前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

記事再録/日本リーダーパワー史(771)―『トランプ暴風で世界は大混乱、日本の外交力が試される時代を迎えた。日清戦争の旗をふった福沢諭吉の日清講和条約(下関条約)から3週間後の『外交の虚実』(『時事新報』明治28年5月8日付』を紹介する。この後の三国干渉(ロシア、ドイツ、フランス)の恫喝外交、強盗外交に弱国日本は屈した。

   

 

  記事再録日本リーダーパワー史(771)

国際風雲の変化は朝にあって夕を図る可らず。今日の順風も明日の逆潮に変化するその間に立て、虚々実々の手段をめぐらし、よく百難を排して、国の光栄利益を全うするは外交官の技量にして、充分に技量を振わせるものは実に朝野一般の決心如何に在るのみ。

 

2017年2月、トランプ米大統領の誕生で『世界は大混乱の時代』に突入した。「米中戦争勃発も70%の可能性があるとの予測も出ている。金正男暗殺事件も起きた。日本の外交力を試される時代を迎えている。そこで、日清戦争の旗をふった福沢諭吉の「外交論」を紹介する。

日清講和条約(下関条約)から3週間後の福沢諭吉の外交論である。

三国干渉に対する『外交の虚実』 『時事新報』明治28年5月8日付

外交交渉は虚々実々、テクニックを弄して他を制するにあるという。此一点より見るとき

は、外交とはただ虚を事とするものように思われるが、決してそうではない。虚の中に自ら実をとって始めて目的を達するものである。商売(ビジネス)のかけ引きも千差万別で売るようで売らないように見せかけて、容易に実(値段)を言わない間に利益を計算しながら、いよいよ最終場面に至れば、この値段以下では断じて売らない決心が必要だ。

この際の押間答を一見すれば、駆け引きの虚のようにも見えるが、実際に売るべき値段はのあらかじめ商人の胸の内でに確定している。

外交もこの商人のビジネシとおなじ。例えば、一方にはしきりに強硬論を主張して、今にも戦争を始める如きケンカ腰の態度をとる一方で、戦争の用意はどうなのかとその内幕を探ってみると、その強硬的態度も虚(うそ)で実際には用意はしてないよう見える。

さらに突っ込んで微妙の点に立入れば容易ならざる事実を発見して、さては強硬論も事実無根でないことがわかり、形勢逆転か思った途端、更に深く調べる(インテリジェンス)と何ぞ図らん、徴妙なる事実は全く虚(ウソ)にして、相手を謀略にはめてだます手段に出でものであるとの眞相を看破するに至る。

紆余曲折、容易に端侃すべからざる(あらかじめ予想することのできない)の技量をみる。

 

いわゆる虚々実々の妙處(いうにいわれない味わいのあるところ)なれども、凡そ天下の事は単に虚のみを以て見る可らず、実ありて始めて虚の用を為すことなれば、外交官が他に対して虚術を弄する考えの底には常に決心の実を控え、緩急の場合に臨んで動揺することなく、縦横無尽に技量を振うことこそ大事である。

雙刀(中国の武具で、刀の一種。特徴として一つの鞘(さや)に二つまたは複数の刀身が入っている物)を帯したる武士が人と争っていよいよ打果すべしと言放すの時となり、対手の者がその一言に畏縮して自から屈服すれば刀を抜かなくても済むこともあるといえども、最初に武士の一言をロより発するにあたりては必ず他を斬るの覚悟を決するべきである。もしも単に虚喝(虚勢をはっておどかすこと)を以て、他を屈せしめんとして自から決心せず、いやしくも油断するときは、かえって他より斬られて案外の不覚を取ることある。

 

要はただ最初の決心如何にあるのみ。これを決断するには、先づ物の数を比較して、あらかじめ事後の得失を考えるべきはいうまでもないが、又一方より立言すれば、およそ一国をあげて空前の大功を成さんとするには、もとより非常の危険を冒さざるをえない。

古来、人生の成功は、その過半は冒険の結果でないものはない。王政維新の前、西郷隆盛翁が勤王討幕の主義を唱へてまささに起らんとするや、一部の人々はこれに反対して、今度の挙兵は、島津家の存亡に関する一大事にして実に容易ならず、勤王は敢えてダメとはいわないが、現在の主家(島津)の大事には換へ難しとして躊躇する声があった。

西郷翁は断然これを排斥していわく、

『吾々の事を企るのは眼中島津なし、運拙(わる)くして事成らざるときは、身を以て主家に殉ずるの覚悟のみ、若しも主家のために憂いて、飽までもその安全を謀らんとならば、速に勤王を止めて佐幕の実を行うに如かず、

依然、膝を幕府に屈して二百幾十年来の昔に安んずるときは、島津家の安全は必ず疑なし、単に主家の安全のみを謀るものは、宜しく国に留まるべし』

同志の人々と共に奮然出発したるの結果、ついに維新の大業を致したりという。

今後日本の外交も次第に多難に赴くは勢の免れざる所にして、今回の戦勝について収めたる利益を失うのみ.に止まらず、時としては更らに一段の難局に陥ることなきを期さねばならぬ。

 

国際風雲の変化は朝にあって夕を図る可らず。今日の順風も明日の逆潮に変化するその間に立て、虚々実々の手段をめぐらし、よく百難を排して、国の光栄利益を全うするは外交官の技量にして、充分に技量を振わせるものは実に朝野一般の決心如何に在るのみ。我輩は唯その決心の確実ならんことを折るものなり。

〔五月八日〕

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報(433)『日本のメルトダウン』『株価暴落、為替乱高下でアベノミクスの行方はどうなる」「日本株は瀬戸際攻防戦」

   速報(433)『日本のメルトダウン』   ● …

no image
<1時間でわかる超大国中国の謎と対日感情>動画座談会ーチャイナウオッチャー・松山徳之氏から聞く

<1時間でわかる超大国中国の謎と対日感情>   ★★お勧め(動画座談会 …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(28) 「情報公開=知る権利」目指してー「沖縄密約・文書開示」控訴審の攻防

池田龍夫のマスコミ時評(28)   「情報公開=知る権利」目指してー「 …

no image
日本リーダーパワー史③・女に殺された初代総理大臣伊藤博文

  女に殺された伊藤博文                             …

「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース⑦」★『『開戦2週間前の『ロシア・ノーヴォエ・プレーミャ』の報道」-『英米に支援された日本とわが国の戦争が迫っている。日本はその過剰な人口を移住させるために朝鮮を必要としている。英米は商品を売るために満州と朝鮮の門戸開放を必要としている』

    2017/01/13 &nbsp …

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(20』『オーストリア・ウイーンぶらり散歩④』『旧市街中心部の歩行者天国を歩き回る』★『ウイーン国立歌劇場見学ツアーに参加した。豪華絢爛、素晴らしかったよ』

  2016/05/17 『F国際ビジネスマンのワールド・カ …

『クイズ?Z世代のための日本最強のリーダパワーを発揮した宰相は一体誰ですか?』★『答えは平民宰相の原敬です。その暗殺事件の真相は?ー「お前は「腹を切れ」といわれたのを、「原を切れ」と勘違いした凶行だった』

  「逗子なぎさ橋通信、24/06/15/am720] 2012/08 …

「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じという歴史ニュース」★「日露戦争開戦1ゕ月前の『米ニューヨーク・タイムズ』の報道』★『日露戦争の行方はロシアは敗北する可能性が高い』★『ロシアの対日戦の必然的な目的である朝鮮征服にロシアはあらゆる不利な条件下で臨むことになろう』

2017/01/09    『日本戦争外交史の研究 …

『Z世代のための日本興亡史研究』★『2011年3月11日の福島原発事故発生で民主党内の菅直人首相対鳩山由紀夫、小沢一郎、野田佳彦の派閥闘争が激化、自滅した』★『成功例の江戸を戦火から守った西郷隆盛と勝海舟、高橋泥舟、山岡鉄舟(三舟)の国難突破力①』★『人、戒むべきは、驕傲(きょうごう)である。驕心に入れば、百芸皆廃す』(泥舟)』

2011/06/04 日本リーダーパワー史(157)記事転載再編集 『江戸を戦火 …

no image
日本リーダーパワー史(266)松下幸之助(94歳)の教え★『人を育て、人を生かすー病弱だったことが成功の最大の要因』

  日本リーダーパワー史(266)   日本で最も尊敬されて …