日中北朝鮮150年戦争史(17)『日清、日露戦争勝利の方程式を解いた男』川上操六陸軍参謀総長ー日清戦争前に『朝鮮半島に付け火せよ。そして火の手をあげよ。火の手があがれば我はこれを消してみせる』
日中北朝鮮150年戦争史(17)
日清戦争の発端ー川上操六のインテリジェンスと『玄洋社」
『日清、日露戦争勝利の方程式を解いた男』
川上操六陸軍参謀総長ー
日清戦争前に『朝鮮半島に付け火して、火の手をあげよ。
火の手があがれば我はこれを消してみせる』
1894年(明治27)8月、日清戦争の幕は開かれたが、日本と清国との関係は昔から切っても切れない関係である。
日清の間に介在する朝鮮の問題から葛藤を生じて、明治17年に壬申事変起こり、その後、一時、小康を保っていたが、日本が西欧列強の文明を取り入れて発展するにつれて、清国との衝突はますます避けられぬ情勢となった。
その最大の原因は「中華思想における異文化コミュニケーションの壁」の問題といってよい。日本が鎖国から開国へすばやく転身したのに対して、清国の対応は遅れてしまう。
『中華思想』という呪縛、鎖国から脱せられなかったことが大きい。
清国(中華)が世界の中心であって、それ以外の国は中国からの距離によって近い朝鮮は『小中華』であったが、さらに遠い日本、ベトナム、ヨーロッパなどは野蛮人であるという蔑視思想、中華ナンバーワン思想である。
その点で、日本人の清国観と清国の日本観では天地の開きがあった。当時、世界一の人口、国土、経済力を有した清国に対して、日本はその十分の1か、それ以下であり、大きなギャップがあった。
清国は「中華思想」「華夷序列」から、日本は野蛮な小国で、中国文明をコピーした文化レベルの低い民族とバカにしており、一方、日本は徳川時代から漢字文化、仏教、儒教などの宗教を伝授してくれた中国を上位国として尊敬していた。
しかも、その領土の広大さ、人口においても、資源、兵力においても戦争をしても勝てる相手でないことは日本国民の上から下まで恐れていた。
1891年(明治24年)6月30日、巨艦鉄鋼軍艦『鎮遠』、『定遠』(各7000トン)を始めとする丁汝昌の率いる北洋艦隊が神戸に入港。7月10日には横浜へ入港した。
明らかに日本を恫喝することが目的の示威運動(デモンストレーション)で、政府をはじめ、国民は6年前の長崎訪問時の騒動を思い起こして、恐れおののいた。
そのため、日清戦争の開戦当初には、国民の間で、この大国と戦って果たしてして勝ち目はあるのかと不安、危惧の念を抱くものが多かった。
それくらいだから、諸外国の観察もわが国については悲観的で、ちっぽけな日本が巨大な中国に挑むのは、『蟷螂の斧』(とうろうのおの)《カマキリが前あしを上げて、大きな車の進行を止めようとする意から》弱小のものが、自分の力量もわきまえず、強敵に向かうことのたとえ)とみられていた。
西欧列強もアジアについての知識は少ない。一部には日清戦争は1属国が本国に対して独立戦争を起したくらいに考えた者もあったのである。
世界から見た日本の存在はこのように過小だっただけに、その日清戦争の勝利に世界は驚愕し、列国の脅威の的になり、日本の国際的地位は一挙に高まった。
『日清、日露戦争勝利の方程式を解いた男』
・川上操六陸軍参謀総長
川上のインテリジェンスについてはこのシリーズで詳細に触れたが、「玄洋社」についてはあまり触れていない。
いわば、川上陸軍参謀本部の別動隊が『玄洋社』である。
甲申事変の失敗で金玉均、朴泳孝ら朝鮮志士たちが 日本に亡命してくるや、玄洋社のメンバーは「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」
( 『顔氏家訓・省事』に「窮鳥の懐に入るは仁人の憫れむ所なり。況や死士、我に帰す。当にこれを棄つべけんや(逃げ場をなくして困窮した鳥が懐に飛び込んできたら、慈悲深い人はこれを助ける。まして死を覚悟している兵士が助けを求めてきたら、どうして見捨てる、の意味)
の逆境を憐れんで、他日活動の益友たらしめん」としたのである。
だが、その折角の金玉均も、明治27年3月、上海に李鴻章、朝鮮国王の陰謀によって上海におびき寄せられ暗殺されてしまう。
この暗殺の報に日本全国の朝鮮独立を支持する志士たは激昂し交詢社員は、斎藤新一郎、岡本柳之助を派遣して、金の屍体を日本に引取らんとした。
しかし、彼らが上海に到着したときには、金の屍体は、すでに清国官憲の朝鮮側に移送していた。 玄洋社の鈴木天眼・秋山定輔・佃信夫・的野半介らは大いに憤り、これはまさに『日本の国辱なり』『これを放任すべからず』と論じ、金玉均のための弔合戦を主張した。
彼らは的野半介を陸奥外相のもとに派遣して『日本の国辱をそそぐため、清国と決戦せよ』と強硬に談判した。
陸奥外相は、もとよりこれにとりあわなかった。 「君たちのいう所は書生論だ。一亡命客の横死を以て、直に弔合戦を起こせといっても、到底できることではない」と一蹴した。
ところが、あまりに的野が執拗なので、「とにかく、戦(いくさ)が出来るかどうか、川上将軍に一度これを聴け」といい、一通の紹介状をあたえた。
陸奥外相ではてんで話にならなかったが、川上参謀次長(当時)は、話をじっくり聴いた。
的野はまずその金玉均との関係を説き、清国のとった行動が、ひとへに日本を蔑視したことによる所以を論じて、「聞くところによりますと、閣下は昨年末より今春にかけて、満洲、シベリアの地を漫遊されたという。閣下は、この視察旅行により清国の内情の把握をつくされたものと思う。清国膺懲(ようちょう)の師を出されんことを切に願う」と強く訴えた。
川上は「貴君のいうところ、その理由は了解した。しかし伊藤総理(平和主義者)を相手にして、それは到底できるものではない。よろしく君たちは朝鮮半島に付け火せよ。そして火の手をあげよ。火の手があがれば我はこれを消してみせる」と告げた。
これを聞いた的野は「日清戦争のきっかけをつくれ、あとは俺にまかせろ」との決意の表明と受け取って、大喜びして、引き上げて玄洋社・頭山満総帥に報告した。
さらに玄洋社員で、当時、実業家で、豊富な資金を有していた平岡浩太郎を訪ねて、川上訪問の顛末を語り、「今より直に朝鮮半島に入り、大活動をしてくるので、その資金を提供してほしい」と願い出た。
平岡は「よか、よか!、草履代(ぞうりだい)を出そうたい、川上たあ面白い奴ばいね、俺も1度会うてもうか」。
そこで、平岡が川上を訪ねたのが、5月27日だった。
川上、平岡を堅い握手をもってこれ迎えて喜べば、平岡は清国進出論を述べ、「清国は大なる牛の如し。世界列強はみな清国を望んでよだれを垂らす。日本が進出しなければ、欧米列強がこれを割いて利益を奪うのみ」と断じ、日本と清国は同じく東洋に樹つ。あえて欧米に与えるよりは、我国が進出すべきである」とのべ、川上と意気投合したのである。
つづく
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