成功し、全国に
「カステラは文明堂」の名前が広まった。
 宮崎は「兄の教えで、私の一生を左右したのは“人に使われことを習うな。人を使うこ
とを勉強せよ”ということであった」という。
 
 
 ☆★“晩成”はやすく“晩晴”は難し
 
伊庭 貞剛(住友家総理事)              『幽翁』
 
 “老”は単なる老朽や老衰ではなく、本当の“老”とは円熟を意味し、その心境に達す
るには、幾多の試練と努力がいる。
 
 六十歳を超えて、本当の“老”の味を知った翁は、生命力が人間の無用の煩悶と焦慮を
払いつくし、はじめて至る明るさと温かみと、いいしれぬ柔らかな境地に達した。
 
 翁はその境地を“晩晴”とした。世の多くが使う“晩成”を退けた。晩成はあくまで事
業を成し遂げた者の心境であって、晩晴は事業は人生の一部に過ぎず、あくまで人生その
ものを第一義とし、事業を踏み台にして、何人も達し得ぬ人生最高の境地を意味し、真に
老に透徹した達人でなければ、これを極められない、とした。
 
 翁はよく揮毫したが、「晩晴」だけは、容易に書かなったといわれる。ある人がしきり
にこれを請うと、翁は笑って「お前にはまだ早い。『晩晴』を書けというなら、もっと修
業してくるがよい」といさめた。
 
 
社長の心得三ヵ条
 
  池田 亀三郎(三菱油化社長)      『信用のつくり方』
 
 一 社長になったら、五年間は自分の意見は言ってはいけない。
 二 自分の考えが百点で、部下が七十点であっても、大勢に影響がない場合は、なるべ
   く部下の意見をとれ。
 三 自分と部下の考えが、全く同じであっても、十回に一度は部下の意見を否定せよ。
   そして、そのまま引き下がってしまう部下なら、重役候補の名簿に△印をつけよ。
 
 池田は常々、この三ヵ条を社長心得として座右から離さなかった。一、二は部下を思う
存分使うための“人使い”の要諦であり、三は骨のある部下を見分けるコツである。
 社長には、耳ざわりのいい情報しか、得てして入らないし、社長の言葉に面と向かって
反対する勇気ある部下は少ない。諌言できる部下こそ、真に大事であり、諌言を受け入れ
る社長こそ本物のトップである。
 
 これは、上の者の人物鑑定であると同時に、部下にとっても必要な心得である。
 
 
●◎田舎化と戦え
 
  岩切 章太郎(宮崎交通社長)
 
 “九州一の田舎町”といわれた宮崎を“観光王国・宮崎”に築き上げたのが岩切である
。一高、東大を卒業、住友総本店に入ったが、大正十三年に「民間知事になる」と故郷の
宮崎に帰った。
 
 宮崎には観光資源といっても何もない。植物を植えて、海岸をきれいにし、お客を誘致
するしかないと、フェニックスの移植、「こどもの国」「サボテン公園」「えびの高原」
など次々に作り、宮崎は新婚旅行のメッカとなった。
 
 田舎にいて、田舎化と戦うこと。これが岩切の終生の指針であった。「この戦いに勝ち
抜くために、常に日本の最先端を見つめる。日本の一番新しい傾向から、目を離すまい。
そうすれば、自分の今いる位置が分かる。位置がはっきりすれば、いやでも応でも奮い立
つ」「ビジョンを持つことが経営者には不可欠。いい加減のものではなく、経営者自身が
感動する内容がなければ無意味です」
 
 
●人間づくりの根本は『教えるもの』の苦しさと
『教わるもの』の苦しさを通じての結びつきにある
 
  松本 昇(資生堂社長)          『松本昇』
 
 松本は一九四一年(昭和十六)、岡内貞夫専務から「真の資生堂人とは何か」と聞かれ
、しばし瞑想したのちに、「仕事がよくできるのは必要だが、いかに仕事ができても、次
の六点が欠けていたら、資生堂人としての資格はない。もちろん、そんな人物を重要な地
位につけるわけにはいかない」と条件を挙げた。
 
 一 首脳と心を一にし、同じ気持ちでともに働ける人。
 二 脚下照顧、即ち、常に自己反省を怠らぬ人。
 三 向上心に燃え、心身の修養に努める人。
 四 感謝の念をもって暮らす人。即ち人に対しても、物に対しても恩義を重んずる人。
 五 協同心のある人。即ち、人と融和の計れる人。
 六 都合のよいことは他人に譲り、都合の悪いことは自ら快く引き受ける人。
 
 

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