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池田龍夫のマスコミ時評(57)●『「原子力ムラ」面々の罪深さ 斑目、近藤両委員長の責任』

   

 池田龍夫のマスコミ時評(57)

●『「原子力ムラ」面々の罪深さ 斑目、近藤
両委員長の責任』
 
池田龍夫(ジャーナリスト)
 
 「戦前、軍部が実権を掌握していた。そのプロセスは、東電と電気事業連合会を中心とする、いわゆる『原子力ムラ』と重なるものが見えた。現在『原子力ムラ』は、事故に対する深刻な反省もしないまま、原子力行政の実権を握り続けようとしている。原子力行政の実権を掌握し、批判的な専門家や政治家、官僚は村八分にされ、多くの関係者は自己保身と事なかれ主義に陥って眺めている。
 
今回の事故では最悪の場合、首都圏3000万人の避難が必至となり、国家の機能が崩壊しかねなかった。このような戦前の軍部にも似た『原子力ムラ』の組織する構造を徹底的に解明して、解体することが原子力行政の抜本的改革の第一歩だ。今回の事故を体験して最も安全な原発(の対策)は、原発に依存しないこと。つまり脱原発の実現だ」――菅直人前首相が5月28日の国会事故調査委院会証言の最後に述べた「原子力ムラ」批判に驚かされた。
 
「原子力ムラ」は、「政・官・業・学・報」の〝ペンタゴン〟とも言われる偏狭な〝ムラ社会〟で、批判勢力を一切排除して、原子力政策を推し進めてきた。原子力発電は、その開発や運用に巨額の資金を必要とする。年間数兆円もの利権を求めて、電力会社、原子力プラントメーカー、監督官庁、大学や研究機関、政治家、マスコミが群がり、利益共同体が形成された。中でも東大工学部出身者を核とした〝原発推進〟エリート集団が原子力安全神話を振りまいて原発推進に加担してきたことが明らかになり、その責任が厳しく問われている。
 
冒頭に引用した菅氏の悔恨と、「脱原発」への強烈なメッセージは、原子力ムラの罪深さを告発したものと推察できるものの、なぜ首相在任中に、原発推進役だった御用学者を解任し、原子力政策の転換を断行しなかったか…。その責任から逃れることは出来ない。
 
原発事故から1年3カ月も経つのに、内閣府の斑目春樹・原子力安全委員長と近藤駿介・原子力委員長が居座っているばかりか、意図的な情報隠しまで明るみに出て、原発政策の混乱が続いている。「原子力規制庁」発足を待たずに、大飯原発(福井県おおい町)再稼動の判断を下すなど、いぜん「原子力ムラ」の意向が、原子力政策を牛耳っている構図は変わってない。
 
        「原子炉は構造上爆発しない」と嘯く
 
斑目氏は昨年3月11日福島原発事故発生翌日の12日午前6時過ぎ、菅直人首相(当時)と一緒に陸自ヘリで官邸屋上を飛び立ち、福島第1原発事故現場を視察した。機内の隣にいた班目氏は、原発の安全性チェック機関の最高責任者として「総理、原発は大丈夫なんです。(原子炉は)構造上爆発しません」と述べた。
 
ところが当日午後3時半過ぎ、建屋で水素爆発が起きた。冷却機能を喪失した核燃料は急速に温度が上昇、緊急措置として12日夜からは1~3号機に海水の注入が行われていた。
情報混乱によって、首相官邸が注入中止を要請するハプニングもあったが、実際には吉田昌郎所長の機転によって海水注入が継続されたため破局は回避できた。しかしこの間、斑目氏は的確な判断を示さなかった。一事が万事、3月28日の記者会見での「(汚染水への対応実施については)安全委はそれだけの知識を持ち合わせていない」との斑目発言にも驚かされた。
 
最も恐るべき炉心溶融(メルトダウン)の兆候が事故翌日から指摘されていたのに、公表を3カ月後まで隠し続けた罪は大きく、原子力政策のシンクタンクとして機能を全く果たしていなかった。
斑目氏は2月15日、国会事故調査委員会で「『原子力安全審査指針に、いろいろな意味で瑕疵があったと言わざるを得ない』と答え、『明らかな誤りがあった』と謝罪した。津波や全電源喪失の可能性の想定が甘かった原因について、日本の官僚制の体質に触れ、安全性を徹底するより、『やらなくてもいい』という理由付けばかりに時間を費やしてしまった」との弁明を繰り返していた。
 
2007年の浜岡原発訴訟で斑目氏は、長時間の全電源喪失の可能性について「どこかで割り切らなければ原発はできない」と証言していた。この発言を問題視してきた福島瑞穂・社民党党首は「全電源喪失について考慮することはないと言った張本人。原子力ムラでも、もう少ししっかりした人を委員長にしておけば、3・11以降の対応は違っていた」と〝デタラメぶり〟を酷評(東京新聞2月18日付朝刊)していたが、まさにその通りだ。
「原子力規制庁」が予定どおり今年4月にスタートしていれば、原子力安全委が廃止され、斑目委員長は3月いっぱいで〝失職〟するはずだった。ところが、自発的に辞表を出さず、委員長職にしがみついたままだ。不適格の烙印を押された委員長に、大飯原発再稼動など原子力政策の今後を託すことは危険きわまりなく、体制一新を急がなければならない。
 
推進派だけで、密かに談合を繰り返す
 
 一方、2004年から内閣府原子力委員会に君臨してきた近藤駿介委員長の責任も大きい。毎日新聞6月2日付朝刊1面の特報によると、原子力委員会では原発推進派だけを集めた「秘密会議」を今年2月に開き、国の原子力政策大網づくりを担う「新大綱策定会議」に使われる議案の原案を事前に配っていたという。5年をメドに見直される「大網」は、原子力分野の「憲法」とも言うべき重大案件なのに、慎重派・批判派を排除しての密室談合には〝陰謀〟の疑いすら感じる。
 毎日新聞は5月に「秘密会議」の存在をスクープ。「勉強会」と称した会議は過去に23回も開かれ、うち4回は近藤委員長も参加していた。この勉強会には、経済産業省・資源エネルギー庁、電気事業連合会、青森県六ケ所村・核燃料再処理工場を経営する日本動燃、高速増殖炉「もんじゅ」を経営する日本原子力研究開発機構などの幹部が出席。核燃料サイクルを維持したい利害関係者が多く、このような根回しが罷り通っていたことに驚かされた。
 
事務局側は「会合は小委員会の資料準備のための作業連絡の場だった」と釈明しているが、策定会議メンバーの金子勝慶大教授は「原子力政策の基本である大綱を、原発推進派である利害関係者たち自身で書いていた、あるいは事前にチェックしていたとすれば許せない。壮大なヤラセ、国家的な詐欺だ。原子力体制は根元から腐っているというほかなく、徹底的な検証が必要だ」と、原子力委の独善的体質を厳しく批判。新聞各紙も、原子力委の中立性と透明性を要求している。
 
これらの批判を受けた原子力委は6月1日、原発事故後の新たな原子力政策を議論する「新大綱策定会議」について、5日の次回会議を中止すると発表した。原子力委が原発推進側だけを集め秘密会議を開いていた問題が発覚、一部委員から事実関係の検証や体制の見直しを要求されており、公正・中立性を担保した組織の構築を望みたい。
 
       核燃料サイクル問題などが絡む
 
毎日新聞は5月24日付朝刊で「秘密会議で評価書き換え」を特報。「5月8日の小委員会で、委員の松村敏弘東大教授は『総合評価』の記載について『なぜこんな記述になってしまうのか。全く分からない』と厳しく批判した。秘密会議の存在を知らない委員の目にも、議論を無視した内容であることは明らかだった
。原子力委が絡む会議は他にもある。歪められた政策が一つだけとは考えにくい。地に落ちた信頼を取り戻すには秘密会議参加者を一切タッチさせない新体制を作り、議論をやり直すほかない」と、原子力委の腐敗体質を厳しく批判していた。
 
「原子力委は、原発推進側だけを集めた非公式会合を20回以上も重ね、核燃料サイクルを政策の見直しを議論する小委員会の審議前に情報を流し、報告書案も事業者に有利になるように書き換えられていた。……原子力委は原子力政策大綱改定も審議している。核燃料サイクル問題とあわせて政府のエネルギー政策・環境会議に複数の改定案を示し、政府は他のエネルギー政策とともに『国民的議論』を経て決める段取りだ。
 
だが、こんな行為が繰り返されてできた『案』を、どうやって信用しろというのか。野田首相、細野原子力担当相は事態を深刻に受け止めるべきだ。実態の解明を急ぐ。近藤委員長らの進退を含め、組織のあり方を抜本的に改める。そこからやり直さないまま、原子力政策を議論しても。誰も信用しない」と、朝日新聞5月25日付社説が指摘していたが、国民感情を反映した正論と受け止めたい。
 
*新聞通信調査会「メディア展望」7月号から転載

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