わが「古本狂」の『一読速断』書評300冊>『瀬島龍三―参謀の昭和史』保阪正康著』●『空のスパイ戦争』(ディック・アート著、江畑健介訳)
2015/01/01
わが「古本狂」の愛読、乱読、速読、つん読、捨読ーー
『一読速断』の<書評300冊ギリじゃ>
ー「週刊大衆」で、5年間連載したすべてを紹介する①
◎『瀬島龍三―参謀の昭和史』保阪正康著
文芸春秋 四六上製 1200円)
<昭和史を代表する〝参謀″と言われる男‥。中曽根前首相の〝影の参謀″と言われ、伊藤忠を総合商社に育て
上げた謎めく人物に徹底したメスを入れ素顔に迫った!>
瀬島龍三氏。七十六歳。第二臨調をまとめ上げ、中曽根前首相の〝影の参謀〃と呼ばれたこの人物は一時、マスコミのスターでもあった。
戦時中は大本営参謀、戦後シベリアに抑留され、酷寒の地で生死の境を体験し、四十五歳で帰国して以後は伊藤忠に入社。グラマン、ロッキードの航空機商戦に勝ち抜き、短期間でトップの直にのし上がり、伊藤忠を総合商社に育て上げた。
そして昭和五十五年からスタートした第二臨調では〝政治部長″ 〝影の参謀〃として、実質上のまとめ役になり、その劇的な生涯と合わせて〝日本国の参謀″と高く評価する向きも多い。
本書はこの瀬島氏の虚像と実像に徹底してメスを入れ、知られざる素顔に迫っている。
山崎豊子著『不毛地帯』の主人公壱岐正は瀬島氏をモデルにしており、酷寒のシべリア抑留がポイントになっているが、著者は瀬島氏がソ連側から特別待遇を受け、東京裁判でソ連側の証人として出廷、一時をスクワでスパイ活動の特殊学校にいたなどの話(未確認)を紹介するなどショッキングな材料を提供している。
大本営作戦課参謀をしていた昭和十九年十月に台湾沖航空戦で航空母艦十隻などを撃沈したというウソの情報が流れ、その情報を否定する真実の電報を瀬島氏がにぎりつぶした、という点もかなりショッキングだ。
このニセの大戦果によってレイテ海戦が立案され、わが国の敗北は決定的になった。この一件は戦史を書きかえるほどの重要性を持つが、瀬島氏は疑問に答えていない。
昭和史に造けいが深い著者だけに戦前、シべリア抑留までの部分では瀬島氏の沈黙した周辺を関係者の談話や断片的な資料で執ように浮かび上がらせ、まるで推理小説を読む思いだ。
しかし、伊藤忠、臨調の部分は取材のカベが厚かったのか、実像への肉迫は今一つの感がなくもない。著者は瀬島氏を通して日本のエリートの責任のとり方を論じており、読後感として「瀬島氏は〝国士″として行動する前に自分の過去をもっと語り、その責任をとれ」という主張には素直に同感できる。
甘口の人物評がはんらんしている中で、謎が多く、取材の難しい人物に取組み、実像を国民に知らせた点では評価に値するとともに、何よりおもしろく読める点もいい。
<1988(昭和63)年3月21日号>
◎『空のスパイ戦争』ディック・F・D・アート著、江畑健介訳
(光文社・四六上製・1700円)
<超高空での諜報合戦は激化する一方だ。国家も個人と同じように情報戦争では丸裸にされてしまう。
日本の上空は東西両陣営のはざま、スパイ戦のメッカだ>
昨年十二月十日、ソ連機が沖縄の領空を侵犯、航空自衛隊のF-4EJ要撃戦闘幾が警告射撃したことが報道された。実弾による射撃は自衛隊が昭和二十四年に発足して以来、初めてのことだけに国民に大きな衝撃を与えた。思わず五年前に起きた大韓航空機撃墜事件の悪夢がよみがえり、恐怖を覚えた人も多かったに違いない。
空でくり広げられている超大国のし烈な情報級争、スパイ衛星やスパイ機を使っての偵察の実態ははとんどベールに包まれたままだ。
時おり、U-2スパイ機の撃壁や大韓航空機撃墜事件のように世界を震撼させる大事件となって、その隠された実態が垣間
見え、東西間のきびしい力の均衡が浮彫りにされる。
こうした防衛機密やスパイ戦について、国民は何も知らない。
わが国はアイスランドやノルウェーと並んで長もソ連の偵察機が多く出没する国であり、なぜそうなるかというと、わが国がアメリカの対共産圏偵察活動の絶好の立地条件を備えており、スパイ機の発進基地になっていることも知られていない。
本書はオランダ人ジャーナリストがこうした空のスパイ合戦の歴史と現状を刻明にレポートしたものだ。特に、日本についてはわざわざ一章をさいて、いかにわが国が米ソのスパイ偵察の重要基地になっているかを具体的な実例をあげながら、紹介している。
航空自衛隊は昭和三十三年以来、国籍不明機に対するスクランブルが五万回を超え、これはいずれもソ連偵察機である、と著者はいう。
通称、トーキョ・エクスプレスと呼ばれるソ連偵察機によって、写真偵察が常時行なわれ日本は丸裸にされているのだ。
その背景として、昭和三十五年に世界を震撼させた米CIAによるU-2のソ連領空侵犯、撃墜事件は、厚木基地から飛び立って盛んにスパイ偵察を行なっていた事実や米海軍のスパイ機EC-121Mも同基地から、発進していることなども暴露されており、東西のはざまのわが国での、すさまじい情報収集、スパイ合戦の実態をみせつ
けられ思わず寒気がする。
本書では写真や地図が数多く収録されており、平易な訳文とともに、わが国のマスコミでは十分知り得ない東西の諜報戦の暗部に光を当てており、ショッキングながら、大変面白い、本といえる。
<1988(昭和63)年3月28日号>
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