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名リーダーの名言・金言・格言・苦言(21) ◎『まず思え』(稲盛和夫)『事業は“一三”である。一つのものを三つ売れ』(小林一三)

   

<名リーダーの名言・金言・格言・苦言
・千言集(21)            前坂 俊之選
 
 
◎●まず思え
  稲盛 和夫(京セラ会長)
 
 松下幸之助の「ダム式経営」というのがある。ダムを作って常に一定の水量があって、
必要な場合にいつでも放出できるような余裕のある経営をやるべきだというもの。
 
 昭和四十年頃、稲盛はこの松下の「ダム式経営」についての講演を聞きに行った。講演
が終わるなり、質問に入ったが、ある中小企業の経営者が「私もダム式経営に感銘を受け
る。しかし、今余裕がないのを、どうすればいいのか、教えてほしい」と聞いた。

 松下は一息おいて「そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけれども、余裕がなけりゃ

いかんと思わないといけませんな」と答えた。会場からは「全然回答になっていない」と
失笑がもれた。
 
 ところが、稲盛はこの「思わないけませんな」の一言に強烈な啓示を受けて、感動した
 松下は「まず思わなかったら、どうしてできるか」ということを言ったのだ。理想に対
して「そう思うが、現実には難しい」と否定する気持ちがあると、物事は成就するがない。
強烈な願望を描き心からその実現を信ずることが、困難な状況を打開して、物事を実現
させるのである。
 
 
◎人材の育成は学問のある者を積極的に用いよ
 
  岩崎 弥太郎(三菱グループ創業者)
 
 弥太郎は弟の弥之助を明治五年(一八七二)に一早くアメリカに留学させ、破格の八千
円を留学費用として渡した。あの時代に海外の知識を広く吸収させ、経営に役立てようと
いう先見性が今日の大三菱の基礎を作ったのである。
 
 その後、岩崎久弥、岩崎小弥太も米国、英国へ相次いで留学させている。
 このように弥太郎の人材育成の方針は慶応義塾などの学問のある者を積極的に用いたこ
とであった。
 
 「汽船会社を経営して、初めは普通の学問のない子弟を使用していたが、無教育で何が
大切かわからない。この子弟を教育して、学者の気性を体得させることは難しいが、逆に
学問のある者を教育して外面を俗にするのはやさしい」と弥太郎は話していた。
 つまり、学問を実学に生かしたのである。
 
 
◎人事を尽くして、天命を待たず
 
  松永 安左衛門(電力の鬼)
 
 人事と天命を二つに分けて、人事さえ尽くせば申し訳けが立つ。あとは天命のままだと
いう甘ったれた気持ちではダメだ。
 
 第一、人事を尽くすといって、本当に尽くしたのか、尽くせるほど簡単なものなのか。
自分では尽くしたつもりが、尽くせてないかも知れない。一体どこまでが人事で、どこか
らが天命なのかわかるはずもない。
 
 この言葉には本当は人事も尽くしてないのに、天命を待つだの、神頼みの無責任、敗北
主義の弁明のニオイが多分にしないか。
 
 全て、人事と心得て最後の最後まで徹底してやり抜く、がんばり抜かねばならぬ。
 天命もつかみとり、支配せずばおかぬという位の気持ちでやらねば、人事を本当に尽く
したことにはならない。天命を待つのだと、ノンキなことを言っていてはダメだ。
 
 
◎事業は“一三”である。一つのものを三つ売れ。
 
小林 一三(阪急グループ創業者)
 
 小林は自分の名前を分解して、このように唱えていた。これはトータルシステムを一早
く実践した思考であった。
 
 物を一つ売る場合でも単なる商品を売っているだけでは“一三”にはならない。これに
目に見えない情報に信用とサービスを添えて三倍にして売ると、一挙にふくらんでくる。
 デパートで食堂を始めた時、金のない学生が来て、ライスだけを注文し、テーブルにあ
る福神づけとウスターソースをかけて食べる者が多く、閉め出しを考えた。
 
 これを聞いた一三は、この学生たちは今に卒業して役所や会社の幹部になる連中だと、
逆に優遇策を打ち出し、地下室に特別の学生専用のライス食べ放題の食堂を作って大評判
になった。後年、この食いつめた学生たちが阪急ファンになり、陰に陽にバックアップし
てくれたことはいうまでもない。
 
 一石三鳥と同じで、無形のサービスをつけることで、一つしか買わぬつもりできた客が
三つ買って帰るようになったのである。
 
 
◎会社の“ダメ十訓”と・“成功十訓”
 
  古賀 実(日本コンサルティグセンター理事長) 
 『二世経営者の帝王学』
 
 〔会社のダメ十訓〕
 一 財務の数字がデタラメである
 二 商品やサービスに個性がない
 三 経営者が優柔不断である
 四 労使が対立している
 五 メインバンクがない
 六 経営者の夫婦仲が悪い
 七 自己資本が過少である
 八 拡大主義をとっている
 九 公私混同している
 十 経営者が怠け者である
 
 〔会社の成功十訓〕
 
 一 経営者の事業観が確立している
 二 経営者にビジョンがある
 三 若い人の意見を取り入れている
 四 経営者に革新性がある
 五 人材教育に熱心である
 六 会社や工場の環境をよくしようと努力している
 七 成果の適切な分配が行われている
 八 会社のイメージが良い
 九 ストック(技術、市場、商品、人材)がある
 十 国際感覚がある
 
 
☆★耳学問、聞き学問に徹せよ
 
  山下 亀三郎(山下汽船<合併されて現在は商船三井に>創業者)
 
 山下はよく回りの人にこぼしていた。
 
 「オレは学問もない。本も読めない。しかし、何も知らんでは仕事ができないから、耳
学問、聞き学問というやつで、できるだけ名士、先輩、友人のお知恵拝借ということにし
た。しかし、誰でもタダでは知恵を貸してくれない。だから、料亭、自宅、別荘に大先生
を招いてお客に来てもらう。これがオレの学問、勉強というもので、いわば人に本を読ん
でもらって、そのエキスだけをこちらに頂戴するのだ」と。

 

 ◎知識を増やすより、良好な人間関係
 
  本田 宗一郎(ホンダ創業者)
 
 人間の偉さというものは、自分が知らない知恵が欲しいと思った時、いつでも入ってく
るようにすることだ。彼なら喜んで教えてやろう。という人間を何人持っているかが、そ
の人間の偉さである。
 
 自分一人が、いくら知識を蓄えても、それはたいした量にはならない。例えば、今、私
が知らなくて、アメリカの人が知っていることがあるとする。私には信用があり、その人
に人間的に好かれているなら、電話をかければすぐに分かるだろう。こういう時代には、
良好な人間関係が一番大切だと思う。
 
 人間関係さえうまくいっておれば、どんな知識や情報でも手に入るのだから。そういう
意味からも、人間同士の友情を、大切にしなければいけない。仕事をする時にも、人と相
談し、知恵を出し合うことだ。私たちは人と力を合わせる時のみ、知らず知らずのうちに
、向上することができるものなのである。
 
   ◎●守愚
 
  中島 董一郎(キューピーマヨネーズ創業者)
 
 中島は大正八年に独立、マヨネーズの生産を始め、シェアは八〇%を越える。昭和三十
四年に大手水産会社が一斉にマヨネーズ生産に乗り出し、キューピーも窮地に追い込まれ
るのではとみられたが、ビクともせず、逆に水産会社は軒並み敗退した。
 
 中島は徹底したマジメ人間で、会社の交際費はゼロ、販売や問屋の旅行招待は一切なし
。ムダ金は一切使わず、そんな金があれば、最高の品質を作り、安く売ると、何と戦後十
六回も値下げを断行してきた。
 
 中島の名刺には肩書がなく、社長とわからない。社内の全員に役職名はない。(一九六
三年当時)その中島のモットーが「守愚」(愚を守る)
 
 おのれの分をわきまえて、たとえ、それが愚かなことであっても、自分の良心に恥じな
いことなら、あくまで守愚を貫いていくというのである。「正直は必ず報いられる。これ
が私の信条です」という。中島は昭和四十八年十二月、九十歳で亡くなった。
 
 
  ◎社長は六段階で成長する
 
三沢 千代治(ミサワホーム社長)

 『価値を逆転すれば現代に勝てる』

 
 社長が人間として完成され、大きくなっていくためには六つの段階がある。
 
 一 金。会社を作った当座はとにかく金が欲しい。金がすべてになる。
 二 会社を儲けさせようと気がついた時、会社の利益を分配することは合法的に個人が
   儲かることだと気がついて社業に専念する。
 三 利益志向から規模志向に脱皮する。もっと良い会社にしなければと考える。
 
 四 人材のことに気づく。売り上げは伸びているが、組織としては弱く、人材の獲得と
   社内教育に力を入れる。
 五 会社の屋台骨が出来上がり、商工会議所とか地域リーダーなど幅広く活動する。
 六 もはや功なり名を遂げ、死後の名声が欲しくなる。
 
 これらの段階は経営者が必ず踏むステップだ。ところが、当然のステップを昇るべきと
ころで、前段階に停滞していたり、順序を間違えると経営者としておかしなことになる。
 
 
 
店が忙しいときは大丈夫、ヒマなときに店が腐る
 
伊藤 雅俊(イトーヨーカ堂創業者)
 
 普通、忙しい時はサービスも悪くなり、商品管理も悪くなると思われがちだ。しかし、
伊藤はこう言う。
 
 「ヒマな時が危ない。ヒマで売れ残ってしまうと、つい廃棄処分にすると損なので、翌
日に売りたくなる。間違った愛社精神でこれがいけない。こうすると、生鮮食品なんかの
場合、たちまちお客さんの評判を落とす。

また、ヒマな時は店員まかせて、店長らは奥に

引っ込んで事務的な仕事をやりがち。責任者が店頭でサービスしないと絶対ダメ。店が腐
るし、サービスも悪くなる。ヒマな時も活気あるハツラツとした店にし続けることが難し
い」。小売業は“維持業”なのだというのが伊藤の哲学である。
 
 

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