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地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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★5日本リーダーパワー史(779)『鈴木大拙の大東亜戦争史観』●『それは無条件降参(降伏)ということである。日本人はこの降参を嫌い、終戦といいかえた』★『ところで降参ということが、そのように厭うべきことか、恥かしいことか、 死んでしまはなければならぬものか。』●『日米の戦争観のギャップー日本は人を戦争の主体ととらえ、 米国は戦争は力の抗争とみる』

   

 ★5日本リーダーパワー史(779)

 

 『物の見方-東洋と西洋-』(「東洋と西洋」鈴木大拙著、桃季書院、1948年刊)より

 

四年に近いほど続いて、ついに無条件降服となった大東亜戦争は、これからの世界史で、どのように取り扱われるか、今のところはよくわからぬが、これだけはいえる。

日本の歴史は今度で大決算された、われわれはこれから全く白紙になって新たな道を踏み出さなくてはならぬと思う。

白紙というのは、この歴史にこだわるなというのである。出来るだけ冷静な頭で、虚心坦懐に、科学的に、合理的に、世界的な立場から、自らを解剖して見よというのである。できるなら今までの日本人としてではなく、全く客観的な立場に自らを求めて見たい。

 それは無条件降参(降伏)ということである。日本人はこの降参を嫌う、それで今度も、上は詔勅を始め、下は政府及びそれ以下の諸役所の諸文書及び諸施設にも降参という文字を出来るだけ避けて居るようである。

 

終戦という字がその代りに使われる。しかし、事実の真相を最も的確にいい表はすのは、終戦でなくて降参である。われらは降参によって、終戦したのである。降参しなかつたら、日本は破滅により終戦したであらう、それも終戦である。これは文字を弄ぶものである。

日本人はこれに慣らされている。これは平安朝時代からの習はしである。対面を避ける、男性的・合理的ならざる心理状態である。

 ただの終戦でなくして降参となると、日本人は上下を通じて、一人も残らず切腹して果てるのが、

『戦陣訓』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E9%99%A3%E8%A8%93

 の説くところである。

ところで、八月十五日の詔勅が出て、切腹したものは何人あったか。軍人を本職とするもののうちでも、殆んど指を屈する位であらう。

多くの軍人は平気で居た、混雑まざれに国民の物資や金銭をも盗んだ。事実は降参でも、終戦と云っておけば、当然切腹すべきものでも切腹しなくてもよいことになった。

 

ところで降参ということが、そのように厭うべきことか、恥かしいことか、

死んでしまはなければならぬものか。

この死んでしまうということが、すべての事の解決法なのか。普通の切腹とか、自刀とか、自殺とか、特攻精神とかいうものは、単なる感傷性の行動に過ぎないのではなかろうか。吾等はこれからもっともっと合理的に物事を考えて行かなければならぬのではないか。

 欧米人の戦争観は日本人のと違う。日本では人を戦争の主体としているが、

前者にあっては戦争は力の抗争である。

 

それ故、力が尽きれば降参して、お互に無益の流血を避ける。弾薬も尽きて、抵抗力がなくなれば、降参する、これは名誉の降参である。弾丸もあり、弾薬もあり、身体にも何等の傷を負うことのないのに降参するのは、卑怯の所以である。

日本人の戦争は力の争いでなくて人の争いであるから、どんなことがあっても降参せずに自殺してしまう。

それが名誉の戦死だということになる。欧米人の間では降参は恥辱でも何でもない、力のないのに抗争を続けるということはすこぶる非合理である、この方が却って人間的でないとき考えられる。日本人は、敵を忌むべきもの、「鬼畜」の類だと見る。それ故、降参すれば向うのものは自分を殺すにきまって居る、敵の手でいじめられて死ぬより、自分の

手で死ぬのがよいと、感情の上で判断する。人が主体になると自らそのような物の見方になる。欧米人は力を中心に考へる故、自ら非人格的になる。それで、戦時における捕虜の取扱いについては特別の規則が作られてある、人格の尊重が説かれるのである。

日本人は人を相手とするのであるが、不思議に人格を無視する。そうして捕虜はいくら虐

待しても呵責しても惨殺してもかまわないということにして居る。降参と云う事象に対する東西の物の考へ方の相違がこんなところから出る。

今度の戦争で絶海の孤島に閉じ籠められて、最後の一人まで死が強要されたという事実は、どういう風に考へて見るべきであらうか。又、特攻隊とか何とかいうものを組織して、機械の不完成を人の命で補充すると云いうようなことは、果して「悠久の大義」ということになるのか、

 

これは日本人の科学的、技術的能力の未だ欧米人の域に達せざることの自白と見るべきであらうか。

今度の戦争で米人は「特攻隊」の出現を見て、日本軍の武力的抗争の末路に瀕したことを悟ったといって居る。それが米軍は「特攻隊」を「自殺隊」と見た。「悠久の大義」も何もあったものでない。絶海の孤島における日本軍全部の討死も、米人から見ると、武士の花と散ったのでも何でもなく、「人の命の如何に安きことよ」と冷笑の対象となったにすぎない。

彼等は何も感心していない。この命の安売りと捕虜の虐待、又は惨殺とをにらみ合はせて、米軍は日本人の考へ方は人格中心でないと批評している。

 

降参が嫌で討死するというなら、無條件降服などあり得ないことになる。しかし、これが千人や二千人の話でなく、一軍団や二軍団の話でなくて、国全体の話となると、物の考へ方は違ってこなくてはならぬ。降参しても生き延びなくてはならぬ、生き延びて居れば、又その中に盛り返す機会もあるべきだ、「人は一代、名は末代」と云っても、その名を語る人さへもなくなれば何の名ぞ、人があればこそ末代もあるのではないか。

 

理屈で推して行くと、こういうことになる。感傷的に感ずるところでは、敵に頭を抑へられるのは屈辱だ、寧ろ死んでしまえということにならう。これと、一時の怒りにまかせて自らを傷つける場合と、その間に何の差があるであらうか。

感傷(感情的)と合理性を考えてみたい。

第一次世界戦争の時、英国の一学徒も徴兵されて戦争に参加した。どこかの戦場で弾丸がなくなって、降参した。ドイツ軍はこれを捕虜収容所に入れた。その時、他の捕虜の一人がその学徒兵に一緒に収容所からの脱出を勧めた。看守に何か物品か金銭を檜ワイロすると、目をつむっていてくれるというのである。

しかし、学徒はそれに応じなかった、「降参は力尽きての話で、何も恥づべきことでない、無益の抵抗は意義をなさない。看守を買収することは、しかしながら、人格を無視することである。彼を1人格と見ないで、道具にしてしまうことである。これは不道徳である。自分はそのような不道徳行為をしたくない」と。

 

これが倫理学専政の学徒兵の脱走拒絶の理由であった。

大多数の日本人はこの学徒の倫理観に対して何というであろうか。彼等はこれを一顧に値すると見るかどうか。国家のため、主君のためなら、敵国人の人格などいうものを考えることはないというであろう。

このところにも、日本人的感傷性(センチメンタル)の考へ方と、欧米人的合理性考へ方との対照を見ることが出来る。

 

われらはこのような場面に出くわすと、すべてを国家観とか全性主義とか封建的道徳観の上から判断しようとする。いやしくも目的が自己の利益を超越したものから、それがためには如何なるものをも手段にしてよい、道具に使ってよい、犠牲に供してよい、即ち目的のために手段を選ばぬという、あるキリスト教団圏の信条のように考えて行くのが、大多数の日本人の道徳観である。

それで封建時代には君主のためだといって自分の子供でさえも殺すことを美徳と考えた。それから、娘を売った。人を欺いたり、泥棒を働いたり、人殺しをやつたりすることは、何でもない事だと考えた。

今でも、国法を犯したものであつてもそれは憂国の至情から出た犯罪だといって、罪一等を減ずるとか、無罪放免にするとか、執行猶予を与えるということを、未だに裁判所でやっておる。

そうして、この愛国は、憂国の国なるものはその時の有力な支配階級によって指定せられた国なのである。彼等の指定外に出た国を愛し、又は憂うるものは、大逆罪とさえもみなされる。彼等の判断の如何に感傷性に基づくかを察すべきであろう。

此種の国家親はナチス的、ファショ的である、ロシア共産主義的であるといってもよい。全体を目的とするなら何をやってもよい、という感情主義の1点張りである。

 

如何なる形態の全体主義でもその根底には封建的なものがある。封建というのは、ただ一方をのみを見るように各自の感情を強引に教育して行くことである。そうして何れもが

同一行動に出るように、群衆心理を極度に指導して行くことである。例へは「天皇帰一」とか「一億一心」とか「臣道実践」とか「承詔必謹」とかいうような標語は、何れも封建感情性を根底にもつている。

 

この感情のうちには、合理主義・人格的倫理観・自主的思索力・獅子王的・独立独行性というべきものは微塵もない、群衆を群羊の如くに動かさんとする支配階級の巧妙な計画が編み込まれているだけである。この阿片を十分に吸わせられると理性は全く麻痺し去って、最近の日本人のように、「1億玉砕」・「百年戦争」などというスローガンの下に、若き桜花は次から次へと散って行くのである。

 

日本人の考へ方が全体に感傷性(センチメンタリズムー時には極めて淡い感傷性)に基づいているところへ、ドイツのマハト・ポリティク思想(武力政治、パワーポリティクス)を導入したので、われらは、わけもなく指導者の頤使(いうがまま)のままになった。それに国学者の神道観が油を注いだので、日本人の理智は全く台なしになった。

欧米の降参観について最新の実例を挙げて見よう。

ウェインライト将軍

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88

 

は、大東亜戦争でフィリピン陥落の時、日本軍に降参した米軍の司令官であった。彼はマックアーサー将軍の同地を去った後を引き受けて日本軍と敢闘した勇将あった。が、力足らずして日本軍の前に兜を脱いだ。

彼は戦争終結の後、米国に帰って、ワシントンの記念碑の前でも群衆のために演説を行なった。その中の一節に、

 

「バターン及びコレヒドールで戦った吾が将兵は、その精神において敗れたものではなかった。供給が次第に薄らぎ、攻城砲や爆撃機で間断なく叩かれては、戦争をこのうえ続けることは無用であった。それで自分らは、日本軍を尊敬すべき軍隊と見て降参した。

ところが、その後はどんな事になったか、それは諸君も既に御承知と信ずる。文化的教養ある国民が戦争の捕虜は如何に待遇すべきかについて定めておいた規定-掃虜の当然要求すべき権利や特恵)は、日本兵によって無視された。勇敢なわが兵士の多数は無残な苛責と飢餓に苦しめられて死んで行った。

しかし、今や立場は一転した。いやくも人間的感情の持主なら、われらがフィリピンで受けた苦しみを又、日本兵の上に加えてやらうとは考えないであらう。

それでも米国人は日本降伏の意味がどんなものであるかを、日本天皇の11人の臣民に十分に知らしてやらねばならぬと主張するであらう。獰猛な日本人達は自分等の野心の如何に馬鹿気たものであったかを自覚するように押し付けなくてはならぬ。日本の国民が真情から平和の道を踏みたいという願を表現するまでは、われらは監視の眼をそむけてはならぬ。」

 

 日本の軍人をウェインライト将軍の位置において見たらどんなものであらうか。

敗軍の将は兵を語らはずはさておき、降参将軍なるものは日本にあり得るか、今までの日本人の降参観によると、それからこの降参将軍が凱旋将軍となって、日本の各地で上から下から歓迎されるであろうか。

 自分はここではただ事実を列挙したのに過ぎない、

日本では何といって感情が先立ち、考へ方の後面に潜伏している。

これに反して、欧米人の考へ方は合理性をもっておる、人格尊重という倫理観、又は人道主義を楯としておる。今からの日本人は、封建主義や奴隷根性、外来のナチス的ファショ的見方、及び霊性を没却したソ連式共産主義などいうものを一擲して、二千六百年などという小説的に童話的に組み上げた歴史をも清算して、そうして日本民族の真実の姿を見定めて、その上に始めて、日本的な政治・経済・倫理・宗教・文化が、最も尖端的に世界性を持って、築き上げられるべきだということを述べたのである。

 

 - 健康長寿

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