情報家電のOSで、トロン陣営とマイクロソフトが連合へ
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情報家電のOSで、トロン陣営とマイクロソフトが連合へ (03年9月)
<ネット家電OSに一大陣営 が誕生>
前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)
Toshiyuki/Maesaka
1・MS とトロンの「和解」 情報家電、本格参入狙う
いつでも、どこでも、何でもネットにつながる「エビキタス」社会をみすえて、情報家電
のOS(基本ソフト)をめぐって重要な一歩が踏み出された。
9月25日、情報家電向け国産基本ソフト(OS) 「トロン」を情報家電向けに改良する
共同組織「T-エンジンフォーラム」(会長・坂村健東京大教授)に、 パソコン用OS
(基本ソフト)「ウィンドウズ」で世界標準を築いているマイクロソフト米マイクロソフトが
加わり提携すると発表した。
マイクロソフトはOS 開発で単独開発路線を歩んできたが、市場が急拡大する情報
家電向けOS などで出遅れて強い危機感があり、連携することでパソコン市場が世界
的に頭打ち状態にある中、日本で2 兆円規模ともいわれる電子政府市場への本格参
入への狙いもあると見られる。
米マイクロソフトと国産OS「トロン」の開発団体が手を組み、デジタルビデオやデジ
カメなどネット家電分野で攻勢をかける。ネット家電用OS ではトロンのはか、無償配
布・改良が可能なリナックスが急速に普及、今後両陣営のつばぜり合いは一層激化
しそうだ。
また、この連携は心臓部を米国に握られたパソコンに比べ、情報家電では日本メーカ
ーが主導権を握り世界標準へのチャンスも出てきた、ともいえる。
2・トロンとは坂村教授が開発した日本の「OS」である。
1984年に東京大学の坂村健教授が提唱したコンピューター用の基本ソフト(OS)が
「トロン」で携帯電話や自動車のエンジンなどの制御用に広く普及。
開発当初はマイクロソフトに対抗して世界標準を目指したが、一九八〇年代末に自動
車や半導体で日米通商摩擦が激化したのを受け、米政府は小中学校の教育用パソ
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コンでトロンの普及を目指した日本の産学協同プロジェクトを「日本政府による市場干
渉」と非難。
経済制裁を恐れた日本政府やパソコンメーカーは一斉にトロンから手を引いた。
だが九〇年代になると家電や事務機器、産業機械向けの「組み込みOS」として静
かに復活。現在、ソニー、NTT ドコモ、松下電器産業などが開発や改良に参加してい
る。
その後、マイクロソフトの「ウインドウズ」(OS)がパソコンの事実上の世界標準になり、
トロンは敗れたが、携帯電話、家電製品、非パソコンの「OS」としてはトロンの搭載が
世界の過半数を占めるまでになり、世界標準に近い状態となっている。
3・ トロンの最大の特徴は、応答速度がウインドウズの1000倍
トロンの最大の特徴は、応答速度が100 万分の1 秒で、ウインドウズの1 千分の1
秒を飛躍的に上回る点だ。
移動しながら使う携帯電話の通停電波を切り替えるなど、瞬時の応答が必要な機器
に適している。
このため、トロンは、パソコン用OS としては普及していないものの処理速度が速い
ため、既に情報家電や携帯電話、産業用機器に幅広く使われている。
「パソコンでは通常1 台に一つのOS だが、高機能コンピューターなどでは複数のOS
を採用し、機能ごとに各OSを同時に動かしている場合もある。 マイクロソフトは今回
の提携で、トロンと連動できるように、情報家電向けの「ウィンドウズCE」を改良する。
一部をトロン上で動かし、機能ごとにトロンとウィンドウズで役割を分担する方式を選
ぶ見込みだ。」(朝日9月26日朝刊)
坂村氏の話では、「今の第三世代携帯電話ではCPU(中央演算処理装置)が2台必
要になる。機器制御と情報処理を個別にこなすためで、電力消費も2倍かかる。トロ
ンとウィンドウズが連携して動くようになれば、CPU は1つで済む」と提携のメリットを
強調する。
また、携帯電話に搭載すれば基本処理性能を高めることができ、機器の小型化・軽
量化が可能になるほか、待ち受け時間を長くできるという。
4・ネット家電で先進的な使い方が可能
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両者は ウィンドウズの改良版とトロンを組み合わせたソフトは、機器の制御部分にト
ロンを、操作画面はパソコンで幅広く普及したウィンドウズの画面を採用する。
提携した第一弾として年内に、マイクロソフトはネット家電向けのトロンと連動するウィ
ンドウズの改良版を開発するが、トロンと改良版のウィンドウズをデジタルビデオカメ
ラなどネット家電に組み込めば、ユーザーが撮影した映像を無線でテレビやDVD(デ
ジタル多用途ディスク)機器に瞬時に送信するなど先進的な使い方が可能になる。
一方、ネット家電を操作するOS の現状をみると、リナックスが先行する。
既に松下電器産業やソニーなど大手家電メーカーがリナックスを使った新型のネット
家電を開発中。
一方、携帯電話用OS でも世界最大手ノキアなどが開発に参加する英シンビアンの
「エポック」が浸透しており、今後は各陣営の主導権争いが激化しそうだ。
日本では電子政府のOSが人事院が全省庁の人事・給与管理システムをリナックス
で構築することを決めるなど、政府内では「重要な基幹システムを1 社で独占するの
は好ましくない」(経済産業省関係者)と、反マイクロソフト姿勢を鮮明にしつつある。
また、日本、中国、韓国が次世代携帯電話向けOS を共同開発することで合意するな
ど、ウィンドウズを取り巻く環境は一段と厳しくなっていた。
5・提携で最強のソフトができる
坂村氏は「もはや特定の一企業がすべてを開発する時代ではないということだ。互
いに不足する部分を補えあえれば最強のソフトができる」と話、
米マイクロソフト日本法人・古川副社長は 「『ウィンドウズCE』の利用範囲の拡大だ。
CE はパソコン的な処理は得意だが、携帯電話の通信制御などは苦手としていた。
トロンと組むことで、CEは画面の表示などユーザーに近い部分の制御に専念できる。
自動車の車載コンピューターやデジタル家電も視野に入れている」(日経9月26日
付)と説明している。
一トロンをめぐる動きー
84年 坂村健・東大助手(当時)がトロンを開発
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88 年 文部・通産両省の外郭団体が教育用のパソコンにトロンを採用を決定。
89 年 米通商代表部(USTR)が貿易障壁報告書の中で トロンを障壁の一つと指摘
日本政府が教育用パソコンでトロン採用を取りやめ。
95 年 マイクロソフトが「ウインドウズ95」の日本語版を発売。ウインドウズ時代が本
格化
2002 年 電機メーカーなどが「T-エンジン・フォーラム」 設立。情報家電向けトロン
の共同開発を始める
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