前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座㊳』★『 児玉源太郎の無線・有線インテリジェンス戦争』★『日露戦争最大の勝因は日英同盟の中の極秘日英軍事協商(諜報(スパイ情報)交換)である』★『諜報同盟(ファイブ・アイズ「UKUSA」(ユークーサ)にはインテリジェンス欠如の日本は入れない』

   

 日露戦争最大の勝因は日英軍事協商(諜報交換)

日露戦争でこれまで余り注目されてこなかったのが、日英同盟の影に隠された日英軍事協商であり、日英のインテリジェンス(諜報)の全面共同である。諜報と言う性格もあってこの軍事密約の締結そのものが秘密裏に処理され、その後も明らかにされてこなかった。

時、世界を支配していた大英帝国『パックス・ブリタニカ』の秘密は軍事力と同時にこのインテリジェンス、情報力にあった。世界中に海底ケーブルをはりつめて電信網を築き、ロイター通信社を支配し、情報を集めて情報機関で分析して世界制覇した。一八五〇年代に英国は「世界制覇は海底ケーブルにあり」との世界戦略で、海底ケーブルの布設に取り組んだ。
実に半世紀をついやして1902(明治35)、最後に残った南アフリカ連邦とオーストラリアの間の海底ケーブルでつないで、世界中にある植民地とロンドンを結ぶ世界電信網(All Red Route)を完成させた。
このおなじ年の1月30日に日英同盟条約が調印された。超大国英国がそれまでの『栄光ある孤立』政策を捨て去り、アジアの3等国日本と同盟に踏み切ったことに世界は驚いた。「月とスッポン」の結婚に例えられたが、1年半も続いた南アフリカのボーア戦争で窮地に立っていた英国は極東アジアでは日本と手を結び、中国の利権を守り、日本は英国を対ロシアと戦う後ろ盾にしたかったのである。

同盟の内容は日本は英国の中国での権益を擁護し、英国は朝鮮、中国における日本権益を擁護し、一国と交戦した場合は同盟国は中立を守り、2国以上の場合は参戦を義務付けていた。露仏同盟に対抗して、フランスの日露戦争への参戦の歯止めとなり、ヨーロッパへの戦争の波及を防いだ。日本は日露戦争になった場合に満州戦線での英国陸軍の参戦を要請していたが、これは拒否され、英国は中立を維持することになる。

イギリス、フランスとも世界一,二の植民地帝国であり、世界の重要な拠点、港は両国のいずれかががおさえていた。英国はこの全海域に海底ケーブルを敷設したわけで、日露戦争が勃発すると、一応中立を保ちながら軍事協商の密約によって諜報協力や、ロシア海軍へのサボタージュ、バルチック艦隊の寄港、燃料の石炭の補給などを妨害して、同艦隊の日本到着を遅らせて日本側をバックアップした。

フランスもまた、この条約にしばられて、同盟国ロシアへの軍事援助に足かせをはめられてしまい、日英の外交的な勝利につながる。日英軍事協商の日本陸軍代表だった福島安正少将は「この軍事協商こそが陸軍が日露戦争に踏み切る最大のバックボーンになったものであり、英国から提供された対ロシア情報こそ日本が受けた利益の最大のものであった」と、後年、述べている。(佐藤守男『情報戦争としての日露戦争』
  • 日英軍事協商と諜報の全面協力体制

日英同盟成立から約四ヵ月たった5月14日、海軍横須賀鎮守府内で英国側はブリッジ東洋艦隊司令長官、日本側は山本権兵衛海相、陸軍からは参謀本部田村怡与造次長と福島安正同第2部次長らが出席して日英軍事協商の秘密会議が開かれた。7月7日にはイギリス陸軍省で、伊集院五郎軍令部次長、福島らが出席して日英軍事協商に合意、おもに海軍の協力が中心の次の「陸海軍協約」八項目を締結した。

① 共同信号法を定めること。

② 電信用共同暗号を定めること。

③ 情報を交換すること。

④ 戦時における石炭石炭(日本炭、カーディフ炭)の供給方法を定めること。

⑤ 戦時陸軍輸送におけるイギリス船の雇用をはかること

⑥ 艦船に対する入渠修繕の便宜供与をはかること。

⑦ 戦時両国の官報をイギリスの電信で送付すること。

⑧ イギリス側は予備海底ケーブルの布設につとめること。

 協定の過半が通信関連の問題であり、日英の参謀本部のトップは来るべき日露戦争は『情報戦争』「インテリジェンス戦争」であるという共通認識を持っていた。
戦争について一番重要なのは兵力や武器以上に情報力とその分析力である。その情報収集のために、まず情報通信のインフラ(海底ケーブル、有線無線通信)を整備し、通信のプロトコル(通信規約)を決め、暗号を共同化して、諜報した内容(コンテンツ)を通信して送受信する。このインフラ、ハードとソフト(暗号、諜報)はインテリジェンスの両面である。

どんな秘密情報をスパイしたとしても、それを一刻でも早く伝える通信手段がなくては何の役にも立たない。古代からの戦争の歴史をみても、通信、コミュニケーションの歴史である。ノロシ、タイコ、ホラガイ、早馬、伝書バトなどで敵を知らせる通信手段に使ってきたが、日露戦争前に有線通信、無線通信、電報、電話、写真などの近代通信技術が一挙に発達し、アナログの通信スピードは飛躍的に向上していた。

後藤新平が「百年に一人の知将だった」とのべた児玉源太郎総参謀長はこの情報通信の重要性を認識していたインテリジェンスの持ち主だった。また、児玉の先輩の「日本参謀本部の父・川上操六」も全く同じで、日清戦争直前に東京―下関間の直通電信線、朝鮮半島での釜山―京城間電信線を最初に提案し、児玉が先頭に立った九州―台湾間海底ケーブルも川上が深く関与した。

日英軍事協商でもう1つ需要な点は、次の諜報交換の密約をかわしたことだ。

『情報を制する者が世界を支配する』セオリーを実践した英国側から強い要請があり、次の3点の密約が交わされた。

① ロンドン、東京の日英公使館付各海陸軍武官を通してすべての諜報を相互に自由に交換する。

② 両国の公使館付武官はいずれの任地でも自由に情報を交換する。

③ 両国海軍連絡将校の各艦隊付、両国陸軍連絡将校のインドと日本間の交換派遣、戦時における陸海軍従軍武官の各司令部配属などが決定された。

50年かかって世界中に張り巡らせた英国の通信ネットワークとは、その後児玉がロシア側に情報漏れを防ぐため陣頭指揮で海底ケーブルを敷設して、ドッキングさせた。

この結果、東京からの電報の場合は、東京~九州(大隅半島)~台湾(基隆)~台湾(淡水)~福建省(福州)と伝達され、そこのイギリス局から香港を介して、南シナ海を抜けボルネオを経由しマラッカ海峡を通りインド洋を横断して紅海から地中海に抜け、そしてロンドンへという経路で伝達された。(石原藤夫著『国際通信の日本史―植民地化解消への苦闘99年』東海大学出版会、1999年)

 

この軍事協商の締結で、日本陸軍は、ロンドン駐在陸軍武官からの対ロ戦略情報とインド方面でのロシア陸軍の情報が容易に入手出来るようになった。一方、ロンドンでもスピーディに日露戦争の情報を収集できる体制が整った。日露戦争で英国は22人もの観戦武官を戦場に送り込んで情報を収集し本国に伝えた。『明石工作』の暗号電報も、この回線を使って東京に速報された。

佐藤前掲書によると、「この合意によって、日露戦争中、おもに恩恵を受けたのは日本であった。というのも、大英帝国が、他の列強と対略し、植民地を巧みに支配するため、世界中に築き上げてきた諜報網を、さしたる労力もなしに利用できたからである。

その窓口となったのが、宇都宮と在英公使館付海軍武官の鏑木誠大佐。とくに、宇都宮は、戦争中、英陸軍参謀本部作戦部のエドワード・エドモンズ少佐と親交を重ねていた。

このエドモンズこそが、当時からロンドンに集まってくる各国の陸軍情報を英参謀本部内で掌握できる立場にあった。ロシア陸軍部隊の動員状況について、宇都宮が逐次、東京に報告しそれに基づき満州の露軍兵力が算定されるなど、イギリス陸軍情報は、参謀本部の作戦計画策定に寄与していた」と書いている。日英軍事協商の目に見えない情報交換、サポートがいろいろな形であった。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『オンライン入門講座/シルバーYou tuber(前坂俊之チャンネル)になる方法』★『ネット動画の時代に乗り遅れる既存メディアー 情報をあまねく広げる「個人」の出現で社会が変わる』(2012年でのインタビュー)記事全文再録)

取材場所:日本記者クラブ (インタビューの聞き手:沖中幸太郎氏)   …

no image
日本リーダーパワー史(257) ◎<まとめ>『日本を救った男とは・・空前絶後の名将・川上操六とは何者か(1回→10回)」

     日本リーダーパワー史(257)    ◎<ま …

no image
記事再録/日本リーダーパワー史(771)―『トランプ暴風で世界は大混乱、日本の外交力が試される時代を迎えた。日清戦争の旗をふった福沢諭吉の日清講和条約(下関条約)から3週間後の『外交の虚実』(『時事新報』明治28年5月8日付』を紹介する。この後の三国干渉(ロシア、ドイツ、フランス)の恫喝外交、強盗外交に弱国日本は屈した。

    記事再録2017/02/22 日本リーダー …

『Z世代のための<日本政治がなぜダメになったのか、真の民主主義国家になれないのか>の講義⑥『憲政の神様/尾崎行雄の遺言』★『先進国の政治と比べると、日本は非常識な「世襲議員政治』★『頭にチョンマゲをつければ江戸時代を思わせる御殿様議員、若様議員、お姫さま議員のバカの壁』★『総理大臣8割、各大臣では4割、自民党世襲率は30%。米国連邦議会の世襲率は約5%、英国の世襲議員は9%』★『封建時代の竹刀腰抜けの田舎芝居政治を今だに続けている』

2018/06/29   日本リーダーパワー史(921)記事 …

no image
 ジョーク日本史(3) 宮武外骨こそ日本最高のジョークの天才、パロディトだよ、 『 宮武外骨・予は時代の罪人なり(中)』は超オモロイで

 ジョーク日本史(3) 宮武外骨こそ日本最高のジョークの天才、パロディトだよ、 …

no image
世界/日本リーダーパワー史(893)米朝会談前に米国大波乱、トランプ乱心でティラーソン国務長官、マクマスター大統領補佐官らを「お前はクビだ」と解任、そしてベテラン外交官はだれもいなくなった!

 世界/日本リーダーパワー史(893)   「アメリカは民主主義国でル …

『オンライン/スクープ映像(6分間)』★『古都鎌倉のど真ん中で、黄金色のカワセミの魚釣りの撮影に成功(2020年12月20日午後2時)本覚寺横の滑川で、夷堂橋から撮影す

スクープ映像/鎌倉のど真ん中で、黄金色のカワセミの魚釣りの撮影に成功(2020年 …

no image
  日本メルトダウン(999)―『孫・トランプ会談、米メディアも高い関心 M&A加速と分析も』●『嘘か真か、トランプ流「ツイート砲」がメディアを圧倒』●『トランプ政権の命運を握る“超保守派”の懐刀ーメディアを操り過激な政治主張を繰り出すバノン氏(古森義久)』●『日銀がETF買いで「日本企業の大株主」になることの大問題』●『北方領土返還やっぱりプーチンに騙された“お坊ちゃま首相”』●『ガラパゴス日本の文化や技術が世界標準を目指すべきでない理由』

   日本メルトダウン(999) 孫正義氏,携帯再編、規制緩和狙いか…トランプ氏 …

no image
日本リーダーパワー史(59)名将・山本五十六のリーダーシップ・人使い・統率の極意とは・・⑤

日本リーダーパワー史(59) 名将・山本五十六のリーダーシップ・統率の極意とは⑤ …

『オンライン講座・吉田茂の国難突破力⑦』★『日本占領から日本独立へマッカーサーと戦った吉田茂とその参謀・白洲次郎(2)★『「戦争に負けても奴隷になったのではない。相手がだれであろうと、理不尽な要求に対しては断固、戦い主張する」(白洲)』

    2015/01/01 日本リーダーパワー史 …