世界が尊敬した日本人● 『東西思想の「架け橋」となった 鈴木大拙(95)』〔禅の本質の究明し、知の世界を飛び回る〕
2018/12/14
東西思想の「架け橋」となった
鈴木大拙(95)
<歴史読本(平成12年9月号)に掲載>
前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)
〔きびしい環境で育った信仰心〕

明治・大正・昭和の思想家のなかで、もっとも長い国際体験を有し、東西の宗教を、禅を媒介して融合しようとしたのは〝Daisetz Suzuki″(鈴木大拙)であり、世界の宗教界に重きをなした。文明の衝突と混乱が続くいまこそ、鈴木大拙の存在が大きくがクローズアップされている。
鈴木大拙(本名貞太郎) は、明治三年(一八七〇)十月、加賀国(石川県金沢市本多町) の医者の末子に生まれた。父は幼いころに亡くなり、母が苦労しながら育てたが、その母も二十歳のときに亡くなる。宗教心の強い土地柄とそうした家庭環境があいまって鈴木の信仰心を培養した。
のちに哲学者となる西田幾多郎とは中学の同級生だった。二十歳で上京し早稲田大を経て、東大哲学科に進み、鎌倉円覚寺の今北洪川、釈宗演のもとで参禅した。
二十五歳のとき、釈宗演か「大拙」の居士名を受ける。明治二十六年、釈宗演がシカゴの万国宗教会議に出席する際、大拙は通訳を兼ねて渡米した。
このとき知り合ったポール・ケーラスの著書『仏陀の福音』を和訳し、彼に招かれて明治三十年に、米イリノイ州の東洋思想の出版社編集部員となる。
ここでケーラスと『老子道徳経』などを英訳し、みずからも『禅と日本文化』などの英文著書を出版して欧米の人々に禅と東洋思想をはじめて紹介した。
米国には通算十三年間滞在し、ヨーロッパでの世界宗教会議にも出席して仏教、禅について講演するなど東洋の宗教を世界に紹介して明治四十二年に帰国した。
〔禅の本質の究明〕
明治四十四年、東洋思想を西欧世界に翻訳することを志していた米国女性のビアトリス・レーンと結婚し、その十年後の大正十年(一九二一)、五十一歳で大谷大学教授に就任した。
ここで英文季刊誌『イースタン.ブディスト』を創刊し、以後二十年間、夫人とともに研究出版を続けた。昭和十一年(一九三六)には文部省から派遣されて英国オックスフォード大学、ケンブリッジ大学などで禅の講義を行い、国際的に活躍を続けた。大拙は英語の達人で、原稿を見ることなく江戸っ子的な巻き舌の英語で講演を行ったという。
西田幾多郎の哲学のエッセンスは「絶対矛盾的自己同一」といわれるが、大拙は伝統的仏教の教義や戒律を否定し、なにものにも囚われない精神的な自由「即非の論理」こそ「禅」の本質とした。「私は私である」という意識の同一律を否定し「私は私でない。故に私なのだ」、「私が私であるのは、私が否定されて初めてわかる」 と主張して、それを 「即非の論理」と名づけた。
そしてその宗教的意識を「霊性的自覚」とよびその後『日本的霊性』(昭和十九年)、『禅と日本文化』(昭和二十三年) などの代表的著書を発表した。
〔知の世界を飛び回る〕
1945年(昭和二十)八月、日本は敗戦し、GHQ(連合軍総司令部) に占領された。このとき、すでに大拙は七十四歳。ここで欧米に空前の東洋思想、禅ブームが巻き起こり、「ダイセツ・スズキ」 は一躍、世界的な注目を浴びた。大拙の仏教著書百冊のうち、英文著作は二十三冊にものぼり、欧米への最大の仏教普及者として、大拙禅について世界中から講演依頼が殺到した。
昭和二十五年からの八年間、大拙はニューヨークに暮らし、全米各地の大学で禅を講義して回った。大拙による 〝zen″ブームは米国の宗教、思想、ポップカルチャーにまでおよび、ビートルズからスティーブ・ジョブスまで幅広い人びとに影響を与えた。
九十歳のとき、インド政府の招きを受け渡印。さらに九十四歳で再び渡印、渡米するなど、最後まで西洋と東洋の思想の架け橋を果たした。
まさに知の世界を自由に飛び回る仙人のような、禅の悟りを実践、布教する超人的な活躍ぶりである。
仏教の世界的な流れをたどると、インドで生まれた仏教を中国へもたらしたのは唐の時代の三蔵法師(六〇二-六六三) である。これが日本に伝えられて、日本仏教、禅が発展したが、鈴木大拙はこれを一三〇〇年後に西欧世界に伝えたと.いう意味で 「現代の三蔵法師」 とたとえられている。
1966年(昭和四十一)七月、大拙は九十五歳の生涯を閉じた。最期の言葉は「ウッドユー・ライク・サムシング?」に対して、「ノー・ナッシング・サンキュー」。「生死一如」(しょうじ いちにょ) 生死を越えた老師の姿がそこに見えた。
百歳学入門(41) 『禅の達人の鈴木大拙(95歳)の語録ー『平常心是道』『無事於心、無心於事』(心に無事で、事に無心なり)
http://www.maesaka-toshiyuki.com/longlife/2301.html
関連記事
-
-
日本興亡学入門⑪ー『2010年世界はどうなる』ーアジア共栄圏のビッグチャンス到来!
日本興亡学入門⑪ 2010年世界はどうなるーアジア共栄圏のチャンス到来! …
-
-
『 オンライン講座/自民党を作った吉田茂研究』<国難を突破した吉田茂の宰相力とは・『吉田茂は憲兵隊に逮捕されたが、戦争を防ぐために戦ったというのが本当の政治家。佐藤栄作とか池田勇人とかは政治上の主義主張で迫害を受けても投獄された政治家じゃない。』(羽仁五郎の評価)
2011/09/22 日本リーダーパワー史(1 …
-
-
片野勧の衝撃レポート(47)太平洋戦争とフクシマ⑳『なぜ悲劇は繰り返されるのかー 福島県退職女性教職員の人々(上)
片野勧の衝撃レポート(47)太平洋戦争とフクシマ⑳ & …
-
-
速報(460)『東京オリンピック秘話ー9/8日に3度目の東京開催決定はあるか?昭和15年幻の第一回東京開催と日中外交
速報(460)『日本のメルトダウン』 ●『 …
-
-
速報(472)『日本のメルトダウン』< 東京オリンピック開催なるか、可否は秒読み,投票決定は15時間後に>
速報(472)『日本のメルトダウン』 <& …
-
-
<衝撃深層レポート①>地名学が教える尖閣・竹島の真相はこうだ(上)楠原佑介(地名情報資料室主宰)
<衝撃深層レポート①> 『この地名が危ない!』で注目の地名学者が、 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(50)記事再録/『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉒『開戦3ゕ月前の「米ニューヨーク・タイムズ」の報道』★『国家間の抗争を最終的に決着させる唯一の道は戦争。日本が自国の権利と見なすものをロシアが絶えず侵している以上,戦争は不可避でさほど遠くもない』
2017/08/19『日本戦争外交史の研究』/『世界史 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(334)-『新型コロナウイルス/パンデミックの研究①-日本でのインフルエンザの流行の最初はいつか』★『鎖国日本に異国船が近づいてきた18世紀後半から19世紀前半(天明から天保)の江戸時代後期に持ち込まれた(立川昭二「病と人間の文化史」(新潮選書)』
2020年4月22日 前坂 …
